第1話
第一話
1938年9月下旬
ガタガタと音を立てる小型2ドアセダンのSAITAMAに乗って、陸軍総司令部へ向かっていた2人。
冥鳴「やっぱりこの車じゃ、本社から休みなしで40キロで350キロ走るのは無理だったなー」
春日部「うん、音もひどいし揺れも最悪だよ。うちの製品だけど、これには乗りたくないね」
冥鳴「あっ、煙が出てるよ。安さ優先で設計したから、余裕がないんだよね。仕方ないか」
春日部「設計者がそんなこと言っちゃダメでしょ。ちゃんとした製品として売ってるんだからさ」
冥鳴「まあ、オーバーヒートだけだろうから、路肩に止めておけば治るさ。時間には余裕を持って来たし」
冥鳴「ボンネットを開けて様子を見てくるから、中で待っててね、つむぎ社長」
2人の名前は春日部つむぎと冥鳴ひまりで、埼玉オートモービル工業の社長と設計部門の責任者だった。
今日は新型戦車の試作に関する発表会に出席するため、陸軍総司令部へ向かっていた。
埼玉オートモービル工業は国内最大の自動車メーカーだが、自社製品は
小型セダンのSAITAMAシリーズ
KASUKABEトラックシリーズ
KASUKABEバンシリーズ
オフローダーのKAWAGOEシリーズ
の4種類だけで、他の製品は伊織発動機工業(IHI)から代理販売を受けている会社だった。
埼玉オートモービル工業は戦争中も自動車の生産や軍への供給を続けていた。また、伊織発動機工業(IHI)から輸入したIHI-1軽戦車や、国産のCeVIO Creative Companyグループが開発した3CLT-1軽戦車の整備や修理も担当していた。
戦車を作った経験はなかったが、整備や修理で培ったノウハウを活かせると考えた。
そこで、軍からの誘いに応じて、新型戦車の試作に参加することにした。
春日部「ひまりちゃん、大丈夫?ちゃんと動きそう?ダメならタクシー呼んじゃえばいいのに。どうする?」
冥鳴「オーバーヒートだったみたいだけど、部品は壊れてなさそうだから、時間が経てば動くと思うよ」
春日部「そうなの?じゃあ、待とうか」
そう言って話をしていると、隣に車が止まった。
後部座席から降りてきたのは、小柄な女性だった。
彼女は2人が知っている人物だった。
彼女は極東北農機の社長であり、設計士でもある東北きりたんだった。
きりたん「こんにちは、春日部さん、冥鳴さん。お二人ともお元気ですか?」
と会釈するきりたん。
春日部「やぁ、久しぶり。元気そうだね。こっちは実験も兼ねて、本社から陸軍総司令部に向かってるんだよ」
と伝えると、きりたんは驚いた様子で言葉を返した。
きりたん「実は私たちも総司令部に用があって行くところなんです。よかったら一緒に行きませんか?うちのKAZ-Mは5人乗りで、荷物もたくさん積めますよ」
春日部「ひまりちゃん、どうする?」
冥鳴「まあ、オーバーヒートしてるし、お願いしてもいいんじゃない?」
2人は荷物をまとめてKAZ-Mに乗り込んだ。
運転席に座っているのは、極東北農機の副社長であり、事務や対外交渉を担当している枝豆ずんだもんだった。
ずんだもん「荷物忘れていかないようにするのだ。治安が良い地域でも、無防備な車だったら車上荒らしされるかもしれないのだ」
春日部「ありがとう、ずんだもんさん。気をつけます」
冥鳴「こちらこそ感謝します。ずんだもんさんの運転は安心できますね」
きりたんとずんだもんは極東北地方出身で、1930年に設立された新進気鋭の会社・極東北農機のトップコンビだった。
1935年に自動車事業を始めようとしたところ行政と争いになり、きりたんの姉で前社長の東北イタコさんが退任してしまった。
その後、きりたんが社長に就任し、ずんだもんが副社長になった。
極東北農機の製品は
農機具:他国製機械の半額程度で販売しており、農家から支持されている。
