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十九 慕情

 

 日高見国(ひたかみのくに)国軍(こくぐん)近衛師団第二連隊鷲獅子(しゅうしし)騎兵大隊大隊長付副官 佐治鹿嶋中尉。


 上記のものに対する、稚日宮(わかひるのみや)紗蓉子(さよこ)皇女殿下略取事件につき、証人および被疑者に対し、自己の意志に反して供述する必要がない(むね)告げたところ、任意つぎのとおりに供述した。



豊忍(とよおし)鏡子(きょうこ) 稚日宮(わかひるのみや)紗蓉子(さよこ)皇女殿下学友

 【聞き取り】 第一管区憲兵司令部司令副官 榊原早津彦大尉  【記録】 香西みちる伍長


 何度も同じことを申し上げております。


 確かに、皇修館では佐治鹿嶋(さじかしま)さまと紗蓉子(さよこ)皇女殿下は交流をお持ちでした。ですが、同じ学舎に通うものとして、道行き、会えばご挨拶くらい交わすものでしょう? ちょっとした言葉を交わす以上の何かが、お二人にあったと断言なさりたいわけですね。


 そういう記録が残っているとおっしゃるなら、そちらを信じればよろしいでしょう。


 なぜそれほど皇修館時代のことをしつこくお聞きになるのですか。


 あなたがたご自分でおっしゃったではありませんか。七年間一度も会わなかった男と女が、再会してすぐにふたり手を取りって逃げようなんて、すぐには思えませんわ。


 ……つまり、あなたがたは、紗蓉子さまと佐治さまが、人目を忍んで密会しており、事前に計画を立てうえで逃亡したと、そうおっしゃりたいのですね?


 そのほうが佐治さまの罪は重くなりますものね。


 ですが、わたくしも一年前に結婚し、皇都を離れてからは、紗蓉子さまと皇女宮でお会いしたことはありません。鹿嶋さまが皇女宮を訪ねていたか、存じません。


 そもそも、朱華邸(はねず)は男子禁制です。

 そんな簡単に、許しのないものが頻繁に出入りできる警備しかされていないのですか? それこそ問題でしょう。



豊忍(とよおし)鏡子(きょうこ) 稚日宮(わかひるのみや)紗蓉子(さよこ)皇女殿下学友

 【聞き取り】 仲月見イスカ(近衛師団第二連隊鷲獅子騎兵大隊大隊長 佐治鹿嶋中尉直属上官) 【記録】 金邑眞夏上等兵


 はじめまして。


 イスカさま。あなた様が、紗蓉子さまのお姉さまでいらっしゃいますね。


 わたくし、一度お会いしたかったのです。表には出せない姉妹の間柄だけど、とても大切にしてくださるお姉さまがいらっしゃるとお聞きしていました。


 鹿嶋さまと紗蓉子さまは、たしかに皇修館にお通いの当時、親密……という言い方が正しいのか、わかりかねます。男と女の間で親密と言うと、すぐに先走る方がいらっしゃるでしょう? さっきの人たちとか、わたしがその言葉を使おうものなら、飛びついてきそうでした。


 猫です。


 ええ、その動物の猫。

 紗蓉子さまが、よく猫を見にお通いだった古い(やしろ)があって……そこで猫が産気づいたことがあったそうです。


 その猫が子を産むときに、おそばで最後まで見守っていたのが鹿嶋さまで……。


 驚きますよね、わたしもそうでした。


 なにしろ昔の鹿嶋さまは、なんだかもっと近寄りがたい方でしたから。


 いま? 今はすっかり立派になられて……見ちがえるようですわ。

 え? あら、だってイスカさま、鹿嶋さまが褒められると、まるで我がことのようにうれしそうだから、なんだかおかしくて。


 ああそれで、猫が子を産んで、でもみんな健康に育つのが難しそうだから、里子にもらってくれる人を探すことになりました。

 それも鹿嶋さまがずいぶんがんばってくださって、紗蓉子さまはとても感謝していらっしゃいました。

 

