観覧車とイチゴミルクの夢
公式企画「ゆめのなか」参加作品です。
「ゆゎーん、ゆゎーんってゆれるブランコがあって」
毎晩おやすみ前のパパのヘンな話がまた始まりました。
カイくんはもう小学校1年生なのに、パパったらカイくんが眠るまでとなりに寝そべって、ヘンな話をしたがるんです。
きっとパパはさびしいんだろうなってカイくんは思います。
だって、家にはパパとカイくんしかいないから。
パパはよく自分でシンパパだって言いますが、カイくんは古いパパを知りません。
カイジュウだってヒーローだって、シンが付いたら、古い方もいるのに。
「目のくりくりしたかわいい女の子が乗ってて」
何ソレ?
ボクが乗ってるんじゃないの?
ていうか、ボクは目がくりくりしてなくてかわいくないって意味?
ゆゎーん、ゆゎーんってどんなブランコかちょっと気になってたのに、なあんだ、カイくんは急につまんなくなってそっぽを向きました。
それでもパパの話はつづきます。
「のどかわいちゃったなって急に止まって」
は? だれが?
カイくんはまたくるりとパパのほうを向きました。
その女の子がのどかわいたの?
それ、ボクとかんけいある?
ジュースほしいって言っても、ボクにはおねしょするからダメとかいうくせに。
その子のお母さんって人が出てきて、おいしいジュースをもらって、めでたしめでたし、って話だな。
ボクにはお母さんってよくわからないけど。
パパはニヤリとして続けます。
「なかまに入れてあげてもいいよって」
なかまって?
ジュースはどこ行ったの?
のどかわいたのとなかまとどうつながってるの?
カイくんは顔いっぱいをはてなマークにしてパパをにらみました。
「カイくんに言ったらどうする?」
なんでそこでボクにふるの?
「どうもしない。ブランコ乗ってればって言う」
「あああ、カイくん、つめたいな~」
「何なの、ヘンなパパ。もうおやすみ~」
「ゆめのなかへ入るおまじないなんだよ。カイくんもいいゆめをみてね」
パパはカイくんの頭をなでながら、
「ゆうえんちへ行って、めんどくさいなあなんていいながら、のどかな春のひざしをあびて、なんどもかんらんしゃに乗って、帰ってきたいな」
と、となえました。
カイくんはすうっすうっとふかい息をしながら、ゆめの世界におちていきました。
ゆめのなかはゆうえんちでした。
パパとかんらんしゃに乗っていて、足の下にはおふねがういた湖がありました。
カイくんが顔を上げると、目の前には耳の上にリボンをつけた女の子がいました。
かわいいかどうかはよくわかりませんが、目はくりくりしています。
パパの向かいには大人の女の人がすわっていました。
「カイくん」
急に話しかけられてカイくんはドギマギします。
パパに抱きついてごまかすことにしました。
「お、高いのこわいのか?」
パパにからかわれましたが、かんらんしゃのせいにしておきましょう。
すわっているパパのおひざの間に立って抱きついておけばあんしん。
「次はふたりでゴーカートでも乗るか?」
カイくんはパパの声に大きくうなずきました。
だのにゆめの世界はゴーカートのシーンに変わりません。
なんどもなんどもかんらんしゃ。
でもなんどもゆらゆらあがっていくうちに、カイくんは高さにもけしきにもなれたみたいです。
女の子がさしだしてきたやわらかい手をにぎって、ふたりでかんらんしゃのまどべに近づいたりもしました。
大人の女の人がくれたイチゴミルクも、のんだ気がします。
朝になって目がさめて、そのしゅんかんはゆめの全部をおぼえていたのに、うぃーっとのびをして立ち上がると、すっかりわすれてしまいました。
朝はおおいそがしなのです。
パパがカイくんを車で小学校へ送ってから会社に行くからです。
教室に行ってもまだお友だちは来ていないので、まず保健の先生に会うやくそくになっています。
おおいそがしのはずなのに、小学校にとうちゃくしても、パパは車をおりようとしません。
保健の先生はもう、学校のげんかんで手をふっています。
「カイくん、今度、パパのゆめをかなえてくれるかな?」
「どんなゆめ?」
「カイくんと、保健の先生と、女の子とゆうえんちに行くゆめ!」
カイくんは、なあんだ、そうだったのかと思いました。
いなずまが走ったかのように、ぜんぶ思い出したのです。
白い服じゃなかったから知らない人だと思ったんだ。
ドギマギしなくてよかったじゃない。
イチゴミルク飲むのはいつも、保健の先生の部屋だった。
「ゴーカートも乗るんだったら行ってもいいよ」
カイくんはわざとぶっきらぼうに言って車をおりると、
「しっかりしないと、きらわれちゃうよ」
と、パパにしかめっつらをしてあげました。
そして、保健の先生のほうに向かって、いきおいをつけてかけだしました。
ーおわりー
読んでいただきありがとうございました。