自動車:品質と価格のバランスが良くて、IHIと埼玉オートモービルの間で人気が高い。
しかし、急激な販売数の増加に生産が追いつかず、現在は工場や施設の拡張工事や新設を行っている。
運転席に枝豆ずんだもん、助手席に冥鳴ひまり、後部座席に春日部つむぎ、東北きりたんが乗り込み 司令本部に向かう 。
きりたん「今日はどのような用事で司令部に行くんですか?つむぎさん」
春日部「ひまりちゃんこれ言っても大丈夫なのかな?」
ひまりは少し考えた後口を開いた
冥鳴「まぁ完全に部外者に話す訳じゃあるまいし良いんじゃないかな?」
春日部「実は新型戦車の試作に参加することになったから新型戦車の仕様発表を聞きに行くところだったんだよね」
これを聞いた2人は驚いた顔をしている
ずんだもん「あー嘘だろ試作の相手なのかよ困ったのだ」
と渋い顔をするずんだもんと
きりたん「今回はライバルってことですか?負けるつもりは無いので頑張りましょう。」
と明るく話すきりたん
春日部「私達だって一切手加減しないよ。両方初めて戦車の開発依頼だもんね。お互い頑張ろうね。」
と話していると司令部の通用門が見えてくる。
通用門にいる門番の兵士に招待状を見せた4人は、中に通されて司令部に入っていった。駐車場には10台ほどの軍用車が整然と並んでいたが、1台だけ目立つ高級車が駐まっていた。それを見た冥鳴は、自分たちの小型セダンと比べて落胆した。
冥鳴「あれ、IHIのモデルRIじゃないか。IHIも来てるのかな?勝てるわけないじゃないか」
ずんだもん「IHIはお前らの提携先だろ。来るんなら連絡してくるはずなのだ。お前らが知らないなら、多分3Cグループの連中なのだ」
きりたん「3Cグループってことは、スモールスプリング造兵廠か。強敵ばっかりで、設計士として気合いが入ってきたぞ」
春日部「流石天才設計士だね。で、うちの設計士さんはどうよ?」
冥鳴「出される依頼次第で、高度な柔軟性を持って臨機応変に対応したいと考えています」
春日部「なにそれ」
春日部は冥鳴の言葉に呆れたが、彼女はひまりの才能を信じていた。彼女はひまりに笑顔で励ましの言葉をかけた。
春日部「大丈夫だよ、ひまりちゃん。あなたなら素晴らしい戦車を作れると思うよ。私も応援してるからね」
冥鳴は春日部の優しい言葉に感謝した。彼女の上司であった。
彼女と一緒に戦車開発に挑戦することがひまりにとっては、夢でもあった。
4人は駐車場から降りて、案内の軍人に連れられて会議室に向かった。
会議室に入ると、すでに3Cグループ側の試作代表であるスモールスプリング造兵廠社長・小春六花が座っていた。彼女は4人を見て、嫌味な笑みを浮かべた。
六花「まあまあ、ポンコツ自動車屋とトラクター屋をやっているヤクザも呼ばれているとは思わな
かった。戦車開発なんて無理でしょうに。どうせ負けるんだから、帰ってしまえばいいのに」
つむぎは怒りで顔が赤くなり、六花に詰め寄ろうとしたが、ひまりが彼女の腕を引いて止めた。
ひまりは冷静に六花に言い返した。
冥鳴「実際にポンコツ自動車屋ですから、文句は言えませんね。でも、春日部社長はそんな奴ら相手にしないですよ。他の皆さんが来るまで、静かに待ちましょう」
ずんだもんも六花に対して憤慨していたが、ひまりの言葉に従って椅子に座った。
彼女は六花に向かって小声で言った。
ずんだもん「うちがヤクザなら、お前らは総会屋か詐欺師だろうな。あんなゴミ戦車作っといて、偉そうにするなよ」
六花は4人の反応を見て、満足そうに笑った。
彼女は自分たちの戦車開発に絶対的な自信を持っていた。
彼女は4人に対する威圧感を高めるために、さらに言葉を続けた。
六花「私たちは3Cグループの一員として、最先端の技術と資金力を持っています。私たちの戦車は、
お前らの戦車とは比べ物にならないくらい優れています。お前らは負け犬の遠吠えをするだけですよ」