 あの二人の間になにか特別の感情のあるのが確かだとしても、恋情の前に尊敬や感謝があったと思います。始まりはそれであったのではありませんか。


 そのとき生まれた子猫で、一匹とても弱いのがいて、もらい手がつかないからと、紗蓉子さまが皇女宮へ連れ帰られました。いまも殿下のそばに(はべ)っておりますわ。


 イスカさま、わたくし、きっと紗蓉子さまのためにならないと思って、どうしても警務隊の方たちには言えないことがありました。


 紗蓉子さまは、ネールランド紛争が終わった後、ずっと鹿嶋さまのことをお探しだった。


 あの方は、大切な人がこの世に生きているのかどうか、知ることもできないお立場にいらしたのです。わたくしはお調べしてお教えすることもできたのに、周囲から止められました。友人として、自我を通せませんでした。


 そうでしょうか。紗蓉子さまは、お許しくださるでしょうか……。


 なんの偶然か、いつかの国軍観閲式で、鹿嶋さまをお見かけする機会があって、紗蓉子さまは鹿嶋さまがご存命であることを、お確かめになったのです。


 でも、ほんとうに偶然だったのです。


 わたし、これって運命だと思ったのです。イスカさまはこういう話、信じてくださるでしょうか。



◆近衛師団第二連隊鷲獅子騎兵大隊 第二中隊中隊長 古瀬悠大中尉

 【聞き取り】 第一管区憲兵司令部司令副官 榊原早津彦大尉  【記録】 香西みちる伍長


 そちら、手元の軍務経歴表(ジャケット)をご覧いただければわかるとおり、わたしと佐治鹿嶋中尉は、もう数年来同部隊で勤務しております。


 佐治中尉は、大隊本部付であり大隊長副官ですから、軍務で直接ごいっしょすることが特別多いとは言えません。でもね、年は少しはなれているが、軍歴は近いですから、話はよくしますよ。


 どうも堅っ苦しくて。一服()んでもよいですか? ああ、足も組んでも? ありがたい。


 佐治中尉の私生活ね。どうですかね。遊びもあまりやらないし、たばこも喫まないんです。あの人は。大隊長がやらないからかな。大隊本部で禁止しているわけじゃあないと思いますよ。


 へえ、仲月見(なかつきみ)少佐と佐治中尉が? 


 まさか。だれが言ったんです? そんなこと。よほど鷲獅子(しゅうしし)騎兵大隊の内情にうとい奴の情報ですよ。当てにならない。


 その情報筋、すぐに捨てたほうがよろしい。少なくとも、近衛であの二人が男女の仲だなんて疑う連中はいませんよ。


 あのふたりは、ネールランド紛争からの戦友なんです。


 わたしはね、モラトリアムというか、大学を休学して愛国心なんかにあこがれて、うっかりあの紛争に参加した。あの人らは家や軍からの命令で、前線までなんとしてでも行かざる得ない状況だったそうですから、大変ですよ。佐治殿なんて、まだ十代半ばからの少年でしたよ。


 そこで佐治と、仲月見と、あともう一人。ちょっと有名でしたよ。戦友をかばってよく働いていた。


 俺の大学の先生が予備役で、おなじ戦場に来ていたんだが、その人が佐治殿をとくに気にしていてね。それでよく状況をさぐってたもんだから、ちょっとばかり持っているネタが多いだけですよ。


 そうだよ。少なくともあの戦役に参加したやつで、ふたりのことをとやかく言うのはいない。


 わたしはね、仲月見イスカが鷲獅子騎兵になるというんで、わざわざ軍に入った口なんでね。


 どうせ働くなら、ああいう人の下のほうがいいでしょう。無能につくと早死にするのがこの世界ですよ。


 皇女さまとねぇ……佐治中尉が?

 

 そんな話は聞いたことがないですよ。あんたらも大変だね。そりゃ前々から、佐治中尉が皇女と通じていたということにしておきたいよねえ。


 ありもしない事実を追い求めるのって、むなしくならない?

