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3 炎の中で ~周回の終わり

 小鳥のさえずりを聞いて、もはや何度目か数えきれない死の眠りから目覚める。

「どうすれば生き延びることができるんだ……」

 どれだけの犠牲を積み重ねてもレイモンドに勝てず、やり直し状態から抜け出せない現実を前に、俺がこの世界の主人公だという自信も、レイモンドへの殺意も消え失せてしまいそうだった。

「あのご主人様、だいじょ……」

「うるさい、触るな!」

 うなだれる俺に声をかけてきたフローラを反射的に払いのけると、すっかり癖になった動きでそのまま殴ろうとしてしまう。けれども、顔を庇う手の隙間の奥に見えた脅えた緑の瞳を見て、ふと手が止まった。

 俺は、一体何をやっている?レイモンドに勝つために必死になって、気に入らないことがあると人にすぐ八つ当たりして、それで良いのか?まだゲーム通りの死を逃れるために何かできることが……()()()()()()()?何かが引っかかる。最近の出来事で、何かゲームの仕様としてはおかしいことがなかったか?

 俺はフローラを部屋から追い払うと、最近の死に様を振り返った。ええと、レイモンドを追い詰めるも足を滑らせたところを斬られたのが前回で、傭兵団を屋敷近くに配置して乱戦の規模を拡大したところ流れ矢に被弾して足を止めてしまってそこをネリーの魔法に貫かれたのがその前。自警団の誰かを人質に取ろうとレイモンドの相手はそこそこに他のメンバーを狙おうとしたものの結局果たせずにレイモンドの刺突を受けたのが更にその前。もう一つ前が火計を仕掛けたところ火のまわりが思ったより早くて俺だけが焼けてしまって……ん?これ、ゲームとしてはどういう扱いになるんだ?

 ゲームだと火計で自爆する場面なんてどこにも無かったから、強いて言えば死亡イベントの類になるのか?でも、ステージ進行中に途中で死亡イベントが発生することなんて無かったぞ。しかもこのやられ方でプレイヤーユニットに経験値が入るのか?ゲームと同じ展開になるように強制力が働く世界なのに、この死に方だけゲームの仕様とかけ離れていて、どうにも気になる。この場合、俺を殺したのは俺自身ということになるわけだが……いや、「どうしてゲイルは死んだのか?」と考えた場合、「自警団との戦いが原因でゲイルは死んだ」ということになるか。つまり、世界が望んでいるのは「ゲイルの死」ではなく「自警団がゲイルを殺した」という事実なのか?正当防衛とはいえ貴族を手にかけてしまったことがレイモンドたちが旅立つ理由なのだから。

 ひょっとして、ここに俺が生き延びる隙があるんじゃないか?俺が、ゲイルが死んだのだと周囲に、世界に信じさせることができれば俺の繰り返しも終わる。何となく、この考えは正しい予感がした。

「それならやってやる、やってやろうじゃないか。俺は世界を騙してみせるぞ」

 こうして、俺の新しい生存ルート探しがはじまった。


 まず単純に代官屋敷に火をつけてその隙に逃走する案……はゲイルが認めず、体が勝手に戦いへと動いて突き殺されたので没。

 次に、ギリギリ急所を避けて瀕死の状態で生き延びられないか試してみたところ、結論から言えばダメだったものの興味深いことがわかった。まず重傷であっても体が動けるならばゲイルの意志で戦おうとする。しかし、起き上がれないくらい瀕死になるとゲイルの意志を感じ取れなくなった。もっとも、そんな傷では暫くすると俺の意識も無くなってしまったが。多分、このゲイルを感じるか感じられないかのラインが、ゲームでいうところのHPゼロの状態じゃないだろうか。