3Cグループは、CeVIO Creative Companyの正式名称で、1842年にボイチェビノイド連合に加盟する同盟国のチェビオ共和国の植民地に設立された製糖会社である佐藤製糖が基礎となっています。1900年頃にボイス共和国に移転した後、他の会社を買収や合併して巨大なグループ企業に成長しました。主要な会社は3社と子会社を十数社保有しており、製糖、造船、造兵の3つの分野で活躍しています。
主要な3社としては、以下のような会社があります。
佐藤製糖
3Cグループの母体であり、製糖業界では最大手です。
甜菜やサトウキビから砂糖やエタノールなどの製品を生産しており、食品や化学工業に貢献しています。
シーバス造船所
1850年に佐藤製糖が設立したボイス共和国の民間造船所で、民間で最大の造船所です。
10をこえるドライドックを持っており、最大15000トンクラスの船を製造することができます。
軍艦や大型商船を作っており、巡洋艦や駆逐艦などの製造も行っています。
スモールスプリング造兵廠
1777年に設立したスモールスプリングファイヤーアームスの後継企業で、1908年に経営危機に陥り、買収されて3Cグループに統合された会社です。
主要な製品は陸軍用歩兵銃、士官用拳銃、機関銃、大砲などの兵器を開発製造しており、戦車の3CLT-1も第一次統一戦争時から製造しています
3社の代表が沈黙の中で待っていた。
10分ほど経ったころ、廊下から足音や話し声が聞こえてきた。
ドアが勢いよく開かれ、白い外套を着た女性が入ってきた。
彼女は極東北と北海方面軍に配属されていることを示す服装だった
彼女は普通の女性とは思えないほど大きな声で自己紹介した。
雪「ようこそ陸軍総司令部へ。私は陸軍総司令部歩兵科長の雪大将です」
彼女は一人一人に握手しながら歩いていった。
テーブルに目をやると、怒り混じりに部下に命令した。
雪「何だこの有様は!客人が来ているのに茶も茶菓子も出してないとは!貴様らは軍人か!早く客人に飲み物を出せ!私にはコーヒーを持ってこい!」
彼女が叫んでいる最中、後ろから頭を叩かれた。
彼女は激怒して振り向いた。
雪「イテェェェェェ!誰だこの野郎!」
しかし、振り向いた相手を見て、彼女は言葉を失った。
雪「結月元帥、いつからご来場されていたんですか?この事業には興味がないとおっしゃっていたと
聞いておりましたが」
結月ゆかり「興味がないというわけではありませんよ。陸軍総司令としては、新型戦車の開発には関心を持っています。ただ、あなたの声があまりにも大きくて、廊下まで聞こえてきたので、様子を見に来ただけです。それに、廊下で話していた人達も気になりましたけどね」
雪「申し訳ございません」
結月ゆかり「もういいですから。静かに仕事をしてくださいね。雪大将には期待していますよ」
雪「はい、ありがとうございます」
結月ゆかり「皆さん、ご迷惑をおかけしてすみません。各企業の素晴らしい成果を楽しみにしています。それでは失礼します」
と言って部屋を出て行った。
お茶やお菓子を運んできた兵士達が帰ってきて、8名が向かい合って座った。
8名が対面に座り自己紹介をおこなう
一番背の低い白い髪の女性が立ち上がる
モチノ「陸軍兵器開発開発局局長のモチノ・キョウコ中佐と申します。今回は進行役を務めさせていただきます。どうぞよろしくお願いします」
モチノ「次は雪大将はもうご存知だと思いますので、次は桜乃砲兵中将殿です」
金髪碧眼の女性が立ち上がる
桜乃「砲兵中将の桜乃そらと申します。今回は雪大将と共に運用側としての意見を述べさせていただきたいと思います。よろしくお願いします」
モチノ「次は琴葉葵主計中将殿です」
水色の髪が目立つ女性が立ち上がる
