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戦略的な溺愛に戸惑っている悪役令嬢(自称)です  作者: いか人参


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15.ミミの本心


落ち着いて詳しい話を聞くため、アンジェリカはミミに紅茶を淹れてもらった。ソファーに腰掛けて一口啜り、意識して動揺を鎮めてから口を開く。



「それで、私の婚約者が決まったって本当なの?」


自分の隣に立って控えるミミに、アンジェリカは向かい側の席を勧めながら尋ねた。素直に好意を受け取り、ミミも席に着く。



「旦那様の執事から、お嬢様と旦那様の会食の場を設定するからって言われたんですよぉ。こんなのもう怪しいじゃないですかぁ!しつこく問い詰めたら、婚約の件だってはっきり言われたんですぅ〜」


事の重大さをアピールするように、ミミが大袈裟に身振り手振りを加えながら一生懸命伝えてくる。



「なるほどね…まぁ公爵令嬢なんだし、本人の同意なく親に婚約者を決められるのは当然のことだわ。」


目の前で取り乱すミミのおかげでアンジェリカは冷静さを保てた。


(本当はもう少し学生生活を楽しんでからとか思ってたけど、そんな悠長なことを言ってる合じゃないな。今すぐ動かないと…)


置かれた状況を客観視して、今優先してやるべきことを考えようと思考をし始める。幾度となく脳内シミュレーションをしてきたアンジェリカは至って冷静だった。



「お嬢様は本当に公爵家を出てしまうのですかぁ?」


顎に手を当て真剣な顔で考え込み始めたアンジェリカに、ミミがひどく悲しそうな顔で尋ねて来た。

その瞳にはうるうると涙が溜まっており、今にも溢れて頬を伝いそうであった。



「私に残って欲しいの?」


ミミの意外な反応に目を丸くする。

失礼ながら、物事を損得で判断するもっと薄情な人間だと思っていたから彼女の言葉に驚いたのだ。



「もちろんですよぉ!」


迷う間も無くきっぱりと肯定したミミに、アンジェリカは胸の奥がじんと熱くなる。



「ミミ…」


思いがけず慕われていたことに、嬉しさが込み上げた。



「だってぇ〜こんなに稼げる侍女の仕事場なんて他に無いんですよぉ!お嬢様は羽振りがいいですし、ここはまさに理想の職場なんですぅ!」


「……私は貴女がたまに羨ましくなるわ。」


とてつもなくミミらしい理由に、アンジェリカがスンっと真顔になる。あっという間に胸の熱さが消え去り、ビュービューと隙間風が吹き荒れていた。



「でもぉ!お嬢様が本当に家出するというなら、最後までお手伝いしますよぉ。秘密だってしっかり守りますぅ。だから最後のお給金はうーんと弾んでくださいねっ。」


「うん、分かりやすくて良いわ。たんまり上げるから、最後まで私に仕えなさいよ。」


「さすがですぅ…お嬢様に仕えることが出来て、私は幸せ者でしたぁ!」


「はは…」


ミミの中ではすっかり過去の人となっており、アンジェリカが苦笑を漏らす。


思う所は色々あるが、ミミ以上に信頼できる人がアンジェリカの周りにはいない。お金で動いてくれるならその方がいいと、割り切って最後まで任せることにした。



「で、お父様との会食はいつ頃になりそうなの?」


アンジェリカが真面目な顔で話を戻した。

空になったティーカップに紅茶を注ぎながら、ミミが考える素振りを見せる。



「恐らく旦那様のお仕事が落ち着く2週間後あたりになるかなぁと…」


「結構時間がないわね。」


アンジェリカがぎちりと親指の爪をを噛む。


(それまでに準備を完了させて、悟られない内に家を出ないと…)



ミミを下がらせると、今度は鍵付きのキャビネットから革袋を取り出してまた机に向かった。その袋を逆さにして出て来たのは大量の加工前のタンザナイトだった。


(うん、これだけあれば十分そう。西の国に持って行けばかなりの額に換金出来るはず。)


アンジェリカが笑みを深める。


彼女は毎月の小遣いをミミに託して、定期的に街で希少価値の高いタンザナイトに換金してもらっていたのだ。金貨よりも手軽に持ち運ぶことが出来る。

その上、この国でしか採掘出来ないタンザナイトは外国だと買い値の数倍以上の価値がつく。


限りある資金を有効活用するため、最も高く買い取ってくれる経済大国の西の国に行こうと事前に行き先を決めていた。


いつでも家を出られるよう、最低限の着替えと共に小ぶりのボストンバッグに詰めると、誰にも見つからないようクローゼットの奥に押し込んだ。



「こんなに自信がついたのも、レイが色々教えてくれたおかげね。」


そっとクローゼットのドアを閉めたアンジェリカが呟く。


価値の高さだけを考えてなんとなく集めていたタンザナイト。その活用方法をレイが教えてくれた近隣諸国の歴史と文化から学んだのだ。

併せて外国語の勉強もしたため、日常生活や簡単な文字の読み書きなら困ることはない。


レイに強制された学生生活が、この1年間で彼女にたくさんのものを(もたら)したのだ。



「謝恩会…」


ふとレイに誘われていたことを思い出す。


それと同時に、頬に感じた温かくて柔らかな感触まで蘇って来てしまい、カァっと熱が込み上げてくる。勝手に赤くなる頬を両手で挟んだ。



「そんなんじゃないからっ!」


誰に何を言われたわけでも無いというのに、ひとり否定するアンジェリカ。その顔はいつまでも火照ったままだった。



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