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九龍懐古  作者: カロン
落花流水
467/492

四方山話と衝鋒槍・中

落花流水7






「最近、妮娜(ニナ)さんがフリマ行ってるって聞いたよ」

「たまに。忙しいみたいだけど来てくれる、甘いもんとか持って。(イツキ)が喜んでる」


そう(タクミ)が述べれば、妮娜(ニナ)(ねぇ)さんは昔っから優しいんだと(ワン)は得意顔。


「いつも人の為に何かしてるんだよなぁ、(ねぇ)さんは。けど恩着せがましくはなくって…そのうえ美人でスタイルも良くて…そりゃね?若い頃に比べちまえば今はお(ばぁ)ちゃんだけどね?だからなんだっつうの。歳を重ねたからこその良さがあるってもんよ、ていうか可愛いし今でも」

「うん、妮娜(ニナ)さん昔から素敵だよね。俺は店長から見たら全然語れる年数知り合いな訳じゃないけど」

「いいのよ!燈瑩(トウエイ)くんも語ってよ、妮娜(ニナ)さんの良さを!」


騒ぎ立てる(ワン)燈瑩(トウエイ)が相槌、花柄てるてる坊主を貰った思い出を話す。両者へと交互に視線をやった(タクミ)が、何か(あん)ずる素振(そぶ)りで手の中の牌をクルクル回した。目敏(めざと)く反応した(ワン)はジトッと(タクミ)を見詰めると不服そうに下唇を突き出す。


(タクミ)くん、妮娜(ニナ)さんは(チャン)とイイ感じだって言いたいんでしょ」

「あー…まぁ…そー見える」

「わかってます!実際そうだもん!」


(タクミ)の返答へむくれる(ワン)は、煙草を(くわ)えポワポワと煙を吐く。‘(チャン)の癒し系オーラは天性だからな’とブーたれつつも、その(こわ)つきは(あたた)かい。手牌を整え直しツマミの花生(ピーナッツ)を割る。床へ落とした殻を踏みつけ、溜め息。


「なんかさ…申し訳ないね。色々気にさせて。(イツキ)くんとか(カムラ)くんにも俺がヤキモキしてんの言っちゃったしさ。今日だって、老人会(ここ)では話出てないって知ってたのに具合見にきちゃって。女々しいよなぁ…」 

「別によくね?心配ごとあんなら相談すんのもヤキモキすんのも普通じゃん。手ぇ貸せるんなら俺らも手ぇ貸すよ、(イツキ)だって(カムラ)だって頼りになるし」


(タクミ)の事も無げな台詞に相好(そうごう)を崩す(ワン)は、(カムラ)くんこの前もストリートファイトで活躍したもんねとファイティングポーズ。牌を切る燈瑩(トウエイ)が肩を竦めた。


「それ(アズマ)がドア壊したやつでしょ、ほんとごめん(ワン)さん」

燈瑩(トウエイ)くんが謝ることじゃないじゃない。けど、そう言ってくれるならお詫び貰っちゃおうかな…オラァ食糊(ロン)!!十三幺(こくし)!!」

「え?嘘」

「エグっ」


(ワン)が勢いまかせに手札を倒す。開かれた手持ちは宣言通り十三幺、役満直撃。驚愕する燈瑩(トウエイ)(タクミ)。それもそのはず、ここまでの捨て牌からして、どう考えても揃う(はず)のない1手だったからだ。しかし───よくよく見れば河の様子が数巡前とは(いく)らか変化している。まじろぐ2人へふんぞり返る(ワン)


「俺が真面目に打つと思ったのかい」

「店長イカサマしてたの?」

「してた。燈瑩(トウエイ)くんは油断してたでしょう」

「してた」

「うははっ!ウケる!」


噴き出す(タクミ)の横、テーブルにガサッと置かれたビニール袋を(ワン)は嬉々として回収。中身は景品の楊桃(スターフルーツ)。新作の具材にしよっかなとの上機嫌な声音に、完成したら教えてと燈瑩(トウエイ)も破顔。此度(こたび)の麻雀大会の軍配は猪口才(ちょこざい)鶏蛋仔(ワッフル)屋にあがった。






「ありがとね、遅くまで付き合ってもらっちゃって」

「こちらこそ。そういえば(ワン)さん、試作品の余りってお店に無いの?分けて欲しいな。お代払うから」

「あ、俺も食いたいかも。夕飯決めてなかったし鶏蛋仔(ワッフル)にしちゃお」

「いーよお金は!いっぱいあるから持ってって!じゃあ店寄って行こうか」


後片付けを終え、駄弁りながら歩く帰り道。別れ際の燈瑩(トウエイ)の提案とそれに乗っかる(タクミ)(ワン)(ふた)つ返事、ルート変更し一同(いちどう)鶏蛋仔(ワッフル)屋まで足を運ぶ。人通りは(まば)らだがそれなりに明るく綺麗な中流階級エリア。土産を渡すとそのまま自宅兼店舗へ引っ込む(ワン)の背中を見送り、2人は(きびす)を返す。散歩がてらに花街を抜けスラム街へと遠回り。


華やかなネオンの洪水が過ぎ去れば、路地に(あふ)れるのは城砦の(よど)み。積まれたゴミ山。アルミの燃滓(もえかす)や注射器。鳴りを潜める人影。途端に減る街灯。その中でも、よりいっそう暗がりになっている路地を敢えて選び進む。


紙巻きに火を()ける(タクミ)が口を開いた。


「つーかさ。店長なんか揉めてんのかな、妮娜(ニナ)さんのことじゃなくて」

「けっこうヤンチャっぽいもんね。でも恨み買うような性格じゃないからなぁ」

「んじゃ原因がヨソにあるってこと?」

「どうだろう。その辺は訊いてみよっか、お客さん(・・・・)に直接」

我同意(さんせい)


軽い調子のやり取りをし、白煙を吹きつつ、今しがた通ってきた小径を振り返る。と。


「あっヤベ」

「ん?」


言うが早いか燈瑩(トウエイ)のシャツを掴む(タクミ)。ワンテンポ遅れて顔を向けた燈瑩(トウエイ)(なか)ば引き摺るようにしながら物陰へと倒れ込む。同時に、道の奥───無数の破裂音と共に、煌々と、花火さながらのマズルフラッシュが光った。

https://eigakan.org/theaterpage/schedule.php?t=twilightwarriors


公開映画館一覧だよ───_(:3」∠)_(宣伝)

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