 HPに関するゲームの仕様を思い出すと、ほどんとの敵キャラはHPがゼロになると死亡したが、味方キャラと一部の敵キャラはHPがゼロになっても死亡することなく退却扱いとなり、味方キャラは次のステージにはまた使えるようになっていた。理屈としては恐らくHPがゼロになった状態はまだ息があり、そこからHPを回復すれば死亡せずに済むのだろう。しかし負けた側には手当てする余裕などなく、そのまま死亡してしまうということか?退却する敵キャラたちはどれも騎乗ユニットだったはずで、乗り手のHPはゼロでも馬やドラゴンなどの騎乗動物に後方に運んでもらったおかげで助かった、と考えれば辻妻は合う。

 とすると、俺がやるべきはまず瀕死状態になってゲイルの意志を殺し、その上でこっそり自分を回復して死んだふりをすれば良いのか?確かゲーム中にはいくつか回復アイテムがあったはずだが、果たしてこの世界でも傷薬は即座にHPを回復してくれるのだろうか……とりあえず試してみるか。

 そうしていくつか傷薬を試してみたが、やはり現実には一瞬で傷を癒してくれるような便利な薬はなかった。ただ、やたら効果の高い軟膏タイプの傷薬は存在したので、瀕死の状態からこっそりこれを使って止血して死んだふりをしていれば何とかなる……か?こうして俺は死んだふりを試してみることにした。


「開拓村自警団団長、レイモンド・ヒースローいざ参る」

「ガードン伯爵家三男、ゲイル・ガードン。俺を斬れるものなら斬ってみろ!」

 傷薬を懐に忍ばせながら、いつも通りにレイモンドと剣を交わす。刺突で心臓を貫かれると死んだふりどころではないから、なるべく距離を詰めて戦うことで溜めを作らせないようにする。その代わり斬撃への対処は少し甘めにして攻め手を誘導しつつ、それでいて隙があれば倒すつもりで殺意をもって戦った。

 一対一の斬り合いは俺の方が優勢だったが、これまたいつも通りに邪魔が入る。今回は誤射覚悟で放たれたシアの矢が俺の左腕に刺さり、動きを止められた。その隙を見逃さずレイモンドが斬りかかってくる。

 俺は避けようと思えば避けられるその斬撃をあえて受けようとする。ゲイルはそんな行動を望まないが、俺とゲイル双方の意志が食い違った結果として一瞬だけ体の動きが止まることで結局は俺の望み通りになる。そして、装備していた胸当てごと肉が切り裂かれ、痛みと共に血が噴き出す。よろめき、背を見せたところにさらに追撃の一振りが入るが、早めに倒れることで浅めに受ける。痛みの中、計画通りゲイルの気配が俺の中から消える。

「お、おのれ、許さんぞ……」

 地に伏せ、捨て台詞を吐いてもがくふりをしながら、こっそり体で隠した片手で薬を塗り、そのままゆっくりと動きを止めて死んだふりに移る。

「代官様がやられたぞ!」

「に、逃げろー!」

 すると、まだ生き残っていた護衛達が逃げる声が聞こえてきた。

「代官は倒したぞ!俺たちの勝利だ!」

 相手が総崩れになった様子をみてレイモンドたちが勝鬨を挙げる気配が伝わってくる。痛みに耐えながら、これでこのまま早く立ち去ってくれればと、そう願ったところで、誰かが近づいてくる気配がした。

「こいつはまだ使えるか?」

 どうやらジョセフが俺の落とした剣を検分しているようだ。そうか、ゲームで敵を倒すとアイテムが手に入るっていうのは、現実に置き換えると誰かが戦場を漁った結果ってことになるのか。つまりこのままでは……どうかその剣だけ持って立ち去ってくれ!そんな俺の願いも虚しく、俺のすぐ傍で足音が止まった。

「ん?……生き汚いのは嫌いじゃないが、ま、運が悪かったな」

 そんな言葉と共に容赦なくナイフで背中から心臓を貫かれ、俺の企みは失敗に終わった。

 

 何度か手法を変えながら死の偽装を試してみたが、レイモンドたちの目の前で死んだふりをするにはシーフのジョセフが大きな障害となって立ちはだかってくれた。それならばと火計を利用できないか試してみたものの、火の中に消えるだけでは何かが足りないのか、逃げる前に火に囲まれて焼け死ぬ羽目になってしまった。

