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6.清々しい朝と不穏な招待

 翌朝。

 朗らかな日差しと共に目を覚ます。久々に気分のいい目覚めだった。昨日の勝利の余韻ってやつだ。多分。知らんけど。兎にも角にも気分がいいに越したことはない。

 なんて、呑気に考えながら朝日を目一杯浴びて豪奢なベッドの上で伸びをしていると部屋の扉が控えめにノックされた。異世界に召喚されて初めて、入室に許可を求められる。まあ、厳密にはジョシュアさんが私を迎えに来た時が一度目なのだけど。それはそれとして、どうやら侍女さんもまともな人に変わったらしい。王太子殿下万歳。


「どうぞ」


 私の返事を待って開かれた扉の先には2人の女性がいた。それぞれ豪勢な朝食と水の入っているであろう桶を持っていた。最高かよ。


「お初にお目にかかります。わたくし、本日よりリラ様の身の回りのお世話を仰せつかりましたアンと申します」


「同じくソフィと申します。お困り事がございましたらわたくし共にお申し付けくださいませ」


 そう言って深々と頭を下げる侍女さん、もといアンさんとソフィさん。すごい、本物の侍女さんという感じだ。

 というか、2人の新しい侍女さんに名乗って頂いて初めて気づく。そういえば私、最初の横柄な侍女さんの名前知らんな。まぁ、もうクビになったらしいので知る必要もないが、最初どれだけ舐められていたかを痛感した。


「ありがとうございます。基本的に自分でできますから、どうぞあまりお気遣いなく」


 とはいえ。元々私は現代で普通に一人暮らしをしていた訳だし、手前の世話くらい手前でできる。別に最初は自力で生きてたしね。要は、まともな食事にありつけさえすればよい。


「かしこまりました。何かございましたら何なりとご用命くださいませ」


 アンさんの言葉と共に2人は頭を下げ、朝食と桶を置いて下がる。そして部屋の隅に控えた。部屋にはいてくれるらしい。いや、見張りを兼ねているのか。あれだけ大暴れした後だし、当然ではあるけど。魔女は「大人しく」だものね。

 何はともあれ、美味しい食事をとり、身だしなみを整えることが出来て快適快適。


 そうして豪華な朝食に舌鼓を打ち、軽く身支度を整えた頃だった。

 再び、扉がノックされる。今度は、控えめでありながら妙に整ったリズムだった。無言であっても、誰なのか察せられるくらいには馴染みがある。


 昨日振りの来訪に短く入室を許可する意を伝えると、予想した通り現れたのはジョシュアさんだった。長い黒髪は相変わらずきっちりとまとめられていて、完璧すぎる微笑みを張り付けたその姿はまるで高級な人形だ。


「お早うございます。お目覚めのところ恐縮ですが、この後リラ様にお会いしたいと仰る方がいらっしゃいます。ご用意を」


「また随分と急ですね。王太子殿下からのお呼び出しですか?」


「いえ。本日は王太子妃殿下でございます」


 一瞬、反応が遅れた。


 王太子妃、ということは()()王太子殿下のお妃様ということだ。これまでの態度が態度なだけに、あまりいい予感はしない。


「……なにかお呼び立てされるような失礼がありましたか?」


「むしろ、殿下は貴女に興味を抱いておられるようです。それから……先日の“王家印つきの怪文書”が理由のひとつでもあるようですが」


「王家印つきの怪文書……あぁ」


 思わず額に手を当てた。あれか。あの忌々しい怪文書。その話が出るということは、王太子妃殿下は差出人に心当たりでもあるのだろうか。


「……もしかして、王太子妃殿下は怪文書の送り主をご存知なんですか?」


「さあ。それは私の口から申し上げることではありませんので。ただ、妃殿下はその件に少々思うところがあるご様子でした」


 なるほど、ますます気が重い。だが、会わないという選択肢は賢いとは言えないだろう。ここで王太子妃の怒りを買っては、昨日の大立ち回りが水泡に帰す可能性だってある。


「わかりました。ご招待をお受け致しますと、殿下にお伝えください」


「承りました」


 ジョシュアさんは完璧な一礼と共に部屋を出て行く……かと思いきや、その足を止め、ふとこちらを振り返った。


「念のため申し上げておきますが、妃殿下は敵ではありません。むしろ、王宮で貴女が味方にすべき数少ない方のひとりです」


「……ならいいんですけど」


 私は、どこか割り切れない気持ちを胸に、身支度を整えるために椅子から立ち上がった。

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