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第2話

第2話暗と光

琴葉葵中将は、料亭の廊下を歩いて、一番奥の座敷に向かった。

その部屋からは、声がぼんやりと聞こえてきた。

彼女はノックをして、自分の名前を告げた。


葵「琴葉葵です」


すると、中からは知り合いの声が返ってきた。


???「葵中将、どうぞお入りください」


彼女は襖を開けて部屋に入った。そこには、雪大将と弦巻参謀長と六花社長の姿があった。

そして、彼らの隣には、軍務大臣でありながら政友会党首も務める四国めたん議員が座っていた。


めたん「お待たせしちゃってごめんなさいね、葵ちゃん。仕事が忙しかったの?」


葵「はい、申し訳ありません。戦車開発計画に関する報告書をまとめていました」

葵はめたん議員に頭を下げた。


めたん「いいのよ、いいのよ。気にしなくていいわ。私たちもまだ始まってないから。それにもう一

人来る人がいるからね」


葵「もう一人ですか?」


めたん「ええ、彼女もすぐに来ると思うわ。もう少し待ちましょうか」


めたん議員はそう言って笑顔を見せた。

その笑顔には何か企みがあるような気がしたが、葵は何も言わなかった。

部屋の中はしばらく静かになったが、やがて廊下から足音が聞こえてきた。

そして、勢いよく襖を開けて部屋に入ってきたのは、なんとボイロ共和国大統領の紲星あかりだった。

彼女は慌てた様子で謝りながら、部屋の中の人々に挨拶をした。


あかり「ごめんなさい、遅れちゃって。でももっと早く連絡してくれたら、予定を調整したのに」


めたん「ごめん、ごめん。こっちも急に決まったことだから、忘れてたのよ」


紲星あかりはめたん議員に笑顔で許しを乞うと、琴葉葵中将の方に向かった。


あかり「葵ちゃーん、元気してた?急に呼び出しちゃって悪いね」


葵「いえいえ、大統領までお越しいただいて光栄です」


葵は紲星あかりに敬意を表した。彼女はこの人物とは以前から親交があり、気さくに話しかけられていた。


めたん「さてさて、みんな揃ったことだし、まずは乾杯しましょう。給仕さん、お酒をお願いします」


給仕の人がお酒を注いで回ると、紲星あかりが盃を持ち上げた。


あかり「それではみなさん、共和国の栄光と発展、そして新型戦車の計画に乾杯!」


集まった皆が盃を鳴らしながらお酒を飲んだ。

その後は雑談が続いたが、それも30分ほどで切り上げられた。

めたん議員が給仕の人に部屋を空けるように言うと、本題の話に入った。


めたん「さて、本題の話に入りましょう。新型戦車の計画ですが、私は軽量戦車の試作が進んでいるという噂を耳にしました。葵中将、あなたはどう思いますか?」


葵「はい、その通りです。予算や規模の制約から、軽量戦車が最適だと私は判断しました。また、他の開発チームのメンバー、く、波音少将やアリアル少将、茜大佐なども、少数しか導入できない重量戦車よりも、軽量戦車を支持していました。ですから、これは妥当な決定だと思います」


葵は自信を持って答えた。しかし、その答えに紲星あかり大統領はがっかりした様子で言った。


あかり「えー、そうなの?私は大きくて強そうな戦車が欲しかったのに。だから試作事業にお金を回したんだけどなぁ。小さい戦車じゃつまらないよ」


紲星あかりは子供のようにふくれてしまった。

彼女は戦車に対して熱い情熱を持っていたが、その知識はあまり深くなかった。

その様子に雪大将が発言をする。


雪「実は、重量戦車の計画もあるんです。その話をするために、今回はスモールスプリング造兵廠の社長である小春六花さんをお招きしました。六花さん、資料をお願いします」


六花「はい、こちらです」


六花は皆に資料を配った。資料の最初のページには、30t級の重量戦車の設計図が描かれていた。


葵「待ってください。この戦車は今回の試作には採用できません。予算や規模が合わないでしょう」


葵は冷静に反対の意見を述べたが、六花は微笑みながら言った。


六花「ご安心ください。私も予算が足りないことは承知しています。ですから、予算内で配備できるように工夫した計画を用意してきました」


雪「それでは、六花さんに詳しく説明してもらいましょう。この重量戦車の計画は何という名前なんですか?」


六花「この計画はHT計画と呼んでいます。HTとはHeavy Tankの略です。この戦車は、新しい技術や素材を駆使して、高い火力と装甲を持ちながらも機動性も犠牲にしないように設計されています」


六花「では、この重量戦車の特徴についてご説明します。まず、大きさですが、全長は6メートル、高さは2.45メートル、全幅は2.5メートルです。履帯の幅は55センチありますから、地面への圧力は低く抑えられています」


六花は資料の設計図を指差しながら話した。


六花「次に、装甲ですが、前面と側面には60ミリの装甲板を張っています。背面には25ミリの装甲板があります。車体の上部と下部にも15ミリの装甲板がありますから、地雷や爆発物にも耐えられます。さらに、前面には10ミリの追加装甲を取り付けています」


六花は資料の写真を見せながら話した。


六花「そして、最も重要なのが火力です。この戦車には、スモールスプリング造兵廠が新たに開発した対戦車砲を搭載しています。この砲は、陸軍の歩兵科でも使用される歩兵砲と同じ70×600の砲弾を使用しますが、砲口初速は699m/sと高くなっています。そのため、300メートル先の目標に対しても96ミリの貫通力を発揮します。これならば、今まで登場したどんな戦車も撃破できます。また、この砲は精密な射撃が可能であり、300メートル離れた目標に対しても散布界は16ミリ程度しかありません」


六花は資料のグラフや表を示しながら話した。


六花「もちろん、砲だけではありません。車体後部には2つの7.62ミリ機関銃を備えています。対戦車手榴弾などを持った敵兵が近づいてきても確実に排除できます。砲塔上部にも7.62ミリ機関銃を装備しています。これは車長が自ら操作できますから、周囲の警戒に役立ちます」


六花「エンジンについてお話します。この戦車には、戦車用に特別に開発された32L V8エンジンを搭載しています。このエンジンは、整地で時速23キロ、不整地でも時速21キロのスピードを出すことができます。これは、今までの戦車と比べても速い方です。燃料タンクは900Lもありますから、長距離の行動も可能です」


六花「この重量戦車は、輸送にも配慮しています。この戦車の予定全備重量は28.3tです。これならば、35tの戦車計画の時よりも多くのクレーンで積み降ろしできます。港では、2倍近くの数の港で戦車の輸送が可能になります」


