3.魔女様に贈る最高のおもてなし
聖女召喚の義で異世界に呼び出された挙句、謎の水晶によって魔女だと判定されました。
勘弁。
とはいえ、ぶっちゃけ納得の結果ではある。
私と共に召喚された花園まりあちゃんは聖女にふさわしい美少女だった。色素が薄くて髪はふわふわで、さらには大きくてくりくりのぱっちりお目目。そもそもまりあって名前がもう聖女っぽい。
対する私は日本人でも珍しい程漆黒の髪に狐もびっくりの鋭いつり目。唯一の救いは鋭いなりに目は大きかったことか。ちなみに小学校のころのあだ名は魔女である。予言か。
それに、申し訳ないが私はどちらかといえば他者には厳しい方だ。優しさとは無縁、は言い過ぎだが聖女には向かないメンタリティである。まりあちゃんがどうかは知らないが、少なくとも私よりは向いているだろう。
そもそも二十代も半ばの私と、現役女子学生のまりあちゃんではブランド力が違うというもの。誰がどう見てもまりあちゃんが聖女だ。私に勝ち目はない。勝とうとも思わない。
王太子殿下の話によれば、聖女は魔王討伐に赴かなければならないらしいし寧ろ聖女じゃなくて良かった!
――と、思っていた時期が私にもありました。
召喚から1週間。現在私はかび臭いパンと具なしの冷めたスープを啜る生活をしています。
水晶玉に触れたあと私とまりあちゃんは別々の部屋に通された。そこで更に説明を受けたのだが、それによると魔女の役割は『聖女を安全に異世界間移動させること』ただ一つだという。完全に聖女召喚の安全装置という訳だ。異世界で私がやる事はひとつもない、と言っても過言ではない。と、そう説明された。
それから、幾重にもオブラートに包んで伝えられたがそれを全部溶かして要約すると魔女には大人しくしていて貰わないと困る、ということらしい。
魔王を討伐できるほどの聖属性魔力を有した聖女、と同等の闇属性魔力を持つ人間なんて危険分子以外の何者でもない。もし、魔王軍に懐柔され敵に回りでもしたら単純計算で敵陣戦力2倍である。だから大人しくしていろよ、と遠回しに言われた。
という訳で『王宮に軟禁するけど、外に出なければ好きに過ごしていいよ』が私への説明だった。
王太子殿下の説明にはひっかる点もあるけど、目下の問題はそこじゃない。王太子殿下は最低限の人権は保証すると仰っていたはずなんだけど……。
目の前に並べられた食事を見てもう何度目か分からないため息をつく。与えられた部屋が豪華なだけに落差が余計に激しい。
残飯は、最低限の人権なのだろうか。食べ物が与えられるだけマシだと思うべきか。
私がこれに怒って魔王軍に加担しちゃったらどうする気なんだ。私は割かし食にはうるさい方だぞ。
最初はこの世界では残飯が通常メニューなのかとも思ったが、聞くところによるとまりあちゃんは豪勢なフルコースを召し上がっておられるらしい。羨ましい限りである。
魔女の人権とは如何に。
不満はそれだけでは無い。身の回りの世話をしてくれる、という名目で部屋にやってくる侍女さんたちは特に仕事はせずただ私への暴言を吐き散らかして帰っていく。
廊下を歩けばあからさまにわざとぶつかられる。足を踏まれたり、唾を吐きかけられたこともある。
極めつけは先日、やけに高級そうな便箋で丁寧に私への罵詈雑言が認められた怪文書が届いた。この世界の文字は読めなかったのだが内容は頭に入ってきた。そういう仕組みになってるらしい。召喚オプションと言うやつだろう。
手紙には薄汚い魔女の分際ででかいツラしてんじゃねえ、みたいなことがお上品に書いてあった。別にでかいツラしたつもりもない。
再度問う。魔女の人権とは如何に。
この1週間、陰湿な嫌がらせを受けて気付いたが、どうやらこの国において闇属性魔法というのは忌み嫌われる対象であるらしい。まあ、魔王率いる魔族が使うのが闇属性魔法であるというのが大きいだろう。純粋な恐怖の対象なんだと思う。それは侍女や上品な手紙の主の罵詈雑言から容易に察せられた。
と言っても、私は現代日本人なわけで、魔法の使い方なんて微塵も知らないんだけど。
最初は状況が衝撃的過ぎて流されてしまったが、1週間もあれば人は冷静にもなる。冷静になるとだんだん怒りが湧いてきた。勝手に呼び出され、軟禁され、挙句の果てに身に覚えのない理由で虐げられる。
こんなことがあってたまるか。私が何をしたって言うんだ。
魔王だとか聖女だとか正直知ったことではない。異世界の事情なんて私には関係ない。一週間受け続けたこのご丁寧な待遇に耐え忍ぶなんて選択肢はもはや存在しない。
誰が私を無視しても、虐げても、下手に扱うことがどれほど愚かなことか、思い知らせてやる。正々堂々戦ってやろうじゃないの。アルヴァミアよ、私みたいな気の強い女を召喚したこと、せいぜい後悔するがいいわ。