葵「私は琴葉葵と言います。主計中将として予算関係で意見を出していきますので、よろしくお願いします」
モチノ「次は波音リツ兵站少将殿です」
赤い髪の美しい女性のような見た目をした男性が男とは思えない美しい声で話し始める
波音「波音リツです。よろしくね。今回は一応工兵科と共に戦車の運用や指揮をしてきた経験から参加させてもらうよ」
モチノ「次はアリアル工兵少将殿になります」
真っ白な髪の線の細い女性が立ち上がる
アリアル「やあ、アリアルさんだよ。工兵少将をやってるんだ。りっちゃんと同じ目線で仕事するつもりだから、よろしくね」
モチノ「次は京町セイカ参謀大佐殿です」
背の小さい黒髪の女性が立ち上がり会釈をする
京町「弦巻参謀長に代わって参加させていただいております京町セイカと申します。よろしくお願いします」
モチノ「最後に戦車教導隊隊長の琴葉茜大佐殿です」
最後に琴葉葵に似ているが髪の色がピンクの女性が立ち上がる
茜「こんにちは、琴葉茜です。実働部隊として戦車を使用する側として意見をさせていただきます。よろしくお願いします」
モチノ「以上8名になります。基本的にこのメンバーが新型戦車試作に参加する者になります」
一番背の低い白い髪の女性であるモチノ・キョウコ立ち上がり、小さく咳き込んだ後に話し始めた。
モチノ「陸軍兵器開発開発局局長のモチノ・キョウコ中佐と申します。今回は進行役を務めさせていただきます。どうぞよろしくお願いします。」
モチノ「今回の新型戦車の試作について説明させていただきます。現在の国際状況は非常に緊張しており、最悪の場合、前回のような大規模な戦争に発展する可能性が高いとされています。」
モチノ「統一戦争において発明された戦車は戦争を一変させた兵器でしたが、もし再び戦争になった
場合、今度は戦車同士の大規模な戦闘が起こることも考えられます。」
モチノ「大規模な戦車同士の戦闘が発生した場合、我が国の戦車は量は多いものの性能は非常に劣っています。はっきり言ってしまうと、対戦車戦闘能力が低すぎるのです。」
モチノ「我が国の戦車は現在2種類の戦車を使用していますが、どちらも統一戦争で開発された旧式の戦車を改修したものです。」
モチノ「一つは伊織発動機工業のIHI-1の改修型でIHI-1k10t戦車と呼ばれています。この戦車は37ミリ砲を搭載していますが、砲弾の初速が低く貫通力が悪いため、敵の戦車に対してはほとんど効果がありません。」
モチノ「もう一つは3Cグループが開発した3CLT-1k6t戦車です。この戦車は20ミリ砲を装備していますが、砲弾が小さすぎて貫通力が不足しています。貫通したとしても加害範囲が狭く、搭乗員や弾薬庫などを直撃しない限り、敵の戦車を撃破することはできません。」
モチノ「また、装甲面においては、IHI-1kは正面装甲30ミリと追加装甲10ミリで車体が50ミリとなっており、敵軍の主力戦車砲である37ミリ砲を200メートルの距離でも防ぐことができます。しかし、追加装甲はリベットで溶接しているだけなので、簡単に剥がれてしまい、戦闘不能になる事例が多く発生しています。」
モチノ「問題は3CLT-1kの方は装甲が薄すぎることです。一番薄い部分では5ミリの装甲しかありません。20メートル以上離れた位置から着弾した105ミリ榴弾砲の破片でも貫通されることが確認されています。装甲が厚い部分である前面と側面装甲でも15ミリしかありません。正面装甲は300メートルの距離から37ミリ砲で貫通されてしまいます。これでは戦闘に耐えられません。」
モチノ「また、速度面も問題です。IHI-1kは最高速度が時速19キロで、3CLT-1kは時速18キロと非常に遅いです。これでは戦場での機動性に欠けます。以上のことから、軍部が要求する性能は以下のようになります。」
モチノ「第1火力面の強化のために、新型対戦車砲である57ミリ×400ミリのATA-57を使用すること。
