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九龍懐古  作者: カロン
火樹銀花
453/492

火龍とエクストラマッチ

火樹銀花2






「ほんなら、そんお(ばぁ)さんが困っとんか」

妮娜(ニナ)(ねぇ)さんだよ妮娜(ニナ)(ねぇ)さん!オバアちゃんだけどまだまだ可愛いし老人会でも人気者なんだから!」

「わーかったちゅうねん、それは」


やんややんや言いつつ鶏蛋仔(ワッフル)(こしら)える(ワン)へ、木造りの長椅子に腰掛ける(カムラ)が相槌。隣で(イツキ)は既に用意してもらったフェスティバルスペシャルメニューを頬張っている。


買い物がてら寄り道したお馴染みの鶏蛋仔(ワッフル)屋。春節の獅子舞レインボーの好評を受け、イベント時には動物型曲奇(クッキー)やカラーチョコレートスプレーなどの映え(・・)トッピングに力を入れている(ワン)此度(こたび)も中秋節オリジナルをせっせと製作。もちろん、見た目の派手さにかまけて味のクオリティを落とすことはご法度…販売するのは寝る間も惜しんで試行錯誤を重ねた(すえ)に誕生した至高の逸品(いっぴん)だ。中でもイチオシの‘お月見ウサぴょん’は、クルリと丸めた鶏蛋仔(ワッフル)の中に満月をイメージした黄色い濃厚カスタードクリームを詰め白玉で作られた愛らしい白ウサギとミニサイズの月餅を乗せ(きら)めく銀色のアラザンを幻想的に(まぶ)し───


「で?妮娜(ニナ)さんの相談は店長が解決出来ひんの?」

「んやぁ…別に俺がとやかくいう話でもないからさ…そもそも相談ってほどのこともされてないし」

「なんや、したら勝手に気ぃ揉んどんか」

「身も蓋もない言い方は()してよ!」


賑々(にぎにぎ)しい(ワン)(カムラ)のラリー。幻想的なアラザンをガリガリやって聞き流す(イツキ)は、席を立つとレジ横にある中秋節用の手作りチラシを手に取った。キュートな写真付きでポップに紹介されている様々な期間限定メニュー。お月見ウサぴょんはとっても美味(びみ)、食べ終えたらお次はダンサブル火龍を頼もうか…。(カムラ)は廿四味茶しか飲んでない。健康志向(ダイエット)(アズマ)はどれを選ぶだろ…ていうか(アズマ)遅いな?さっき‘近くのタバコ屋行く’って出てったっきり全然戻ってこない。トラブルかな。そう思い、何の気なしに入り口へ視線を向けた。




瞬間。扉に何かが衝突し、派手な音を立ててガラスがヒビ割れ砕け散った。




「うわ!?なんやなんや!?」


目を見張る(カムラ)の足元へ破片と共に突っ込んできたパーカーの眼鏡は、ガラス片にまみれた上半身を起こして後頭部を(さす)る。


()ってぇ!!」

「いや(おまえ)かい」


随分と景気の良い戻りかたをした(アズマ)の視線の先の小路(こみち)には、肩をいからせこちらを睨みつける大男が1人。鶏蛋仔(ワッフル)をモグつく(イツキ)もボヤく(アズマ)へとトテトテ近付いた。


「あんにゃろ…けっこう腕力あんな…」

「そうだね」

「そこやないやろ」


頷く(イツキ)にツッコむ(カムラ)。確かに(アズマ)を投げ飛ばすにはそこそこのパワーが必要ではあるが。と、男を見やる(イツキ)が首を(ひね)った。


「あれ?あの人、見たことある」

「アリマスネ」

「知り合いなん」

(おまえ)もでしょーよ」

「え!?」


風通し(・・・)のよくなったエントランスより店内へ踏み入る巨体。こいつはもしや───いつかの喧嘩商売、【獣幇】戦の第2試合目、(マオ)に華麗にボコられたゴリラでは?

1試合目でボコられて()びており対戦を見ていなかった(カムラ)は頭上にハテナマーク。その脹脛(ふくらはぎ)(アズマ)がパンッと叩く。


「ちょっとパワー系、やっちゃって!!俺らのチーム(・・・)の敵ですよ!!ついでにガラスの弁償代金もぎ取ってきて」

「なんでや、お前が弁償せぇ。ちゅうか揉めた理由なんなん」

「たまたま煙草屋で会ったの、そしたらガンつけてきたから‘タイマンでは残念でしたね’って言ったらケンカになった」

「自業自得やん。そもそも俺よぉ覚えてへんよ、あん時寝て(・・)てんから」


後ろへ隠れる(アズマ)にグイグイ押し出された(カムラ)を見下ろし、ナリ(・・)一瞥(いちべつ)すると小馬鹿にしたように鼻で笑う男。


「どけデブ」


言うなり肩を小突いた。(カムラ)が持っていた廿四味茶の紙コップが手から滑り落下、フロアへビシャビシャにブチまけられる中身。ズボンの裾が思いっ切り濡れた。

(カムラ)は小突かれた肩へと目をやり、ズボンを確認し、それから男を見上げ、溜め息。


「あんな?俺はお前んことよぉ知らへんし、代わりに()りあう筋合いもあらへんよ。やけどなぁ…‘どけデブ’言われてどつかれる筋合いも無いんじゃボケェ!!」


怒鳴ると同時にまさかのロータックル。腰の入った一撃(いちげき)

不意打ちによろめいた男を店外へ押し出し、そのままもつれて2人して地面へ転がった。数回転したのち両者立ち上がり向かい合う。慌ててキッチンを飛び出し仲裁に駆け付けた───かと思いきや、颯爽と(あいだ)に手をかざす(ワン)の姿。騒ぐレフェリーの血。



ダンサブル火龍をオーダーするタイミングを(しっ)した(イツキ)は、ワラワラと集まりだした野次馬と野次を飛ばす(アズマ)を眺め、残り少ない鶏蛋仔(ワッフル)の欠片をチビチビと千切って口へ(ほう)りながらエクストラマッチの行方を見守った。

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