六花は資料の地図を見せながら話した。


六花「鉄道輸送の場合も同様です。主要な幹線だけでなく、地方の路線でも多くの路線で輸送できます。鉄道輸送では、車輪荷重という指標が重要です。これは、一つの車輪にかかる重量のことです。地方の幹線ではない路線では、多くの場合8t以下でなければなりません。しかし、この戦車では、一つの車輪にかかる重量は7tですから、ほとんどの路線で問題ありません」


六花「予算については、重量戦車は赤字覚悟で出荷します。しかし、その代わりに1両につき2両の3CLT-1kの改修モデルをお買い上げいただきたいと思います。これは、重量戦車の価格を定価の3割引きにするとともに、生産技術の向上によりC3LT-1kの改修モデルの価格も1割引きにすることができるからです。3両で販売できれば、十分に黒字になると見込んでいます」


葵「待ってください。新型戦車を購入する話なのに、なぜ改修したとしても旧式戦車を2両も買わなければならないのですか?」


六花「我が国では3CLT-1kは1000両で戦車の割合の3分の2を占めています。この戦車は改良可能です。改修案の設計図は資料にあります。改修モデルでは火力が強化されております。新型戦車と併用することで、戦車隊の戦力が底上げされます。また、最も新しい戦車でも15年以上使用していて一番古い物は戦中の物もあり老朽化し始めているIHI-1kと違い、3CLT-1kは定期的に置き換えしている為、古い個体であっても15年程度です。元から置き換え予定の車両ですから、新型戦車を購入する際にセットで改修モデルも購入してはいかがでしょうか?」


葵「しかし」


葵が反論しようとするが

拍手の音が鳴り響く。


あかり「素晴らしい!最高の戦車ですね。これを作りましょうよ」 雪大将も感心する。


雪「私の理想の戦車です。やはりスモールスプリング造兵廠はすごいな」 ずっと無言だった弦巻参

謀長もやっと口を開く。


弦巻「私としては、楽しそうな提案には協力したいと思います。頑張ってくださいね」


めたん「というわけです。政府としては、HT計画が最良だと結論づけています。あとは葵ちゃん、あなた次第ですよ。理解できましたか?」


と言って、葵を見つめる。

めたんの視線に耐えられなくなった葵は、目を伏せて言った。


葵「了解しました。ですが、お願いがあります。これは試作事業であって、他社製戦車を無視できません。他社製戦車の導入も許可していただければ、協力します…」 めたんはニヤリと笑みを浮かべた。


あかり「やったー!それじゃあもう一回乾杯しましょう。乾杯!」 料亭は和やかな雰囲気に包まれ

たが、 葵は六花に近づき、小声で話しかけた。


葵「今回の会議の日程を考えると、どうしても納得できない点があります。小春さん、この計画をいつから知っていたのですか?計画を伝えてから20日で予備調査や設計図の作成ができるとは思えません。どういうことなのですか?」


六花は淡々と葵に答える。


六花「4ヶ月前ですよ」


葵は驚きを隠せなかった。この計画が立案された直後に、小春さんはこの話を知っていたのか。しかし、表情や態度には出さないようにした。


葵「なるほど」

その後、1時間ほど話し合った後、 めたんが締めくくりの言葉を述べた。


めたん「私たちが頻繁に接触しているとバレる危険がありますので、私の補佐官である剣崎さんを派遣します。軍はお付きの士官を使って連絡を取ってください。場所は個室があるコーヒーハウスの珈琲館で、毎週木曜に会うようにお願いします。それでは皆さん、ありがとうございました」


少しずつ時間を開けて帰っていくように解散した。

解散の合図が出ると、葵はすぐに車に戻った。

来果は声をかける。


来果「お疲れ様です、中将」


葵「ああ、めんどくさいことだったよ。本当に。あそこにいたのはクソみたいな奴らばかりだった。アホも快楽主義者も守銭奴も野心家も無能も。本当にクソだ。来果中尉、あんなクソどもみたいにならないでくれよ」


来果「閣下、お気持ちは察しますが…」


葵「思い出すだけでイライラするんだよ。無理やり押し付けやがって。予算的にできるからやれだって。ふざけるな。絶対に3Cの寡占にはさせないからな。覚悟しとけ」


葵は帰りの車の中でずっと怒りをぶちまけていた。


六花は翌日の朝一番で佐藤製糖に行き、ささらに報告した。


六花「佐藤社長、おはようございます。昨日の件の報告に来ました」


ささら「おはよう、六花ちゃん。昨日はありがとうね」


六花「わが社では少し前から始めていたHT計画であれば、試作の内容は達成できることを確認できました。これから第一試作車で起きていた問題の改善案を検討し、第二試作車の製作に移ります」


ささら「六花ちゃん、今回は指名じゃないからね。ライバル企業相手にも誠実に公正にお願いね。じゃないとグループ企業のイメージを損なったり、会社が危機に陥った時に誰も助けてくれなくなるよ」


六花「大丈夫です。理解しています」


ささら「それならいいんだけどさ…」


六花「それでは仕事がありますので失礼いたします」


ささら「うん、頑張ってね…」


部屋の扉が閉まると、ささらはため息をついて部屋の天井を見上げた。

しばらくして、扉をノックする音がした。


ささら「どうぞ」

ささらが入るように促すと、青色のショートヘアーの女性が入ってきた。


つづみ「ささら、来月竣工予定の船舶リスト持ってきたわよ」


つづみ「ささら、大丈夫?」


ささら「うん、大丈夫。ありがとう」


つづみ「私でいいなら話を聞くわよ。ほら、話してみて」


ささら「ありがとう。六花ちゃんのところ、今回試作戦車の事業に参加するんだけど、今までの指名

されてやる事業じゃなくて、他の企業も参加する事業なんだよね。今までもグループ内で揉め事が起きたこともあるし…」


つづみは納得したような顔をしながら言った。


つづみ「シーバス造船所と仲が悪いだけかもしれないわ。六花さんも一応社長なんだし、そこら辺はちゃんとしてると信じたいわね」


ささら「そうだね。流石に他社にまで迷惑かけないよね…」


ささらは不安になりながらも、大丈夫だと自分に言い聞かせた。

ずんだもんは極東北農機の職員一同に向かって、今回の事業に関する意気込みを語った。


ずんだもん「極東農の皆さん、おはようございます!」


職員一同は「おはようございます!」と返す。


ずんだもん「元気があってよろしい。昨日、極東農に軍部から嬉しい依頼が届いたことを知っていますか?なんと、我々に戦車を作れというのです。我々にですよ。3年前まで車を作ることすら許されなかった我々に。これは、我々極東農が等々国に認められたと言っても過言ではないでしょう。だがしかし、認められただけで満足ですか、皆さん!」


