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九龍懐古  作者: カロン
偶像崇拝
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‘もどき’とぽっちゃり

偶像崇拝10






その後、車は途中で乗り捨て、大地(ダイチ)を迎えに行くという(カムラ)に付いて一同は徒歩で【宵城】へ向かった。


部屋に着くなり(マオ)にハチャメチャに嫌そうな顔をされたが、大地(ダイチ)はお土産の天仔(テンちゃん)BIGぬいぐるみをたいそう喜んだ。大地(ダイチ)が抱くとよりいっそう人形が大きく見える。部屋に飾るんだぁと嬉しそうな大地(ダイチ)を見て、持ってきて良かったなと(イツキ)は思った。


あの三輪自動車は燈瑩(トウエイ)が用意してくれたらしい。逃走手段で有ったら便利かも知れないから買っといた、使い終わったらどこかに放置していいよと(カムラ)に連絡があったそうだ。

新たに入手したUSBを(カムラ)へ渡すと、中身を確認し次第燈瑩(トウエイ)と手分けしてまた四方に情報を流すとの事だった。これで【天堂會】はかなり追い詰められるだろう。


その日は朝になるのを待ち各々帰路についた。


(アズマ)は一晩中(マオ)に小突き回されて、寝不足でグッタリしたまま【東風】に戻りパソコンを開く。だが、スクリーンセーバーを変えられていることをすっかり失念。ロックを解除するやいなや画面いっぱいに飛び出した恐ろしい顔のお化けに悲鳴を上げ、帰宅後も全く眠れなかった。





【天堂會】と【和獅子】の抗争の行く末は、翌日に判明。死者多数、双方にかなりの痛手。【天堂會】はこの件に関して(おおやけ)に声明を出した。


〈我々はただ人々の幸せを祈り、尽くしているだけ。(いわ)れなき暴力による平穏の破壊は、断じて許容出来ない───〉


だがUSBのデータもしかり、他方からリークされた殺人及びドラッグや臓器売買・地下室での人体実験の情報、マフィアや【和獅子】のメンバー達による裏取り等で、【天堂會】は段々と逃げ場を失くしていった。

ぬいぐるみやキーホルダーを全て無償で配ったり積極的に集会を開いたりとイメージ回復を図ったが────マフィアの制裁を恐れた闇医者達が運営から手を引くと、もはや信者も離れて献金もわずかな【天堂會】に手段は無く。



数週間後。

【天堂會】は、九龍の街から跡形もなく消えていた。






◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆






「良かったな、スーパーとカジノ無くなんなくて」


穏やかな昼下り。【東風】の店内で、椅子に座ってパイプをふかす(マオ)が足元に転がる(アズマ)を踏みつけつつ言う。


(アズマ)は【天堂會】からかっぱらってきた高級ドラッグを売りさばき先日の博打の負けを精算したものの、その夜再び大負けしたせいですぐさま首が回らなくなり、金を払えずまた(マオ)にボコボコにされていた。


「成分の解析は出来ているんです…もう少し時間を下されば同等のドラッグを自主制作し、販売して、利益を出せますから…」

「うるせぇ死ねクソ眼鏡」


ゴニョゴニョ呟く(アズマ)(マオ)が蹴って転がす。ギャンと悲鳴が聞こえた。


「ほんまに【天堂會】追い出してしもたな…やけどあいつら散々儲かったやろ、マフィアに()られる前に出て行けて良かったんちゃう?」


特売のチラシを広げる(カムラ)。閉店を免れた例の激安スーパーのもの。載っているのは中流階級向けの質の良い食べ物なのに、他の店と比べてかなり安い。今日(カムラ)と一緒にここへ買い物に行く約束をしている(イツキ)は、チラシを覗き込みお菓子の欄の商品に胸を弾ませた。


天仔(テンちゃん)BIGぬいぐるみは相変わらず大地(ダイチ)の部屋に飾られているようで、なんなら毎晩抱いて寝てるとの報告を受けた。小さな方と並べると親子みたいで可愛い!と大地(ダイチ)は満足そうだ。親子というか大地(ダイチ)(カムラ)といった感じもしそうだが。


これは燈瑩(トウエイ)に聞いた話だけれど、香港島側で【天堂會もどき】の広告を見かけたらしい。似たような銅像に似たようなキャラクター。もともと九龍城外(そと)から来たマフィア崩れも幹部にいたのだから、香港島(そっち)で復活を果たしていたとしてもなんら不思議はない。商魂たくましいことだ。とはいえあちらは九龍の様な無法地帯ではないので活動にだいぶ制限がかかるだろうから、どんな宗教になるのかにわかに気になる。

前みたいにキーホルダーあったら貰ってくるよ、と燈瑩(トウエイ)は笑っていた。





「よし、行こか(イツキ)大地(ダイチ)待っとるし」

「待って(イツキ)!!行っちゃうの!?」


(カムラ)の声に立ち上がった(イツキ)の足に、(アズマ)が縋り付いた。閻魔のような(マオ)と2人で残して行かないでくれ…という懇願だ。しかし(マオ)が閻魔になっているのは(アズマ)の行いのせいである。


(アズマ)を振り払いつつ(イツキ)は代案を出した。


燈瑩(トウエイ)呼べば?」

「あいつが俺を助けてくれると思う!?」


(アズマ)の叫びに返答しない(イツキ)


言っといてなんだが、思わない。けれど別に(イツキ)とて、ここに残ったからといって(アズマ)を助ける訳ではないのだ。


「あれ?出掛けるの?」


【東風】のドアが開き、()()くあらわれた燈瑩(トウエイ)が皆を見渡した。


「うん、噂の激安スーパー。行く?」

「行かないで!!俺を助けて!!」


(イツキ)の誘いに(アズマ)の嘆願。燈瑩(トウエイ)は微塵も考える素振りをせず、行こうかなと言った。

非道!!外道!!と泣きわめく(アズマ)の声を背に、3人で【東風】を離れる。



「あっ(イツキ)、これ持ってきたよ」


道すがら、燈瑩(トウエイ)がポケットから何かを取り出した。ユラユラと揺れるそれは【天堂會】…ではなく、【天堂會もどき】のキーホルダー。どうやら市内でゲットしてきた模様。


キャラクターは微妙に変わっていて以前よりかなりぽっちゃりとしていた。これはこれで可愛い。大地(ダイチ)のぶんも調達してきたらしく、ぽっちゃりさんがもう1人ポケットから顔を出している。

(イツキ)はキーホルダーを眺めながら、もし次のチャンスがあったら俺もぬいぐるみ欲しいかも…と薄っすら思う。





晴れた午後の九龍城砦。ぽちゃぽちゃとした愛らしいキーホルダー達が、太陽の陽射しを受け、ニコニコと笑っていた。

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