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第6話 荒野と目つぶし

 マディの目の前には荒涼とした荒野が広がるばかりだった。空は不気味な紫であり、なんなのか良く分からない生き物も遠くに飛んでいる。

 そして、手元にはドアの枠がある。開いたドアの向こうにこの荒野が広がっている。

「なんだって....」

 マディはあまりの状況に呆然としていた。

 マディは魔術自体ほとんど見たことがなかったのだ。いきなりドアの向こうが異界だとか言われてもさっぱりだった。

 迷宮だの、魔物の王の城だの、世の中には冒険家やハンターがおもむく異常な場所があるのはマディも知っていた。

 しかし、それが今こうして目の前に広がっているのを目の当たりにするとまったく理解が追いつかなかった。思考がまとまらない。というか思考が始まらない。なにがなんだか分からなかった。

「おい、下僕。いつまでぼーっとしてるんだ。仕事だって言ってるだろ」

「え? あ、ああ」

 アリカに言われてはっと我に返るマディ。

 アリカの言うとおりだ。仕事だ。この中からこの異界の主を見つけなくてはならないらしい。

「いや、どうやって見つけるんだ」

 荒野はどこまでも果てしなく広がっているように見えた。

 ここから人ひとり見つけるとなるとかなり途方もないことのように思えた。

「人間のものさしで計るな。お前はもう魔族の範疇に居るんだぞ」

 アリカはそう言ってとうとう部屋の中に入るとパチンと指を鳴らした。するとアリカの後に奇妙な紋様が刻まれた大きな光の円が現れ、それがバキバキと音を立てた。何事かと思えばその円とともに景色にヒビが入り、やがて砕けた。

「なんだなんだ!」

 その向こうから現れたのは大きな黒い犬だった。いや、本当に大きかった。普通の一軒家の家屋と同じくらいはあった。そして、その瞳は8つもあり、すさまじく鋭い牙が口元から見えていた。

「この異界の主を探せ」

 アリカが言うと黒い犬はふすふすと鼻を鳴らし、辺りの匂いを嗅ぎ始めた。

 それがマディには怖かった。黒い犬からは感情というものが感じられない。普通の犬なら楽しそうとか怒っているとかなんとなく分かるものだが。いや、マディは犬には常に吠えられてきたので実のところそこまでは分かっていなかったが。しかし、それでも生物としての情緒はやはり犬には感じていた。しかし、この大きな犬にはそれがない。魔物でさえもう少し生物らしさがあるだろう。これはまるで犬の形をした生物でない別の何かのようだった。

「俺食われるんじゃないのか」

「心配するな。私に逆らったらどうなるか良く分かってる。私の目の前では食いはしない」

 じゃあ、目の前じゃなかったらどうなんだとマディは思ったが聞きはしなかった。

「こいつが探してくれるのか?」

「そうだ。異界に漂う気配を嗅いで、その元を探す。その辺りは普通の犬と変わりない」

 なるほど。この大きな怪物が今回の捜し物を見つけてくれるらしい。

 しかし、そうなるとマディには疑問が生まれた。

「じゃあ俺はなにをするんだ?」

 てっきり、探し出すのを手伝うのかと思ったがそれはこの犬の役目のようだ。ならばマディには役目はないように思われた。行方不明者の捜索で捜索する以外の仕事はマディにはあまり思いつかなかった。

「なに寝言言ってんだ。お前は戦闘要員だよ」

「戦闘? 俺はケンカなんかからきしだぞ」

 今まで殴られることばかりのマディだったが殴り返したことはなかった。争いになっても勝てる見込みなんてなかったからだ。いつだってマディは多勢に無勢で、しかも逆らうことなど出来ない立場だった。

 だから。戦うということそのものの経験が全然なかった。

 しかもそもそも、

「この犬が戦った方が早いんじゃないのか?」

「バカヤロウ。可愛い私の愛犬に荒事なんかさせられるか。これでも大事に育ててるんだぞ」

 なるほど、かわいいペットに戦いなんてさせられないので代わりにマディを戦わせるということらしかった。むちゃくちゃだ。

 どう見ても痩せたおっさんのマディよりこの怪物と形容するしかない黒い犬の方が強い。

 いよいよこの雇い主はめちゃくちゃを言い出したぞとマディが思っていると、

「お前の方は心配するな。私を見ろ」

「ん?」

 言われたとおりにマディがアリカに視線を合わせると。

「えい」

 勢いよくアリカの2本の指がマディの両眼に突き刺さった。

「ぐわぁああああああ!」

 当然のように痛みに叫ぶマディ。

「目が! 目が潰れた!! この人でなしがぁ!!」

「魔族だからな。それに単に目潰ししたわけじゃない。目を開けてみろ」

「開けてみろ!? 今お前が潰したんだろ!!」

「良いから」

 うっとうしそうに言うアリカ。人の目を潰して置いてなんて態度だと思うマディだったが、確かに不思議と両眼の痛みは引いていった。

 恐る恐る目を開けてみるマディ。

「なんだこりゃ」

 するとマディの目に映ったのは見慣れないものだった。

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