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九龍懐古  作者: カロン
落花流水
470/492

お裾分けと黃綠醫生

落花流水9






新しく購入した月餅型のクッション、墨綠。玄関に飾られた田雞(かえる)の紙細工、淺綠。窓際の發財樹(パキラ)、深綠。果物カゴの楊桃(スターフルーツ)青色(きみどり)


「なんか緑色の物が増えたね」


昼中(ひるなか)の【東風(たまりば)】。ソファに腰掛ける燈瑩(トウエイ)は、店内を見回し感想を述べ、それから手元の湯呑みを覗いた。茶葉は碧螺春、萌黄色。駄目だろうかと不安気なオーラで綠豆糕を頬張る(イツキ)へ駄目ということではないと笑う。

(うま)そうじゃん綠豆糕(それ)’と評した(タクミ)(グルメ)は嬉々として手持ちを半分こ、味見を(うなが)す。信頼と実績の九龍ミシュラン。急須に湯を()ぎ足す(アズマ)がキッチンから質問を飛ばした。


「そんで?【獣幇】が香港のチンピラ達に目ぇ付けられてんだ?」


燈瑩(トウエイ)一瞬(いっしゅん)だけ(アズマ)を見て、すぐにまた(イツキ)へ顔を向け、‘俺も一口(ひとくち)貰おうかな’と綠豆糕を指差した。モゴモゴとなにかを言って小片をわける(イツキ)、相槌を打つ燈瑩(トウエイ)。返答を待つ(アズマ)。更にモゴモゴと何かを言う(イツキ)、相槌を打つ燈瑩(トウエイ)。返答を待つ(アズマ)


「…ん?…えっ?無視!?」

「チンピラにってか、チンピラを雇ってる奴らにって感じ。俺らが相手した連中の他にも【獣幇】に絡みにきてる雇われが居るみたい。衙塱道辺りのイザコザっつーのもそうっぽい」


声を張る(アズマ)へ、一向(いっこう)に答える気のない様子の燈瑩(トウエイ)に代わって(タクミ)が補足。燈瑩(トウエイ)の横に並んでぽやんとソファに座る(カムラ)が顎を(こす)る。


「そいつら差し向けてきた組織っちゅうのが【天満會】やないか?ゆう話ですね」

「うん。【天満會】、ていうか(よう)は結局【天堂會】だよね」


貰った甘味を口へ運びつつ首肯する燈瑩(トウエイ)


襲撃から数日、チラホラ確認した武器輸入のルート。かねてより付き合いがある取引先や周辺に目立った変化は無し。襲撃の依頼主は古株ではなく、急成長した新興勢力の確率が高い。直近で進境著しい団体、九龍に遊びに来る(・・・・・)半グレ共、城砦内でさざ(なみ)を立てている新手の宗教、(まと)にかけられた【獣幇】。点と点を繋いで物語を創るなら───仕掛けてきた大元(おおもと)のグループは【天満會】、そして【天満會】は【天堂會】の枝分かれ、そのストーリーが1番しっくりくる。


「【天堂會】は【和獅子】と揉めてるじゃない、前に。だから()るならまずそこからって感じなのかも」

「よぉ根に持つな…(やっこ)さんら…」


トントンと両手の人差し指をくっつける燈瑩(トウエイ)(カムラ)(うな)る。


前回【天堂會】が九龍(こちら)で幅をきかせていた時、そこに殴り込んでドンパチを繰り広げた末に城砦から追い出したのは【和獅子】だ。しかし【和獅子】は以降段々と人数が減少、現在そのポジションには【獣幇】が台頭してきており【和獅子】のメンバーも【獣幇】に(くみ)している者が(ほとん)ど。もはや‘統合され傘下に入った’と説明づけてもほぼ相違はないだろう。であれば、【天堂會】が目の(かたき)にする相手が【獣幇】だという理屈はまぁ正当。


