表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
九龍懐古  作者: カロン
不撓不屈
443/492

久闊とコソ練・後

不撓不屈10






点心は蝦餃(エビぎょうざ)潮州粉粿(むしぎょうざ)叉焼包(チャーシューまん)腸粉(クレープ)もオススメ。米は鳳爪排骨飯(スペアリブどん)煎蛋牛肉飯(ぎゅうミンチどん)で迷うところ。糯米鶏(ちまき)にして豆豉蒸鳳爪(とりのあし)を追加しても(いい)。メインは魚香茄子煲(マーボーなす)脆皮燒肉(ぶたロースト)火雞(ターキー)も捨てがたい。付け合せの白灼菜心(なのはなゆで)はマスト。箸休めに馬拉糕(むしパン)も頼んで、甜品(デザート)は───…




「食べ過ぎでしょ(アンタ)


テーブル席で会話を聞いていた(スイ)が呆れてツッコむ。振り返る(レン)(イン)は揃ってキョトン。


「新作が色々とありまして!たくさん食べてもらえますと廚師(コック)冥利に尽きましゅ!」

(レン)の料理は絶品だから。それに、この程度では(イツキ)の足元にも及ばないよ」

「ワンチャン及んでない?」


半目(はんめ)(スイ)にも吉娃娃(チワワ)は尻尾を振ってオーダーを訊く。檸檬茶(レモンティー)だけと返す(スイ)、只今お客様還元サービス中でミニ葡式蛋撻(エッグタルト)がガッツリついてきてしまうのがわかっているためだ。知らずに港式奶茶(ミルクティー)を注文した宝珠(ホウジュ)は列を成して押し寄せるタルト軍団に圧倒されオロオロしていた。キャパオーバーの団員を(カムラ)が数人身請けする。


(イン)宝珠(ホウジュ)は予告通り市内に仮住まいを用意したようで、講義の終わりに(レン)のもとへやってきては夕飯を食べていく。それに合わせて寺子屋帰りの(スイ)大地(ダイチ)も通い詰め、食肆(レストラン)は探偵団の(たま)り場に。1度(いちど)宵城(みせ)】用の菓子を取りに来た(マオ)(イン)に捕まり、‘お陰様で瑪莎拉蒂(マセラティ)のヘッドライトが割れた’と揶揄(からか)われたり(スイ)に‘必殺技の元祖’と呼ばれたりされ非常にゲンナリして帰っていった。以降城主は全く姿を見せない。


とにもかくにも───(イン)が半グレ連中から得た情報を(マオ)とも共有しストリートを洗う(カムラ)だが…目星いネタは出ず。一連(いちれん)の事件に繋がりは無いのか?羽振りの良い買い取り先がある、だから誘拐が頻発する、単純な図式なのか。軍団員(タルト)をつまみ思案。携帯にさがるストラップを(いじ)る。


(スイ)がそのストラップへ視線を落としポツリ。


「最近、学校こないわね」

「ん?(コウ)のこと?」


反応した大地(ダイチ)が‘連絡はたまに取ってるよ’とスマホの画面を指先でコンコン叩く。


「お母さんの具合、ずっと悪いみたい。手伝える事あったらゆってって微信(チャット)送ったけど」


大地(ダイチ)はその指をスクリーンで滑らせアニメのタイトルを検索、丸くてモチッとしたキャラクター画像を表示させると皆へと見せた。


「これ、今度増える新しいキャラ。(コウ)が気にしてたからグッズ探してあげようかと思ってるの。どーかな」

「バブみやば」

「メロいね」

「原作には居ないだろう、アニオリか」

「待て待て待てわからへん」


目を見張る(スイ)、頷く宝珠(ホウジュ)、顎を(こす)(イン)(カムラ)がストップをかけると(イン)は‘信じられない’といった表情で眉をあげた。


「わからん?貴様、まさかこの作品を知らないのか?」


大地(ダイチ)(スイ)宝珠(ホウジュ)にも同じ顔をされスンとする平安饅頭(ラッキーバンズ)。ちゃうんや…作品がわからんのやのうて、あんたらが喋っとる単語がわからんのや…いや作品もやけど。


「饅頭、不敬じゃん」

「なにフケイって」

「敬意を欠いて礼儀に外れている事だ」


ビシッと指をさす(スイ)、質問した大地(ダイチ)(イン)の解説に‘あーね’と相槌。野暮が払拭されないままに不敬までも(たまわ)った(カムラ)は悲壮な面様(おもよう)

そないに…?漫画、読んどらんかっただけなのに…?流行りモンに(うと)いんは認めざるを得んが。ちゅうか謎スラングは知っとんのに不敬は知らんのか大地(ダイチ)よ。


「案ずるな、(カムラ)。不敬は自分も(スイ)より(たまわ)っているから」


微妙にズレたフォローを入れる(イン)へ曖昧な返事をする(カムラ)の後ろ、遅れてやってきた藍漣(アイラン)(ネイ)が入り口の戸を開けた。(スイ)がすぐさま手振りで合図。