第2重量は15tとして軽量戦車とすること。
第3装甲は全面は最低45ミリとし、側面装甲は25ミリ以上とすること。また、追加装甲は除いての装甲であること。
第4速力は今後の運用を考え、時速30キロとすること。
第5搭載弾薬を最低25発とすること。
第6整備を行う観点から、複雑な機構等を使用せず、簡素で整備性や量産性の高い物にすること。
第7上記6項を満たした車両を昨今の情勢を鑑みて、6ヶ月で試作車両を製造し、量産開始から1ヶ月で100両を製造できるようにすること
以上が陸軍兵器開発局が要求する要件であります。異議や疑問がある方は、挙手をお願いいたします」
素早く雪将軍は手を挙げて立ち上がり、 発言する。
雪「話が違うではないか。私が提出した要件に一切合致していない」
と激昂し、机を勢い良く叩く。
雪「私が提案した35tの重量戦車案ではなく、なぜ軽量戦車の設計になっているのだ」
また机を叩く。
雪「また火力が足りないのであれば、70ミリ歩兵砲を使用してはどうかと提案もしていたはずだ。モチノ中佐、キサマは私を愚弄しているのか?」
激昂する雪将軍に気圧されて、モチノ中佐は動揺している様子であった。
モチノ「いっ、いえ、そのようなわけではありません」
緊張した空気の中、スッと手が上がる手を挙げたのは葵主計中将であった。彼女は椅子に座ったまま
雪将軍を睨み付けるように話し始める。
葵中将は言う。「その案を取り下げたのは私です」。
雪将軍はモチノ中佐から葵中将に向き返り、睨み付ける怒り混じりの声で葵中将に問いかけた。
雪「どういう意味であるか納得出来る理由を教えてはいただけませんか?」
葵中将は答える。
葵「どうもこうもありませんよ。重量戦車を導入する場合、予算が全く足りていないのが実状であり、重量戦車をもし導入する場合を予算を推定した場合、300両程度の導入しか出来ずに終わってしまいます。また、今回の試作ではIHI-1kの退役を考えております。国内にあるIHI-1kはおよそ500両になります。果たして300両程度で足りるでしょうか?」
雪将軍はたじろぎながらも口を開こうとするが、波音少将が先に言葉を切り出した。
波音「兵站部として申し上げますが、現在の戦車などの車両は、戦地に近いところまで船や鉄道で運ばれています。では、35トンもの重量がある戦車を輸送船に積むにはどうすればいいでしょうか?」
雪「そんなの簡単だろう。港にあるクレーンを使えばいいし、船にもデリックが備えられているだろうから、それで積めばいい」
波音「ごもっともな回答です。ありがとうございます。しかし、それでは不可能だとお断りしておきます」
波音「我が国では、軍事物資を運ぶ港は12港ほどしかありません。そのうち、30トン以上の重量物を持ち上げることができるクレーンがあるのは8港だけです。しかも、そのクレーンの数は19機に過ぎず、すべての船着き場に設置されているわけではありません。民間の港では、さらに設備が不足しており、20港中5港で8機しかありません。設備のない港では荷降ろしができないし、設備があってもクレーンが空くまで待たなければなりません。大将閣下がおっしゃった輸送船のデリックですが、デリックでは30トンの重量物は持ち上げることができません。ですから、船での輸送は困難ですね」