 

 ああ、そろそろ時間ですね。


 いやあ、わたしにも仕事がありますから、長時間の拘束は困ります。話せることはもう話しましたよ。


 もっと中尉と仲良しの人間を連れてきた方がいいよ。ほらあんたらも言っていた、仲月見イスカ少佐殿とか。




◆近衛師団第二連隊鷲獅子騎兵大隊 第二中隊中隊長 古瀬悠大中尉

 【聞き取り】仲月見イスカ(近衛師団第二連隊鷲獅子騎兵大隊大隊長 佐治鹿嶋中尉直属上官) 【記録】 金邑眞夏上等兵



 お久しぶりです。イスカさん。


 いや、気にしないでください。大した仕事もないのでね。

 (ひま)にしていました。ご心配なく。


 ああ、しまった。たばこ臭くないですか? 


 そう? ならよかった。


 佐治中尉の私生活ね……。


 さっき似たようなことを訊かれましたけど、それについてはあなたのほうがよくご存じなのでは? 


 あの人お強いでしょう。並大抵の鍛錬ではああはなりませんから、第二連隊の錬成場の主みたいなもんじゃないですか。かけ足も水練も怠らないし、そのうえ合間に皇女宮に忍び込んだというんだから、憲兵の連中は佐治殿をなんだと思っているんですかね。


 遊びはおろか、酒もおおくは呑まないし。


 いや、失礼。


 まえに黄鉄鉱(おうてっこう)の旦那、引佐(いなさ)大佐に、連日佐治殿が連れまわされていたころを思い出して。


 引佐大佐が連れていく遊びなんて、どういうところか想像に難くないですが、ついに佐治殿が「もう行きたくないです」とあなたに泣きついて……。


 そうそう、あなたが黄鉄鉱の旦那に「うちの鹿嶋に変なこと教えないでください」と直談判しに行った、あれです。いまでも思い出すと笑ってしまう。


 佐治中尉は、どうですか。このまま原隊には……そうですよね。


 仮にわかっていても、あなたはここではわたしに教えられないでしょうね。

 変なことを聞きました。気にしないで。


 皇女さまと関わりなんて、ほんとうになかったと思います。ですが……そうですね。関係ないとは思いますが、少佐にはお伝えしておきます。


 一年くらい前、用向きがあって二人で皇宮を訪ねたことがありました。そこでの帰り道、皇宮の中で猫にあったのです。


 猫です。


 そうそう、その猫で間違いないですよ。生きているやつ。動物のね。


 薄茶色で、片耳だけ白いのだった。そこだけふわふわしてて。


 でもそれ以外、特別目立つところのない猫でした。雑種だし。だけど毛並みはきれいでしたよ。よく手入れされていた。肉付きもいいし、別珍でこしらえた首輪もつけていました。飼い猫ですよ。


 飼い猫だから、人に慣れているのは当然なんですが、そいつなぜか佐治殿に寄って来たんです。それを佐治殿もなんの迷いもなく抱き上げて、


——皇女宮の猫だ。

と言うんです。


 なんでわかったんだろうなと思ったけど、理由はきかなかった。


 でもそれがね、日ごろよく会う慣れたやつ同士、という感じじゃなくてね。久々にあったやつが本当に自分が知っているものなのか、お互い確かめているように見えましたよ。


 そうです。猫も、佐治殿もね。

 そいつをお届けに行くというので、皇女宮の門まで一緒に行きました。なんであんな奥まったところにあるんですかね。皇女宮というのは。日当たりも悪いし、暗いんですよ。


 でもそこでも、門の外で女官に猫を引き渡しただけで、皇女さまを拝見するはおろか、一歩も門内には入っていません。


 佐治殿は、自分が何者かも女官相手に名乗りませんでした。


 「近衛のものが猫をお届けに参ったとだけお伝ください」と女官に言い残して、すぐに帰りました。それから二人で、そのことを話題にしたこともありません。


 なんで?


