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戦略的な溺愛に戸惑っている悪役令嬢(自称)です  作者: いか人参


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3/13

3.月明かりの下で


(王子は今遊学してるんだ…あと数年は国内に戻らないって。これはフラグを折ったことに間違いないでしょ。元々確定前の婚約話だったみたいだし、今度は他所の国のお姫様でも捕まえてくるのかな。国交を強化したいって話も出てたしな。)


情報収集のためミミからもらった貴族向けの新聞に目を通していたアンジェリカ。最大の懸念であった王子との婚約が白紙確定となり、ほっと息を吐く。



「お嬢様、朗報ですぅ!今夜この公爵家で夜会が開かれますっ」


午後の昼下がり、アンジェリカの部屋に飛び込んできたミミ。彼女は、満遍の笑みでお椀型にした両手を差し出して来た。



「でかしたわ。」


ベッドで新聞を読んでいたアンジェリカが、サイドテーブルの下に隠していたチョコレートをミミの手のひらに乗せた。



「ありがとうございますぅ〜」


報酬を受け取ったミミは大事そうに両手で抱えたまま、小躍りしながら部屋を出て行った。


部屋に引きこもりのアンジェリカは邸の事情に疎い。社会情勢は新聞で知れるが、噂話やこの邸に関することなどは知る術がないため、無知なふりをしたミミが主人の代わりに必要な情報を集めてくるのだ。

無論、この働きの分も報酬に上乗せされている。



(夜に備えて準備しなきゃ。)


アンジェリカは読みかけの新聞をたたみ、そのままベッドに横になって目を閉じた。


夕方までぐっすり仮眠を取ると、ミミの用意した軽食をとり朝の鍛錬時と同じ服装に着替える。最後に配達員が身に付けるようなウエストポーチを腰に身に付けた。



「あとよろしくね。お菓子用意してあるけど、静かに食べるのよ。ベッド汚さないでね。」


「わかりましたぁ!」


元気に返事をしたのは、赤髪のカツラを被ってベッドに潜り込んだミミだ。これから外に出る主人の身代わりになったのだ。



邸の外に出たアンジェリカは裏庭にいた。

毎朝彼女が鍛錬している場所は物置小屋の影となる一角だが、今夜は違う。



「今日は満月ね。」


木々に囲まれた芝生のど真ん中で、仁王立ちしたアンジェリカが堂々と月を眺める。


夜会が開かれる晩は出入口の警備と会場の給仕のため人が出払っており、こんな裏庭に足を運ぶ暇な者などいない。だからアンジェリカは、毎回このタイミングを狙ってやって来るのだ。


静かな月明かりの下で軽く準備体操をすると、芝生の周囲を走り始める。基礎体力向上のためだ。ついでに得意な木登りもして、引きこもり生活で溜まったストレスを発散をする。



「はぁ、疲れた。湯浴みもしたいし、そろそろ戻るかなっと。」


人の背よりも高い位置にある太い枝の上にいたアンジェリカが躊躇なくそこから飛び降り、猫のように背中を丸めて危なげなく着地した。


(我ながら見事な着地……え?)


自負したアンジェリカが人の気配を感じて後方を振り返ると、一人の青年がこちらに向かって近づいて来ていた。顔を見られないよう、慌ててキャスケット帽を深く被り直す。


(は!?なんでこんな所に人が?まさか今の見られた…?)



「君はここの家の人かな?」


少し手前で立ち止まった青年が腰を屈めてアンジェリカと目線の高さを合わせる。彼の声は落ち着いていて耳心地が良い。害意を感じないその振る舞いに、自然とアンジェリカの警戒心が緩む。



「えっと…はい!こちらで小間使いをしています。何かお困りでしょうか?」


意識して低い声を出したアンジェリカがウエストポーチを軽く叩く。身バレしないよう、わざと平民の少年っぽく粗野な振る舞いをした。



「少し道に迷ってしまってね。正門はどちらかな?」


「それなら、あちらの木々の間にある小道を抜けるとすぐです。」


「ありがとう。助かったよ。」


青年が柔らかく微笑む。

月明かりに照らされた彼の金髪は神々しく輝き、アンジェリカに向けた美しい青の瞳には慈愛に満ちていた。


(正装してるから夜会の参加者かな?…それにしても凄く綺麗な人。)


何もない裏庭がまるで舞台上であるかのようにひときわ輝く彼の姿に、アンジェリカが思わず見惚れる。芸術品を眺めるかのようにじっと見てしまった。その彼が不意に首を傾げる。



「それで、公爵令嬢の君がこんなところで何をしていたのかな?」


耳心地の良い穏やかな声が彼女の鼓膜を優しく揺らす。そして、その衝撃的な問いはアンジェリカの脳を激しく揺らした。


(は………………………)


彼の姿は先ほどまでと何一つ変わってないというに、今のアンジェリカには青年の微笑みが底の見えない真っ黒な笑顔にしか見えなかった。




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