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戦略的な溺愛に戸惑っている悪役令嬢(自称)です  作者: いか人参


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4.運命って


静寂に包まれていた満月の夜が急にざわめき出す。風で揺れる木々の音や虫の音が一際大きく聞こえた。

だが、一番騒がしかったのはアンジェリカ自身の胸の鼓動だ。


(うそ…なんで?変装してるのに!もしかしてカマかけられてる…?とりあえず知らないで通した方が良いかな。まだバレたって決まったわけじゃないし。)



「あの、何のことです?」


両手を後ろに組んだアンジェリカがすっとぼけて聞き返す。瞳を見られないよう、視線は足元に向けたままだ。



「失礼。」

「……ちょっと!」


青年はアンジェリカの言葉を無視して長い足で一歩距離を詰めると、躊躇のない動きで彼女の帽子を取り上げた。


(なんてことすんの!)


あっという間の所業で、抵抗する暇もなく真っ赤な長い髪と特徴的なペリドットの瞳が月明かりの下に晒される。



「いきなりレディーの帽子を奪うなんて失礼にも程があるわ!貴方どういうつもりよ!」


怒りで置かれた状況を忘れたアンジェリカが怒鳴りつける。

殺意を込めた目で青年を睨み付けるが、彼はふふっと楽しげに笑みをこぼした。



「君は小間使いではなかったのかい?」


青年が優雅な佇まいでアンジェリカを見据え、余裕の表情で揶揄ってくる。



「…チッ」

(む か つ く !)


人よりも沸点の低いアンジェリカの理性が飛ぶのは簡単だった。



「私の弱みを握ってどうしたいの?脅すつもり?お金が目的なら言い値で払うわよ。さぁ好きな額を提示なさい。」


腕を組んで、ツンッと背の高い相手に顎を向ける。頭に来たアンジェリカが早口で捲し立てた。が、それでも青年の柔らかな表情は崩れない。



「まさか。僕は君と友達になりたいだけだよ。」


(嘘つけ。そんなわけあるか。)


「本当だって。友達がいないから、君に仲良くしてもらいたいんだ。」


(まぁ性格悪そうだもんな。)


「今僕のこと性格悪いって思ったでしょ?」


「…何も言ってないわよ。」


アンジェリカの分かりやすい反応に、青年が堪えきれず口元に手を当てクスクスと笑い出す。やけに楽しそうだ。



「僕は大事な友達の秘密なら死んでも守るよ。絶対に口外しないと誓おう。」


「それやっぱり脅しでしょ?」


「ううん。僕という友人を持つことの価値を知ってもらいたいだけだよ。有益だと思わないかい?」


変わらず穏やかな雰囲気で会話を続ける青年。意図は不明だが、悪いようにする気はなさそうに見えた。


(まるで真意が見えないけど…友達になるって言うだけでこの秘密を守ってくれるなら悪くないかな?どの道バラされたら終わるし。)


相手の言いなりになっていることが不服だったが、保身のため今回は目を瞑ることにした。



「なってあげるわよ。貴方のたった一人の友人に。」


「光栄だな。僕の唯一の友人が君だなんて。」


アンジェリカの皮肉にも青年は嬉しそうに笑顔で返してくる。



「僕のことはレイって呼んで。今はカーライル公爵家で世話になってるんだ。」


「まさか貴方も公爵家だったなんて…驚いたわ。よくもまぁこんな所にいたわね。」


「運命的だね。」


うっそりとした表情のレイが甘い声で返すが、弱味を握られているアンジェリカは真顔だ。



「友達になったんだから、今日会ったことは誰にも言わないでよ。じゃあね。」


「うん。また学園で会えるのを楽しみにしてる。」


これで話はお終いだと踵を返すアンジェリカに、レイが当たり前のように言ってきた。ぴくりと耳が動き、足が止まる。



「は?私は学園なんて通わないわよ。こう見えて病弱なんだから。」


「友達は一緒に学舎に通うものだろう?」


(何言ってんの、この人…)


意味が分からず、唖然とした顔でレイのことを見返すアンジェリカ。その瞳には、呆れが色濃く出ていた。


すると、一転してレイの煌めいていた青い瞳に翳りが見えた。



「君の父上は、君のことを近いうちに厄介払いするつもりだよ。」


「それどういう意味よ?」


「見返りのある相手への貢ぎ物として、君が差し出される。つまりは、好色家や老人などとんでもない相手の元に嫁がされるということだ。病弱な女性というのは貰い手がいないし、家に置いておいてもお金が掛かるだけだからね。」


「なんで貴方がそんなこと知ってるの?」


「うちは王家との繋がりがあるからね。宰相殿の話は嫌でも耳に入ってくるんだよ。国の重鎮である君の父上は王宮で人気者だからね。皆が噂している。」


真っ直ぐに目を見てくるレイは、嘘をついているようには見えなかった。それに、これが仮に嘘だとして、わざわざそんなことをする意味があるように思えない。


(彼の言う通り、あの父親なら私のことを最大限活用することは考えてそう…。成人まではまだ時間があるけど、その前に婚約させられたら一気に逃げにくくなる。)


アンジェリカの顔色が悪くなる。



「だから学園に通った方が良いと思うよ。勉強が出来るくらい回復したなら、まだ使い道があるからね。それに、君が何から逃げているのか分からないけど、学んだことは役に立つと思うよ。」


(それは一理あるかも。このままXデーまで引きこもる予定だったけど、学園に通ったらまた別の可能性が広がるかもしれない。…でもなーんかこの男に乗せられている気がして、それが嫌で堪らないんだよな…)


レイの正論と自分の無駄な矜持の狭間で揺れ動くアンジェリカ。その心を見透かしたかのように、レイがにこやかな表情で追い打ちをかけてくる。



「学園に通う話なら、僕から直接君の父上に話を通すことが出来るけど…それとも、今日のことを話して君が健康だと証明した方が良いだろうか?どちらの方法でも、不本意な婚姻を避けることが出来ると思うよ。」


にこにこしながら二択のようで一択でしかない提案をしてきた。レイの笑顔の圧が凄まじい。


(この男はっ………)


アンジェリカが拳を握りしめる。



「そろそろ夜会が終わる頃かな。帰る前に宰相殿に挨拶をしてこないと。」


「私も学園に通わせて頂きます。」


遠回しの一撃に屈した。アンジェリカの完敗だ。



「嬉しい。アンジェと一緒に学園生活を送れるなんて夢のようだよ。後のことは全て僕に任せてね。」


(このヤロウ……!)


自分で差し向けたというのに純真無垢な笑顔を見せた上、しれっと愛称呼びをしてきたレイに思い切り悪態を吐いた。


こうしてアンジェリカの運命は大きく舵を切ったのだった。



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