 なんで覚えているんでしょうね……。


 ああ、そうだ。

 猫を抱いている佐治殿のお顔がね、今まで見たこともないほどやさしくて、この人はこんな顔もするのかと思ったものです。


 それで、それで覚えているんだな俺は。



葛城(かつらぎ)一陽(いちよう)  佐治鹿嶋中尉学友

 【聞き取り】 仲月見イスカ(近衛師団第二連隊鷲獅子騎兵大隊大隊長 佐治鹿嶋中尉直属上官) 【記録】 金邑眞夏上等兵


 せっかく呼んでいただいたのに、あまりお役に立てる気がしません。


 わたしは佐治鹿嶋が皇修館を離れて以後、一度も彼にあっていないので。


 鹿嶋が、実の父親の佐治侯爵からよく思われていないのはご存じでしょう。

 皇修館で紗蓉子さまがらみの騒動を起こしたあとも、佐治侯爵家は存続しています。ですが、鹿嶋は実質侯爵家を勘当されている。


 あの騒動については、佐治家にそれ以上責任を要求する流れにもならなかったそうです。だって紗蓉子さまは、当時まだ十五歳でしょう。大きな罰を与えるなら、何があったか記録に残さなければいけない。それはできなかったんでしょうね。


 お父上は鹿嶋に佐治の名も捨てるように要求したが、兄上の尚隆(なおたか)殿が納得しなかった。鹿嶋から佐治の名を取り上げるなら、自分もこの家から抜けると言い張ったらしい。


 それでお父上は、鹿嶋にせめて皇修館時代に縁のあったすべての人間との関りを断つよう要求してきた。そこで俺たち……いやわたしたちは切れてるんですよ。


 家に未練なんてなかったと思うけど、名前が変わるのがいやだったんでしょうね、鹿嶋は。紗蓉子さまが覚えている自分の名前が変わるのが。そう思います。


 でも……。


 あの、少佐。ここで話したことは、全部記録されるんでしょう。鹿嶋の不利になるようなことは言わないほうがいいですよね?


 そうでもない? そっか。


 わたしは皇修館を卒業したあと、大学には入ったんですが、そこに籍を置いたまま父について少し国の外をまわりました。


 そのときに、一度鹿嶋から電報を受け取ったことがあります。海外にまで打ってくるなんてよほどのことだと思ったんですが。


 そこには、ひとこと「観閲式に出る」とだけ書いてあった。でも、それでぜんぶわかってしまった。


 観閲式は、皇族の方もいらっしゃいますよね。紗蓉子さまは望まなければ、ご出席もままならないかもしれない。


 鹿嶋は、自分が出るから、なんとしても紗蓉子さまにご出席いただきたいのだとわかった。


 紗蓉子さまは、鹿嶋が戦争に行ったきり死んだと思い込んでいるのではと、俺は思いました。鹿嶋はそうじゃないと言いたいんだ。自分はまだ生きている。紗蓉子さまのことも忘れていないと言いたがっている。


 もう何年もあっていないのに、そんな大切なことを……俺に託してくれたのが、うれしかった。


 その人に申し訳ないのでここではその名を告げられませんが、俺はある人を通して、観閲式のことを紗蓉子さまにお伝えした。


 結果はどうだったか、知りません。


 もしもそれが罪なら、どうか俺も鹿嶋と一緒に裁いてほしい。



◆近衛師団第二連隊鷲獅子騎兵大隊 大隊長付副官 佐治鹿嶋中尉

 聞き取り 仲月見イスカ(近衛師団第二連隊鷲獅子騎兵大隊大隊長 佐治鹿嶋中尉直属上官) 記録 なし ※仲月見イスカ本人による記録 


 何もありませんでした。


 何も。

 男と女が逃げて、人が想像するようなことは、何も。


 皇宮を出て、夜のあいだ二人で歩きました。はじめに活動写真館に行って、二人で映画を見ました。


 殿下は初めて映画をご覧になるので、作品はなんでもよろしかったようです。


 それから明るくなって、ふたりで始発の汽車に乗って皇都を出た。わたしたちの顔を知るものはだれもいなかったので、汽車に乗るのも簡単でした。


 もうすぐ死ぬのなら、せめて人目をさけて逃げるより、日の光の下にいたいと殿下がおっしゃったので、わたしたちはだれかに追われることを気にしながらも、静かに過ごしました。


