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蛇足、あるいは新たなはじまり

タイトル通り蛇足編。ループ物としての本作は三話で完結しているものの、入れられなかった設定を書かないのも勿体ないかなと思って。

 治療のために教会内に通された俺は質素ないくつかの家具と神像が一つ置かれているだけの飾りっけの無い小部屋へと案内された。

「こちらでしばらくお待ちください」

 案内してくれた女信徒はそれだけ言うと部屋を出て行った。正体がバレないか多少の不安はあったが、教会とはほぼ縁が無かったから顔に負った火傷の治療を受けなければ大丈夫だろう。それに脇腹の傷がズキズキと痛み、治療が受けられるとありがたいのは確かだった。そんなことを考えながら大人しく椅子に座って待っていると、やがて白い祭服を着た白髪の老人が部屋に入ってきた。

「お待たせしました」

「いえ、そんなことは」

 かすれた声でそう答えた途端、老人の気配が変わり、その姿に似合わぬ若々しい声で話しかけてきた。

「そうだね。待たされたのはこちらだものね」

「!?」

「いやあ、待たせてもらったよゲイル・ガードン君。ま、楽しませてもらったから良いんだけど」

「あんたは一体何者だ!?」

 いきなり正体を見破られたことに動揺して素の声に戻ってそう問いかけると、老人の目が妖しく光った。

「ああ、自己紹介がまだだったね。私が君を転生させた悪魔だよ」

「悪魔!?あのゲームの黒幕の?」

「そういえばこの戦乱の黒幕も悪魔だったか。ならカタカナで『アクマ』とでもしておいてくれ。紛らわしくて申し訳ないが名を変えるわけにはいかないものでね」

「つまり、悪魔とアクマは違う存在だと言いたいのか?」

「その通り。そもそもこの世界は高次元生命体である創世神が作り上げた世界でね。神と敵対する我々は敢えて『アクマ』と名乗ることでこの世界の中でも自由に行動する権利を、神と敵対する権利を得ているのさ」

「はあ……?」

 一体何を言い出したんだこいつは?

「まあちょっとややこしい話になるから要点だけ理解してくれ。創造神の思い通り、言い換えればゲームのシナリオ通りにさせないために君を転生させた、ということだけわかってくれれば良いよ」

「どうしてその説明を最初にしてくれなかったんだ!?」

「君が教会に来てくれれば説明できたんだけどね」

 俺が思わず立ち上がって問い詰めると、老人は悪びれもせずそう答えた。

「代官屋敷の礼拝堂で祈ってみたが何も起きなかったぞ」

「あそこは神と繋がってないからね。私はこの世界と創造神との繋がりを利用して介入しているから、きちんと神が祀られている教会じゃないとダメなんだ」

「……ひょっとして、教会に来ていたら繰り返しから抜け出す手助けもしてくれたのか?」

 この質問にアクマを名乗る老人は右手の親指を上に立てることで答えてくれた。それを見た途端、昨日の怪我の痛みとこれまでの疲れがドっと押し寄せてきて、体がふらついた。

「おっと、話を続ける前にサクッと治療しておこうか。いやあ、なかなか遠回りをしたみたいだね。ま、私にとっては誤差だから構わないのだが」

 そう言って老人が手をかざすとみるみる体の痛みが引いていった。

「あの繰り返しもあんたの力の一つだったのか?」

「そうだよ?といってもあの程度……なんて言えば良いかな。君の元の世界で言うところのデータ使用量でいえばたかだか数十KB消費が増えるくらいのことだからね、本当に大したことじゃないよ」

 何十回という繰り返しを本当に何でもないことだと言うその様子に、こいつが正真正銘の人外なのだと納得がいった。

「はあ……それで、俺はこれからどうすれば良いんだ?」

「そういえば転生の副作用でそこの記憶が失われていたんだったね」

「おい!」

「いやあ、同一人物同士でない以上、完璧な転生というのは難しくてね。どうしても記憶の欠損などが生じてしまうことがあるんだよ。それが今回は完全にピンポイントなところだったというわけだね。『ロザリア』この名前を聞けば何をすれば良いかわかるはずだ」

「ロザリア……」

 確かにその名前には聞き覚えがあった。帝国北部で蜂起した反乱軍のリーダーで、物語中盤に主人公たちと共に帝都を目指して攻め込むものの途中で敗北し、主人公たちを逃すために囮となって死亡する少女の名前だ。そこまで思い出したところで、頭に鋭い痛みが走り、映像が飛び込んできた。

 自室で久しぶりに『ハイロード戦記』をプレイする俺。場面はまさにロザリアが死ぬシーン。この子をどうにかして助けたいな、と呟く俺。そして……。

「転生したのはあの時の呟きがきっかけなのか!?」

「そう、その通りだよ。私が『助けたいか?』と話しかけたら『助けたい』と返事をしたじゃあないか」

 確かに、どこからか聞こえた声に思わず返答をしてしまったところまで思い出した。

「なぜ俺が選ばれたんだ?同じようなことを言う奴は他にもいただろう?」

「それは素質の関係だね。転生させるのは誰でも良い訳ではなくて、転生先とある程度似ている必要があるのさ」

「……つまり俺がゲイルと似ている、と?」

「だってそうだろう?あれだけ見事にゲイル以上の悪代官をやってのけたじゃないか」

 繰り返しの中で俺がやってきたことも全て把握されているのだろう。忘れたい過去を持ち出された俺は話を逸らすことにした。

「ぐっ……。剣の腕前も俺の才能だと言うのか?」

「そうだよ。君は剣術……ああ、君たちの世界だと剣道だっけ?それをやっていなかったみたいだけど、もしやっていれば全国大会にいけるかどうか、くらいの結果を残せていたんじゃないかな。ま、やらなくて良かったとも思うけどね」

