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九龍懐古  作者: カロン
陰徳陽報
385/492

ガルバとミノムシ

陰徳陽報1






「ちょっと栄和一期のガルバ行ってこいよ」




ヘルスじゃなくてよかった。




「ツケ減らしてくれるんなら喜んで」


ソファで酒瓶を傾けて素敵な提案(・・・・・)をしてきた(マオ)へ、条件つきでOKする(アズマ)。以前のヘルスと比べて大分(だいぶ)ハードルの下がった依頼…ん?ピンサロだったか?まぁとにかく。


我が物顔で【東風(みせ)】の酒を飲み散らかす(マオ)(アズマ)の返答にククッと喉を鳴らす。


(テメェ)、好きだろが。あの辺の店」

「そんな昔の話しないでもらえます?ジジィじゃないんだから」

「ほんっと、女が帰って来た途端に付き合い(わり)ぃなモサメガネ」

「途端ってことないでしょ!藍漣(アイラン)居なくても【宵城】以外には行かないじゃない!」


モサメガネは手をパタパタさせ否定。確かに数日前、藍漣(アイラン)が上海から九龍へと戻ってきていたが…この男、それとは関係無しにそういった店でフラフラ飲み歩く事はあまりない。今は(・・)。またぞろ喉を鳴らす(マオ)、若干気恥ずかしそうな(アズマ)はカウンターに頬杖。


「クスリ関係?」

「じゃなきゃテメェに振らねぇよ薬中(やくちゅう)


‘当然’といった声音の(マオ)を見やり、‘ですよね’と返す薬中は勘案。まったくもう…モサメガネだの薬中だの豊富なアダ名のバリエーションだわ…じゃなくて。

このネコちゃんが俺を(パシ)る時は、十中八九(じゅっちゅうはっく)ドラッグ関連の(なにがし)か。喧嘩方面なら(イツキ)を、裏社会のイザコザなら燈瑩(トウエイ)を、(ちまた)の情報収集なら(カムラ)を当たればいいのだ…適材適所。別に訊く必要もなかった。

そういえば鶏蛋仔(ワッフル)屋もドーピングがどうとか言っていたと(イツキ)より報告があった。しかし現時点でこの辺りに転がるジャンキーに変わった様子は無い、となると、新規で出回っているのは割かしライトな薬物(やつ)と予想がたつ。パーティー系ファーストフードかな?花街のキャストにも飛び火したのだろうか。


「フツーにテンション上げる系統の(やつ)じゃない?死んでんの?」

「死んでるかは知らねぇ、ちょいちょい消えてる。あとトラブルが増えた気ぃすんな」


(アズマ)の疑問に(マオ)は軽くため息、パイプへ火をいれる。(アズマ)も紙巻きに手を伸ばした。

消えているは死んでいるとほぼ同義…トラブルが増えたのはそのブツを摂取した奴らのせいか。地下格闘技の件しかり、やはり高揚感の出る興奮剤?いや、けれど…バカスカ死人が生まれる(たぐい)の麻薬ならもっと噂が入ってきていてもいい。消える理由は別件?


検討中の(アズマ)へ、ポポッと煙を吐く(マオ)


「ルート割れりゃいーから。ブラ下げろとは言ってねぇだろ」

(なつ)ぅ」

はひほへ(なにそれ)


月餅の仕分け──復活節(イースター)限定品をたくさん買ってきたのでみんなにもお裾分けです──を終えた(イツキ)が、キッチンからトコトコやって来て疑問符。ウサギ柄の小振りな袋を(アズマ)(マオ)へ差し出す。口がモゴついているのは既に自分の分を食べているからだが、それはさておき、ブラ下げたとは?


「前に半グレの売人連中と喧嘩になってね、(マオ)にゃんそいつらボコして興発楼でミノムシにしたのよ」

「ミノムシにしたのはテメェじゃねぇか。んな重労働、(マオ)様がするわきゃねっつの」

「やらせたのは(マオ)にゃんじゃぁん」


要は───揉めごとを起こし、相手グループを1人残らず()して簀巻(すま)きにした(マオ)が、(アズマ)を呼び付け全員を手近なビルの屋上からミノムシよろしく吊り下げさせた、というほのぼのストーリー。‘()ってねんだからメチャクチャ優しいだろ’と首を回す(マオ)へ、‘いいバイトでしたね’と(アズマ)。その時もお手伝いでツケを減らしてもらったようだ。

いつの話だろう…あったっけなそんなこと…思いつつ(イツキ)は月餅を吸い込む。(アズマ)もお裾分けを(かじ)り、ペロッと指を舐めた。


「ガールズバーだっけ?栄和一期の」

「そ。薬流してる女がいるみてぇ、どいつかはわかんねぇけど」


瞼を細めてパイプを振る(マオ)、どうも情報が曖昧らしい。さしあたり然程(さほど)大きな事件でも無い…耳に届くネタが少ないのは必然。


「したら、周りの遊び場も覗いてみよっか」

「まーいーよ何でも。お前に任せるわ」


(アズマ)の言葉に(マオ)は再度パイプを振る。月餅をもうひとくち(かじ)(アズマ)は‘美味しいか’と視線で窺ってくる(イツキ)へサムズアップ。


「夕方には開くよね?ガルバだし。口あけで行ってくる」

「んだよモサメガネ、夜は予定(・・)あんのか」


あると答えかけてやめたにも関わらず、‘女に奢る前にツケ返せ’の台詞と共に飛来した酒瓶を額に喰らいフロアへ倒れるモサメガネ。この猫ちゃん、言ってもいないのに藍漣(アイラン)とデートだと決めつけないでいただきたい!正解ですけどね!2発目を回避するためなるべく存在感を消したまま床に突っ伏している(アズマ)と、お構い無しで追撃を叩き込むか迷っている(マオ)。生殺与奪。

いつものやりとりを眺めながら、(イツキ)は自分も夜ご飯は外食──といっても(レン)の所に行くだけ──をしようと決め、復活節(イースター)用に開発されているであろう新メニューへホクホクと想いを馳せた。

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