波音「船での輸送が不可能だということが分かったところで、鉄道での輸送について考えてみましょう。まず、主要な幹線であれば輸送はできますが、幹線以外の地域では輸送が難しいというのが現状です。主要な幹線では、すでに電化工事が8割ほど完了しています。電気機関車は馬力が高く、牽引力も強いので、35トンの荷物を積んだ貨車を20両引くことができます。 しかし、幹線から外れた場合はどうなるでしょうか。おそらく線路は重さに耐えられずに破損してしまうでしょう。また、仮に線路が耐えられたとしても、引く機関車はディーゼル機関車か蒸気機関車になります。最近は少数ですが、ディーゼル機関車を鉄道省は導入していました。ディーゼル機関車なら15両くらいなら引くことができます。ですが、蒸気機関車なら10両以下でなければ無理です。戦車の輸送のために何編成も用意できるとは思えませんね。貨車にも問題があります。基本的に幹線用の貨車は4軸の貨車で、重量を分散できるのですが、地方の幹線以外の路線ではほとんど2軸貨車が主流です。これでは貨車が壊れるか線路が壊れるかのどちらかになってしまいます」
波音「私の個人的な見解ですが、兵器は必要なときに必要な場所に十分に用意できなければ、役に立たないと思っています。輸送できない兵器は、兵器と呼べるものではありません」
沈黙の中で、ひとりの手が静かに上がった。 皆の視線がそちらに向くと、小春六花が立っていた。
六花「確かに35トンなら難しいでしょうが、30トンクラスなら輸送は容易になります。もちろん予算は相変わらず問題ですけどね」
六花「今回は15トン戦車の試作が決まっているので無理ですが、30トン戦車を目指すことは不可能ではないと私は思っています」
葵「すみませんが、あなた方の生産施設では重戦車を製造することができるか技術的に無理だと判断したことも、提案を却下した理由の一つですよ」
六花「忘れているようですが、3Cグループには造船部門も
ありますから、製造は可能ですし、工場内に要塞砲用の設備があれば楽勝ですよ」
葵「わかりました。一応覚えてはおきますが、話を戻しましょう。15t戦車の計画では、戦車の導入台数を800から1000両にする予定です。形としては競合試作になりますが、要件を満たしている場合は各社から少数ずつでも導入される可能性があります。ですので、各社の努力を期待しています。」
桜乃そら中将が手をあげる。
そら「砲兵科としてのこの計画に対しての考えをお話したいと思います。私達砲兵科では、基本的に砲の移動等はトラックでの牽引や人馬を用いたものになっています。そして統一戦争のさいに、敵兵が砲兵に肉薄する場面に幾度か遭遇しました。砲兵科は他の兵科と比べると総合的な火力は高いですが、個人携行火器は貧弱であり、砲兵中隊が敵の肉薄攻撃で壊滅したという事例もたくさん報告されています。」
そら「現在砲兵科にも少量であっても戦車があれば、身を守りやすくなると考えています。また、戦車は強力な牽引力を有しておりますので、不整地等での進軍時は牽引車としての性能も期待できます。」
そら「なので戦車には余裕があればという話ですが、牽引設備を設置できるフックをつけてもらえると嬉しいですね。」
アリアル「それに関しては工兵も同感です。設備の移動や故障や擱座した車両の回収に役立ちますし、便利ですから。」
モチノ「茜戦車教導隊隊長としての発言はございますか?」
茜「私は現場の人間として、今までの戦車には2名乗務の戦車しかなかったことを指摘したいです。3名または4名の人員が搭乗できる車両だと、とても嬉しいですね。今までの2名だと、戦車長は周辺の監視や合図や無線や装填や砲撃をすべて担当しなければならず、負担が大きかったです。乗務員の負担を軽減させるようにして欲しいというのが、私達の要望です。」
モチノ「企業側からの質問等はありますか?」
東北きりたんが手を挙げる。
きりたん「今回の試作にお呼びいただきありがとうございます。私達極東北農機はトラクターで履帯を使用した製品を製造してはいますが、戦車の製造に関するノウハウは全くありません。特に砲塔の旋回装置に関する技術が不足しています。陸軍兵器開発局に技術的支援をしていただくことは可能でしょうか?」