 そんなこんなで世間にゲイルが死んだと広く知らしめる方法が何か無いものかと悩んでいると、ふと父から届いた手紙の一文が目に留まった。

「税収を増やすために助言役が必要であればこちらから人を送る用意がある」

 増税をせず、上納金を増やさずにいると送られてくるいつもの通告だ。以前の繰り返しの中で送られてきたお目付け役は増税の説得のためにゲイルの弱点を的確に突いてくるような人物ではあったが、同時に確かに父の信頼が厚いのも納得できる有能な文官でもあった。

 ということは、だ。このお目付け役に俺が死んだと思って貰えれば即座に父にも報告がいくんじゃないか?そうなればより広い範囲に俺の死を信じて貰えるわけで、何か新しい突破口になってくれないだろうか。そう思い立った俺は上納金の増額を約束しつつも、助言役を送ってくれるように乞う手紙を父に送ることにした。

 その後、俺は父に約束した通り無理のない範囲で税を増やすと、ある程度の政務をお目付け役に押しつけて自由時間を増やし、剣の鍛錬に励みながら策を練ることにした。そうして考えた策の一環として無名の傭兵たちの中から比較的頼りになった数名を雇って代官屋敷の守りを手厚くし、その他にもあれこれと用意をしながら運命の日に備えることにした。

 何となく、準備を進めるうちに今回で全てが終わる自信が湧いてきていた。


「衛兵隊に伝達!反逆者どもを捕らえよ!手向かうようなら殺しても構わん!連中の親玉の首を持ってきたやつには褒美は思いのままだぞ!」

 迎えた九ノ月十六ノ日。いつも通りフローラを鞭打ち、それをレイモンドに止められた後、屋敷に戻って衛兵隊に命令を下した。その後、ぼんやりと屋敷内で連絡を待つのではなく、代官屋敷前に本陣を構えることで本当に一大事が起きているかのような空気を作り出してみせた。

 やがて、自警団の連中が衛兵隊を返り討ちにして代官屋敷へと進軍して来た。いつものように護衛達の迎撃を突破してレイモンドが俺のもとへと駆け抜けてくる。互いに名乗りを上げ、剣を交えるが、こちらから攻めるのではなく丁寧に攻撃を受け止め続け、援護攻撃を回避することに専念する。そうやって俺がレイモンドたちの攻撃を防ぎ続けていると、護衛達が一人、また一人と倒れ数が減り始めた。

「おい、少し変われ」

 それを見た俺は、控えさせていた傭兵を呼び出すとレイモンドの相手を任せて屋敷の中に入った。

「ゲイル様、この騒ぎは一体何ですか!?外は一体どうなっているのでしょうか!?」

 俺の狙い通り、屋敷の中には外の詳細は伝わっていないようで、入ってすぐの玄関ホールには外の情報を探るために文官や使用人たちが集まっており、一同を代表してお目付け役の男が声をかけてきた。

「反逆者たちの襲撃だ。今はこの代官屋敷の外で迎え撃っている」

「なんと!伯爵様の領地を襲撃するとは、一体どこの無法者たちですか!?」

「どうやらロゼ村の方からやってきた連中らしい。今は外で護衛の連中が迎え撃っているが、万が一に備え、お前は戦えない連中を連れて屋敷の裏口から避難しろ」

「わ、わかりました。しかしゲイル様はいかがなさいますので?」

「俺はガードン家の男だぞ?敵に背を向けられるものかよ。何があろうとこの剣に懸けてここをやつらの墓場にしてやる」

 俺は腰に下げていた剣を叩いてそう応えると、あえて笑ってみせた。

「さすが!それでこそ伯爵様の御子息でございますな。わかりました、どうかご武運を!」

 男はひどく感激した様子で俺に一礼すると、使用人たちを集めて避難の誘導をはじめた。あの様子なら事が計画通りに進んだ暁には間違いなく俺がロゼの連中に殺されたのだと父に報告してくれるだろう。

