表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
九龍懐古  作者: カロン
尋常一様
364/492

不要部位とヒステリー・前

尋常一様10






「で、何だったの例の山盛り生首は」


時計の針が正午からずれた頃。早めの昼食を済ませた(ママ)(こども)へ茶を淹れつつ質問、茉莉花(ジャスミン)の香り漂う【東風】。ちなみに本日のランチメニューは牛腩麺と猪潤焼売。(イツキ)は麺を3杯おかわりした。


如何(いかん)せん一連(いちれん)の事柄と微妙に関係性の掴めない生首が、数日前に再登場。(アズマ)達の発見した物はワンペアだったが(イツキ)(カムラ)が遭遇した物は積み上がったタワー、世にも嬉しくない盛り合わせ。ついでに割と腐っていた。訊けば、スラム街ないし貧困区ではどうもちょくちょく生首が発見されているようだ。煙草へ火を点けつつ燈瑩(トウエイ)が口を開く。


「そんなにいっぱいあるってなると、身体がどっかに卸され(・・・)てるってことだからさ。臓器売買のほうとかに手ぇ広げて調べてみた」

「おめぇの十八番(オハコ)か」

「人聞き悪過ぎるよ」


(マオ)の茶々を‘死体はたまに運ぶだけで売ってない’と否定する燈瑩(トウエイ)(イツキ)はウンウン納得。(カムラ)が居なければ、基本的にこういったやり取りにツッこむ人間はゼロだ。白煙を流して続ける燈瑩(トウエイ)


「そしたら、出回ってた。頭無し(・・・)の商品」


(アズマ)はコテンと首を(かたむ)ける。頭から下を持っていくなら内臓、ないし手足を売り払っているのだろうが…死んでから臓器を摘出したりなんやりかんやりまでの許容時間は、部位にもよるけれど(おおむ)ね最短4時間から最長24時間。猶予はあまりない。うっかり()ってしまった死体を放置して、たまたまそれを別の誰かが持って行く…というパターンではなく、元より売買目的なのであれば微妙に方法が雑だ。そう述べる違法薬師に燈瑩(トウエイ)も頷く。


「だから、死体を量産してる大元と売り捌いてるのは無関係の組織ってことになるかな」

「大陸の製薬会社と九龍のチンピラて訳ね」


(アズマ)(げん)(イツキ)はウンウン納得。それを横目に(マオ)は‘(あいつ)腹いっぱいだから考えてねぇな…何なら(ねみ)ぃんじゃねぇのか…’などと思った。開いているようないないような瞼。


とにかく話を整理すると───城砦に転がっているジャンキーを使い新薬(ドラッグ)の実験をしている製薬会社、その過程で生まれた死体を掠め盗り四方(しほう)に売っている九龍のチーム。生首に関わっているのは主にこの2つ。

頭を棄てる理由は、まず目玉や歯の感じから重度の薬物中毒者だと発覚し買取不可になる可能性を下げる為。(はらわた)は掻っぴらいてみるまでは良し悪しがわからない、売買終了したあとでボロさが(めく)れたとて知ったこっちゃあない。内臓(それ)以外にも死体の使い道は各方面でそこそこあるし、あとはそちらでお好きにどうぞだ。

他には商品(・・)の身バレ防止。ジャンキーに(まぎ)れ棄てられている死体…例えば最初に見付けた生首、アレはカジノ関係の輩。その手合いを拾って売り飛ばすにあたり、顔は邪魔。奴等は元々金融機関(ニセサツ)方面の回し者だろう。()られた理由はビーニーのようにお喋りだったか、立場を利用して勝手にポケットマネーを膨らませていたか、そんな処。小道に生息するだけの薬中(やくちゅう)とは違い裏社会(そっち)に知り合いがいる(たぐい)の人間だ、面出ししては余計なトラブルへ発展しかねない。


製薬会社(やっこ)さんブチ切れてんじゃねーの」

新薬(クスリ)のこと漏れちゃうし?」


トントンと顳顬(こめかみ)を叩く(マオ)(アズマ)が唇の端を上げた。使用済みの被験者(・・・)の死体は、転がしておくだけならいいものの、売り払うとなると弊害が出てくる。パクっている側のやり方も非常に杜撰(ずさん)生首(ゴミ)の廃棄も適当。まずもって‘製薬会社’が出した不用品を‘医療関係’へ売買しているのだ、足が付くのはもう時間の問題な気もした。


「でもまぁ…範疇の外だね」


別に俺らが解決する案件じゃないと燈瑩(トウエイ)は灰皿を紙巻きでノック。ドラッグ及びカジノ界隈で幾らか実害はでていたが、香港島での騒動以降それも静かになっている。今回発見されたタワーが新品(・・)ではなかったのもそのせいだろう。もしかしたら、(こと)が納まる前に、死体を盗んでいるチームと製薬会社側のマフィア連中の(あいだ)一悶着(ひともんちゃく)起こるかも知れないが…それはそれ。割と対岸の火事。結論に(イツキ)はまたもウンウン納得───しているのではなかった。寝てる。コックリコックリ、船を漕いでるだけ。‘お昼寝ならベッド行きなさい’と(ママ)


現時点で花街のピンクカジノ系列に飛び火も無し、ここから事態が拡大することは多分ないだろう。(マオ)の懸念も払拭、(アズマ)は顧客へとそれとなく注意喚起してルートを守り、燈瑩(トウエイ)も密輸品のチェックをほんのり強化。騒動は緩やかに鎮静化されつつあった。






ある方面を除いて。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