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4、応接室

 和戸三吉は、ガラス玉の部屋を抜けて奥の扉を開け、次の()に入りました。

 そこは窓を広く取った明るいイギリス風の応接間でした。さっきまで居たガラス玉の部屋とは大違いの、落ち着いた部屋です。

 ふかふかの絨毯(じゅうたん)が敷かれ、真ん中に木のテーブルがあり、その周りに一人掛(ひとりが)けのソファが四脚あります。

 ソファの一つに小悟探偵が座っていました。部屋の雰囲気に合ったイギリス風の紅茶茶碗が探偵の前に置いてあり、うっすらと湯気が立ち昇っています。

 バタンッ!

 突然、うしろで音が鳴りました。

 振り返ると、たったいま三吉が入って来た扉が閉まっていました。どうやらバネ仕掛けで勝手に閉まったようです。

 ノブを回そうと試みましたが、やはり鍵が掛かって回りません。

「安心したまえ」ソファに座った探偵が、弟子の少年に言いました。「危険な人物じゃないさ。さっきも言ったとおり、ちょっと変わっているんだよ。鴨山博士って人は……でも悪い人じゃない」

 そして自分の隣の席を指さします。

「まあ、座りなさい」

「はい……」

 三吉は言われたとおり、探偵の隣のソファに座りました。

「サンプルに、標本になった気分どうだね?」と探偵が(たず)ねます。

「はい、ええと……なんか変な気分です」

「いきなり、あんな奇妙な部屋に閉じ込められて、バシャ、シャ、シャ、だからね。そりゃあ驚くだろうよ。きっと自動フイルム巻き上げ装置が付いているんだね。大した仕掛けだ。相当の資金を要したに違いない」

「やっぱり、あれは一種の標本採集なのですか?」

「そうだ。博士の専門は顔相(がんそう)解剖学だ。人間の顔を特徴ごとに分類するのも仕事のうちなんだろう。だから顔写真サンプルが欲しいのさ」

「だからと言って、自宅に来る人、来る人を(みな)あの部屋に閉じ込めて、勝手に写真を撮影するなんて、やりすぎじゃないでしょうか?」

「やりすぎだね。僕もそう思うよ。変人の変人たる所以(ゆえん)だ。その一方で彼の顔相(がんそう)解剖学者としての見識と能力は世界最高だ。いかにも変人らしく(いく)ら金を積まれようと気に入らない仕事は絶対にやらない性分らしいけど、気が向けば世界一の才能を僕らに提供してくれる。顔写真の一枚や二枚で取引が成立するなら、安い物だ」

 師匠である小悟探偵の言葉を聞きながら、三吉は膝に置いた書類鞄の端を握りました。

 鴨山博士には、変装を見破るための知識と経験があります。その分野では世界一の才能の持ち主とも言われています。

 例えば、変装前と変装後の顔写真を見比べて、それが同一人物であるか否かを正確に判断できます。

 同じように、整形手術前と後の顔写真を見比べて、同一人物か否かを判断できます。

 さらには、ピンボケ写真から被写体の顔を類推したり、顔が分からないほど痛んでしまった死体から元の顔を類推したりできます。

(博士は、小悟先生の願いを叶えてくれるだろうか?)などと三吉が思っていたら、ガラス玉の部屋へ通じる扉とは別の扉が開いて、一人の老人が現れました。

 鋭い目をした、痩せた老人です。

 手に銀の盆を持っていて、その上には紅茶茶碗が二つ載っていました。

 三吉はソファから立ち上がり「こんにちは、和戸三吉と言います。小悟探偵事務所で助手をやっています」と挨拶(あいさつ)しました。

 老人は三吉の前に紅茶茶碗を置き、もう一つを小悟探偵と相対(あいたい)する位置に置いて、その前のソファに座り、それから「鴨山だ」と少年に言いました。「座りたまえ」

「はい」

 言われたとおり、再びソファに座ります。

 鴨山博士、小悟探偵、三吉の三人が、四角形のテーブルの三辺にそれぞれ一人ずつ座る形です。

「さて、本題に入ろうか」と、博士が探偵に(うなが)しました。

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