 一芝居打ち終わった俺が油を撒いて火計の準備を行っていると、事前の打ち合わせ通りに生き残った護衛や傭兵たちが屋敷の中に戻ってきた。

「ゲイル様、表はもう限界です」

「よし、お前たちよくもたせてくれた!こちらの準備も済んだところだ。これよりこの屋敷で反逆者たちを迎え撃つ。やつらを一人も生かして返すな!」

「応!」

 俺の檄に部下たちが応えたところで自警団の連中が玄関から入ってきた。考えてみると部下たちも自警団の連中もどちらも戦いを止めようと言い出すことは一度もなかったな。これもゲーム通りに進むよう補正がかかっているのだろうか。まあ、もはやどうでも良いことか。雄叫びをあげて二つの集団がぶつかり合うと、あっという間にばら撒いた油の臭いが汗と血の臭いに上書きされていった。

「今度は逃がさないぞ!」

 案の定、俺めがけてレイモンドが突っ込んで来る。

「相手をしてやろう。かかってこい!」

 そう答えてレイモンドの剣を受け止めながら、最後の策のために少しずつ屋敷内を誘導していく。食堂で斬撃を避ける度に調度品が吹き飛び、礼拝室の前で行った反撃は避けられて壁のランプを砕く。階段で攻撃を受け流しをする度に壁紙が傷つき、二階の広間で放った牽制の一撃は軽く受け流されて壁の蝋燭を切り裂いた。そうやってお互いに有効打を与えられないまま、ついに執務室にまで辿り着いた。

「もう逃げ場はないぞ。観念するんだ!」

「はははは、逃げ場がないのはどちらかな!」

 飛び散った火花か、それとも地に落ちた蝋燭か、使用人が使っていた火種か、どれが直接の火元になったかはもはやわからないが、気が付けば屋敷のあちこちに火が付き、燃え広がりはじめていた。その勢いは不自然なほど早く、ここまでの誘導と併せて考えれば主人公(レイモンド)の退路を断つためであることはレイモンドにもはっきり伝わったようだった。

「大切な自分の屋敷だろうに、どうしてここまでするんだ!」

「貴族は決して反逆を許さない、ただそれだけだ!」

 言葉とともに剣を交わす。鉄と鉄がぶつかり合う音と火が燃える音だけが室内に響く。邪魔な援護もなく、完全に一対一のこの状況、これまでの繰り返しを踏まえると、余裕で圧倒できてもおかしくはないはずだ。それなのにレイモンドは俺と互角に戦えていた。どういうことだ?まるでレベルアップでもして強くなったような……そうか、レベルアップか!ゲームだとプレイヤーキャラは戦闘をすれば敵を倒せなくとも少しずつ経験値が貯まっていった。今日はレイモンドをここまで引きずり込むためにわざと時間をかけて戦っている。それが小さな経験値の積み重ねとなって、レイモンドの成長(レベルアップ)へと繋がったのだろう。なんて厄介な奴!

 このままでは埒が明かないと判断した俺たちは互いに後ろに下がり、距離をとった。そしてレイモンドは腰を落とし、右足を後ろに下げ、剣を右手で低く持つ。必殺の刺突の構えだ。それを見た俺はニヤリと笑うと、まったく同じ構えを取った。村で先達に習った剣術に自分で手を加えた半我流剣術であるはずの自分の技と同じ構えを見てレイモンドが一瞬戸惑いの表情を浮かべる。その戸惑いがそのまま技の起こりの差となった。一瞬の時間差がありつつも互いに左足を軸足にして踏み込み、渾身の力で剣を突き出す。そして互いの剣先がぶつかり合うと、一方が砕け散り、残った一本の剣が相手の体を貫いた。