職員一同「ダメだー!」


と声を張り上げる。


ずんだもん「その通りです。極東農はこの戦車事業において必ず勝たなければなりません。良く聞いてください、皆さん!」


ずんだもん「この計画に対して、東北社長はKTT計画と名付けました。極東北戦車計画です。みなさん一丸となってこの計画を完遂しましょう。職員一同の勇気と技術を私は信じています。みんなで頑張りましょうではありませんか!」


職員達から歓声が上がる。


ずんだもん「今のところは設計図を書くところから始めますが、生産が始まるときこそ、みなさんの力が必要です。みなさん期待していますよ。以上です。職場に戻って仕事を続けてください」


ずんだもんは社長室に戻ってきた。

きりたんが不満そうに言った。


きりたん「私はあのノリにはついていけないわ。元小作農や元武士なんかのノリはわからない」


ずんだもん「うちの職員の3割は200年以上東北家に仕えたりしてるのだ、東北家の土地に住む者だからな。忠誠心が高いのはいいことなのだ、そのせいで起きたのがあの事件なのだ…」


ずんだもんは3年前の1935年に起きた極東北農機暴動を思い出した。


1935年6月、自動車の生産を始めようとしたところ、行政にやめるように指導された。

何度も抗議したが相手にされず、激怒した当時の社長だった東北イタコが社員を集めて100人を武装させて、首都に向けて行進したのだ。

おかげで自動車の生産は認められたが、社長は退任を余儀なくされた。

きりたんはずんだもんに向かって言った。


きりたん「あの時は行政が認めてくれたおかげで、今もうちの会社が存続できているんです。だから、あんなことは絶対にやらせないでくださいよ。」


すると、急に扉が開いて、イタコが現れた。

イタコはきりたんに話しかけた。

イタコ「あらあら、あれは行政に言い聞かせるためにやったことですわよ。そもそも奴らがこっちを潰せないのはわかっていたから、大事にしたんですわよ、きりちゃん。」


きりたんはイタコに驚いた。

イタコはきりたんに説明した。


イタコ「簡単なことですわ。我が国の食料生産は1932年から1935年で25%も伸びましたの。そして、トラクターなどの農業用機械の普及率も1932年から1935年で15%から35%になりましたの。そのほとんどがうちの生産したものですわよ。それがなくなったら、農業中心で回っている北海地方や極東北の農業が破壊されるのは目に見えていますわ。しかも、この時に就任したばかりの紲星大統領は最初の議題で農業政策の一環としてトラクターに10%の補助金制度を可決したばかりですわ。うちを潰したら、紲星大統領のイメージに傷がつきますわ。また、伊織発動機のトラクターは2倍近い価格設定ですわよ。補助金としても痛手になりますから。」


イタコは笑顔で付け加えた。


イタコ「後、急に来たのだから迎えなんてよこさなくても大丈夫ですわ。なんだって、うさぎちゃんを呼んで連れてきていただきましたから。今回は激励に来ましたの。」


きりたんは心の中で思った。その自信があったからあんなことしたのかよ。勘弁してくれ。 きりたんは中国うさぎに礼を言った。


きりたん「中国うさぎさん主任技師長、通常業務で忙しい中、迎えに行っていただきありがとうございます。」


中国うさぎは会釈をして軽く話した。


うさぎ「いえいえ、むしろ社長がほとんど私の業務を私以上にやってしまいますから。自分は基本暇なので、このくらいはやらせてください。」


イタコはきりたんにエールを送った。


イタコ「きりちゃんは天才技師ですから、応援していますわよ。そして、絶対に勝ちなさい。埼玉の自動車屋と北海の武器屋などに負けてはいけませんわ。きりちゃんが勝つことはすでに決定していますから、行政に私たちに自動車を作らせて正解だったと認めさせなさい。わたくしは帰りますわ。それでは。」


そう言って、イタコは帰っていった。

きりたんは中国うさぎに頼んだ。


きりたん「うさぎ主任技師長、帰りもお願いします。」


うさぎは了解の意を示した。


うさぎ「了解です。」


うさぎも部屋を出ると、ずんだもんが呟いた。


ずんだもん「だいぶ期待してるみたいなのだ、これは大変になりそうなのだ」


ずんだもんの言葉に、きりたんは返事をした。


きりたん「そうですね。勝率は低いとは思いますが、負けるために出るわけではありません。勝つ気でいきましょう。」


きりたんは心の中で再び強く決心した。

と再度心に強く決心したきりたんだった。

後にSAITAMAに乗って会社に着いた二人は、仮眠を取った後、それぞれの仕事に取り掛かった。

ひまりは早速設計図の製作を始めた。

つむぎは各所各工場や伊織発動機に連絡を取り、準備を行っていた。

つむぎが各所との話し合いを終えたら、すでに夕方になっていた。

つむぎはひまりに会いに行った。ひまりは設計台の前で集中して、色々悩んでは何とか設計図を書こうとしていた。

つむぎは彼女にコーヒーを持っていってあげた。


春日部「ひまちゃん、コーヒーだよー」


冥鳴「ありがとう、つむぎちゃん。砂糖持ってきてくれた?」

春日部「いつも通りミルクなしで砂糖3つ入れといたよ」


冥鳴「ありがとう。設計図出来たら、これで依頼内容達成できてるか確めるためにIHIに送っておいて欲しい」


春日部「了解だよ。でも、集中しすぎて時間を忘れないでね。ひまりちゃんがいないと、この会社ダメになっちゃうから」


冥鳴「そんなことないけど、時間には気を付けるよ。つむぎちゃんが悲しむのは私も嫌だからね。今日はもう少しやったら帰るつもりだから、大丈夫だよ」


春日部「わかったよ。本当に無理しちゃダメだからね」

そう言って、つむぎはいつもの仕事に戻っていった。


冥鳴「さーて、社長の命令だしさっさと終わらせないとなぁ」


と言って、コーヒーをすすりながら設計台に向かって設計図を書き続けてた。

そして開発開始から2か月が経った頃だった。

埼玉オートモービルでは設計図が完成し、IHIに資料を送っていた。

しかし、そこで予想外の提案が舞い込んできたのだ。

ある朝、会社に着いたひまりに、つむぎが声をかけてきた。


春日部「ひーまちゃん、IHIから設計図に関する返事が届いたよ」


と言って、ひまりに封筒を手渡した。


冥鳴「おはようございます。ありがとう。つむぎちゃんも読んでおくね」


春日部「いつも頑張ってくれてありがとう。それじゃあ、頑張ってね」


冥鳴「さーて今日も頑張るか」


とコーヒーを入れてIHIから来た書類を読む。

書類にはとある提案について書かれていた。


『埼玉オートモービル工業設計士冥鳴殿へ

設計図を拝見させていただきました。

始めての設計とは思えないほど洗練されたデザインであり、傾斜装甲の採用で装甲厚を稼いで実質60ミリの装甲にしている所や、起動輪の大型化による速度向上をさせるなどの技術的にも素晴らしい設計図であると思います。

