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8.白魚の舞台で踊る

 穏やかな陽気が満ちる静かな広間。柔らかい光の差し込むサロンに置かれた円卓の上には、いかにも高級そうなティーセットと丁寧に並べられた焼き菓子。新しく入れ直された紅茶が上品に香る。なんとも優雅な空間だけど、どこかひやりとした緊張も孕んでいた。


「さて、リラさん。貴女には、この国の社交界で戦えるだけの、マナーと教養を身につけていただきますわ」


 ティーカップを傾けながら、シャーロット妃は事も無げにそう切り出した。


「社交界、ですか」


 対する私の声には困惑の色が乗る。社交界といえば上流階級の会合だ。異世界の魔女という微妙な立場には縁のない話に思える。少なくとも、今の私を上流階級に数えるのは無理があるだろう。そんな私が社交界で何をするというのか。その真意を測れずにいるとシャーロット妃は相変わらず優雅に微笑んだ。


「ええ、そうですわ。でないと貴女を皆様にわたくしの友人として紹介できないでしょう?」


 紹介、という言葉に虚を突かれる。それは暗に私の後ろ盾になると言っているようなものだ。王太子妃が、魔女の後ろ盾に?

 益々意味がわからない。ここ数日で魔女に対する世間の印象というのは重々理解しているし、どうやら私に明確に敵意を向ける王族の方もいるみたいだし。そんな腫れ物の後ろ盾になることでシャーロット妃が受けられる恩恵に検討がつかない。

 出会ってまだ1時間足らずだと言うのに彼女は打算なく動く慈善家では無いということはわかっている。じゃあ、なんで?


「友人としてご紹介いただけるのは光栄ですが、殿下の意図していることが、私には測りかねます」


「ふふ、そう難しい話ではないのよ。わたくし、あの子の横暴には腹に据えかねているの。だから、少し協力して欲しいのよ」


「あの子、ですか……」


 意味深な言葉。その意味を問う私に彼女は微笑みを返すばかりで、教えてくれる気はないらしい。


「兎に角、貴女にとって悪い話ではないはずよ。貴女は後ろ盾を得ることが出来、わたくしはわたくしの目的を果たすことができる。この話はお互いに利があるのではなくて?」


「それは、そうですけど」


 旨い話には裏があるとも言うし。正直言ってしまうと、この話に頷くのは怖い。怖いけど、しかし……。

 こちらの疑いの視線にシャーロット妃は変わらずの微笑。断るのも、それはそれで怖いと思わせる底の知れなさ。こうやって悩むのもきっと彼女の手のひらの上なんだろう。ああ、やりにくい。彼女は王族だもの。私が想像すらできない上流階級の政治の世界を渡り歩いている。それもきっと、幼いころから。現代社会で精々社内政治に片足を突っ込んだ程度の私とは練度が違う。悔しいけど敵うわけもない。


 私がこうやってぐるぐると脳みそをフル回転してる間も、彼女は優雅にティーカップを傾けている。降参だ。内心で白旗も両手も挙げながら諦める。どうせ手のひらの上なら、せめて華麗に踊ってやろうじゃないか。


「シャーロット殿下のご厚意、有難くお受けいたします」


 わざと慇懃に頭を下げたのはせめてもの反抗心。けれどシャーロット妃はそんな私の心中なんてお見通しとばかりに笑って言うのだった。


「貴女ならそう言ってくれると思っていたわ。きっと大変でしょうけど、貴女ならやり遂げてくれると、わたくし信じていますからね」


 嗚呼、さようなら。私の愛しい自堕落な異世界軟禁生活。

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