「ば、ばかな……」

 驚愕の表情を浮かべながら床に崩れ落ちたのは、今回も俺の方だった。本気で勝つつもりで挑んだのに、やはり届かないのか。

「どうしてこいつが俺と同じ技を?あんた一体どこで……」

「お~い、団長ー!どこにいるの!?火のまわりが早いから、急いで脱出しないと手遅れになるわ!」

「俺はここだ!急いで戻る!」

 勝ったとはいえ釈然としない様子のレイモンドだったが、遠くから自分を呼ぶ声を耳にすると、燃え広がる炎を避けながら廊下を駆けて行った。

「ぐっ……いってくれたか……」

 レイモンドが部屋を出て行くのを確認すると、俺は事前に用意していた薬箱のところまで床を這ってなんとか辿り着いた。剣が砕けた瞬間、咄嗟に体をひねることで何とか即死は免れることができたが、それでも何の手当もしなければそう長くはもたないだろう。治癒力を高めるポーションを飲み、薬を塗り、雑に包帯を巻き終わる頃には室内にもすっかり煙が充満していた。

「ごほっ、ごほっ」

 俺は煙に咽つつ、痛みを訴える体に鞭打って今度は床に敷いてあった絨毯を剥がすと、その下に隠されていた仕掛けを操作した。すると床の一部が動き、二階から直接地下に繋がる隠し通路の入口が現れた。あとはここを降りさえすれば……そう思ってタラップに手をかけたところで、ふと近くで火の粉が舞うのを感じた。真上を見上げると、ちょうど天井の一部が焼け落ちて、頭上から落ちてくるのが目に入った。




帝国歴六八五年九ノ月十七ノ日

 この日、ファトスの街全体をどんよりとした空気が包み込んでいた。街の各所に前日の戦闘の余波で傷つき壊れた家屋があり、あちこちに怪我人の姿が目についた。さらに代官屋敷を焼いた炎は鎮火に当たる衛兵隊が壊滅していたこともあって周辺に飛び火し、街の中心部に大きな傷跡を残していた。焼けた家を前に呆然とする者、焼け跡の中を少しでも使える物がないか探す者、街を出る準備をする者……戦災に巻き込まれた街でよく見かけられる光景がこの街でも繰り広げられていた。

 そんな戦火の跡が残る街を行き交う人々の中に、顔に酷い火傷を負い、手で脇腹を抑えながらよろよろと歩く男がいた。やがて男は忙しなく早足で歩く労働者の男とぶつかってしまう。

「おい、何をちんたら歩いてるんだ。邪魔じゃねぇか!」

「……すまない」

 男の声はひどく枯れていて聞き取り辛かったが、その尊大な態度は育ちの良さを窺わせるものがあった。

「お、おう。んん?あんた大分とひでぇ怪我をしてんな?あっちの広場で教会の連中が治療をしてるはずだから連れて行ってやるよ」

「いや、俺は……」

 怪我をしている男は断ろうとしたが怪我で力が出ないのかはっきりと断ることができず、労働者の男に引っ張られて教会前の広場まで連れられて来てしまった。

 教会に面した広場では司祭たちが怪我人の治療に当たっており、軽傷者は広場で、重傷者は教会内で手当てされているようだった。労働者の男は雑用係の女信徒を見つけると怪我をしている男を案内するように頼み込んだ。

「わかりました。なんて酷い怪我……。受付まで案内しますね」

 女信徒は案内を引き受けると、男の手を引いて治療の程度を判断をしている受付役の司祭のところまで連れて行くことにした。

「火傷の治療ですかな?様子を見るに頭部以外にも怪我をしていらっしゃいますね?」

「火傷はいい。それよりこっちを治療してくれ」

 男は受付の司祭に怪我の具合を尋ねられると、上着をめくって腹部を指しながらかすれた声でそう答えた。露わになった腹部にはひどく血が滲んだ包帯が乱雑に巻かれており、見る人が見れば火事の傷ではなく、戦いで負った傷であることが一目瞭然だった。しかし、司祭は何も言わずに男を教会内へと案内するように女信徒に言いつけた。司祭からみれば戦いを生業とする者であろうとも一度教会を訪れたならば救いを与える対象であることに違いはなかった。

 そして、男は教会の中で悪魔と出会い、自身が転生した理由や、その目的を知ることになる。

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