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九龍懐古  作者: カロン
尋常一様
362/492

山田と静電気・後

尋常一様8






建物から出た燈瑩(トウエイ)を追って発砲してくるマフィアへ連射する(タクミ)、大雑把な牽制。男達は(タクミ)へと銃口を向けるも、今度は再び燈瑩(トウエイ)に撃ち返され側頭部へ風穴を(こしら)える羽目に。あっちもこっちもキョロキョロしていては駄目なのだ。初めに狙った相手を最後までキチンと狙う、初志貫徹が大事。


暗がりに消える燈瑩(トウエイ)の背を見送りながら(タクミ)がこぼす。


燈瑩(あいつ)、走ってんのによくピンポイントで頭当てれるな」

「脳天ブチ抜かせたら右に出る奴いないとか(マオ)にゃんが言ってた」

(こわ)っ。そーいや遊園地の射撃でバカスカ景品とってたっけ」

「またとってもらうのですよ」

「なのですよ」


口元に手をあてオーバーリアクションで答える(アズマ)(タクミ)もオーバーに肩を震わせてみせた(のち)破顔、ほのぼの。


半グレ共は突撃してこようとはしない、達者な銃の腕を警戒している模様。続く撃ち合い、ワンマガジン使い切ってリロード。均衡状態。

俺は別に(チャカ)上手くねぇし(アズマ)なんて居るだけ(・・・・)だけど…よかった勘違いしてくれて、ラッキーラッキー…引き金を絞りつつ相手の動向を覗き見る(タクミ)。今トータルで5人倒したか?またビルの中から仲間が出てきた、けど遅れて来た奴にゃ顔バレてねぇし関係ねぇな。そーすっと()んなきゃなのはあと3人くらい?ユルユルと思考を纏めていると───何かが放物線を描いて飛んできた。パッとキャッチし、手首を返して確認。手榴弾。


「うわ危ね」


言いながら腕を振って(アズマ)にパス。ギャァと悲鳴が聞こえたが、ワンタッチで即座にビルへと投げ返しているのが見えた。扉の中に吸い込まれる黒い塊。()を置かず轟く爆発音、周囲が明るく染まる。


「ナイスピッチ」

多謝(ありがと)!!てか何で俺に渡したのぉ!?」

(おまえ)の方が投げるの得意じゃん。いー感じに倒せたな」


ケロリと笑う(タクミ)(アズマ)はへの字(ぐち)。んな(ほが)らかな笑顔をされても…ピン抜いてからの猶予短めのタイプならミンチになってたわよ…?(アズマ)が嘆けば‘お前悪運強いんだろ’と(タクミ)はまた笑った。


と、遠くから響くサイレン。警察。


誰かに通報されたのか?さすがに迅速、城砦とはわけが違う。けれどそのパトランプよりも早く、路地を曲がってくるヘッドライトがまばゆく光った。燈瑩(トウエイ)桑塔納(サンタナ)

2人の目前へ止まった車、しかしすぐ後ろに迫るパトカー。(タクミ)が後部座席に乗り込むと車両は間髪入れず急発進、途端───閉める前のドアへ弾丸がドシドシめりこんだ。残党共の発砲。そのまま細い路地を抜けカーブを曲がった時、開きっ放しの扉がコンクリート塀に衝突した。とれた。被弾でヒンジにダメージを喰っていたらしい、フッ飛んで後方へ転がっていくドア。


「あっ!!()げた!!」

「わ、ごめん」


叫ぶ(タクミ)へバックミラー越しに謝る燈瑩(トウエイ)。‘俺が閉められなかったのが悪い’とショゲる(タクミ)は、一風(いっぷう)変わったオープンカーばりに風通しがよくなってしまった車体のピラーを悲しげに撫でる。


(アズマ)のほうはドア大丈夫…あれ?(アズマ)は?」


後部座席を確認した燈瑩(トウエイ)が疑問符。(タクミ)も隣に目を向けた。居なかった─────(アズマ)が。


「またぁ!?」


慌てて後ろを振り返る(タクミ)。あの眼鏡、反対側のドアから乗り込もうとして全然間に合わなかったようだ。相変わらず足が遅い。ドンパチをかますトリガーになっただけでも迷惑だというのに実に困った男である。


「マジかよアイツ…もー…摩羅廟街(あっち)の道回って戻る?」


ニット帽をワシャワシャやりながら問う(タクミ)OK(オーケー)を出す燈瑩(トウエイ)は内心、‘これ(マオ)だったら見捨てられてたな…(タクミ)で良かったね…’などと思った。ハンドルを切りルート変更。


「角2回折れたらさっきのところ出るよ」

「撃ちながらいくわ。燈瑩(おまえ)、サングラスとか持ってないの?警察(サツ)に顔モロバレは()だ」

「んー、これならある」


ダッシュボードをまさぐり燈瑩(トウエイ)が手にしたのは見覚えのあるネズミ型レンズ、‘パリピじゃん’と感想を述べつつ受け取り装着する(タクミ)。なんというかタイムリー、蘇るテーマパークの記憶。ハハッ。


