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九龍懐古  作者: カロン
両鳳連飛
321/492

飛天と両鳳・中

両鳳連飛18






全員が呆気にとられる中、(イン)(カムラ)の襟首を掴むとソファの後方へ飛び退()き身体を隠す。倒れ込む噴水(・・)から銃を拝借し(カムラ)へパス。


「持っておけ。なるべく貴様には被害が及ばないように努めるが」

「もう()るんか!?いや、そりゃしゃーないけど!!」


(イツキ)を待ちたかったとオタオタする(カムラ)(イン)は破顔、案ずるなと肩へ手を乗せる。


「この程度が如何(どう)にも出来ないようでは(マオ)に申し訳が立たないだろう?彼奴(あやつ)の評価に恥じぬ働きをしないとな」


言うなり、身を翻してソファを乗り越え群勢の前に立った。向けられる銃口。しかし次の瞬間───まばたきの間に距離を詰めた(イン)の二刀は、10メートルほど離れた正面に構えていた男を斬り伏せていた。まるでフィルムのコマをスキップしたかのような、目にも止まらぬ速度。

場はシンと静まり返るも、刀身の血を払う(イン)が辺りを一瞥(いちべつ)し薄く()むと止まっていた時は流れ出し、ある者は発砲しある者は武器を携え殴りかかってきた。(イン)は顔色ひとつ変えずにその首元をスルスルと刃先で撫でていく。相手の得物(えもの)が拳銃だろうが鉄パイプだろうが対応は全て同じ、左の刀で受けて、右の刀で斬る。それだけ。

背を反らせて(かわ)し、武器を弾いて、斜めに踏み込んで斬る。体勢を低くして()け、攻撃を(さば)いて、立ち上がりざまに斬る。パターンとしては単調な繰り返し。けれど単調が(ゆえ)に、一切(いっさい)の無駄がない。演舞にも似た動き。


(カムラ)はソファから顔を覗かせ様子を窺う。(マオ)のカタに嵌まらない戦い方とは真逆の様式…あっちはあっちで派手やけど、こっちはこっちで流麗やな…。虚空に絵を描くかのごとく躍る刀身の軌跡。けれどやはり、どうしても敵側の数が多い。何とか俺も手助け出来ひんかな?思いつつ眺めていると顎で何かを差し示す(イン)と目が合った。ん?何や、後ろか?───後ろ!?振り返った(カムラ)の眼前に迫る男と大ぶりのナイフ。


「うぉぁ!?」


叫びながら咄嗟(とっさ)に身体を下方へ滑らせると、振りおろされたナイフは(カムラ)の頭上を過ぎてソファのバックレストにブッ刺さった。(こと)のほか深く刃が食い込んだようですぐには引き抜けず、男の2撃目がワンテンポ遅れる。隙を見逃さずに(カムラ)はピストルを構えた。狙いは、ええと…右腕らへん!この距離ならミスはない、はず!引き金を絞る。発射された弾丸は肩へ命中、よろめき崩折れる男。その脇からもう1人が鉄パイプを横薙ぎにスイング、(カムラ)は再度、肩口に狙いを定めてトリガーを引くも…まさかの弾が出ない。


えっジャムったん!?ここで!?(うせ)やん!!マズいマズいマズい────あぁもう!!


(カムラ)はピストルを相手の顔面に向けてブン投げた。鉄の塊はゴインと鼻っ柱にぶつかり、男が屈む。間髪いれずボディブローを叩き込んだ。予想外に見事にキマり床へと這いつくばる男、(うめ)く2人を見下ろす(カムラ)


やった!!宣言通り、2人!!ってアホか…少なすぎるわ、喜んでいる場合では…脳内で(せわ)しなく独りごちる(あいだ)にまた新手が向かってきた。3人目、エクストラステージ。キッと相手を睨みつける。お前は素手か?素手やんな?刃物とか隠し持ってへんよな?な?よし来い!!

顔面に向けて放たれた(こぶし)を両手でガード。かなり腕がジンジンしたが、構わず相手の服を掴み鼻頭(はながしら)にヘッドバッドをいれる。男は後退(あとずさ)るもすぐに再度ストレートを繰り出してきた。膝を曲げ間一髪(かんいっぱつ)で回避、立ち上がりつつ勢い任せにタックル。地べたにゴロゴロ転がり泥仕合にもつれこむ。パンチを防御出来たり出来なかったり、殴り殴られ、なんやかんやと粘る(カムラ)に男は舌打ち。


「なんだこのデブ、ちょこまかと…」

「誰がデブじゃ!!」


(カムラ)は素早くストールを外し、男に向けて(ほう)った。フワッと舞って視界を奪う大判の布。一瞬(いっしゅん)の目眩まし…ちゅうかこのやりとり、憶えがあるな?魔鬼山炮台(デビルズピーク)やったか。あん時は(アズマ)のハーブバッグ投げて、(ヨウ)んこと守ろうとして…。



───選ばれたのは貴様なのだ、もっと自信を持て。でないと彼女の審美眼に難があるということになってしまう。



唇を引き結ぶ(カムラ)。デブちんだろうが何だろうが、俺やって前に進んどんねん。もう自分を下げるようなことはよう言わん。もっとイイ男になる、こっからや、当たり前やろ?陽が選んだ男なんやから!


「いうてな、デブ舐めとったらアカンで!?やるときゃやんねんぞ!!」


(カムラ)は纏わり付くストールを取り払おうとしている男の(うえ)をとる。仰向けでガラ空きの胸元、今だエルボー!!そこそこ──かなりそこそこ──ヘビーな全体重をかけた肘鉄が鳩尾(みぞおち)に刺さり悶絶する男。

K.O.3人目。快挙。ヨロヨロと上半身を起こすデブちん。


(イン)はそれを見やり頬を(ゆる)めたが、後方の(やから)が1人、まだ体勢を立て直していない(カムラ)へ照準を定めんとするのを視界の端に捉えた。即座に射線…男と(カムラ)との(あいだ)へ身体を入れる。銃を持ちあげた男と視線が重なり、気付いたらしき(カムラ)が、名前を呼んだように聞こえた。


この銃弾は────()なせない。(イン)が思うと同時に、ドスッと、くぐもった鈍い音が空気を震わせた。

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