表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
九龍懐古  作者: カロン
不撓不屈
446/492

胸臆と朋友

不撓不屈13






「失敗したぁ…」


テーブルに突っ伏し、弱々しく吐き出す大地(ダイチ)。その姿を横目に(スイ)可樂(コーラ)の栓を──今回はキチンと栓抜きを使って──スポンと抜く。


本日の集合場所は少年探偵団事務所(スイのいえ)。世話になっている礼だと香港島で手土産を購入したらしい宝珠(ホウジュ)(イン)(コウ)についての話を聞きたがった(カムラ)(チャン)に貰った月餅を配りにきた(イツキ)も加わって、人口過多でゴチャつく室内に(スイ)はスンとし藍漣(アイラン)はケラケラ笑った。


失敗した、とは…(コウ)に‘よくないことを想像していた’と告げてしまった件だ。


大地(ダイチ)はクシャリと髪をかきあげる。疑ったことを隠しておくのは誠実さに欠けると考え口に出した謝罪だった、けれど、あの時点で言うべきではなかった。せめてもう数秒だけでも早くに見付けていれば───(コウ)の鞄のキーホルダーのタグ(・・)を。

リミテッドエディションの背中。そこには、ノーマルバージョンには無い小振りなタグが生えていた。印刷されているのは数字の列、個体ひとつひとつに割り振られた、シリアルナンバー。限定版の(あかし)(カムラ)に貰ってすぐ自室の机に飾ってしまっていたため、その存在(タグ)を認識しておらず、(コウ)のストラップを目にして初めて気が付いた。

(コウ)と別れたあと。少女から譲り受けた物の番号をすぐに確認して(スイ)へと連絡、家に帰り着いたのち自分の人形を裏返す。みっつとも連番。そして盗み見た(コウ)のショルダーの1匹は───かなり、桁が、離れていた。ということは。


「この拾ったほうが…もともと(コウ)のやつだったってことよね…」


溜め息をつきながら言った(スイ)が、テーブルに投げ出された人形達をデコピンで(はじ)く。結論を確定させてはいるものの口調には迷いが滲んでいた。

大地(ダイチ)(はじ)かれたキーホルダーを集めて引き寄せる。纏め買いしてきた品を分けたのだ、通常であれば番号は近くてしかるべき。流通の事情によっては全員かすりもせずバラバラという可能性も否めないが…手元に居る3匹はナンバーが見事に連続してしまった。(コウ)は新しく買い直したのだろうか?失くしたことがバレないように?


送った微信(チャット)は返信無し。キーホルダーについては触れず適当な話題を振っただけだが、メッセージは開かれずに未読のまま。


「俺が()らないことゆったから…なんでゆっちゃったんだろ…」


(うめ)大地(ダイチ)(イツキ)がソッと月餅を献上。豪奢(ごうしゃ)な包装にくるまれた(チャン)お薦めの1級品。多謝(ありがとう)と受け取るも握りしめたまま動かない大地(ダイチ)(カムラ)はその指から月餅を取り去り、ビニールをパリパリと()いて中身を出すとまた手の平へ返した。オカン。


大地(ダイチ)より諸々の事情を相談された(カムラ)は、一見(いっけん)事件と繋がりの薄そうな目立たないチームを改めて洗ってみる方向に。もしその(コウ)という友達がパイプ役をしているとして、パイプ役というならば、辿った先にはそれなりの組織があるはずだ。

隠れて動いていたことに対してバツの悪さを感じている様子の大地(ダイチ)は、状況を説明するあいだ、終始申し訳なさそうな表情を見せていた。けれど(カムラ)は小言は封印し全ての成り行きを黙って聞いた。

大地(ダイチ)が報告をしてこなかった原因は自分にもあるのだ。俺だってこの心配性かつ過保護を直さなければならない…さっそく月餅()いてもうたけど…思いつつ、窓際で煙草をふかす藍漣(アイラン)に歩み寄る。お裾分けを1本頂戴。茉莉花(ジャスミン)茶の香り。


「けど大地(おまえ)は‘正しい’と思えることをしたんだろ?なら、その時はそれが最善だったんじゃないか。結果がどうあれ」


煙に乗せ言葉を流す藍漣(アイラン)。半身を起こした大地(ダイチ)へと宝珠(ホウジュ)がピンポン玉を渡す。以前にも遊んだ的当て、李小龍(ブルース)を模した黄色いツナギのぽっちゃり熊猫(パンダ)ポスターは今日も壁際で凛々しい功夫(カンフー)ポーズ。‘撃ちかた教えるよ’と微笑む宝珠(ホウジュ)大地(ダイチ)は小さく顎を引く。熊猫(ブルース)(ひたい)めがけてパチンコを構え、ポツリ。


「でも、俺さ。余計なことしてんのかな」


放ったピンポン玉は額を()れて耳にヒット。撃ったはずみで、ポケットの小袋がカサリと鳴った。中に詰まったピカピカの鉛の粒。

(コウ)は俺の助けを必要としているのだろうか?お節介なだけでは?周りをコソコソ嗅ぎ回る邪魔なやつ、そんな風に認識されてるかも。難しい面持ちでもう1度ピンポン玉をセットする大地(ダイチ)宝珠(ホウジュ)が角度のアドバイス。