この設計であれば用件を達成出来ると私共も確信していますが、 現在わが社ではIHI-2では採用を見送りましたが、次期戦車計画で採用予定の電気溶接を利用して見てはどうでしょうか? 実戦を経験した兵士や修理に持ってきた戦車から調べた結果、リベット溶接では砲弾や至近で炸裂した砲弾などによってリベットが弾け飛び、車内で飛び回り負傷や死亡する事例が発生していたことが判明しておりました。

搭乗員保護や安全性の観点から見て、電気溶接ならこのような事態が発生しない物と考えております。

今回のIHI-2では後から電気溶接にするのはどうかと案が出たため見送りになりましたが、電気溶接を採用したいと伊織発動機工業では主流になりつつあるため、埼玉オートモービル工業も採用を考えてみてはどうでしょうか?

伊織発動機工業社長

伊織弓鶴より』


冥鳴「電気溶接か・・・確かにすでにうちの自動車に使ってる技術だし、軽量化出来るけど、強度の問題があるんだよなぁ。リベット溶接は重くても頑丈だし、修理も簡単だからなぁ」


冥鳴「でも軽量化出来れば現場で問題点出ても後から改修出きるし、良いかも知れない。それに安全性も向上するし、兵士たちも喜ぶだろうな。ありかなぁ」


冥鳴「つむぎちゃんに確認してくるか。意見も聞きたいし」


社長室の扉をノックして、冥鳴は部屋に入った。


冥鳴「つむぎちゃん、ちょっと相談があるんだけど、今いいかな?」

と話しかけると、つむぎは書類から顔を上げて答えた。


春日部「どうしたの?別にいいけど」


冥鳴「伊織発動機工業さんから連絡が入ってさ。性能的には依頼は達成できそうだって。でもね、伊織弓鶴社長がせっかくだからリベット溶接じゃなくて電気溶接してみてはって提案してきたんだ。安全面では優れてるんだけど、強度の問題があるから、どうしたものかと悩んでたんだよ。社長に相談しようかと思って」


つむぎは少し考えた後に口を開いた。


春日部「うちの自動車生産部の職員なら、技術的に電気溶接が出来そうだから、採用してみたらどうかな?」


と言って、理由を話し始めた。


春日部「だって、スモールスプリングの六花さんは頭固そうだし、電気溶接採用しなそうだし。極東北農機の東北きりたんの方は、そもそも職員足りてないの知ってるだろうから、電気溶接をいきなり導入しないだろうし。軍部からしたら革新的に見えるし、うちの会社の特徴になると思うから、むしろやるべきだよ」


冥鳴「つむぎちゃんが言うなら、その方向で進めていくよ。ありがとう、つむぎちゃん」

と言って、部屋を出た。


そして設計図を書き直して、試作車の1号機の開発に移った。

同じ時間帯のスモールスプリング造兵廠の小春六花は、コーヒーハウスの珈琲館に入っていった。

その姿を見つめる人たちがいた。それはボイススポーツというゴシップ新聞の記者であったフィーちゃんとソラさんだった。


フィー「フィーちゃん、見ちゃいました。そらさんも見ました?あれはスモールスプリング造兵廠の小春六花社長ですよ。新聞のネタになりそうなことになるといいですねぇ」


ソラ「フィーちゃんさんの言う通りですね。噂になってましたからね。毎週木曜に偉い人が集まってお話してるって噂。本当だったんですねぇ」


フィー「フィーちゃんはやはり天才だったってことですねぇ」


ソラ「もう少ししたら他の人も来そうですしお店の中に入って待ちましょう」


フィー「そうですねぇ。どうせ高い店とはいえ、取材に使ったお金は会社持ちですから、中で待っちゃいましょう」


中に入って一番安いコーヒーを頼んで、吹き抜けになっており2階の部屋が見える席に座り、雑談しながら書き物をしてるふりをしながら監視していると、2階に向かう男が2人現れた。


フィー『あれは大統領補佐官の松嘩りすくと、軍務大臣補佐官の剣崎雌雄ですよ。大物ですね』


ソラ『右の部屋に入りましたね。小春六花も一緒なら、これは大事な話かも知れませんね』


そう言っていると、もう一人店に入ってきた。

背が低くて栗色の髪をした女性で軍服を着ていて、階級章は中尉だった。


ソラ『中尉さんなら外れですかね?』


フィー『いやいや、中尉だからこそ怪しいんですよ。この国の中尉は、年収的に言えばこの店に来ること自体めったにないんですよ。それなのに二階に向かうっていうのは不自然です?左の扉に入った。確定ですよ』


ソラ『どうして左の扉に入ったのに確定なのですか?』


フィー『あの二つの扉の先は実は同じ部屋なんですよ。偉い人たちが集まって話すときは、ばれないように別々に入るんです。しかもわざと見えやすいところから入ることで、無関係を装うんです』


ソラ『なるほど、理解できました。襟の階級章を見ると、歩兵科の中尉さんですね。お偉いさんのお付きの方とかですか?』


フィー『多分そうでしょうね』 と会話をしていると、また一人二階に上がっていった。


今度はクリーム色の髪をした、身長が160センチにも届かないくらいの女性だった。

彼女も軍服を着ていて、階級章は中尉だった。


フィー『また中尉さんですね。今度は主計科の方みたいですね』


ソラ『今度も左の扉に入りましたね』


フィー『SSAの小春六花と大統領補佐官と軍務補佐官、陸軍の歩兵士官と主計士官が集まっているとなると、もしかして噂の新型戦車の計画かもしれませんね』


ソラ『確かにそれはあり得ますが、確か単独指名での依頼ではなかったはずですよね。なぜSSAの小春六花だけがいるんでしょうか?謎ですね』


フィー『まあ、ある程度察しがつく可能性もありますし、怪しまれないように店の反対側の車線に車を置いて監視でもしましょうか』


ソラ『了解です。先に車を取りに行ってきますから、お会計お願いしますね』


フィー『わかりました。よろしくお願いします』


フィーちゃんとソラさんは、お会計を済ませて車に乗り込んだ。反対側の車線に少し離れた場所に停めて、二階の部屋から出てくる人たちを監視していた。やがて、小春六花と大統領補佐官と軍務補佐官、歩兵科の中尉と主計科の中尉が店から出てきた。彼らは店の前でしばらく小話をしていた。フィーちゃんとソラさんはその瞬間を見逃さなかった。