燈瑩(トウエイ)、次も景品とってよ」

「遊園地?」

「そー。ちょうど(アズマ)とゆってて、とってもらおーって」

(アズマ)も取れるでしょ投げ物で」

「確かに、さっきも手榴弾で上手く敵爆散させてたわ」

(こわ)っ。ていうかグレネード持ってたの」

「ビルから投げられたやつ投げ返した」

「え、本当?もう出回ってるんだ。アイツら話違うなぁ」


首を(かし)げる燈瑩(トウエイ)。‘アイツら’は武器商(しごと)関係の何かだろうなとふんわり思った(タクミ)は、続けてポソッと呟かれた‘殺そ’は聞き流し、1つ目の十字路を過ぎたあたりで窓枠に腰掛け上体を乗り出す。燈瑩(トウエイ)はアクセルを踏みつつフロントガラスギリギリまでシート下方へ身体をさげて隠れた。ドリフトで2つ目の角を曲がり目標を確認、警察に取り囲まれている(アズマ)と向かいのビルのマフィア達。

タイヤのスリップ音に振り向く総員。その目に映ったのは───ハイスピードで突っ込んでくる、一見(いっけん)運転手がおらず後部座席のウインドウから陽気なグラサンの男がハコ乗りしているボコボコの桑塔納(サンタナ)。なにがなにやらわからない。戸惑う警官隊へ向けて(タクミ)は威嚇射撃し声を張った。


「アズっ……山田ぁ!!」


偽名、配慮。フードから取り出した物体を山田(アズマ)へ投げる。ビルには爆発した跡、まさか手榴弾か?懸念した警官隊は身を引き物陰へ退避。反対に山田(アズマ)は飛来する(なにがし)かへ手を伸ばした。

開いた両者の距離、(あいだ)へと滑り込む桑塔納(サンタナ)、すれ違いざまに(タクミ)は取れたドア(がわ)から(アズマ)をバックシートに引きずり込んだ。車内へ倒れ込む2人。走り去る車体、ケツに何発か鉛玉をお見舞いされたが遠ざかるテールランプは止まらない。まばたきのうちに四駆は再度十字路を折れて見えなくなった。ほんの数秒の出来事。

(あと)には明滅するパトランプ、呆気にとられるも(なお)揉み合いを繰り広げる警官隊とマフィア連中、物好きな野次馬だけが、週末の熱気を帯びる香港の路地裏に残った。











「あっぶな!!懲役んなるとこだった!!」

「懲役で済むのかよ?てかお前もうツラ割れまくりじゃん、しばらく城外(そと)行かねぇほうがいいな」


ギャゥンと鳴く(アズマ)へ、シートに倒れた体勢のまま帽子をとった(タクミ)がサングラスで前髪をあげながら溜め息。(アズマ)もキャップを脱いだ。窓の外を緩やかに過ぎる夜景。


「でも(シイ)(ウェイ)と星座見なきゃなのです」

「あーね。獅子山(やま)ならワンチャン?つーかぬいぐるみ、ちゃんとキャッチした?」

「したした」


頷き身体を起こす(アズマ)の手の中には、寄り添う2匹のアロハシャツ。(タクミ)が投げたのは手榴弾…ではもちろんなく、お(とも)のぬいぐるみ。(アズマ)はその背をポンポンし‘ありがと(ロク)’と礼を告げる。


すると尋常じゃないレベルの静電気がきた。


「痛ぁ!!!!」


飛び退く(アズマ)。静電気が発生する素材じゃなくない…?どうして…?2匹をマジマジ見詰める。大柄な1匹、に抱きつく小柄な1匹。小柄な方の視線が刺さった気がした。眼力。悲鳴に驚いた(タクミ)が目をパチクリさせる。


「なに急に」

「いや…(シュウ)ちゃんに攻撃された…」

「は?」


‘バチッてきた’と(てのひら)をフルフルしている(アズマ)へ‘(ロク)にだけ(れい)言うからじゃね’と(タクミ)、心霊現象についてはナチュラル全肯定している返答に燈瑩(トウエイ)が吹き出す。(シュウ)ちゃんごめんと素直に謝る違法薬師。


「ところでどうなのかしら、これ。ちょっとは好転すると思うんだけどぁ痛っ」

「そうだね…あいつら警察にパクられるだろうし、そうしたら関連組織も自重して…界隈が多少静かになるかもね」

「良かったじゃん」


燈瑩(トウエイ)の見解に(タクミ)も相槌。母体の製薬会社や金融機関まで当局の手が回ることは無いだろうけれど、皆ここからの動きは控え目になる(はず)。まだ疑問点はあるものの───しばし様子見だ。


「ていうかほんとありがとっ痛ぁ、(タク)ちゃん今日もウチぃ痛っで夕飯食べる?」

黃花魚(イシモチ)?」

「だから(アズマ)、俺も誘ってよ」


止めどなく静電気を食らい続ける(アズマ)(タクミ)がメニューを訊ね、燈瑩(トウエイ)が前回と同様に文句をつけた。

とびっきりの開放感の後部座席から吹き込む夜風。大怪我をした桑塔納(サンタナ)()人を乗せ、人目(ひとめ)につかぬようソロソロ裏通りを抜けて、九龍城(ホーム)へと帰還していった。

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