5個目の綠豆糕の包装をパリパリ()(イツキ)が疑問符。


「【獣幇】狙ってきたら正体バレちゃわない?チラシもおんなじようなのだったし」

「んー、【天堂會】と揉めたのも【獣幇】が台頭してきてるのも周知の事実って訳じゃないし…【獣幇】自体も敵はそこそこいるし、あとあんまり気ぃ回る(・・・・)奴らじゃないし…とか、理由つけるなら色々つけられるけど」


最悪、金だけ回収して【天満會(シッポ)】切ればいいって思ってるからでしょ。言いながら燈瑩(トウエイ)は指をチョキチョキ動かす。

尻尾はいくらでも生え変わらせれば冇問題(いい)。むしろ、そちらを派手に動かし注目を集めれば裏での仕事(・・)がしやすくなる、という魂胆も垣間見える。


「【天堂會】ってあのマスコットキャラの可愛いとこだよな。九龍(こっち)で稼いだ金とかスポンサーは前にボコられた時に無くなったんなら、今は収入どうしてんの?新キャラグッズ爆売れってこともないだろ。お布施だけ?」


そう不思議がる(タクミ)の【天堂會】への印象は天仔(てんちゃん)大分(だいぶ)持っていかれているが、確かに収入(そこ)は不明瞭だった。チョキチョキさせていた指を揃えて空中に小さく円を(えが)燈瑩(トウエイ)


「密輸とかにも手ぇ出してはいるみたいだけどメインの資金源じゃなさそう。国外(そと)からってよりは国内(なか)でお金回してるのかな、九龍(こっち)に居た時も上手くやってたから…にしてもお布施過多(・・)だけど」

「国内…香港内っちゅーと、ポピュラーに薬とかも(さば)いとるんすかね」

「でも【天堂會】、最後は組んでた医療関係の奴らに見放されて潰れた訳よね。今香港にツテないと思うけど。こないだ九龍(こっち)で揉めてた製薬会社も廈門(アモイ)行ったし…ねぇ?」


(カムラ)の予想を受け、急須を(たずさ)えキッチンから出てきた(アズマ)が私見を混じえて燈瑩(トウエイ)に話を差し戻す。燈瑩(トウエイ)は今度は(アズマ)へ見向きもせず黙って茶を啜った。


「ちょっとぉ!?燈瑩(トウエイ)ったらさっきからなんで無視するのぉ!?」

「お前のせいで(ワン)の方面も面倒(めんど)いことになったからだろ、しゃーない」

「えぇ?それもう落ち着いたんでしょ、情報とれたんだしプラスってことにしといてよ。なんなら俺が喧嘩になったのも【獣幇】がピリついてたからっぽくない?こっちもとばっちりぃ」

「いやこないだのアレは自分が煽ったからやろ普通に」


ピィピィ(わめ)(アズマ)を笑いながら(なだ)めた(タクミ)は、呆れ顔の(カムラ)をピッと煙草の先で()した。


「そーいや他の薬の話でさ。パッキングの箱、流行りが変わったみたいだぜ。クラブにたむろってるプッシャーが言ってた」

「あ、そうなん?今は何がブームなん」

「家具」


短く答え、先端を今度は(アズマ)へと向ける。鳴き()む眼鏡。家具って棚とか?と(カムラ)がぽやぽや()う。


(イツキ)は綠豆糕を口に詰めつつ、最近新調した(・・・・・・)椅子の背凭(せも)たれに寄りかかった。【天満會】では妮娜(ニナ)さんの身内が活動?活躍?しているはずだ。妮娜(ニナ)さんの家族なら悪人ではなさそうに思えるが…その(むね)、事情はどうなのだろう…。考えながら椅子をギシギシ揺らす。(アズマ)の視線がやたらと刺さる。


「でもまだ全部予想だから。もうちょっと掘り下げてみよっか」


目配せをする燈瑩(トウエイ)に‘任せてくれ’と頷く(カムラ)(イツキ)(アズマ)へ視線を返すと、(アズマ)は妙にキビキビした足取りで(イツキ)へ近づき、湯呑みへおかわりの碧螺春を(そそ)いで天壇大仏のような微笑みを(たた)えた。

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