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九龍懐古  作者: カロン
喧嘩商売
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後日談と期待の新人

喧嘩商売 後日談






「お待たせぇ!」


大地(ダイチ)が元気な声とともに【東風】のドアを開ける。

手には様々な種類の鶏蛋仔(エッグワッフル)、後ろから付いて入ってきた(イツキ)もお持ち帰り袋の中に沢山の鶏蛋仔(エッグワッフル)を抱えていた。


「こんなにもろたん?食えへんやん」

「1人2個ずつだよ、すぐ無くなるよ」

「3個食べたい…」

「俺1個でいいから(イツキ)食べな?」


そう言うと燈瑩(トウエイ)は2個ずつわけようとする大地(ダイチ)からひとつだけ頂戴し、もうひとつを3個欲しがる(イツキ)に手渡した。

カウンターの中に居る(アズマ)が、俺は1個もいらない、(イツキ)に全部あげると声を飛ばす。思いがけず5個へと増えた取り分に(イツキ)は嬉しそうだ。



うっかり不正の手助けをしたうえに敵方の人間との仲介をしてしまい色々な疑いをかけられたが、(マオ)の計らいもあり難を逃れることができたレフェリー…もとい鶏蛋仔(ワッフル)屋は、【東風】の面々が店に顔を出す度に諸々の礼を兼ねこうして鶏蛋仔(エッグワッフル)をプレゼントしてくれるのだ。


わざと負けた(イツキ)(イツキ)なのだが、ここは九龍城、より報酬の良い方につくのはどのタイミングであってもなんら問題はない。

それにもともと、(イツキ)は【獣幇】ではなく部外者だ。自らの力量で挑まず喧嘩屋を金で雇うというズルをした以上は向こうも何も言えないのである。



あのあと(マオ)は【獣幇】に話をつけ、下っ端の管理下から小さい店を2ついただいた。そこに知り合いの水商売人や【宵城】の従業員を置いて簡易な飲み屋を作り、訪れた客を花街へ流す。新規顧客ルートの拡大だ。

その飲み屋自体の売上は【獣幇】にも少し回して、マフィアとも良好な関係を保つ。結果として幾ばくかのシマは獲ったが、双方に利のある角が立たない形におさめたのだった。




「しかし、新規ルート良い感じだな。あの辺に手ぇ伸ばしてる花街の奴ぁほとんどいねぇから、全部【宵城(こっち)】に流れてくるぜ。丸儲けだわ。にゃはは」

「【獣幇】的にも花街側に店舗運営して貰って実際得なんじゃないの?【獣幇(あそこ)】は喧嘩賭博での稼ぎがメインで、経営には力入れてなかったからね」


笑い声をあげる(マオ)に、ライター貸してとジェスチャーしながら燈瑩(トウエイ)が言う。

(マオ)は【宵城】特製ライターのラインストーン(ハート)デコバージョン非売品を、やるよと放り投げた。


実際今回の騒動で一番損を(こうむ)ったのは燈瑩(トウエイ)だ。

【獣幇】から貰えるはずだった金額の倍払うという提案で(イツキ)との試合を決着させているのだから、額はかなりのものである。

それを思えば(マオ)としては非売品特製ライターくらい何個くれてやってもかまわなかった。


(カムラ)もボコボコにされてはいるが頑張った対価として【宵城】への従業員紹介料を大幅に増やしてもらえている。

(アズマ)はそもそもの元凶なので最終的に丸く収まり(とが)められなくなっただけでも御の字とすべきだ。


報酬を渡された(イツキ)は若干申し訳無さそうだったが、燈瑩(トウエイ)はこれで【獣幇】とも顔見知りになったし俺も新しく売買ルート作れるからいいよと笑っていた。

(マオ)が見るに燈瑩(トウエイ)はすでに界隈の売買ルートは持っていると思うのだが、何か他の算段があるんだろう。

本人がいいよと言っているのだから周りが考えても詮無い事だ。




「ところで何で鶏蛋仔(ワッフル)のオッサンがレフェリーしとったん」


疑問を呈する(カムラ)に、パンダクッキーの刺さったトッピング増し増し甘々キュートな鶏蛋仔(エッグワッフル)をかじりつつ答える(イツキ)


「喧嘩見るのが好きで仲裁とかもしてたらいつの間にか街で決闘(ああいうの)の審判のポジションになった、って。地下格闘技とかもよく行くらしいよ」

「見かけによらんな…」


(カムラ)が呟く。苺ソースがなんとなく血に見えてくる。


あ、そういえばと(イツキ)が顔を上げ言った。


「おじさんが(カムラ)に地下格闘技出ないか?って」

「え!?俺!?人選おかしいやろ」

(カムラ)が一番良かったんだって。外見とか逃げ回り方とか、ボロボロで立ち向かう感じとか」


褒められているのかいないのかまったくわからず、(カムラ)は複雑な気持ちになった。

弱いからこその泥臭さが皆の心を揺さぶったのか?いや、でも嬉しくない。

願わくば、(カムラ)だってカッコよく戦いたいし勝ちたいのだ。ただ実力が全然足りていないだけで。


「へぇ、なら俺チケットさばくわ」

(アズマ)、やらんで俺は」

「まぁ(カムラ)の負けに1万ドルだな」

「やらんて、(マオ)

「そしたら俺は勝ちに張ろうか?」

「えっじゃあ勝って!頑張れ(カムラ)!」

燈瑩(トウエイ)さん!!大地(ダイチ)!!」


誰の助けも得られずに、一人で首をブンブンと横に振って否定する(カムラ)






その(カムラ)が翌週、みんなの声援を背負(しょ)って死にそうな顔でリングに姿をあらわすのはまた別の話だ。


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