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九龍懐古  作者: カロン
一六勝負
73/492

マカオと100万香港ドル・後

一六勝負2






遡ること、30分。



カジノフロア中心部、テーブルでバカラに興じる(アズマ)(イツキ)が冷めた目で見ていた。


(アズマ)、もうマーチンやめなよ」

「だって次は…次こそはくる気がして…」


マーチンとは‘負けたら2倍をベットする’、つまり勝つまでどんどん倍額を賭けていく手法。バカラでは必勝法とも言われている。

だが、100香港ドルから始めたとしても10回も連続で負ければ掛け金は5万香港ドルを越えてくる。(アズマ)は現在8連敗していた。


「ちょっと(イツキ)賭けてみてよ」

(アズマ)の予想手伝うと当たんないじゃん」

「俺抜けるからさ。(イツキ)の卓ってことにしたら当たるんじゃない?」


藁にもすがる思いで(アズマ)(イツキ)に席を譲る。(イツキ)はその椅子に腰掛け、これまでの出目の罫線(グラフ)とテーブルのチップを見た。

罫線(グラフ)、読んでもそこまで変わんないんだよな。しかも今めちゃくちゃバラバラだし…。そう考え、(イツキ)は特に迷いもせず残りのチップを全て(バンカー)側に押し出した。


「えっ全部いくの!?」


その額3万香港ドル。手持ちがもうそれしかなかった(アズマ)は上擦った声を出したが、負けが込んでいるのだから少しばかりを賭けて取り戻したところであまり意味は無い。


「ちょっとずつやっても回収出来ないし」

「まぁ…まぁそうね。うん、(イツキ)に任せる。ちなみに何で(バンカー)?」

「ブラッドオレンジのジュース飲んだから」

「理由ヤバイな」


椅子の背もたれに身体を預ける(イツキ)。その後ろから、肩越しにテーブルへと手を付く(アズマ)が場を注視する。

トランプが配られ、1枚、2枚と表になり、そして────




(プレイヤー)・4 (バンカー)・9’




「うぁ!!!!勝った!!!!」


(アズマ)が叫ぶ。

戻ってきたチップを5千香港ドルほど、今度は(プレイヤー)側に押し出す(イツキ)。当たり。再度(プレイヤー)にベット。これも当たり。


そこへ、気怠げに欠伸をしながら(マオ)が歩いてきた。


「当ててんのか(イツキ)

「あ、(マオ)。ポーカーやめたの?」

「腹減ってきたからな…ぁんだよ、(アズマ)がピーピー言ってんの見れると思ったのに」

「ウチの(イツキ)は最強なんですぅ!」


つまらなさそうな顔をする(マオ)(アズマ)がドヤる。全くもって本人の手柄ではないのだが。


それからもまた、的中、的中、的中。あまりにも連続で当てるのでいつのまにか周りにはギャラリーが出来ていた。

勝ち金は膨れ上がり、(イツキ)の前には山程のチップ。10万香港ドルに届きそうだ。

罫線(グラフ)はほぼ1番端まで辿り着き、最終ゲーム手前。(イツキ)(プレイヤー)側に全額を賭けた。


「えっまた全部いくの!?てか何で(プレイヤー)?」

「そろそろ終わりだし、(アズマ)の服青いから」

「待ってそれハズレるフラグじゃない!?」


トランプが配られる。全員が固唾を呑み注目する中、少しずつ(めく)られていくカード。その数字は─────




(プレイヤー)・7 (バンカー)・8’




「あれ、ハズレた」

「ほらぁ!!!!」


キョトンとする(イツキ)と悲鳴を上げる(アズマ)


バカラはワンゲームが数十秒と早い。即座にチップとカードが撤去され、瞬きのうちに開始する最終ゲーム。

掛け金がゼロなのだから特に卓にいる必要もないが、(イツキ)(アズマ)も何となく行末を見守る。



(プレイヤー)・6 (バンカー)・6’



結果は引き分け。と、観衆がどよめいた。


2人は(マオ)の手元に視線を向ける。いつのまにか賭けられていたチップ、その額と場所は────引き分けに2万香港ドル。


「マジ!?」


目を見開く(アズマ)引き分け(タイ)に賭けて当たれば配当金は8倍、大勝ちである。


「なんでタイが来るってわかったの!?」

「うっせぇな眼鏡…別に、たまたまだよ」


(マオ)は答えたものの、本当は微妙に根拠があった。

 

カジノではイカサマは無しということになっているが実際いくらかの調整(・・)はされる。

前ゲーム、(イツキ)のフルベットがカジノ側に回収されるのは恐らく決定事項だった。

かといってこのまま客を負けさせて終わるのでは‘夢’がない。最終ゲームで人々を惹きつける偶然(・・)…それは滅多に出ない引き分け(タイ)

