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九龍懐古  作者: カロン
不撓不屈
434/492

探偵団と新ミッション

不撓不屈3






「だからね。俺らの出番かなって」


国語の授業、ミニ作文。生徒達はいくつかの小グループにわかれ各々(おのおの)テーマに沿った意見をまとめて発表する。使用言語は広東語ではなく標準語。普通话に1番慣れ親しんでいる(スイ)をリーダーに据え、加えて(コウ)を引き入れて3人組を作った大地(ダイチ)は、早々に自分の担当箇所を書き終わり暇を持て余す(ボス)に校正を手伝ってもらいつつコソコソと仕事(・・)の相談を持ち掛けた。


大地(アンタ)それ、(カムラ)がやかましいんじゃん?仲介屋も関係ないし。あとそこの文章多謝(ドーチェ)じゃなくて谢谢(シェイシェイ)

「あっほんとだ、謝謝(ありがと)。でもさぁ花街で働いてる女の人とかの子供も居なくなったりしちゃってるって。(カムラ)の守備範囲で情報入らないなら俺達のテリトリーの噂が役に立つかも知れないでしょ?」


このところ取り沙汰される失踪事件。(カムラ)はドタバタ動き回り、(マオ)もいくらか成り行きを気に掛けているが、なかなかヒントが掴めていない様子。

ターゲットの‘子供’とは本当に‘子供’、被害者は基本10歳程度の男女に集中していた。従って(カムラ)大地(ダイチ)へ向ける煩慮は多少行き過ぎなのだが、そこが過保護たる所以(ゆえん)。とはいえ【天堂會】の時も俺10歳で(とお)ったしなぁ…無くはない…思いながら鉛筆をクルクル回す大地(ダイチ)

大地(ダイチ)とて、自分が解決まで導く、などというだいそれた願望はもちろん持たない。けれど近隣の友人達が巻き込まれる可能性を無視し黙って放って置くことも難しかった。些細な違和感を見逃さないように、不穏な空気に(いち)早く気付けるように、手が届く相手には手を伸ばしたい───そういう意志。その中で、トラブルに関する(なにがし)かがヒットすれば萬歲(バンザイ)


「ま…確かに(スイ)達のほうが寺子屋の子とかストチルとかにも関わりやすいけどぉ…誰か保護者(・・・)がいなけりゃ饅頭ウルサイじゃん。(コウ)、ここ単語違う」

「ごっごめんなさい」

「なんで謝んのよ」


眼球を右に左に(せわ)しなく動かし話を聞いていた(コウ)が、指摘を受けアタフタと消しゴムをかける。そのデコをシャーペンの尻でつつき、(スイ)は難儀そうに眉を曲げた。


姐姐(ジェジェ)に頼んでみる?饅頭になんか言われたら‘保護監督してます!’てことにして!ってさ。どーせ(スイ)()を事務所で使うんだし」

「わ!やった!藍漣(アイラン)にも報酬渡さなきゃ」

「依頼で動くんじゃないし誰からも報酬貰えないじゃないの」

「ほ、報酬?お金が必要なら僕が払います」

(アンタ)はすぐ金払おうとすんのやめなっつの」


(スイ)は机の下でスマホをイジり藍漣(アイラン)微信(チャット)。ミーティングで家を使っていいかの打診をすれば、とりあえず学校終わりに迎えに行くとの即レスがついた。


「おやつでもテイクアウェイして帰って(ウチ)で作戦会議しましょ。(コウ)も寄る?」

「あ、僕は…えと…お、お母さんが待ってるから…」


誘われた(コウ)はボソボソ呟き、困り顔で俯く。急に調査メンバーへ認定されても困惑するかと大地(ダイチ)は納得するも、その瞳の奥に何となく───羨望のような憧憬のような熱を感じ、ピッと掲げた親指を差し出した。


「あんまウロチョロすると家族が心配しちゃうもんね。したら、俺ら計画立てとく!また学校(ここ)で話そ!」


その言葉に(コウ)は視線を上げるとはにかんで頬を赤らめ、自身もサムズアップを作り、指の腹と腹をまごまごくっつけ約束を交わした。












終業後。(コウ)と別れ、藍漣(アイラン)と合流し、茶餐廳(チャーチャンテン)でつまみを購入したのち事務所(・・・)にて戦略を練る。ベランダの外で不格好にそびえる違法建築群、景観は本日も(すこぶ)る良好。心地よい風が抜ける午後の魔窟。

戦略などと仰々しく言えど、実際には寺子屋周辺の警戒や生徒への軽い聞き込みを(おこな)う程度。風説を掴むことも狙いのひとつだが、1番は被害が周囲の人間に少しでも広がらないようにする目的。大地(ダイチ)(ぬる)い風になびく前髪をかきあげ、テーブルに頬杖をつき鷄蛋巻(エッグロール)を齧る。


「てか(コウ)、ちょっとだけ変な感じしてたね」

「そりゃ、みんながみんな‘少年探偵団’やりたい訳じゃあないんだから」

「それはそうなんだけど」


みんながみんな探偵団したい訳じゃあない、それはそう。(スイ)の言う通り。しかしそこではなく───(カムラ)藍漣(アイラン)の話題に触れる時、(コウ)はいつもどことなく、複雑な表情になる気がした。

これまで家庭の事情を踏み込んで尋ねてはおらず。父親がどうしているのかも不明だが、会話に出ないのであれば健在ではないのだろう。母親との関係は良好に見えるものの実態までは…問題を抱えているなら力になりたいけれど…。


「まぁ、何かあったら協力してやりゃいいじゃんか。新しい仲間なんだろ。機会が出来たら(ここ)にも呼んでさ」


窓際で紫煙を(くゆ)らす藍漣(アイラン)()む。茶煙草から広がる茉莉花(ジャスミン)の香り。大地(ダイチ)は頷いてまた鷄蛋巻(エッグロール)を齧った。グビグビと瓶可樂(コーラ)を飲み干した(スイ)が内容を整理。


「えっとぉ、そしたらやることは、周りの子達に‘不審者が出ないか’とか‘変わったことはないか’って聞いてみる。(スイ)達も街の雰囲気にもっと注意する。もし新しいニュースゲットしたらみんなに相談。って感じ?それくらいなら危なくもないし問題ないでしょ」

「うん。藍漣(アイラン)もありがと、参加してくれて」

「ウチはなにも。現場にいるのは(スイ)なんだから、(スイ)の方が頼れるよ。な?」


押された太鼓判にご満悦の(スイ)は鼻高々。姐姐(ジェジェ)もこーゆってくれてるし!ジャンジャン頼ってよね!と胸を叩き、大地(ダイチ)も敬礼を返した。






翌日。授業の合間(あいま)のランチタイム、大地(ダイチ)(コウ)へもミッションの方針をユルく説明。フンフン同意する(コウ)の鞄には弁当と共に持参したプレゼントが入っていた。パチンコ自体を買うのは止められてしまったので、ならばと選んできたのは発射する弾。盲点。ワサワサ出てくる多数の小袋にゴッソリと詰まった、ガッチガチでピッカピカな鉛の粒。

このいでたちは…もっと正式なスリングショットに使う物では?それこそ軍用とか…?大地(ダイチ)は戸惑うも(ほが)らかに礼を述べ、手持ちのキャラクターキーホルダーを(コウ)のショルダーバッグの金具部分へと数人里子(さとご)に出すことで互いの立場の公平さを保った。











───そして任務開始から数日後。そのヒビ割れは、唐突に起こった、代わり映えのない騒動から広がっていく。

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