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九龍懐古  作者: カロン
枯樹生華
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手紙と金塊

枯樹生華8






「…あれ、手紙だ」


【東風】のポストを開いた(イツキ)の目に、可愛い花柄の封筒が飛び込んできた。

差出人には‘紅花(ホンファ)’と書いてある。




あの夜、紅花(ホンファ)を祖母のもとへと送り届け、別れ際に(イツキ)はいつかのように指切りをして同じセリフを口にした。


‘俺は、ずっと紅花(ホンファ)の味方だから’。


紅花(ホンファ)も頷いていたものの、それからしばらく音沙汰が無かった。

やっぱり嫌われたかな…と(イツキ)が思い始めたところに届いた手紙。


困ったことがあれば連絡してくれと伝えておいた【東風】の住所が役に立った。

手紙が来たということは元気にしているということ───だが、なにか困った事があったって可能性もあるな。困ったら連絡してくれって言ったんだし。


安心したりソワソワしたりしながら(イツキ)はテーブルで封筒を開く。(アズマ)が横からヒョイッと覗き込んできた。


「え、紅花(ホンファ)ちゃんから?何だろう?」

「さぁ…全然わかんない…」


2人で便箋に視線を落とすと、そこには愛らしくて丸っこい文字で紅花(ホンファ)の近況が綴られていた。


祖母と仲良く暮らしていることや、新しい土地での生活にも慣れてきたこと。【東風】のみんなと遊びたいことと、貰ったぬいぐるみから金塊が出てきたこと。


「え!?金塊出てきたの!?」

「さぁ…全然わかんない…」


驚愕の表情を見せる(アズマ)(イツキ)は適当に受け流す。


とはいえ(イツキ)も知らなかった。燈瑩(トウエイ)が、自分と(マオ)からだと言って最後に渡していたあのぬいぐるみ。中にコッソリ入れていたのか…道理でやけに重たかったわけだ。


当面の生活費に困らないようにと餞別代わりに2人で出したのだろう。はじめに言っておいてくれたら良かったのにと(イツキ)は思ったが、(マオ)はそういうことを話すタイプではないなと考え直す。

きっと金塊(このこと)について(イツキ)が礼を述べても、何の話だようるせぇななどとしらばっくれるだろう。




(イツキ)、また紅花(ホンファ)に会いに来てね。待ってるからね。’




手紙はそう締め括られていた。


何か伯父(おじ)の家から必要なものはあるかと(イツキ)が聞いたときに、紅花(ホンファ)が答えたチョコレートの箱。

あのあとキチンと回収したが、それから【東風】に置いたままになっている。

今度届けに行こう、お菓子もたくさん持って。


「おはよぉっ!…ん?何読んでるの?」


明るい挨拶と共に【東風】の扉を開けた大地(ダイチ)が、(イツキ)の手元を指差す。


紅花(ホンファ)からの手紙」

「え、ホンマ?なんて書いてあったん?」


(イツキ)の返答に、続いて入ってきた(カムラ)も興味津々だ。


「おばあちゃんと仲良くやってるって」

「へぇ、良かったやん」

「あと金塊出てきたって」

「金塊?なにそれ?」

「俺だって金塊欲しいよ!!」

(アズマ)の要望は誰も聞いてないよ」


ワチャワチャとやっていると燈瑩(トウエイ)が【東風】の扉を引いて顔を出し、気付いた(アズマ)がすぐさま叫んだ。


燈瑩(トウエイ)!!金塊ちょうだい!!」

「は?何いきなり」


事態が飲み込めない燈瑩(トウエイ)に、(イツキ)紅花(ホンファ)からの手紙が届いたと説明する。


燈瑩(トウエイ)は笑って、あの倉庫街での話し合いの時───伯父が素直に手を引けばその後の余計な問題は生まれずに済んだし、伯父を片付ける(・・・・)事になれば伯父が持っていたルートが浮く。なのでそれを貰う算段だったからどの道いずれ余る予定のお金だった、(マオ)にとっても同じようなもんだよと答えた。


「じゃあ俺にも金塊わけてよ」

「何で(おまえ)にわけなきゃいけないのよ…(ヒョウ)さんの薬のルートならわけられるけど」


欲しい欲しいと駄々をこねる(アズマ)に呆れ顔で応対する燈瑩(トウエイ)

金塊ではないが予期せぬ提案に(アズマ)は反応し、しばし考え込む。棚からぼた餅…まさにゴネ得だ。


(アズマ)なんにもしてないじゃん」

「そんなことないもん、俺だって紅花(ホンファ)ちゃんにいっぱい贈り物するもんね。未来のイイ女も大切にするって言ったでしょ」


(イツキ)の言葉に得意気に答える(アズマ)に、ますます冷ややかになった(イツキ)の視線が刺さる。


「とにかくさぁ、会いに行こうよ」

「うん。大地(ダイチ)が来たら喜ぶよ」

(イツキ)が1番やろ。俺また運転するで」

「俺がしてもいいよ」

「いや、燈瑩(トウエイ)さんの手ぇはわずらわせられへん」

「俺紅花(ホンファ)ちゃんに何持ってこっかなぁ」

「え、(アズマ)は留守番だよ。定員オーバーで(マオ)乗れなくなるじゃん」

「なんでよ!!ミニバン借りてよ!!」


ああでもない、こうでもない、と騒がしい【東風】店内。



結局6人で紅花(ホンファ)のところへ遊びに行くことになり、ミニバンを借りるのも運転するのも(アズマ)という事態になるのだが……それはまた後々の話だ。







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