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九龍懐古  作者: カロン
不撓不屈
444/492

疑惑とシリアル・前

不撓不屈11






晏晝(ランチ)タイム、カラリと晴れた屋上、違法建築スレスレを過ぎ去るジャンボジェット。吹き抜ける風に目を細め、百事(ペプシ)のプルトップを開ける大地(ダイチ)


(スイ)、午後の授業は?」

「パス。配達のバイト入れた」

(イン)と修行じゃないんだ」

「修行ってゆーとハズいわね。今日は宝珠(ホウジュ)が講義ないから、一緒に薬膳の材料買いに行ったりするんだってぇ」


向かいに腰を下ろした(スイ)は八方にバタバタ(なび)くポニーテールと飛んでいきかけた弁当箱の蓋をダルそうにおさえた。ここのところの(スイ)のスケジュールは午前中に寺子屋、午後は(イン)と手合わせ、夕方あたりに授業を終えた宝珠(ホウジュ)大地(ダイチ)を拾い食肆(レストラン)、隙間時間にバイトを詰め込みとパンパンだ。探偵団の活動としての散歩(パトロール)ももちろん欠かさない。殊勝。


「ってゆーか腹立つ」

「なにが」

兄様(あにさま)あんなに強いのに(マオ)がもっと強いとかマジなわけ?」

「ステゴロなら(ゴー)のほうが強いよ、(イツキ)も倒したし」

「それ聞いた。假比赛(ヤオチョー)のデコピンでしょ」


文句をつけ鼻を鳴らす(スイ)大地(ダイチ)はゴクゴク百事(ペプシ)(あお)り、手の甲で唇の水滴を(ぬぐ)った。


(スイ)、素手でも武器あっても組手で(イン)に勝てないってこと?」

「1回も勝てない!もーこうなってきたら(イツキ)なんてガチでチートじゃん!(グー)(チョキ)(パー)のどれ出しゃいいのよ、ったく」


むくれる妹分は手近なコンクリ片でガシュッと荒々しく瓶可樂(コーラ)の栓を抜く。その口元へ、握りこぶしをマイク風に近付ける大地(ダイチ)


「練習の手応えはどうでしょう」

「は?インタビュー?手応えはまぁアリですぅ。兄様(あにさま)教えるの上手いし、1人より相手してくれる人居たほうが身になるもん」

「なるほどなるほど。必殺技は習得出来そうですか」

「必殺技とか無いわよ!オタクじゃないし!でも‘(すじ)()いな’って褒められてるけどぉ」

「さすがですね妹妹(ムイムイ)

「当ったり前、爸爸(パパ)の1番弟子ナメないでよね。てかなに妹妹(ムイムイ)って?姐姐(ジェジェ)がいるから?」

(イン)兄様(あにさま)だし」

「そりゃ宝珠(ホウジュ)のマネしてんの。アンタも饅頭のこと兄様(あにさま)って呼んでみたら」

「プッ」

「あっ吹いた、饅頭かっわいそぉ」


軽口を叩き合い箸を進める。誘拐事件の調査は進展なしだが、現在街の様子は落ち着いていた。このまま沈静化されればそれはそれで(まる)


姐姐(ジェジェ)、まはひょっと上海(ヒャンハイ)行ふってゆってて。(スイ)はどーひよっはな」

「前は九龍城(こっち)に残ったよね、今回はついてってみれば。たまには懐かしいじゃん」

「んー…ほうねぇ…別に懐かひむこほもないけどぉ」


米をかきこみモゴモゴ話す(スイ)の曖昧な返事を聞きながら、大地(ダイチ)三文魚(しゃけ)むすびをパクつきのんびり思案。

今夜は食肆(レストラン)に集まらないのか。じゃ駄菓子屋でもよって帰ろう、(カムラ)のオヤツも買って…低カロリーぽいのにしてあげようかな。蒟蒻ゼリーとかカット魷魚(イカ)とか。魷魚(イカ)はオヤツ、ってよりはおツマミ?お酒飲まないけどね。次の(ヨウ)さんとのデートいつだっけ。それまでに体重落とすのは至難の業…(カムラ)しょっちゅうダイエットしてるのに痩せないなぁ…。考えながらスマホの微信(チャット)アイコンをタップ、本日も欠席の(コウ)へとスタンプを送信。‘哈囉(ハロー)’。


大地(ダイチ)の携帯で揺れるストラップを見詰める(スイ)が、ふいにおかずを(つま)む手を止めた。頬張っていた食べ物を飲み込み低い声を出す。


(コウ)にメッセ?」

「定期連絡」

媽媽(ママ)が病気なんだっけ」

「わかんないけど体調良くないみたい」

「アンタ、前にそのキーホルダーのバージョン違いくれたじゃん。限定版なのよね?」

「え?うん。(カムラ)がリミテッドって言ってた」


会話は連続したもののやや繋がらない内容に大地(ダイチ)は首を(かし)げる。‘ハギハギのリミテッドエディションやで’。そんな事を言いながら(カムラ)が買ってきてくれたので、(スイ)(コウ)へ分けて3人で揃いにしたケタケタ笑う異形の者。限定といわれると何だかつけるのがもったいなくて、自分は机に飾ってあるけれど。

(スイ)は渋い表情でしばらく静止。箸を(くわ)えると空いた手でパーカーのマフからなにか引っこ抜いた。登場したのは例の異形、リミテッドエディション。大地(ダイチ)は当然(スイ)の分だと思ったが───胡座(あぐら)の横、雑に置いてあるスマホにしっかり1匹くっついているのが見えて考え直す。(スイ)のはそこに居るな?となると?


「助けた女の子に貰ったの」


大地(ダイチ)が考えを纏める前に、(スイ)は再び、今度はいくらか重たそうに口を開いた。

(カムラ)(イン)と共に港で救出した少女より、お礼だとして譲り受けた品。少女は‘拾ったやつだけど‘’これしかなくてごめんなさい’と詫びていた。そう(スイ)が告げた時点で大地(ダイチ)の脳内に疑問が湧く。


拾った?いつどこで?‘拾ったやつ’、とわざわざ言うなら、ニュアンスとしてはその日に見付けたばかりのように聞こえる。(スイ)に会うまでに寄った場所。というか、待って。そこじゃなくて。そのキーホルダーは───


「家から出て割とすぐチンピラ達に(さら)われたみたい、て饅頭ゆってた。そんでアジト連れてかれて。売れそうだったから車で船まで運ばれて。じゃーこれ見付けたの、そのアジトあたりってことでしょ?他に拾ってるヒマないじゃんね」


()を置かず返ってきた回答。大地(ダイチ)は、カラッとしていたはずの空気が途端にベタつき身体のあちらこちらに絡みつくのを感じた。(てのひら)で異形をコロコロ転がしつつ続ける(スイ)


「‘(カムラ)の守備範囲で情報入らないなら俺達のテリトリー’みたいなこと大地(アンタ)ゆってたけど。マジでそーかも、って」

「…どういうこと?」

「だから。誘拐犯とか売り飛ばす相手とか、そーゆーのパイプしてんの、もしかして」




───(コウ)なんじゃないの。

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