「どうしてだ?」

「だって君、剣道をやって、体育会系って言ったっけ。そういうノリに染まっていた場合、成人後は経歴を活かして指導者になったは良いけどパワハラで問題を起こして落ちぶれていたんじゃないかな」

「……それが俺の別の運命だと?」

「まさかまさか。ただの予想だよ」

 へらへらとした答えにむかついたが、同時に繰り返しの中でやらかしたことを考えると、どことなく自分でも納得がいくものがあった。

「はあ……それで、俺がやるべきことはロザリアを助けることで良いんだな?」

 拒否できるか尋ねようかとも思ったが、確かに自分が願ったことであり、ここまで来てしまった以上は引き受けることを前提に話を聞くことにした。すると老人は人差し指を立てると、もう少し詳しい条件を応えてくれた。

「一年間だ。今からおおよそ一年間、ゲームのストーリーが終わるまでロザリアを助けて生き延びさせてくれ。と言っても彼女が亡くなるのは半年後だから、それまでは準備期間ということになる。北部に移動して事前に信頼を積み重ねておくも良し、あるいは他の地方を回って拠点を確保しておくのも良いだろう。そして半年後に君と同じように彼女の死を偽装してくれ。その後、彼女を連れて戦乱溢れるこの国でどうにか残りの半年間を生き延び抜いてくれれば良い」

「ふむ……失敗したらまたやり直しか?」

「いや、それはできない。チャンスは一回きりだ。その代わり、教会に立ち寄ってくれればできる限りの範囲で手を貸そう。二人で旅をする範囲では金や物資に困ることはないと思ってくれ。ただし、私が直接彼女に何かすることはできない。彼女の説得なり誘導なりは君の手でやってくれ」

「援助は助かるが、説得はこちら任せか……。死を偽装すること自体は帝国の追手から逃れることを考えれば受け入れてくれるだろうが、問題はその後だな。主人公たちとの合流は論外だろうし。いっそ動けなくしてしまえば……いや、この発想はまずいか」

「まあまだ半年はあるんだ。移動しながらじっくり計画を考えてくれたまえよ。これでも私は独力で世界を騙してくれた君には大いに期待しているんだよ」

 世界を騙した、か。本当に何もかもお見通しらしい。

「はあ……わかったよ。一応は俺の願いからはじまったことだ。やってやる、やってやるさ」

「ふふふ。やる気になってくれて何よりだ。他に何か尋ねたいことはあるかい?」

「そうだな、そもそもどうしてこんなことをするんだ?神と敵対していると言ったが、そのこととゲイルやロザリアを助けることの繋がりが見えないんだが」

 ふと気になったことを尋ねてみると、老人の姿をした『アクマ』は嬉々としてよくわからない説明をはじめた。

「端的に言うと世界の可能性を広げるためさ。って返答になるんだけど、わからないかな?」

「わからん。わかれって言う方が無茶だぞ」

「まあそうなるよね。世界というのは可能性に満ちているように見えて、実際のところその選択肢の幅というのはそこまで多くないんだ。それまでの積み重ねや周囲の状況によって取りうる行動の範囲というのはある程度決まっている上に、要所要所の結果というものは神によってあらかじめ定められている。だから私たちは『運命は定まっている。けれども同時に定まっていない』なんて皮肉を言っているんだけど、この言葉の意味が君なら理解できるよね?」

「ふむ……俺が昨日死ぬことは決まっていたが、それより前の半年間はある程度好き勝手に行動できたことを指しているのか?」

「そうそう、そういうこと。私はそんな予定調和に満ちた世界を壊してやりたいんだ。とはいえ、大規模な介入を行えば当然神にも気付かれて対策されてしまう。だから、君のように条件が甘いところに付け込んで死んだと思われていた人物が実は生きていた、という事実を世界に刻み込んでいきたいのさ。その運命の揺らぎが五十年後、あるいは百年後に更なる揺らぎをもたらしてくれることに期待してね」

「随分と気の長い小細工だな」

「そんなにもばっさりと言ってくれるなよ」

 その胡散臭い笑みはまだ何か隠している事情があることを示唆していたが、それを今問い詰めても答えないであろうことは明らかだった。

「ちょっと色々と話し過ぎたかな?まずはこの部屋で休んでいくと良い。人払いはしてあるから誰かに咎めれることはないよ。あとそうだね、火傷はそのままで良いとして、髪の色とかは変えておくかい?」

「そうだな……そもそもゲイルは死んだんだ。名前も変えてしまおう」

「それもそうだね。何か考えてあるのかい?」

「そうだな、俺の新しい名は……」

 こうして、ファトスの街の教会の一室から俺の新しい生がはじまった。

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