(カムラ)は煙を吹きつつ大地(ダイチ)を見詰めた。(カズラ)挪亞(ノア)莉華(リィカ)が頭を(よぎ)った。結局お節介なのだ。そこは間違いない。ただ、そのお節介が間違っている、とは思わない。が…こんなん正解っちゅうのはあらへんやんな…。なんや言うてやりたいけど、俺やといらん‘保護者感’出てまうわ。

悶々(もんもん)と考える(カムラ)の肩へ、藍漣(アイラン)がポンと手を置いた。見ていた(イン)が口を開く。


「まぁ、否めないな。どうにかしてやりたいと(ほっ)するのは(おのれ)の願望に過ぎないのだし」


振り返る大地(ダイチ)へ、カラリとした声調のまま語る。


「自分も今までそこに理解が及んでいなかったんだ。妹の為などと言い訳をして、その(じつ)(おのれ)の為だったのに。中途半端だったんだよ。けれどな…それでも、力になりたいと願った心は嘘ではないと教示を得た。別の‘兄’から」


視線を(イツキ)へと寄越した。月餅を頬張る()は手を止めて、着々と減っているスイーツの残りを(イン)()り分ける。(イン)は今度は()を見た。


「時に藍漣(アイラン)、貴様の妹は飲み込みが早いぞ。教えた技法は直ぐに習得するし応用も利く。この分では遠からず追い抜かれてしまうかも知れん」

「へぇ?凄いな(スイ)


兄と姉から褒められた妹妹(ムイムイ)(いささ)か沈んでいた雰囲気をパッと明るくし、(イツキ)に向け渾身のドヤ顔。よもや自分を倒すという目標を掲げ修行を積んでいるとは予想だにしない(イツキ)は‘めでたい’と言わんばかりに(スイ)へ月餅を出した。

(カムラ)に目線を移し、それから宝珠(ホウジュ)へと首を(かたむ)けた(イン)が続ける。


此方(こちら)もそうだよ。子供達は預かり知らぬ処でも成長していると、護られているばかりではないと、薫陶(くんとう)を受けた。また別の‘兄’から。だろう?宝珠(ホウジュ)

「! ───はい、兄様(あにさま)


水を向けられ、照れくさそうに無言で白煙を(くう)へ溶かす別の()。笑顔で応えた宝珠(ホウジュ)は土産物袋から出した小さなマスコットを大地(ダイチ)の前に座らせる。香港島で新しく(おこ)った宗教団体の愛らしいイメージキャラクター。


「これ、大地(ダイチ)君に。欲しがってたよね」


宝珠(ホウジュ)(イン)の携帯にも同じものがついていた。ズルいと騒ぐ(スイ)(イン)は破顔、自分のストラップを外してパス。キャッチし即刻スマホに取り付ける(スイ)をしげしげと眺める(イツキ)


「ん?(アンタ)も欲しいの?」

老豆(パパ)が好きそう。あげたら喜ぶかなって」

「なんで(チャン)とオソロしなきゃなんないのよ。まーいーけどさぁ別に」

「ふふっ!じゃあ、次は(チャン)さんの分も貰ってこようか」


ニコニコ提案する宝珠(ホウジュ)大地(ダイチ)も少し()んで、マスコットを携帯に下げた。ニューフェイスを楽しげに迎え入れる天仔(てんちゃん)と異形の者。大地(ダイチ)は3匹をくっつける。‘仲間’。

成長出来てるのかな?(スイ)とか宝珠(ホウジュ)は出来てるよね。俺ってどうなんだろ?わからない。わからないけど、手を伸ばしたい気持ちは嘘じゃないから。


「咎められそうな存意だが…神は祟るし人も救わないと自分は思う。()れど、(さだ)めし、仲間は見棄てないよ」


(イン)が3(にん)を指して柔らかく発した。カプカプ揺れる、ちまい神々。大地(ダイチ)は顔を上げ力強く首を縦に振る。(イツキ)は‘応援’と言わんばかりに追加の月餅を差し出そうとし、(から)になっている化粧箱を見て愕然。(スイ)が眉を曲げた。


(アンタ)全部食べてたじゃん。何その‘ほんとに?’みたいな顔」

「足りひんかったなら(レン)のとこ行こか。お決まりのコースやけど」

「いいじゃんか、新作ラッシュでメニュー毎回変わるし。(アズマ)も待ってるしな♪」

「ヤダぁ、モサメガネは待ってなくていい!帰ってってゆってよ姐姐(ジェジェ)!」

「なんだ(スイ)?貴様、まだ2人の仲を認めてやっていないのか?」

(アズマ)さん良い薬師なのに」

「薬中の間違いでしょ!こないだもアイツったらねぇ!」


文句混じりに瑪理(ボブ)との1件を話し始める(スイ)、オーバーリアクション。いつも通りの空気。大地(ダイチ)微信(チャット)画面を開くと、未だに既読のつかないトークルームへ、いつも通りのにこやかな‘哈囉(ハロー)’のスタンプを送った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