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九龍懐古  作者: カロン
落花流水
468/492

四方山話と衝鋒槍・後

落花流水8






「マジかよ、衝鋒槍(サブマシンガン)?」


廃材の裏、身体を起こした(タクミ)は同じく起き上がって隣にしゃがみ込む燈瑩(トウエイ)を見る。疑問を投げられた密輸業者(スマグラー)も首を(ひね)った。(タクミ)(わず)かに物陰より頭を出し、ビーニーを脱いで適当に敵の方向へと(ほう)れば、すぐさま聞こえる速射音。哀れなニットはいくつもの穴を(こさ)えてポトリと地面に落ちる。


「うーわ、()なモン売るね燈瑩(おまえ)

「俺じゃないよ」


(てのひら)をパタパタさせ否定する燈瑩(トウエイ)はその手を顎に当て、思案。

衝鋒槍(サブマシンガン)なんか九龍(うち)で流れてたっけ?流れてたとして、こんなところでいきなり撃つか?機関銃は割とレア。個人輸入ではなくきっとそれなりの大元が居る。しかし、ルートの特定も恐れず躊躇いなく攻撃してくるのであれば、大元(そいつ)身バレ(・・・)をしない自信があるということ。買うにも隠すにも困らない、資金が潤沢な組織なんだろう。そしてこいつらは適当に捕まえた使い捨ての可能性が濃厚。


…この場で消しても後腐れは無い気がする。


「俺が出るから。(タクミ)、適当にちょっかいかけれる?」

「出るからぁ?すぐそーゆー…(ナース)怒るぜ」

「や、あいつらまだ()りにはこないと思う」


先刻の発砲は威嚇射撃、(よう)は脅し。‘殺し’にかかるのではなく‘脅し’にかかるのならば、目的は別にある。羽織っていた上着を脱いで帽子同様に放る燈瑩(トウエイ)。若干の()(のち)、蜂の巣。ほらね。やっぱり迷った、()(いな)か。


「それとさ、武器商人が商品にビビってる訳にもいかないし」

大地(ダイチ)が【東風】で観てたアニメの台詞じゃん。でも面白かったなアレ」

「だね。(イン)に薦めよっか」

「もう知ってるにBET(ベット)

「俺も」

「くはっ、賭けになってねぇ」

「とにかく(あっち)が遊んでるんだからこっちも遊んでいいでしょ」

燈瑩(おまえ)はいつも遊んでんだろ」


呆れた顔で喉を鳴らして、‘気ぃ抜くなよ’と肩を叩き手近な建物内へと消える(タクミ)燈瑩(トウエイ)(ふところ)からシグザウエルを取り出し苦笑い。

こっちはバレ(・・)てるな…(タクミ)はそういう部分に(さと)い…。言われた通り、正直(タクミ)と居るとどうもテンションが(ゆる)(ふし)がある。‘遊んでる’の表現は的確。出身区域が同じな為に元々の空気感が似通っているせい、というのが(おも)な要因だが───とりあえずそれは置いておいて。


喂喂喂(ねぇねぇねぇ)停啦(ストップ)!」


燈瑩(トウエイ)は路地へと伸ばした腕を振って、焦ったような声音を作り敵方へ話し掛けた。返事は無し。少し待った。もう1度手を振る。出てこいとお達しが飛んだので、撃たない?などと無駄な質問。これも返事は無し。腕を引っ込めた。ら、とっととしろとの苛立った声が返る。

燈瑩(トウエイ)は顔を覗かせ相手の様子を確認すると、極力ゆっくり腰を上げて、ノロノロ通路へ姿を現した。鶏蛋仔(ワッフル)が入った袋と拳銃をそれぞれ持った両手を、これまたノロノロと肩の(あた)りに掲げる。‘交戦する気はありません’アピール。襲撃者はまだ小径の入り口に纏まっていた。4人。衝鋒槍(サブマシンガン)──MP5Kかな?──は1丁で他は普通のチャカ。距離を詰めてきていないのは(いい)、近寄られていたらやや面倒だった。


「強盗サン?俺、見ての通り鶏蛋仔(ワッフル)しか持ってないけど。お菓子狙い?」


絶対に物盗りなはずはなかったが。どうでもいいのだそんな事は、只の時間稼ぎなので。


「んなわけねぇだろ。それ捨てろ」


衝鋒槍(サブマシンガン)を構えた1人が、がなりながら顎で指図。チンピラ(ぜん)燈瑩(トウエイ)は要望に応え、鶏蛋仔(ワッフル)の袋をパッと離して地面へ落とした。別の輩が舌打ち、鶏蛋仔(そっち)じゃねぇと眉間にシワを(こさ)える。こいつも下っ端チンピラ(ぜん)、賢さも見えない。重要な手駒という線は無いだろう。