フィー「ソラさん、すぐに車を出せるようにしておいてください」


フィーちゃんはカメラをポケットから取り出して、写真を撮ろうとした。

しかし、手が滑ったのか、慌てていたのか、フラッシュを焚いてしまった。

それに気づいた主計科の中尉が車に向かって走ってきた。

ソラさんは車を発進させようとしたが、エンストしてしまった。

すぐに再びエンジンをかけたが、一瞬窓枠を掴まれてしまった。

が主計科の中尉は車に引きずられると思って手を離した。

何とか逃げ切ったフィーちゃんとソラさんはドキドキしながらも、大スクープを手に入れたことに喜んでいた。


フィー「イヤーやばかったね。一瞬捕まるかと思ったよ。ソラさん、もう少し落ち着いてくださいよ」


ソラ「ごめんなさい。私も焦ってしまってうまくいきませんでした。でも逃げられたのは運が良かったですね」


フィー「そうだね。会社に帰る前に、この写真を現像してネガを残しておくべきですね。これは貴重な証拠だから」と二人は話しながら、現像所に向かった。


来果主計中尉とミコ歩兵中尉は、記者に見つかってしまったことに焦っていた。彼女たちは雪歩兵大将の琴葉葵主計中将に報告しなければならなかった。


来果「まずいですね。私は葵中将に記者に見られたことを報告しに行きますが、どうしますか?」


ミコ「了解した。じゃあミコは奴らを探して証拠を処分するよう交渉するから、雪大将にも連絡しててほしい。奴らの見た目は何かわかったものでいいから教えてくれ」


来果「一人はピンク髪で細身で小柄な女性でした。もう一人は大柄で胸が大きくて紫髪の女性でした」


松嘩「ちょっと待って、その二人覚えがありますよ。もしかしたらボイスポのフィーちゃんとソラさんという人かもしれませんね」


ミコ「ボイスポ?ゴシップ紙か。余計に早めに対処しないとまずいな。消すくらいの覚悟で行ってくるよ」


雌雄「消すのはさすがにまずくないですか?」


来果「軍の機密を盗んだことにすれば合法的に処分できますから、殺すならその方向でお願いします」


ミコ「了解した。ミコはボイスポで張ってるから、雪大将と葵中将に連絡は任せるからよろしくね」 と言って、二人は急いで出発した。残った二人もすぐに現場を後にした。


ミコ中尉はボイスポという新聞社に入って、雨晴はうという人物に話しかけた。


ミコ「こんにちは。陸軍中尉の櫻歌ミコと申します。今回は急用があってこちらにお伺いしまし

た」

雨晴「陸軍の士官の方が新聞社にいらっしゃるなんて、どうしたんですか?」

と緊張しながら尋ねる雨晴に対して、ミコは優しく微笑みながら答えた。


ミコ「実は、あなたの会社のフィーちゃんとソラさんという方に用があるんです。端的に言うと、二人が軍の書類を間違って持ち出してしまったかもしれません。このままだと、軍の機密保持法に違反してしまう可能性があります。それで、どうか書類を返していただきたいのです。また、写真などで撮影したものがあれば、フィルムも提出していただきたいのですが。二人にお会いすることはできませんか?」


雨晴はまずいことになったと思いながらも、二人がまだ帰ってこないことを伝えた。


雨晴「二人はまだ帰ってきていないので、お会いすることはできません。帰ってきたら連絡しますので、連絡先を教えていただけますか?」


穏便に済ませようとする雨晴に対して、ミコは一瞬顔を強張らせたが、すぐに冷静さを取り戻した。

ミコ「それではここで待たせていただきます。私と話し合って解決した方が、双方のためになると思いますよ。雨晴さん」


雨晴は諦めるように奥の部屋に彼女を案内した。


フィーちゃんとソラさんは、大スクープをゲットしてきたと言って、ボイスポの新聞社に帰ってきた。


雨晴はうが、二人に何も言わずに奥の部屋に入るように指示した。二人は不思議に思いながらも、部屋の扉を開けた。


すると、そこには小柄で栗色の髪をした中尉が座っていて、笑顔で待っていた。


ミコ「やあ、フィーちゃんとソラさん。こちらでお話ししましょう」

二人は驚いて逃げようとしたが、ミコ中尉は声色を変えて止めた。 ミコ「逃げられるとおもうなよ」


二人は仕方なく中に入って椅子に座った。

ミコ中尉は雨晴はうさんと話してカメラのフィルムの提出に協力してもらえると聞いていたと言った。

そして、カメラとフィルムを渡すように要求した。

二人はすでに現像した後だったが、別のフィルムが入ったカメラを渡した。

ミコ中尉はフィルムを取り出して確認した。

そして、カメラを二人に返した。


ミコ「今回のことをなかったことにしてくれれば、御社と御二人には協力してくれたということで謝

礼を用意していますよ」


フィーちゃんはこれに異議を唱えた。


フィー「口止め料ってことですか?軍も政治家も基本腐ってますね。フィーちゃんはあくまでもマスメディアです。間違ったことをする方が悪いのであって、それを報道されるのが嫌だからと言って口封じしようとしても無駄ですよ」


