表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
九龍懐古  作者: カロン
落花流水
466/492

四方山話と衝鋒槍・前

映画[決戦!九龍城砦]本日ついに日本公開みんな観てね(宣伝)

落花流水6






「東頭街の裏手の歯医者さん、閉めたと。歳の割に忙しそうにして体力使ってたもんな」

「そんじゃ暇が出来て老人会(ここ)くるようになるのかねぇ?(ポン)

「大陸の故郷に帰るって噂も聞いたけど」

「体力といやぁ孟輝大廈んとこの爺さん、この前無理が祟って倒れちゃったらしいよ」

「先週まで功夫(カンフー)教室に来てたのに?(チー)

「そういう年齢だから…突然ガタがきたり…若い人には関係ない話か!ねぇ燈瑩(トウエイ)君」

「いや、俺は食生活も悪いし他人事(ひとごと)じゃないかもですね。(タクミ)それちょうだい、(カン)

「とりまもっと飯とか食ったほうがいーよ燈瑩(おまえ)は。ほい」




夕刻、老人会、麻雀卓。




歓楽街での野暮用帰り、フラリと立ち寄った燈瑩(トウエイ)がまたぞろ賭け麻雀──本日の景品は採れたて楊桃(スターフルーツ)です──に興じていると、(タクミ)がフリマの売上金を持ってやってきた。普段は(チャン)の役目だが…どうも膝痛(しっつう)が悪化の一途(いっと)を辿っているらしく、(ナース)の介護のもと早々に老豆(パパ)を帰宅させ、今回は代理を請け負ったとのこと。もっとも悪化の素因は(やまい)の進行などではなく、このところ店番中に飛んだり跳ねたり走ったりとハシャいでいるせいだろうけれど…それはまぁ一旦(いったん)よけておくとして。


卓を囲んで早数時間。メンバーを変え話題を変え、菓子をつまみ、のんびりダラダラ牌を混ぜる。老人会(ここ)でのメイントピックは常に健康問題。身体に良い食べ物、体操、習慣、流行りの漢方、どこの医者の腕が立つ、誰の体調が悪い、エトセトラエトセトラ。健康茶を飲みつつ四方山(よもやま)話。一方(いっぽう)その片手間ほぼ全員が濛々(もうもう)と紫煙を(くゆ)らせており、喫煙率は限りなく100%に近い。時代と世代の(ほの)かな余燼(よじん)


やがて砦を包む空気が夜の匂いを纏い、窓の(あか)りやネオンが(とも)り始める頃、珍しい人物がヒョッコリと顔を出した。


「あれ?お前が来るなんてどういう風の吹き回しだ?」

「何しにきた(あく)たれ小僧」


来訪者を口々に揶揄(からか)う常連の面々。入り口へ立つ客人───(ワン)は、麻雀しにきたの!もう悪たれ小僧(そんなん)じゃないでしょう!と首から下げている鶏蛋仔(ワッフル)屋オリジナルエプロンを引っ張り不満そうに眉を曲げる。(タクミ)が笑って腰を上げ、(ワン)を自席へ(うなが)す仕草。


「店長が悪ガキなら俺とか燈瑩(トウエイ)どうなっちゃうの。今日は鶏蛋仔(ワッフル)屋、店仕舞い?」

「そー!たまには息抜きにジイさん達コテンパンにしてやろうかと思ってね!ありがと(タクミ)くん」


軽口を叩き、譲られた席へ尻を落ち着ける(ワン)。‘生意気な小童(こわっぱ)だ’‘先人を(うやま)えヒヨっ子’等々(などなど)、ご老体が若造(・・)をやいやい(はや)す。


確かに、今まで老人会(ここ)(ワン)と鉢合わせた事はない…遊びに来た理由は妮娜(ニナ)さんの件(がら)みか…?思いつつチラリと目線を送る燈瑩(トウエイ)(ワン)も少し口角を吊る。疑問(それ)については後回しにし、してもしなくてもいいようなお喋りを(まじ)え、数局。各々が手にする飲み物はいつの間にか健康茶から啤酒(ビール)へと変わっていた。ほんのり赤ら顔の隠居軍団。


食糊(ロン)一條龍(イッツー)!」

「おっ、やるなぁ(ハウ)さん」

(おまえ)は1番危なそうな牌から切るからな。変わってねぇんだよ、そういう性格」

「っかしいな?丸くなったはずなんだけど」


嘉士伯(カールスバーグ)の缶へ唇をつけつつ、(ワン)はまたエプロンを引っ張る。宣伝を兼ねたワードローブ、こちらはお出かけ用ブラウン、仕事用は黄色と白の卵カラー。1枚100香港ドルにて鶏蛋仔(ワッフル)屋店頭で販売中───2枚セットは合わせて150香港ドルに割引いたします。


創倫館で漏電した、衙塱道辺りのチーマーが暴れてる、樂善樓は賃料が値上げ、恆豐園の飼い(いぬ)が逃げた。取り留めない会話は尽きることなく延々と続く。時刻が夕飯時に差し掛かった頃、(えん)(たけなわ)であるものの、そろそろお開きにしようかと肩や腰を(さす)るご年配の方々。伸びをしたり前屈をしたりヨロヨロとストレッチ、熱中するあまり長時間同じ姿勢でいたので関節がカチコチになってしまった模様。(ワン)がパンパン手を叩く。


「はいはい!後始末は若者に任せて、年寄りは寝床に帰った帰った!」

「相っ変わらず猪口才(ちょこざい)な坊主だな」

一丁前(いっちょまえ)なツラしおって」


勝手に指揮を執る若者(・・)()きおろしつつも、しかし愉しげな雰囲気で帰路へとついていく年寄り(・・・)達。1人また1人と()けていき、ほどなくしてガランとした集会所、(ワン)は改めて燈瑩(トウエイ)(タクミ)三麻(さんま)へ誘った。丸椅子を寄せて仕切り直し。打牌の音に重なる雑談。


「店長、老人会の人と仲良(なかい)んだね。まーそりゃそうか。ずっと住んでんだもんな、大先輩だわ」

「大先輩はやめてよ?でも(タクミ)くんだってずっと九龍(ここ)じゃない、燈瑩(トウエイ)くんも」

「いやいや、(ワン)さんみたいな大先輩前にしたら何も言えないから。(ポン)

「なんなの燈瑩(トウエイ)くんまで!恥ずかしいなぁもう!あっ(タクミ)くんそれちょうだい、(カン)

「でもめっちゃ悪ガキ悪ガキ言われてたね、おもろかった。ほい」

「そりゃあ老人会のみんなからしたらだいぶ子供だもん、若い頃の暮らしぶりも知られてるし」


面映(おもは)ゆそうに鼻を掻く(ワン)はポツポツこぼす。


老人会(ここ)に集まってんのは基本普通(・・)の人でしょ。仕事だって黒くないし、いいとこグレーって感じの。俺はみんなの言う通り悪ガキでさ、昔の仲間はけっこう死んじゃってるから…生き残り(・・・・)っつうだけでも余計に可愛がってくれんだよね…」


自摸(ツモ)った牌を縦にしたり横にしたり、無為にコセコセ動かす。黙って聞いている燈瑩(トウエイ)(タクミ)へクスリと()んで、てかさぁ、と本命(・・)のご年配へ話の矛先を向けた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