姐姐(ジェジェ)、こっち!(ネイ)大地(ダイチ)の隣ね?はいはい座る座る!」


問答無用で割り当てられた席に(ネイ)はマゴつくも、大地(ダイチ)が笑顔で椅子を引くとチョコンと着座。互いに話は耳にしていたものの初対面の(イン)藍漣(アイラン)が軽く挨拶を交わす。


「悪いね、(スイ)が世話になってて。呑むか?」

此方(こちら)こそ宝珠(ホウジュ)が良くしてもらって有り難い。酌はいいよ、下戸なんだ」


酒瓶を棚から出しかけた藍漣(アイラン)を止める(イン)。唇の端を吊った藍漣(アイラン)は代わりに卓の伝票を手に取り‘半分ウチにツケてくれ’と厨房の(レン)へ声を飛ばした。そういえば、と大地(ダイチ)宝珠(ホウジュ)を見る。


「香港で新しく出来た宗教のキャラも可愛(かわい)んだよね。【天堂會】みたいな」

「あ、それ道端にポスター貼ってあったかも。キーホルダー貰ってこようか?」

「え!?ほんと!?」


宝珠(ホウジュ)の発言に大地(ダイチ)は前のめり。(イン)が‘此奴(こやつ)と似ているのか’と大地(ダイチ)の手元でカプカプ笑う天仔(てんちゃん)を撫でる。キャラクター談議を始める2人の影で宝珠(ホウジュ)(ネイ)へと囁いた。


大地(ダイチ)君とはどう?」

「え…全然。事件のことで忙しそうだけど、私くらいの歳の子が狙われてるみたいだからお手伝い出来ないし…。でも、頑張ってる大地(ダイチ)は…カッコいいな、っ、て…」


コソコソ返す(ネイ)、消え入る語尾。聞こえずとも内容を察した藍漣(アイラン)がニヤリとし、察せない鈍チン(カムラ)はポヤンとした。歓談の合間に運ばれてきた火雞(ターキー)を丸ごと胴体から(かじ)(イン)(スイ)がクエスチョン。


「てかさぁ。兄様(あにさま)(イツキ)に勝てないの?」


やにわに槍玉へ上がる(イツキ)は、今日も今日とてDJ(タクミ)を連れジャマイカなフリマを賑やかしに行っている。店番を張り切る(チャン)の腰痛を懸念した(アズマ)も参加中、老豆(パパ)想い。

(イン)は齧った肉を咀嚼し省察(せいさつ)。飲み込んで、一拍(いっぱく)置き、‘勝てない’と難色を示す。


(イツキ)の実力は相当だし、自分の攻撃は隠密(しごと)がら急所を狙い過ぎる。()っていれば()けやすいのは自明だよ。そもそも(マオ)で勝てなければ自分が勝てる道理は無いだろう」

「スタイル違えばあるかもじゃん、包剪揼(ジャンケン)みたいに!どーしたら(イツキ)に勝てると思う?(スイ)は強くなりたいの、もっともっと!」


畳み掛ける(スイ)大地(ダイチ)は同意、藍漣(アイラン)(なだ)め、(ポヤン)は豆豉蒸鳳爪を取り分ける。小皿を受け取る(ネイ)の隣で宝珠(ホウジュ)がパンッと手を叩いた。


「なら私達が香港にいるあいだ兄様(あにさま)と色々練習してみたらどうかな。兄様(あにさま)、昼間は私が講義で居なくて手持ち無沙汰みたいなの。それで公園で素振りしたり筋トレしたりしてたら不審者で通報されかけちゃって」

「マジ?じゃあ(スイ)と遊んでよ!2人で手合わせしてれば不審じゃないでしょ、決まり!」

(スイ)、兄貴の都合も聞いてやらないと」

「まぁ…自分は(しか)り、暇だから…そうだな、うん。宜しく頼む」


意気揚々と決定した(スイ)を制する藍漣(アイラン)へ問題ないと応えるも、不審者で通報の(くだり)にいかんせん気恥ずかしそうな(イン)が言葉を続ける。


「確かに包剪揼(ジャンケン)は良い例えだった。勝負の結果が必ずしも序列どおりというわけではないし、(スイ)の得物も自分の得物も珍しい部類だしな。手法を合わせれば(ある)いは(イツキ)に通用するかも知れん」

「やった!気合い入れて相手してよね、兄様(あにさま)!」

「自分は立ち合いでは常に全力だよ」


返答にガッツポーズの(スイ)大地(ダイチ)宝珠(ホウジュ)へ‘俺にもまたスリングショットの撃ち方教えて?お礼はこれで’と幸運曲奇(フォーチュンクッキー)を渡しウインク、宝珠(ホウジュ)も‘喜んで’と微笑んだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