ミコはニヤリと笑って、机を強く叩いた。

そして、殺気のこもった目で二人を睨みつけながら、声を荒らげて言った。


ミコ「穏便に済ませてくれないなら、仕方ないな」


ミコは腰のホルスターから、士官用の32口径7発のリボルバーを取り出した。

そして、一発ずつ弾を込めていった。


ミコ「ミコは見た目と違って大人しくないし優しくもないんだよ。もう一度聞くから、はいわかりました。すみません。許してくださいって言え」


ミコは装填を終えて、銃を二人に突きつけた。


フィー「嫌です」


フィーが言い終わる前に、ミコは天井に向かって一発撃った。

銃声が部屋に鳴り響く、その中でミコが口を開く。


ミコ「聞こえなかったから、もう一度言ってもらおうか」


フィーちゃんはミコに睨みをきかせていたが、ソラさんが口を開いた。


ソラ「わかりました。私たちはこの件については忘れることにします。これで終わりでいいんですよね?」


ミコは一瞬驚いたが、すぐに落ち着いた表情に戻った。

玉を抜いた拳銃をホルスターにしまうと、言った。


ミコ「よくわかってくれたね。破ったら、ミコは家まで追ってきて消すからね。覚悟しておいてね」


ミコは部屋を出ようとしたが、振り返って二人に言った。


ミコ「お姉さんたちさぁ、写真とネガ持ってるでしょ。今すぐ渡しなさい」


二人は仕方なく従った。


ミコ「ありがとう。怖い思いをさせてごめんなさい。でも、お姉さんたちが悪いんだから、おあいこってことで許してね」


ミコ「あとで軍からもう一人来るから、謝礼はその人からもらってね。それじゃあ、ありがとうね」

そう言って部屋を出て行った。


ミコ「雨晴さん、迷惑をかけてしまって申し訳ないです。次からはないように気をつけますから、雨晴さんも次からは気をつけてくださいね。もしまた会ったら、覚悟しておいてください。ミコとの約束」


と言って会社から出て行った。

そのころ、極東北農機では、設計図の大部分は完成していたが、それ以上に進めないでいた。


きりたん「ずんだもん、スモールスプリングの砲塔旋回技術を教えてもらえないと、設計図が完成しないんだけど、どうなってるの?」


と少し怒り気味に言うきりたんに、ずんだもんは答えた。


ずんだもん「スモールスプリングのやつら、技術の特許がシーバス造船所にあるから、もう少し待ってくれって言ってきやがったのだ。奴らは何もしてないのだ。これなら最初から埼玉オートモービル工業に頼めばよかったのだ」


きりたん「はぁぁぁぁぁ、ふざけるなよ、スモールスプリングぅぅぅ」


きりたんは今までにないくらいの怒りを感じていたが、ずんだもんに指示を出した。

きりたん「ずんだもん、スモールスプリングに何度も電話しろ。事務員全員で電話しろ。そしてシー

バス造船所に特許について話したいから、明日会社に行くと伝えておいて。後、埼玉オートモービル経由でIHIに砲塔旋回装置の技術提供をお願いしといて。私は今から砲塔旋回装置の技術を学んでも、戦車に搭載する時間はないから、明日までに設計図を書き直しておくよ。本当にやってくれましたよ」


ずんだもん「了解です。急いでやります」


と勢いよく部屋から飛び出して行ったずんだもんを見送りながら、きりたんはものすごい速さで設計図を書き直していった。

砲塔がない分、車重が軽くなるから、装甲を厚くして砲弾の搭載数を増やそうと考えながら、きりたんは設計図を書き直していった。 前面装甲の傾斜がキツすぎて、車体に主砲が乗らないから、傾斜を緩めて車体の左側に主砲を配置することにした。

運転席は中央から右側に移動させた。これらの変更点を設計図に反映させると、 設計図に集中しているうちに、大体一時間ぐらい経ったころだった。

部屋にずんだもんが戻ってきた。

ずんだもん「シーバス造船所にはアポイントが取れました。

慌てているようで、明日の午後四時に来てほしいと言っていました」


きりたん「うん」


ずんだもん「あと、埼玉オートモービル工業は社長の春日部さんがIHIの伊織社長に掛け合ってくれると言ってくれました」


きりたん「ありがとう。朝五時に出られるよう、私の分も準備しておいて。あと、あっちで泊まれそうな宿にも連絡しておいて」


ずんだもん「了解しました。五時の急行の指定券はすでに買いに行かせてます。また、わが社の販売店に車も用意させておきました。宿泊の予算はいかがしますか?」


きりたん「そっちに任せる」


ずんだもん「了解しました」

きりたんは朝の三時半まで設計図を書き続け、やっと終わらせた。その頃、ずんだもんがやってきた。

ずんだもん「お疲れ様です。少し早いですが、駅に向かいますか?」


きりたん「うん。早めに行って、車の中で少しでも休みたい」


ずんだもん「わかりました。行きましょう」


二人は車に乗り込み、駅で五時半に北海に向かう急行に乗り込んだ。


12時に北海に着くと、極東北農機の支社で休んだ後、シーバス造船所に向かうことになっている。


ずんだもん「しかし、よく考えてますね。は今回は砲塔を搭載できないとしても、次のために両方の会社から砲塔の技術を手に入れておいて、良い方を使おうと考えて、埼玉オートモービル工業に連絡を取るなんて、さすがですね、社長」


きりたん「まあ、両方ある方が得だし、シーバス造船所が技術提供を認めないなら、砲塔旋回装置の技術を手に入れられない可能性もあるから、保険もかけておいた方がましだからね」


ずんだもん「向こうの言い分はわかりますが、納得できませんね」


二人はシーバス造船所の第一造船所に着こうとしていた。

少し時間を戻すと、 青い髪にショートヘアの細身の女性が、今日の業務をほぼ終えて手持ち無沙汰になっていた。

ラジオを聴きながら窓の外を眺めていると、社員が血相を変えて現れた。

話を聞くと、極東北農機の副社長であるずんだもんが電話してきて、特許関係で話したいと言っていることを知った。

しかし、何のことか一切わからなかった彼女は、電話を代わった。


つづみ「はい、お電話代わりました。シーバス造船所の社長、鈴木つづみです」


若干怒りを感じる語気でずんだもんも話した。


ずんだもん「どうも、極東北農機の副社長、枝豆ずんだもんです」


ずんだもん「いきなりの質問なのですが、実は15トン級戦車開発の試作事業で、スモールスプリング

造兵廠から砲塔旋回装置の技術提供を受ける予定だったのですが、二か月経ったのにも関わらず、シーバス造船所が持っている根幹技術の特許関係でもめていると聞きました。こちらとしては早急に技術提供していただきたいのですが、急ぎではありますが、明日お話しできないでしょうか?と思って連絡させていただきました」


鈴木つづみは、疑問が複数あり、困惑していた。つづみは心の中で、小春六花に聞いてないぞ。そもそもうちの技術を提供するなんて聞いてないし、そもそも何で二か月も技術支援を放置してんだよ。まずいだろ、普通。というか、戦車の試作の計画は30トンって聞いてたのに、15トン計画の話が出てくる意味がわからんぞ。

