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九龍懐古  作者: カロン
雲淡風輕
487/492

城砦暮らしとルーティンワーク・中

雲淡風輕2






「どうよ?新作の毛茸茸(もふもふ)熊猫(パンダ)は?」

「ほひひい。マヒュマロははひひ」

「おっ!そこは結構こだわったとこで、熊猫(パンダ)マシュマロ自体はよくあるしアクセントでポーズを1匹1匹変えてみたんだわ!」

「うん」

「つってもマシュマロだけってのもありきたりだから周りに粉砂糖をフワフワつけてモフモフ感出してな、鶏蛋仔(ワッフル)のタネと中に詰めてる生クリームは笹の葉カラーのイメージで抹茶粉末を混ぜ込んで黄緑にして上からもパウダーかけて」

「うん」

「抹茶はもちろん日本から仕入れてるから高級品だぜ?苦味が効いてるのが甘さとマッチしてイイ感じなわけよ!んで、クリームに乗っけた熊猫(パンダ)の横にオマケで竹を模した抹茶百奇(ポッキー)もさして豪華さアップ!仕上げにはホワイトとグリーンのチョコスプレーまぶして、全体の色の統一感も意識してんの」

「うん」

「プラス、生地へホワイトチョコチップを溶け込ませることで時間が経っても普通のモンより柔らかくて食べやすいんだぜ、ってそりゃ(イツキ)くんの食べる速度なら関係ねーか!ははっ!」




─────よく喋るお祭り男。




お馴染み鶏蛋仔(ワッフル)屋店内。キッチンから声を飛ばす店長へ、ホールで口をモゴモゴさせながら相槌を打つ(イツキ)


(レン)も料理の話になると口数が多いが…店長も負けてないな、これがコック…考えている(そば)から配給される鶏蛋仔(ワッフル)。トッピングの熊猫(パンダ)のポーズがうつ伏せから仰向けにかわっていた。寝返り。


この新作は、現在(くに)()げて行われている熊猫(パンダ)イベントに乗っかって開発したと語る(ワン)流行(ハヤ)りを逃さない商売人。香港政府は〈パンダエコノミー〉などと称して様々な催し物を計画し、観光客誘致に力を入れたいと意気込んでいる。(イツキ)は先程テレビで流れていたニュースを回想しつつ、スヤスヤ眠っているマシュマロを起こさないようにひとくちでパクリといった。気遣い。楽しげに新商品の解説を続ける(ワン)へ再び相槌を打つ。


しかし───(ワン)はちょっと、以前と話し方が変わった。口調が砕けたと表現するのが正しいか。とにかく、前より距離が縮まったような…妮娜(ニナ)さんの件があったから…?鶏蛋仔(ワッフル)を吸い込むかたわら思索する(イツキ)の隣で、廿四味茶を啜り健康志向(ダイエット)に励む(カムラ)がタイミングよく話題を挟んだ。


「味見に妮娜(ニナ)さんも呼んだら良かったやん。毛茸茸熊猫(これ)可愛(かわえ)えし」

「いやいや!たまに(ここ)に来てもらえるようになったからって、新作出す度にお誘いしてたら鬱陶しいじゃん!」

「そうか?老豆(パパ)はちょいちょいフリマん呼んどるぽいで」

(チャン)(チャン)だからいいの。(カムラ)くんだっていつも彼女を誘うのマゴマゴしてるくせに」

「そっ…そら、まぁ…そやけど」


壁にかかった(ヨウ)のサインをびしっと指差す(ワン)に、さっそくマゴつく(カムラ)(イツキ)毛茸茸(モフモフ)熊猫(パンダ)でモサついている口のまま(カムラ)へ助け舟。


「へも今週デートふるんへひょ」

「あ、うん。せやね」

「マジ?鶏蛋仔(ワッフル)持ってく?」

「すぐ鶏蛋仔(ワッフル)持たそうとしよるな。無料(タダ)でくれ過ぎやろ、毎度毎度」


(ワン)の言葉に(カムラ)は手をパタパタと振る。今日だって、新作熊猫(パンダ)大地(ダイチ)くんに持っていってあげてよ!との連絡のもと召喚されたのだ。こうも貰ってばかりいては気が引ける。

