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九龍懐古  作者: カロン
火樹銀花
455/492

キンキラとナイスショット・後

火樹銀花4






カチン、と響く、乾いた音。






「ん。そっちの番」


言うなり銃を手の中で反転させて男へと差し出す。


一瞬(いっしゅん)の出来事。突如として開始された抽選会(・・・)に戸惑う男に(タクミ)は満面の笑み、‘早くやれ’の圧。予想外の展開にフロアが静まり返った。数秒、十数秒、無言の時が過ぎる。


「やんねぇの?お前が言い出したのに」


待てど暮らせど反応のない男へ眉を曲げる(タクミ)。その肩越しに、燈瑩(トウエイ)が穏やかな声音で立候補。


「じゃあ俺がやろうか」


ダルそうだった表情は一転(いってん)し、殊更(ことさら)(たの)しげなものに変わっている。‘得la(りょ)’と応えた(タクミ)は男に返却しかけたリボルバーを燈瑩(トウエイ)へと投げて寄越した。軽い動作でキャッチし間髪入れず引き金を(しぼ)燈瑩(トウエイ)、銃口は当たり前にこめかみ。集まる全員の注目。再度、カチンッと乾いた音がホールに響く。


「次は?誰の番?」


問いながらグリップの底でコンコンと卓をノック。目配せし合うチンピラ達を横目に、(タクミ)はポケットから出した紙巻きを(くわ)え唇の端を吊った。


「祭りならルーレットあってもいいもんな」

「コレよりダーツ投げるやつのほうがそれっぽいでしょ、福引きとか」

「‘福引き’って!老人会かよ!だったらビンゴじゃね、どっちかってゆーと」

「えー?青年中心も福引きあったじゃん」

「あ、あったな子供向けの。駄菓子とかオモチャが景品で」


のんびりとした燈瑩(トウエイ)との会話。()がヘンテコなムードに包まれる。ユルい雰囲気のまま(タクミ)はタバコへ火を点けいくらかふかすと、眼球を(せわ)しなく左右へ泳がせる(レン)を指差した。(いま)だ動かない半グレ共へクエスチョン。


「もぉ俺らの勝ちでいい?その吉娃娃(チワワ)返してくんねぇ?」


ポワポワと煙で輪を作る。広がっていく輪の中に、更にピンポン玉状の煙をポッと吐いて通した。‘器用だね’と燈瑩(トウエイ)の賞賛。

煽ったつもりはないが、煽られたと認識したらしき主催者(・・・)の男が、苛立った面様で燈瑩(トウエイ)へ手の平を向ける。参加表明。引き下がっては面目が潰れるという事か…気概は悪くない…が。燈瑩(トウエイ)はリボルバーを振って一言(ひとこと)


「でも、次でビンゴ(・・・)だよ」


次でビンゴ?とは?(いぶか)しげに片眉を上げる男から目線を外して、壁際のダーツボードへ照準を定める燈瑩(トウエイ)。ノータイムで撃った。バンッと先程よりは重たい音がし、ど真ん中にひとつ風穴があく。Bull。


「ね?」


硝煙を払って、男を見やるとやんわり微笑。水を打ったようなホール内。(タクミ)がヒュウ♪と口笛を鳴らした。

どうやらこれ以上のイチャモンをつけてくる者はいない模様。燈瑩(トウエイ)は拳銃をチンピラへ適当に投げ返すと、(レン)へと顎をしゃくり出口に足を向けた。剥ぎ取られた衣服やら所持品やらを回収し急いで後に続く(レン)(タクミ)が出がけに‘これちょーだい’と酒棚から年代物の貴州茅台酒をとる。クジびきの戦利品。




「お、お2方共よくぞご無事で…ブェッ…ご迷惑おかけしてしゅみましぇん…グスッ」

(レン)君こそケガ無くてよかった。ほら、早く服着て?冷えちゃうよ」

「お前地酒買えてねーんだろ。(マオ)にはコイツで我慢してもらおうぜ」


店から離れる道中、ベソつく(レン)がシャツを羽織るのを手伝う燈瑩(トウエイ)(タクミ)は頂戴した貴州茅台酒をプレゼント、不機嫌なキンキラ招き猫スーパーBIGサイズもオマケで追加。

このネコ、結局(マオ)の所へ行くのか…あげたら‘似てるね’って茶化してみよう…考えつつ燈瑩(トウエイ)はクスリとし、まごまご袖を通す(レン)は‘それにしても’と不思議そうに瞳をしばたたかせる。


燈瑩(トウエイ)しゃん、よくわかりましたね?いつ弾が出るのか」

「シリンダー回した時に位置見てたもん」

「すげーな、目ぇ()過ぎじゃね」

「え?(タクミ)も見てたんじゃないの」

「俺は全然。まぁ当たんないっしょと思っただけ、あと燈瑩(おまえ)()めなかったからイケるって踏んだ」


あっけらかんと述べてケラケラ笑う(タクミ)燈瑩(トウエイ)も吹き出す。貴州茅台酒と不機嫌な猫を受け取った(レン)が、‘お礼に食肆(ウチ)で夕飯はどうでしょうか?’と2人を誘った。折角ですので(アズマ)さん達にも連絡しましょうと微信(チャット)をすれば───なぜか(イツキ)より、ファイル付きの返信。画像を確認し驚嘆する吉娃娃(チワワ)


「わ、なんだか大変なことになってましゅ」

「喧嘩?あっちもガラス粉々じゃん、オソロだな」

「これ、戦ってるの(カムラ)かなぁ」


送られてきた写真はブレブレだったものの…バキバキに割れた鶏蛋仔(ワッフル)屋のドア、取っ組み合うふたつの──一方(いっぽう)はゴリラじみて一方(いっぽう)は饅頭じみた──影、取り囲む観衆の中には見慣れた眼鏡と店長らしきシルエットが判別できた。暮れなずむ陽光に照らされた人々はピンボケによってフンワリ柔らかく、どことなく印象派画家作品の舞踏会にも似た様相を(てい)している。明暗のコントラストも見事で、華やかさと躍動感に溢れた1枚。


その下に添えられた短いメッセージ。




我影到啲好相(うまくとれた)




ほんのりと誇らしげな巨匠(イツキ)の文面に頷く燈瑩(トウエイ)。状況に関しての情報が皆無なため(いささ)か返事に困った様子の(レン)。横から指を出した(タクミ)は、キーボードをさかさかフリックし、サムズアップの絵文字をくっつけ‘好正(ナイスショット)’とレスをした。

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