四方山話と衝鋒槍・中
落花流水7
「最近、妮娜さんがフリマ行ってるって聞いたよ」
「たまに。忙しいみたいだけど来てくれる、甘いもんとか持って。樹が喜んでる」
そう匠が述べれば、妮娜姐さんは昔っから優しいんだと王は得意顔。
「いつも人の為に何かしてるんだよなぁ、姐さんは。けど恩着せがましくはなくって…そのうえ美人でスタイルも良くて…そりゃね?若い頃に比べちまえば今はお婆ちゃんだけどね?だからなんだっつうの。歳を重ねたからこその良さがあるってもんよ、ていうか可愛いし今でも」
「うん、妮娜さん昔から素敵だよね。俺は店長から見たら全然語れる年数知り合いな訳じゃないけど」
「いいのよ!燈瑩くんも語ってよ、妮娜さんの良さを!」
騒ぎ立てる王へ燈瑩が相槌、花柄てるてる坊主を貰った思い出を話す。両者へと交互に視線をやった匠が、何か案ずる素振りで手の中の牌をクルクル回した。目敏く反応した王はジトッと匠を見詰めると不服そうに下唇を突き出す。
「匠くん、妮娜さんは陳とイイ感じだって言いたいんでしょ」
「あー…まぁ…そー見える」
「わかってます!実際そうだもん!」
匠の返答へむくれる王は、煙草を銜えポワポワと煙を吐く。‘陳の癒し系オーラは天性だからな’とブーたれつつも、その声つきは温かい。手牌を整え直しツマミの花生を割る。床へ落とした殻を踏みつけ、溜め息。
「なんかさ…申し訳ないね。色々気にさせて。樹くんとか上くんにも俺がヤキモキしてんの言っちゃったしさ。今日だって、老人会では話出てないって知ってたのに具合見にきちゃって。女々しいよなぁ…」
「別によくね?心配ごとあんなら相談すんのもヤキモキすんのも普通じゃん。手ぇ貸せるんなら俺らも手ぇ貸すよ、樹だって上だって頼りになるし」
匠の事も無げな台詞に相好を崩す王は、上くんこの前もストリートファイトで活躍したもんねとファイティングポーズ。牌を切る燈瑩が肩を竦めた。
「それ東がドア壊したやつでしょ、ほんとごめん王さん」
「燈瑩くんが謝ることじゃないじゃない。けど、そう言ってくれるならお詫び貰っちゃおうかな…オラァ食糊!!十三幺!!」
「え?嘘」
「エグっ」
王が勢いまかせに手札を倒す。開かれた手持ちは宣言通り十三幺、役満直撃。驚愕する燈瑩と匠。それもそのはず、ここまでの捨て牌からして、どう考えても揃う筈のない1手だったからだ。しかし───よくよく見れば河の様子が数巡前とは幾らか変化している。まじろぐ2人へふんぞり返る王。
「俺が真面目に打つと思ったのかい」
「店長イカサマしてたの?」
「してた。燈瑩くんは油断してたでしょう」
「してた」
「うははっ!ウケる!」
噴き出す匠の横、テーブルにガサッと置かれたビニール袋を王は嬉々として回収。中身は景品の楊桃。新作の具材にしよっかなとの上機嫌な声音に、完成したら教えてと燈瑩も破顔。此度の麻雀大会の軍配は猪口才な鶏蛋仔屋にあがった。
「ありがとね、遅くまで付き合ってもらっちゃって」
「こちらこそ。そういえば王さん、試作品の余りってお店に無いの?分けて欲しいな。お代払うから」
「あ、俺も食いたいかも。夕飯決めてなかったし鶏蛋仔にしちゃお」
「いーよお金は!いっぱいあるから持ってって!じゃあ店寄って行こうか」
後片付けを終え、駄弁りながら歩く帰り道。別れ際の燈瑩の提案とそれに乗っかる匠へ王は二つ返事、ルート変更し一同は鶏蛋仔屋まで足を運ぶ。人通りは疎らだがそれなりに明るく綺麗な中流階級エリア。土産を渡すとそのまま自宅兼店舗へ引っ込む王の背中を見送り、2人は踵を返す。散歩がてらに花街を抜けスラム街へと遠回り。
華やかなネオンの洪水が過ぎ去れば、路地に溢れるのは城砦の澱み。積まれたゴミ山。アルミの燃滓や注射器。鳴りを潜める人影。途端に減る街灯。その中でも、よりいっそう暗がりになっている路地を敢えて選び進む。
紙巻きに火を点ける匠が口を開いた。
「つーかさ。店長なんか揉めてんのかな、妮娜さんのことじゃなくて」
「けっこうヤンチャっぽいもんね。でも恨み買うような性格じゃないからなぁ」
「んじゃ原因がヨソにあるってこと?」
「どうだろう。その辺は訊いてみよっか、お客さんに直接」
「我同意」
軽い調子のやり取りをし、白煙を吹きつつ、今しがた通ってきた小径を振り返る。と。
「あっヤベ」
「ん?」
言うが早いか燈瑩のシャツを掴む匠。ワンテンポ遅れて顔を向けた燈瑩を半ば引き摺るようにしながら物陰へと倒れ込む。同時に、道の奥───無数の破裂音と共に、煌々と、花火さながらのマズルフラッシュが光った。
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