 皇宮を出るまえ、はじめの日の夜に、一度着替えを取りに自分の官舎にもどりました。そのときにだれか人が張っていれば、そこでつかまってもいいと思いました。


 でもだれもいなくて、そのままわたしたちは逃げ続けた。


 いえ、逃げたわけじゃない。とりあえず五日は、皇宮にはもどらないと決めたので、行きたいところに行ったのです。


 あとは。


 それから夜の公園を二人で歩いて、春には桜が咲くはずの並木を見ました。

 殿下は春には来られないことを嘆かなかったけれど、桜を想像しては、きっときれいとおっしゃっていた。


 本屋で並んで立ち読みをする。

 次はどこへ行くか、二人で一緒に考える。


 当てもなく、ただ歩いて、疲れたらすわって休む。

 たくさん話して、夜になったら眠る。

 ときどき、いまよりほんの少しだけ未来のことについて話す。


 そんなこと、ばかりです。

 

 ぜんぶ、殿下が好きな人ができたら、いっしょにやりたかったことだとおっしゃっていました。


 たくさん話をしました。わたしたちがはなれていた七年のあいだのことを、たくさん。


 五日目の夜です。わたしはその夜に紗蓉子さまを皇宮へお返しするつもりだった。でも紗蓉子さまが、その日おとずれた海の見える街をはなれがたいとおっしゃって、夜になってしまった。そして、殿下が夜の海を見たいとおっしゃった。


 それで海のちかくへ行きました。

 

 漁港ではないところだったから沖に出るのはあきらめていたけれど、桟橋に、一艘(いっそう)ボートが残っていた。ふたりでそれに乗りました。ずいぶん遠くに漕ぎ出しました。静かなところに行きたかったから。


 ボートの上で殿下はわたしにおっしゃった。


 この五日間、殿下とわたしが一緒にしたようなことを、このさき一生、他のだれともしないでほしいと。


 人が、人を好きになるときにするような一切のことを、このさき殿下以外の、だれともしてはならないと。


 わたしは、必ずそのようにしますとお約束しました。でも、そんな約束をわたしにさせておいて、殿下は、「鹿嶋さまに、いつか好きな人ができればいい」と言うんです。


 そう言ってすぐに、殿下は海に身を投げられた。


 あまりに突然のことで、お助けするのが遅れました。


 あなたの大切な妹御を危険な目に遭わせ、申し訳ありませんでした。


 殿下がわたしを無理やり皇宮からお連れになった事実はありません。殿下から、逃げたいと懇願されたこともない。でも最後はふたりで話し合って決めました。今回の(あやま)ちは殿下の意志ではあるが、わたしの意志でもあります。


 皇宮を出ること以外での、わたしたちの意見は一致しませんでした。


 わたしは、どのような屈辱を受け、汚名を被ろうと、あの方を生かして逃がす所存でした。だけど殿下は、皇女である責任を果たさず、命を持ったまま逃げることはできないとおっしゃった。


 そしてわたしが連座して死ぬことも、けっしてお許しにならなかった。

 

 いっしょにいるとき、殿下はわたしに、これから自分が頼む一切のことは「一生のお願い」だと告げられた。


 ……一生のお願いはとっておけと、むかしあの方に言ったのは、俺なんです。


 殿下とわたしは。

 わたしたちは、生きることも死ぬことも、共にはできない二人だから、その一生の願いだけは、なんとしてもかなえて差し上げたかった。


 罪は認め、罰は受けます。

 いっそ死罪でいい。ぜひそうしてほしい。


 生まれ変わったら、猫になりたい。


 あの方のそばに(はべ)る猫に。


******************


 小さな机のうえに、淡い光が落ちている。これはおそらく月の光だ。それだけが、鹿嶋に外の世界の時の流れを教えている。影との境目もあいまいな、青白い光を見ていた。その光の片すみには、自分が特に信頼しているある人の影も落ちている。影を見つめるのが精いっぱいで、鹿嶋はその顔をあげられずにいる。


「海の中で、紗蓉子殿下の腕をつかんだ時、このまま一緒に沈んでしまおうかと思いました。でも、あなたを一人にすると思って、できなかった。稲積(いなつみ)とのやくそくを破ることになるから」


「そうか……わたしはまた、稲積に助けられたのか……」


 イスカは両手で顔をおおっている。肩は震えていた。泣いているのかもしれなかったが、それを確かめる勇気が、鹿嶋にはなかった。



 

 

 

 

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