表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
九龍懐古  作者: カロン
盂蘭盆会
429/492

鬼節とルール違反・後

盂蘭盆会2






お昼過ぎ。荷物を配達し終え、途中途中でお菓子もわんさか買った(イツキ)は、ランチを摂るべく(レン)食肆(レストラン)へ。中に入れば既にテーブル席で思い思いに腰をかけている(スイ)大地(ダイチ)(ネイ)が居た。(イツキ)は並びの卓へつき、全員の顔をジッと凝視。


「なんか雰囲気違うね」

(カムラ)がさぁ、今日はデコ出しとき!ってうるさくて。オバケ苦手だから。でもこれも(マオ)みたいでイイよね、(ゴー)みたいに全部あげてもいいけど」


フンワリ丸めた前髪をヘアピンで留めている大地(ダイチ)が笑う。確かに(マオ)に似たポンパドールで可愛らしい。燈瑩(トウエイ)と同じオールバックは…大地(ダイチ)の顔立ちでやるとどうなんだろう…カチューシャなら似合うか?思いつつ(イツキ)(スイ)へ目線を移した。


(スイ)も髪結んでないんだ。オバケやだ?」

「ちっがうわよ!さっき寺子屋の近くでウチらも(カムラ)に会っちゃったの!そしたらアイツ、(ネイ)の前髪にピンつけはじめるわ(スイ)にもワァワァ言うわで。やっかましいからポニテやめてかきあげただけ」


平安饅頭(ラッキーバンズ)の妖怪が来てしまったとへの字口。と、ドアを引いて(タクミ)が来店。軽く手を挙げた(イツキ)に応えて隣へ座る姿は、珍しくフーディーもビーニーも無くダボついたタンクトップにカーゴパンツのみ。(スイ)が首を(かし)げる。


「てか、(イツキ)(タクミ)も帽子とってんのね」

(アズマ)が怖がるから」

「俺は別に何となく」


頷く(イツキ)、おまじない程度だと答える(タクミ)


これも鬼節のタブーに(ちな)んだもの。言い伝えによれば人間は(ひたい)と肩に火が灯っており、それらが鬼を遠ざける役目を果たしているけれど…そのエネルギー源を覆い隠してしまうと霊の影響を受けやすくなる。なので帽子をかぶったり前髪をつくったり、肩を叩いたりはよろしくないのだとか。


(スイ)は小首を捻ったままコメント。


(イツキ)は変わんないけど、(アンタ)そーゆー感じだと一気(いっき)にチャラいわね」

「え?そう?」


駄目かな、駄目ではない、と問答している(あいだ)(レン)が厨房より出来たてホカホカのお薦めメニューを運んでくる。来店を事前に報告していた為、料理も用意してくれていたようだ。まずは点心からいただきます。


「モサメガネ、幽霊怖いんだ?やっぱ」

「うん。家でもすごい色々ルール守ってる。藍漣(アイラン)は?」

姐姐(ジェジェ)は自分のことは気にしてないけど、人に対しては気ぃ遣ってあげてるみたい。後ろから声掛けないとかさ」


茶のお代わりを注いでいた(レン)が、会話を聞いてササッと指で前髪を左右に撫でつけた。


「ぼ、僕ももっとオデコ出したほうがいいでしゅかね…?」

(レン)は大丈夫でしょ、オバケって(いぬ)とか(ねこ)が苦手らしいじゃん」

「じゃあ(マオ)も安全ってことかぁ」


犬猫の基準が何やらおかしい気もするが(スイ)の意見に大地(ダイチ)は納得、ホッとした吉娃娃(チワワ)は尻尾を振る。(スイ)は再度首を(かし)げた。


「あとは何やったらいけないんだっけ」

「はいはい!脚の毛を剃る!」

「はぁ?超地味(じみ)なの知ってるわね大地(アンタ)

「夜に口笛を吹くのはNGってきいたことありましゅ」

「それ、日本でも言われてるらしいぜ。蛇出るつって」

「もっと派手なのないわけぇ?(ネイ)は?」

「派手じゃないけど…終バスと終電は幽霊でパンパンだから避ける、とか。夜道も…」

「お洗濯もそうだけど、夜にしちゃうとマズいことが多いのかな?あ、赤と黒も着るとマズいんだよね」


うーん、と親指を下唇へあてる大地(ダイチ)(イツキ)は【東風(いえ)】の洗濯物と(アズマ)の服装を思い出す。(アズマ)、いつもは赤のパーカーが多いけど今日は白だったな。なるほど。


(しばら)く幽霊話で盛り上がり、話題は幽霊から妖怪へ移行し、神仏へと飛び、香港で新しく現れた宗教のデフォルメキャラキーホルダーへと着地。今度貰いに行きたいが(カムラ)が許可をくれないとふてくされる大地(ダイチ)に、(イツキ)は頬杖。


「【天堂會】の時、無茶したから」

「それはそれじゃん!もう時効!」

「俺が貰ってきてやろっか」

(アンタ)、チャラくて貰えないんじゃない?宗教に興味なさそう」


信者っぽくないかな、信者っぽくはない、と問答している(あいだ)(レン)が厨房より出来たてホカホカのお薦めデザートを運んでくる。こちらも下準備をしていてくれた模様、まずは馬拉糕(マーラーカオ)からいただきます。


腹を膨らませ、あれこれ駄弁り、日が落ちる前に各々(おのおの)足早に帰宅。夜はオバケの動きが活発化してしまう。早々に家に籠もるが吉。


(イツキ)が【東風】へ帰り着くと、(アズマ)は洗濯物をキチンと全て取り込み夕餉(ゆうげ)もこさえ、立て籠もる準備をしっかり整えていた。(イツキ)は土産の曲奇(クッキー)鶏蛋卷(エッグロール)を店先に設置してある祭壇へお裾分けし、台所の棚に並ぶアロハな仲良しぬいぐるみや初代黒縁眼鏡の傍へもたんまり盛った。(アズマ)がプレゼントしたのであろう折り紙細工のギターやお絵描きセット等の品々もあいまって、ちょっとしたホームパーティーさながら賑やかになった風景を(イツキ)は微笑ましく感じ…




─────スマホのカメラを向けて、1枚、写真を撮った。




「もう夕飯食べる?まだ早いかしら」

「食べる」


表玄関のシャッターを降ろし戸締まりをして戻ってきた(アズマ)に、携帯をポケットへと仕舞いながら返答する(イツキ)

心なしかしめやかな夜が訪れた城砦で、蝋燭と線香の灯火が、淡く温かに煌めいていた。











皆が寝静まった真夜中。独りでにPCへ送信されたその写真が勝手にスクリーンセーバーを飾り、翌日ラップトップを起動した(アズマ)が、うっすらと写り込んでいた3本の手に悲鳴をあげスツールから盛大に転げ落ちたのはまた別の話だ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