モチノ「それに関しては、極東北農機にはスモールスプリング造兵廠から砲塔旋回装置技術の支援を受けていただくよう、小春六花さんにお願いしてあります。後日両社間で話し合って決めていただくようお願いします。」
ずんだもん「埼玉オートモービルからではダメなのですか?」
モチノ「埼玉オートモービルの技術は提携先のIHIが保有する特許が多く、国外との交渉が必要です。そのため技術支援が遅れる可能性が高いと判断しました。スモールスプリングに話をしてあります。」
ずんだもん「了解しました。不服はありません。」
六花「タダで教えてやるのに文句があるのでしょうか?」
ずんだもん「いえ、感謝しております。」
東北きりたんは若干不服そうな顔をしており、ずんだもんはなんとか納めようとしている。
冥鳴ひまりが手を挙げる。
冥鳴「試作事業に参加するにあたり、埼玉オートモービル工業も戦車の開発に関しては初めての事業です。外国の企業であるIHIと技術提携を受けて戦車の開発を行おうと思っていますが、他国企業に兵器の情報が流出することになります。その件に関しては問題がないと考えますか?」
モチノ「ボイチェビノイド連合内では、活発に技術共有して兵器開発を行っています。連合国内であれば、さほど問題はないと全員考えています。大丈夫だと思います。」
冥鳴「わかりました。今回の試作で良い成績を出せるよう努力します。よろしくお願いします。」
モチノ「他に質問のある方はいらっしゃいませんか?」
六花「こちらは何もございません」
モチノ「それでは今回の会議はここまでで終わりたいと思います。次は6ヶ月後の1939年3月20日に陸
軍の大訓練場で試作車両の試験でお会いしましょう。それではありがとうございました。」
会議が終わり、参加者たちは挨拶や握手を交わしながら帰り支度をして。
各々は自社の試作車両に期待と不安を抱きつつ、会場を後にします。
駐車場で集合した東北きりたんと枝豆ずんだもん春日部つむぎ冥鳴ひまりの4人は、車に乗り込み司令部を出た。
路肩に停車していた車に戻り、4人は別れた。
その前に、4人は今回の会議について感想を交わした。
きりたん「今回の会議は思ったより厳しい内容でしたね。戦車の要件が高すぎると思いませんか?」
ずんだもん「そうなのだ。私達は自動車も作ってるけど基本農機メーカーなのだ、戦車の製造には不慣れなのだ。技術的支援を受けられるとはいえ、試作車両を作るのは大変なのだ。」
春日部「私達は自動車メーカーだけど、戦車の製造にも挑戦してみたいと思っていますよ。外国の企業との技術提携もありますし、新しい分野に挑戦するのは面白いと思わない?」
冥鳴「私もそう思います。私達は自動車メーカーとしての実績がありますから、戦車の製造にも自信があります。外国の企業との技術提携は問題ないと思います。ボイチェビノイド連合内での技術共有が出来ますから。」
きりたん「そう言われても、私達は国内の企業と競合しなければならないのですよ。スモールスプリング造兵廠や埼玉オートモービル工業は戦車の製造に長けていますから、私達には不利言わざるを得ないです。」
ずんだもん「それは確かなのだ、でも私達も負けてはいられないのだ。私達は農機メーカーとしての独自性を活かして、戦車の製造に挑戦するのだ。」
春日部「私達も負けませんよ。私達は自動車メーカーとしての革新性を活かして、戦車の製造に挑戦しますよ。」
4人はそれぞれ自社の試作車両に期待と決意を込めて話した。
そして、4人は別れた。
その日の夜、琴葉葵中将は部下の来果中尉と共に司令部から少し離れた場所にある高級料亭にとある人物に呼び出されていた。
料亭の駐車場に着くと、駐車場にはすでにIHIのRIが2両と士官用軍用車が2両止まっていた。
来果中尉を車に待たせて、琴葉葵中将は料亭に入った。
外套と制帽を店の給仕に預けて、琴葉葵中将は廊下を歩き一番良い部屋に向かった。