かんじ
ご飯を食べて7時30分には集団登校を行った。
集団登校。久しぶりにこの言葉を使った。
今でこそ、学校は色が塗り替えられてクリームみたいな変な色になってしまったのだけれど、目の前にあるのは記憶と同じ純白で、肩から腰にかけてひび割れたような古い校舎だった。
ちなみにこの学校、僕が通っている時期は屋上への立ち入りが自由、理科の実験や、工作の授業の絵を描くのに使うことができた。
校庭には、今はなき地球状の形をした遊具や、ジャングルジムがそのボロボロになった塗装を風に削られている。
教室に来て焦ったのは自分の席が分からないことだった。
記憶の中には沢山の歴代の位置が思い浮かんだが、それらすべては当たりの席の記憶であり、自分の席を見つけるのにずいぶんと時間がかかってしまった。
回りの子供たちはいつまでもランドセルを片付けない僕を見て不思議そうに噂をしているようだった。
ありがたいことに、机には名前が記入されていた事に気がつくと、安心して座ることができた。
教卓から数えて2つめの席。ここが僕の席だった。
小学校では何故か、机をくっつけた隣に女子が必ず来るように配置されていた。授業中でも手を伸ばせば髪の毛に触れることのできる距離だ。当然僕は機嫌をよくした。
まだ過去の相棒は姿を表していない。そのことにそっとため息をつきて気だるげな授業を受ける体勢をとった。
一時間目は国語の授業だった。国語ではまず漢字を覚える。
ツカツカと教室に入ってきた先生は楽しげに笑って手を叩いた。
「はい!では、漢字ノートを開いて……今日は何ページからかな?」
どきりとする。漢字ノートなるものは学校の机の引き出しに入っていなかった。奥まで手を突っ込んでも、あるのはぐちゃぐちゃになったプリントの感触と、忘れ去られていた鉛筆の感触だけ。ノートが見つからない。
しまった。ランドセルから出さないといけなかったのだ。
ビッ、と手をあげる。
「先生すみません。ランドセルからノートとってきてもいいですか?」
「授業が始まる前に準備をしなさい! 何やってたの!」
ヒステリー女だ……。うわ、先生ってこんな感じだったっけ?
しわしわのおばあちゃん先生は、真っ白なファンデーションで固めた皮膚にヒビをつくって怒鳴り散らかした。
「はやくとってきなさい!」
あんなり五月蝿かった教室がシンと静まり返って皆が見つめてくる。
その視線は非難するものもあったが、どちらかと言えば動物園でパンダを見つめるような視線が多かった。
気分がよかった。この瞬間、まるでアイドルみたいにみんなから注目を集めた僕は、教室の後ろがわの黒板に向かい、ズラズラズラ!!と漢字を並べ書いた。
それらはすべて常用漢字であるが、小学生で習うよりももっともっと難しい漢字が多分に含まれるもので、先生は、口をポカンと開けて見ているし、その顔があまりにも面白かったので教室では笑いが起きて洪水のようになってしまった。
小学生なので楽しいと席をたって暴れだすし、廊下に出るし、水道のじゃ口を前回にして回る等を行う同級生にほんのちょっぴりと引く。
先生はへそを曲げてどこかに行った。