(カムラ)の台詞を受け破顔する(ワン)は、‘みんなには世話んなってるからね’とサムズアップ。ヒーロー(・・・・)の恋バナへ焦点を戻した。


「デートは熊猫(パンダ)見に行くの?星光大道(あそこ)じゃ人が多過ぎて騒ぎんなっちゃうか」

「あー…遊園地とか夜市ん時に平気やったから、大丈夫とは思うけど…今回は郊外のショッピングモールでも行こかなて。前に約束しててん」


けど(ヨウ)熊猫(パンダ)見たいゆうたら熊猫(パンダ)行く、と付け足し、(カムラ)は照れくさそうに鼻の頭を掻いた。(イツキ)は手持ちの鶏蛋仔(ワッフル)の具材ではギリギリ低カロリーそうな部分、抹茶百奇(ポッキー)を1本引き抜き(カムラ)へ差し出す。チアスティック。礼を述べて受け取る(カムラ)は‘美味(うま)そなレストランあったらチェックしとくな’と微笑んだ。レストランの単語に、ふと思い出す(イツキ)


「ほうひえば龍津の曲がり(はど)茶餐廳(チャーチャンテーン)が改装ひては。レイハウト変えるのはは」

「あぁ、こないだの黑色暴雨(ブラックレイン)で水浸しんなってコンクリのヒビやべぇんだと。電気系統もやられたもんな」


首をコテンと横に倒す(イツキ)へ、食べ比べ用のノーマル生地鶏蛋仔(ワッフル)を渡した(ワン)は肩を(すく)めた。廿四味茶の紙コップを(かたむ)ける(カムラ)がまばたき。


「店長、事情通やんか」

「たまたまね。俺が昔はビル改修とかに噛んでたの知ってる人達から、今も‘直すの手伝って’みたいな話がくんだわ。山景大廈の15階も頼まれた、台風で屋根飛んだって」

「やったったらええやろ?お祭り好きやし」

「歳だし腰痛いし無理無理!年寄(みんな)はずっと俺んこと‘若造’だと思い込んでっけど、俺が(わけ)ぇの見呉(みてくれ)だけだもん!」

見呉(みてくれ)は自分で‘若い’ゆうねんな」

「へは、14(はひ)までひか(ふふ)っちゃ駄目(はめ)はんひゃはいほ」

「かまうかよ。泣く子も黙る三不管だぜ?(ワイ)ジイさんの歯医者入ってる建物なんて18階あるし」

「それ1番城壁側の建物(やつ)やん。さすがにバレんちゃうん、内側ならまだしも」

「中の階段で上手く分けてんの、外から窓数えれば14階建てだから平気。いいんだよ啟德機場(くうこう)發脾氣(ブチギレ)ねぇうちはさぁ」

飛行機(ひほーひ)ぶつはりほーはらメートル制限(へいへん)ひたらよかっはんひゃはい」

「んにゃ、メートル制限もしてる」

「え?ひへふの?」

一応(いちおう)45m。でもキッチリ高さ測ってるわけじゃないしな、ジャンボジェットの腹(こす)んなきゃセーフセーフ」


手振りをつけて説明し愉快そうに笑う(ワン)に、(イツキ)鶏蛋仔(ワッフル)を吸引して首肯。ダラダラ続く無法地帯トーク。


と、(イツキ)のポケットの携帯が震えた。取り出して画面を確認。微信(メッセージ)(マオ)、‘お前ら夜は家に居るか?’。

お前()というなら(アズマ)も含む。(アズマ)出掛(でが)けに競馬新聞と睨めっこしていた。四連単、外す予感がする…今夜は食材を買いには出ないだろう…。(イツキ)が‘居る’とレスすれば、あとでジジィから菓子が届くから分けてやるよとの返信。追記で‘十尾(チビたち)から美味(うめ)ぇってお墨付きらしいぜ’とインライン。


やりとりをポヤンと眺めていた(カムラ)が、スクリーン隅の時刻表示に目を留めるやいなや慌てて声を張った。


「うわっもうこないな時間か!スカウトのほうの仕事行かなあかん!寺子屋寄れへんわ、大地(ダイチ)鶏蛋仔(ワッフル)どないしょ」

「俺が持っへくよ。寺子屋(あっひ)方面の配達もあるひ」

「えっホンマ?すまん、助かる!店長もおおきにな!」


茶を飲み干し、挨拶もそこそこにドタバタ騒々しく店を出るラッキーバンズ。平安。後ろ姿を見送った(イツキ)は、(ワン)より大地(ダイチ)への土産を預かり、更に自身も3つほど追い鶏蛋仔(ワッフル)をキメたのち、配達業務をゆるゆる再開した。

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