タイは配当金がデカい、くれば盛り上がるし誰かが当てればギャラリーにも希望を与えられる。ディーラー側は今一瞬損をしたとて、‘夢’を見たカモ達がその後に使う金額と比較すれば釣りは充分。

だからきっと、引き分け(タイ)にする。これはこの先の為のパフォーマンス。


だがやはり額によっては当ててこない(・・・・・・)可能性がある、そう考え(マオ)はギリギリのラインを張った。まさにエンターテイナーの思考。


「ほら(イツキ)、半分チップやるよ」

「え?いいの?」

「お前が賭けてたから勝てたようなもんだ」

「ねぇ(マオ)俺には…?」

眼鏡(テメェ)は見てただけだろ」

「お金出したもん…」

「じゃあ(アズマ)これ一緒に使う?」

「うわー!!(イツキ)優しい!!」

「おい、甘やかすなよ(イツキ)


話しながらバカラのテーブルを離れ、スロット大会の会場へ向かう。2つほどホールを抜けてたどり着いた先にはひしめき合うスロットマシン、輝く巨大スクリーンには(カムラ)の顔がデカデカと映し出されていた。


「何してんだ(アイツ)…あ、フリー入ったのか」


(マオ)が眉を上げて言う。どうやらフリーゲームを引いたプレイヤーを代わる代わる画面に表示しているようだった。モニター越しでも(カムラ)の緊張と冷や汗が伝わってくる。


会場を見渡す(アズマ)が疑問を投げた。


燈瑩(トウエイ)居なくない?」

「メッセージ来てる。アフタヌーンティー食べてるから棄権(パス)(カムラ)のこと宜しくって」


携帯をイジりつつ答える(イツキ)。えーじゃあ俺が代わりに出たかったよと(アズマ)は口を尖らせた。


(カムラ)勝ってるのこれ?」

「そうでもねぇな。高確率中(フリーゲーム)で全然コイン増えねぇとかあんのかよ、あの饅頭(まんじゅう)…」


携帯から会場へと視線を戻した(イツキ)の質問に(マオ)は肩をすくめる。慌てふためく(カムラ)を大写しにするスクリーンが面白く、(イツキ)は記念に写真を撮った。


残り時間はあと30秒、実質ここが最後の勝負。目を白黒させながらボタンを連打する(カムラ)を、3人は遠くから生温かく見守った。






◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆






「…で、なんだこの不甲斐無い結果は」

「しゃーないやん!俺かて頑張っててん!」


電光掲示板を見詰めてため息をつく(マオ)(カムラ)が抗議する。

(カムラ)の名前は遥か下方、順位表のビリから2番目にあった。ちなみに1番下は参戦しなかった燈瑩(トウエイ)なので実質(カムラ)がドベである。


「フリー2回きてこんなんなるかよ」

「出ぇへんかったんやもん!!」


(カムラ)は短時間でフリーゲームを2回引き当てるという奇跡を起こしたものの、その千載一遇のチャンス中に図柄が全く揃わないという奇跡も起こした為コインは1枚たりとも増加しなかった。

そのまま特に巻き返すこともなくランキングはご覧の通り。



ほどなくして、通路の向こうから腕に様々な店の紙袋を提げた燈瑩(トウエイ)と両手に鶏蛋仔(エッグワッフル)を持った大地(ダイチ)がやってくる。


燈瑩(おめぇ)はなんでそんなことになってんだ」


明らかにキャパオーバーな大量のショッパーを目にして、(マオ)が眉間にシワを寄せた。爆買いが過ぎる…洋服だろうか?お菓子や小物もありそうだ。


大地(ダイチ)がみんなにも買おう、って言うから」

「えーなになに?見してよ中身」


こともなげに言う燈瑩(トウエイ)から荷物をいくつか預かりつつ、(アズマ)が中を覗き込む。(イツキ)大地(ダイチ)がくれた鶏蛋仔(エッグワッフル)をかじりはじめた。


「じゃあ結局誰も勝たなかったの?」

「俺ぁ勝ったよ。大地(おめぇ)の兄貴が情けねぇ戦績を残しただけだ」

(アズマ)だって素寒貧(すかんぴん)やんか!!」

「俺はわけてもらったもん。ね、(イツキ)

「はれはまほがはったはつははら」

「なんて?」

「もーいいから飯行こうぜ。(マオ)様腹ペコ」


やいやい言いながら、一同はカジノを後にしレストランへ向かう。

実はこのとき新たなトラブルの火種が生まれていたのだが…まだ誰1人としてそれに気が付くことはなかった。


(樹が撮った上の写真は、しばらく東のPCのスクリーンセーバーを飾った)

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