と混乱していると、


ずんだもん「あの、どうかしましたか?」


ずんだもんが沈黙に耐えられずに話した。 はっとして手帳を見て明日の予定を確認して返事を返した。

つづみ「すみません、予定を確認しておりました。そちらの移動時間など考えて、午後4時くらいはいかがでしょうか」


ずんだもん「わかりました。それでは明日よろしくお願いします」

つづみ「こちらこそ、迷惑をかけてしまって申し訳ありません。明日はよろしくお願いします」 とずんだもんが電話を切るのを確認した後、急いで行動をし始めた。


つづみ「誰か早くスモールスプリングに行って、砲塔旋回装置の設計図を持ってきてください。そして明日までに、それの特許関係の書類一式を用意しておいてください」


つづみ「それと、私がいいって言うまで部屋に入らないでください。ささらに電話しなきゃだから」


みんなが部屋から出ていったのを確認して、つづみは佐藤製糖の社長で、3Cグループの会長の佐藤ささらに電話した。


ささら「つづみちゃん、どうしたの?急に電話してきて」


といつもの明るい調子で話すささらに対して、つづみは慌てて返した。


つづみ「ささら、六花ちゃんが予想以上にまずいことをしてるかもしれない。できれば近日中に二人で話し合える場所を用意できないかしら」


ささらはすぐに返答した。


ささら「わかったわ。明日にでもお話ししたいけど、いつでも時間を開けとくから」


つづみ「明日は極東北農機との話し合いがあるから、明日の夜に夜行急行で、明後日の午前にそっちに行くから、その予定でお願いするわ」


ささら「わかったわ。開けとくから、よろしくね」


と電話を切る。

つづみは急いで準備を始めた。 ささらは頭を抱えていた。

やっぱりダメだったかと思いつつ、予定の整理を始めたのだった。


二人はシーバス造船所の第一造船所に着いた。

造船所の門をくぐり、事務所についたところで、車を降りた。

すると、シーバス造船所の社長の鈴木つづみが走ってやってきた。

つづみ「ご迷惑をおかけしたのにお越しいただきありがとうございます。さあ、中にどうぞ。11月の海風は寒いでしょうから、コートお預かりします」


二人は丁寧な対応に驚きつつも、事務所の中に連れていかれた。

社長室に入ると、砲塔旋回装置の設計図と技術書がまとめられて用意されていた。

二人は明らかに様子がおかしいと思いつつ、受け取ることにした。

つづみ「もしよろしければ、飲み物を用意いたしますが、何がよいでしょうか」


きりたん「えっと」


きりたんは拍子抜けで困惑していた。


ずんだもん「二人ともお茶でお願いします」

ときりたんが困惑している様子を見て、お茶を頼んだ。


つづみは紅茶を二杯用意し、シュガーポットとミルクピッチャーを持ってきて、二人に出した。


つづみ「すみません、自分たちのせいで技術提供の約束を遅らせてしまって。何しろこの計画はスモールスプリング造兵廠の一部の人しか情報がまったく入っていなかったため、遅れてしまいました」


と謝罪をしていた。

きりたんは3Cグループ全体で嫌がらせしていると思い込んでいたが、明らかに丁寧に対応している彼女の様子から異様な雰囲気を感じ取っていた。


きりたん「いえいえ、むしろ丁寧な対応をしていただけてありがたく感じております」


つづみ「そんなことありませんよ。極東北農機の重機にはわが社もお世話になっておりますし、今回の試作事業が平等で公平であるべきだと考えておりましたが、自分が邪魔をしてしまったと反省しております」


つづみ「もしよろしければ、少し新型戦車の試作事業について教えていただけないでしょうか?気にはなっているのですが、スモールスプリング造兵廠の小春六花さんにどれだけ聞いてもお話ししてくれないので」


ずんだもん「どのような戦車を試作しているかはお教えできませんが、試作の条件程度なら話せると思いますよ」


きりたん「対戦車砲は57ミリ×400ミリのATA-57を使用することと、重量は15トンとして軽量戦車にすること。装甲は全面は最低45ミリで、側面装甲は25ミリ以上にすること。追加装甲は除いての装甲であること。速力は今後の運用を考え、時速30キロ以上にすること。搭載弾薬を最低25発とすること。整備を行う観点から、複雑な設計にしないこと。などと、簡素で整備性や量産性の高いものにすることです」


つづみはやばい、ちらっとしか設計図見てないけど、まったく要件を満たせてないじゃないか。

あのアマ、何てことしてくれてんだ。

と心の中で毒づいた。


つづみ「わかりました。ありがとうございます。今回は我々のミスがあったのは明白なので、技術支援の他にお手伝いできればと思っておりますが、もし迷惑でなければ、極東北農機は新しい工場である第四・第五・第六工場の工事中であると聞いておりますが、その工場に出資を行いたいと思っております。3Cグループの代表に提案する予定でありまして、またわが社としては新工場に熟練工などの人員の支援を行ったりしたいと思っておりますが、どうでしょうか?」


