2.聖女様と、その副産物
聖女召喚の義――。
それはアルヴァミアの王家に代々伝わる救世の儀式だった。
曰く、この世界には魔王が存在し、そいつは約80年周期で復活するという。大抵の場合、魔王の復活と同時期に聖女が誕生するそうなのだが、稀に聖女が現れない場合がある。その際に苦肉の策として編み出された術こそが聖女召喚の義なのだそうだ。
簡単に言えば、召喚陣によって別の世界から聖女に最も適合する人物を自動的に選び抜き、こちらの世界へ呼び出す術、ということらしい。
異世界の聖女は代々普通に生まれる聖女よりも能力が高いらしくアルヴァミアの人々は古来よりこの術に助けられてきた、らしい。ファンタジーすぎてどうも実感は湧かないが。
ただし、この術には欠点があった。
それは聖女だけを呼び出すことができないという点である。並列に存在する異世界間を移動する際、聖属性魔力が強大な聖女のみの移動では世界のバランスが崩れてしまい聖女は異世界の狭間に取り残されてしまうのだそう。
そこで登場するのが魔女というわけだ。聖属性と闇属性は相反する力で、その力は互いに相殺することが出来るらしい。
つまり、聖女と同じく強大な闇属性魔力を持つ者を同時に呼び出すことによって世界のバランスを保ちつつ聖女を召喚することができるというわけだ。
要は、聖女召喚の副産物が魔女ということになる。
以上が異世界で私たちに説明された内容だった。
ちなみに、現在私たちは先程の石造りの小部屋――予想通り地下室だった――から移動して豪華な執務室にいる。そこに備え付けられたこれまた高級そうな応接セットに私たち異世界人とアルヴァミア王国の王太子、エドワード殿下は向かい合って座っていた。
殿下の後ろには先程の赤髪くんと銀髪くんの他にローブを纏った黒髪の男性が控えている。黒髪の彼は煌びやかな装飾が施された箱を手にしていた。
「さて。召喚についての説明はこのくらいにして貴方たちのことを伺おう。その前に、こちらに触れて貰えるかな?」
エドワード殿下はそう言うとサッと手を挙げて合図する。それに答える様に黒髪くんは私たちの目の前に箱を置き、蓋を開いた。
中には占い師が使うような水晶玉が収められていた。
「まずは、そちらの君から」
促されるまま、私から水晶に触れる。
触れた傍から水晶には黒とも紫とも言えるような煙が浮かぶ。それは次第に水晶の中に充満し渦巻き始める。よく見ると銀色の細かいラメのようなものが混ざっている様だった。
なるほど。何となく理解した。
そっと王太子殿下を伺うと彼は納得した様に頷く。
「では、君も」
続いて私の隣で先程から怯えた様に縮こまっている女の子に声がかけられる。
恐る恐る伸びる手。彼女の指先が水晶に触れたその瞬間。水晶玉は金箔を入れたスノードームみたいに中をキラキラと光る金色の粒子が舞う。
その様はまさに幻想的と呼ぶに相応しかった。
少し発光すらしている水晶の煌めきが収まった頃、王太子殿下は満足気な笑みを浮かべていた。
「ありがとう。そう言えば、まだ名前を聞いていなかったね。伺っても?」
「……高宮リラと申します。ファーストネームがリラですので、リラ・タカミヤと言った方が正しいでしょうか」
「えっと、わたしは花園まりあ……あ、えと、マリア・ハナゾノ、です」
女の子――まりあちゃんと言う様だ――が依然怯えた様子だったので私が先に名乗る。彼女もたどたどしくそれに続いた。
「そうか。それでは改めて。聖女マリア・ハナゾノ、そして魔女リラ・タカミヤ。アルヴァミアへようこそ。我々は貴方たちを歓迎する」
――――まあ、そうなるよね。