燈瑩(トウエイ)はキョトンと目を丸くして、数秒考える素振りをみせ、それから‘あぁこっちかぁ!ごめんごめん!’と呑気に謝りシグザウエルもパッと離した。


が───舌打ちした男がシグザウエルの行方を見届けることは叶わなかった。唐突に高所から降ってきた室外機に、頭をペシャンコにされてしまったので。


ゴンッという鈍い音へ仲間が反応し顔を向けた時には、肩口で手離した拳銃をウエストでキャッチし直した燈瑩(トウエイ)が既に撃っていた。衝鋒槍(サブマシンガン)を持った男の(ひたい)にひとつ穴が開く。

脳天をカチ割られた男と脳天をブチ抜かれた男が地べたへ突っ伏すのを(ほう)けて見ていた1人も、室外機に()いで上から落ちてきた(タクミ)に踏み潰され這いつくばった。間髪入れずそいつの側頭部にも鉛玉をプレゼントする燈瑩(トウエイ)残り物(・・・)と視線が合った(タクミ)(くわ)えていた煙草を相手の顔面へプッと吹き、払いのける仕草の隙間に軽いジャブ。途端に響く断末魔のような悲鳴を燈瑩(トウエイ)(いささ)か不思議に思ったが───(タクミ)(こぶし)を見て納得。握り込んだ指の(あいだ)からプラスチックナイフが生えている。鶏蛋仔(ワッフル)屋で貰った切り分け用のやつ、目玉に刺したな?


「い…っっってぇ!!足!!(イツキ)、よくピョンピョン飛び降りてくるな?超合金?」


着地に使った脚をブラブラさせながら(タクミ)が跳ねる。燈瑩(トウエイ)は声を立てて笑うと、(タクミ)とその(かたわ)らで丸まっている男へと近付いた。


「多分超合金(そう)。ていうか室外機落としてくれるだけでも良かったのに」

「仕事量少ねぇもん、それじゃあ」

「律儀だなぁ。じゃ…今度は俺ら(・・)が仕事しなきゃね。お(はなし)聞かせてもらえる?」


(タクミ)の返答へ頷き、燈瑩(トウエイ)は眼窩から汁を垂れ流す男の正面で膝を折るとニッコリ()んだ。


───老人会を(あと)にし、ほどなくして感じた()けられている気配。標的は(ワン)な気がした。なのでとりあえず単身で帰すことは()めにして、試作品のお裾分けを強請(ねだ)って店舗まで送り届け、続いて人気(ひとけ)のないスラムへ客人(・・)を誘導したのだ。不明なのは付け狙う理由。


「お前らが…【獣幇】の仲間だから…」

「え?(ちげ)ぇけど」


言葉を(しぼ)る男へ即座に否定する(タクミ)。新しい紙巻きを指で挟むと(はじ)いて回す。男は‘連れのオッサンが【獣幇】とツルんでいるのを見た’と弱々しくボヤいた。

それはそう…(ワン)はガラス代弁償の件やらなにやらで度々【獣幇】の構成員と会っていた。ツルんでいるという認識もあながち間違いではない…ていうかそうなると発端は(アズマ)かよ、迷惑だな。露骨にゲンナリする燈瑩(トウエイ)(タクミ)は面白がっていた。指に挟んだ煙草の回転数があがる。


【獣幇】を敵視する動機について、自分達は雇われなので詳しく知らないとの回答。この連中は香港の有象無象のゴロツキ、今回の強襲、もとい脅しは単なる小遣い稼ぎだったようだ。【獣幇】へ文句があるのは金を出した大元の組織。衝鋒槍(サブマシンガン)もバイトの為に支給された品、駄賃と玩具(おもちゃ)を渡して子供(チンピラ)を遊びに来させた(おおもと)は金回りが良いと見受けられる。輸入経路にもドル札をバラ撒き情報操作しているだろう。燈瑩(トウエイ)は更に借問(しゃもん)


他にバイト(・・・)をしてるヤツらのことは?わからない。依頼主の素性は?わからない。些細な事でも情報は?わからない。でも結局は【獣幇】のメンバーを何人か(へら)すつもりだったんでしょ?いや、そんなことは…。鶏蛋仔(ワッフル)屋に目を付けた人間は?それは恐らく居ない。OK啦。


パンッと1発の銃声。折り重なった4つ(・・)の死体を申し訳程度に路傍へと寄せ、回収したMP5Kの収納に困る燈瑩(トウエイ)へ、煙草を吸い終え鶏蛋仔(ワッフル)を齧りはじめていた(タクミ)()いたビニール袋を‘使えば?’と寄越した。物騒なテイクアウェイ。


「バレルおもっきしハミ出てんな」

「生身より全然いいよ、ありがと。(タクミ)は足平気?(ナース)()てもらう?」

「もらわない!あの(ナース)、どこケガしててもガンガン鼻にティッシュ詰めてくんもん!」


指先についたチョコチップを舐めつつ(タクミ)は遠い目。厄介なことに(くだん)の看護師、治療の際のオフェンス力だけでなく、完治まで外出させない為のディフェンス力も高い。ロックオンされたらアウトだ。燈瑩(トウエイ)は以前に自身も繰り広げた攻防戦を思い返しながら楽しげに(まなじり)を下げ、患者仲間(タクミ)に差し出された鶏蛋仔(ワッフル)をひと欠片ちぎりとった。

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