きりたんとずんだもんは悩んだ。


きりたん「人員の支援や金銭の支援はありがたいのですがね…流石に技術の流出とかあり得るので少し怖いというか…」


ずんだもん「でもなあ、うちは急拡大したせいで熟練した技術者が足りてないし、資金も8割融資だから、その一部が減らせるなら少し余裕ができるかもしれない」


つづみ「資金援助だけでも受けてみてはどうでしょうか」

とつづみは金庫を開けてビジネスバッグを取り出して二人の前に出し、バッグを開けた。

中には札束がパンパンに入っており、


つづみ「今すぐに援助できる金額を用意させていただいております。謝罪の意味も込めての金額なので、どうか受け取ってください。我々の誠意だと思ってください」


きりたん「いや、金をせびりに来たわけではないのですよ。勘違いなさらないでください」


つづみ「すみません、そういうわけではないのですが…」


きりたん「ですが、今させていただいたお話しは魅力的なので考えさせていただきます」


ずんだもん「今回は予想以上に良いお話しができたと思いますので、またお会いしましょう」

と言って部屋から出て自動車に乗り込んだ。


つづみは自動車が見えなくなるまで頭を下げていた。


きりたん「3Cグループの小春六花と共にトップ3に入る人だからもっと怖い人かと思ってたけど、見た目と違う人だったね」


ずんだもん「でもわからないよ。騙すつもりで接触しようとした可能性もあるよ」


きりたん「確かにね。戦車や自動車作れる企業を自分の下に置いて自分がトップになろうとする野心家かもしれないしねえ」

と言って二人が話している頃、

すずきつづみは部屋に戻り焦っていた。

二人に悪い印象を与えてしまったと思い、やらかしたと部屋の中をぐるぐる回りながら頭を抱えていた。

夜行急行を思い出し、急いで準備をして会社を飛び出し、駅に向かい急行に乗った。

夜が明けて、すずきつづみは目的地に到着した。

佐藤製糖の社員が彼女を迎えに来ていた。

すぐに佐藤製糖の本社に向かった。

社長室に着くと、佐藤ささらが待っていた。ささらはつづみの顔を見るなり、不機嫌そうに言った。


ささら「つづみちゃん、おはよう。遅くなったね。六花ちゃんの件、どういうことなの?」


つづみは苦笑しながら答えた。


つづみ「ささら、おはよう。六花ちゃんの件はね、いい話とマズイ話とすごいマズイ話があるんだけど……ささらはどれから聞きたい?」


ささらはため息をついて言った。


ささら「つづみちゃんの話したい順でいいよ。」


つづみ「わかった。まず、六花ちゃんはたぶんこの新型戦車の試作事業では受注を受けられると思うわ。よかったわね。これがいい話よ。」


ささら「ふーん。で、次は?」


つづみ「次はヤバイ話ね。今回の試作では極東北農機への砲塔旋回装置関係の技術の支援が盛り込まれていたのに、2ヶ月間一切支援してなかったわ。あとシーバス造船所の特許技術も含まれていたけど、私達に一切報告会はなかった。でもこの問題は私が昨日すべての技術を提供しておいたわ。だけど極東北農機は今回の戦車には砲塔の搭載を断念したと聞いていたわ。これがヤバイ話ね。」


ささら「は?!」


ささらは驚きと怒りを表しながら言った。


ささら「今の話だけでもすごくヤバイことしてるんだけど……これ以上って何をやらかしたの?」


つづみ「すごくヤバイ話なんだけど……たぶん六花ちゃんは今回の試作の条件を全く守る気がないわ。設計図を軽く見た印象で話すから確定ではないけど……」


ささら「はぁぁぁぁぁぁ!」


ささらは怒りに目を見開いて叫んだ。


つづみ「極東北農機が教えてくれた今回の試作の戦車の仕様は、57ミリ砲のATA-57を搭載し、重量は15tとする。装甲は前面が最低45ミリ、側面が25ミリ以上で、追加装甲は除く。速力は最低時速30キロで、砲弾は最低25発を搭載する。簡素で整備性や量産性の高いものにするというものよ」


ささら「ふーん。確かに条件を満たしてないわね。でもあの自信満々な態度はどこから来てるのかな」


つづみ「まあ、たぶん今回の事業に参加している軍関係者と何かつながりがあるのでしょうね」


ささら「そうかもね。でも軍とつながりがあるなら、そもそも条件を決める段階で相談しておくべきだったんじゃない?」


つづみ「これからは私の推測も入るけど、あくまで一つの見解だと思って聞いてね」


ささら「うん、わかったから早く教えてよ」


つづみ「私の会社は海軍から依頼を受けたわよね。5年前に大統領になって、去年再選した紲星あかりさんのことは知ってる?」


ささら「ああ、そうだったね」


つづみ「実はあかりさんが大統領に再選してから、軍事費が2倍に増えて、巡洋艦や駆逐艦の建造依頼が1.5倍くらいに増えたの。それに加えて、去年から軍務大臣になった四国めたんさんって聞いたことある?」


ささら「あー、そんなこともあったね」


つづみ「実はめたんさんが大臣になってから、新型戦車開発に関心を示しているらしいの。もしかしたら…」


ささら「政府からの圧力ってこと?それが本当なら、私たちがどうこうできる案件じゃなくなるじゃない」


つづみ「確かではないから分からないけど、それなら納得できるでしょ?」

ささらは舌打ちしたあと、ため息をついた。


ささら「わかったわ。その件は私のほうで調査して対応するから、今回の話は他の人にはしないでおいてね」


つづみ「わかったわ。でもお願いがあるの」


ささら「お願い?」


つづみ「極東北農機に迷惑をかけてしまったのは事実だから、何かしらで支援しようと思ってるの。佐藤製糖のほうから資金援助やシーバス造船所の技術支援をしてあげたいんだけど、ダメかな?」


ささら「わかったわ。極東北農機のほうに提案しておくね。本当にありがとうね、つづみちゃん」


つづみ「ささらと私は仲良しだもん。当然じゃない?じゃあ私も会社を長く開けておけないから帰るわ」


つづみは部屋から出て会社に戻っていった。

そのあとささらは子会社のタカハシ百貨店に電話をかけた。


ささら「やっほー、高橋さん。会社のほうは順調?」


あまと「はい、順調です。今回はどのようなご用件でしょうか?」 ささら「かたいなぁ。私たちは仲良しだよね」


あまと「私に直接連絡を入れるときは内部調査だと思っていますので、それで誰を調査すればいいのでしょうか?」


ささら「まあ、そうなんだけど、今回はちょっと危険な案件だから、優秀な人を頼むよ。小春六花さんを1ヶ月ほど調べてほしいんだ。よろしくね」


あまと「了解しました」 と言って高橋さんは電話を切った。


ささら「高橋さんはもっと打ち解けてくれればいいのになあ。あと六花さんのほうは何もないといいんだけどなあ」


高橋は3Cグループの小売り部門の子会社であるタカハシ百貨店のオーナーだった。

元々は佐藤製糖の社内規則などのコンプライアンス調査を行う社員だったが、有名になってしまったため、オーナーとしてタカハシ百貨店に異動になった。

しかし、ここの社員の一部は3Cグループのコンプライアンス調査業務を引き続き行っていた。

高橋はタカハシ百貨店の最上階の大食堂に向かった。

時間が時間だけあって、客のいない大食堂でひときわ小さな女性を呼んだ。


あまと「小夜さん、小夜さん」


小夜「はい、何でしょうか?」


あまと「グループの会長から小夜さんに依頼があるんですって」


と言って写真と住所を見せた。


小夜「この人を調査すればいいんですね」


あまと「そうです。1ヶ月間お願いします。これは私からのプレゼントです」


と言って札がびっしり入っているであろう封筒を渡した。


小夜「そういう案件ってことですか?」


あまと「そうでしょうね。でも小夜さんならできると信じていますから、心配しなくても大丈夫ですよ。それではよろしくお願いします」


と言って高橋は立ち去った。

小夜もバックヤードに戻っていった。

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