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3.揺れる心

アマンダはエリオットの言葉に心を揺さぶられながらも、リハーサルを続けるために気持ちを切り替えた。


舞台上での彼とのやりとりは、まるで二人が本当に運命で結ばれた恋人同士のように自然で、観客の心を掴むには十分な化学反応が生まれていた。

監督も満足げに頷き、スタッフたちは「これは大成功間違いなし!」と囁き合っていた。


リハーサルが一段落し、休憩時間に入ると、アマンダは庭園のベンチに腰を下ろして台本を読み直していた。

エリオットの「君は特別だった」という言葉が、頭の中で何度も反響している。


「何だったのよ、あの言葉…。昔のこと、もっとちゃんと思い出さないと。」


彼女は頬杖をつきながら、遠くの花壇をぼんやりと眺めた。

その時、庭園の入り口から軽やかな笑い声が聞こえてきた。


アマンダが顔を上げると、そこには一人の女性がエリオットと並んで歩いてくる姿があった。


女性は背が高く、輝くような金髪をなびかせ、深紅のドレスが彼女の優雅な雰囲気を一層引き立てていた。

まるで絵画から飛び出してきたような美しさだった。


「エリオット! やっと会えたわ! リハーサル、順調?」


女性は親しげにエリオットの腕に手を置き、まるで旧知の仲のような気安さで話しかけた。エリオットもまた、穏やかな笑顔で応じている。


「順調だよ、クラリス。今日は見学に来たの?」

「もちろん! あなたが主役だなんて、絶対に見逃せないもの。」


クラリスと呼ばれた女性は、キラキラと目を輝かせながらエリオットを見つめた。

アマンダはベンチに座ったまま、なぜか胸の奥にチクリとした痛みを感じた。


「クラリス…? 誰かしら、あの人。」


彼女は無意識に台本を握りしめ、二人の会話を遠くから観察した。

クラリスは明らかに貴族の令嬢で、その立ち振る舞いや自信に満ちた笑顔は、アマンダ自身と似ていると感じた。


いや、むしろクラリスの方が一歩抜きん出ているようにさえ思えた。


クラリスはエリオットと楽しげに話し続け、時折彼の肩を軽く叩いたり、髪をかき上げたりしながら親密な雰囲気を漂わせていた。アマンダの視線に気づいたクラリスが、ふとこちらを向いて微笑んだ。


「あら、あなたが今回のヒロインのアマンダさん?

初めまして、クラリスよ。エリオットとは昔からの知り合いなの。よろしくね。」


その言葉は丁寧だったが、どこか挑戦的な響きを感じさせた。


「ええ、初めまして。よろしく。」


アマンダは笑顔で応じたが、内心では何かモヤモヤした感情が渦巻いていた。

クラリスの「昔からの知り合い」という言葉が、なぜか引っかかった。

エリオットと彼女の関係は、ただの知り合い以上のものなのではないか?


アマンダはそんな考えを振り払おうとしたが、クラリスがエリオットに寄り添う姿を見るたびに、胸のざわめきが収まらなかった。

「クラリスは、僕がまだ候補生だった頃にずいぶん助けてくれたんだ。彼女がいなかったら、たぶん今の僕はいないよ。」


エリオットが何気なく言ったその言葉が、アマンダの心にさらに小さな棘を刺した。


「ふーん、そうなんだ。素敵な関係ね。」


アマンダは努めて軽い口調で答えたが、声が少し震えているのに自分でも気づいた。クラリスはそんなアマンダの様子に気づいたのか、くすっと笑ってエリオットの腕を軽くつまんだ。


「エリオットったら、相変わらず真面目よね。

ねえ、アマンダさん、この舞台、楽しみにしてるわ。

あなた、モテない女性の役なんでしょう? 意外なキャスティングね!」


その言葉に、アマンダの眉がピクリと動いた。

クラリスの口調には、どこか意地悪なニュアンスが含まれているように感じられた。


「ええ、意外かもしれないけど、役者としては新しい挑戦も大事よね。

クラリスさんは…何か役を?」


アマンダは負けじと微笑みを返したが、内心ではクラリスの存在が気になって仕方なかった。


「私? 私はただの観客よ。エリオットを応援しに来ただけ。」


クラリスはそう言ってエリオットにウインクし、彼もまた苦笑しながら肩をすくめた。


「クラリス、からかうのはやめてくれよ。リハーサルに戻らないと。」


エリオットはそう言ってアマンダの方をちらりと見たが、その視線にどんな意味が込められているのか、アマンダには読み取れなかった。


休憩時間が終わり、再びリハーサルが始まったが、アマンダの集中力はどこか散漫だった。

エリオットとのシーンを演じながらも、クラリスの笑顔や彼女とエリオットの親しげなやりとりが頭から離れない。


舞台上でエリオットが彼女の手を取るシーンでは、いつも以上に心臓がドキドキして、演技なのか本物の感情なのか、自分でもわからなくなっていた。

リハーサル後、エリオットがアマンダに近づいてきた。


「今日、ちょっと調子が悪かった? 何か考え事でもしてる?」


彼の気遣うような口調に、アマンダは一瞬ドキッとしたが、すぐに平静を装った。


「ううん、なんでもないわ。ただ…クラリスさんって、ほんとに素敵な人ね。

あなたと仲が良いみたいで。」


彼女はつい、探るような口調になってしまった。

エリオットは少し驚いたように目を丸くし、すぐに柔らかく笑った。


「クラリス? ああ、彼女は昔から姉貴分みたいな存在なんだ。ちょっと強引なところもあるけど、根はいいやつだよ。…なんで、気になる?」


彼の最後の言葉に、アマンダは顔が熱くなるのを感じた。


「べ、別に! ただ気になっただけよ!」


アマンダは慌てて否定したが、エリオットの意味深な笑みが、彼女の心をさらにかき乱した。


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