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九龍懐古  作者: カロン
両鳳連飛
307/492

麻と火龍果・前

両鳳連飛8






「じゃあ周年感謝祭のスイーツ、いい感じだったんだね」

「うん。今月中ずっとやってるみたいだから燈瑩(トウエイ)も行こう」

燈瑩(コイツ)ぁ買うだけで食わねぇじゃねぇか」

買う(そこ)が重要なのよ(マオ)にゃん」




晴天、日中、青空市場。




【東風】は定休日──とはいえ誰かが来れば開けるのだがさしあたり来店予定が無かった──なので、スラム街近辺で度々(たびたび)開催されている屋上マーケットへ繰り出した面々。


青空市場などと何だか清涼な呼称をすれど、実態は違法合法ごった煮の雑多な()闇市。建ち並ぶプレハブ小屋、その隙間を縫って人々がゴザやシートを敷き、ヤル気なさげに商品を売っている。

物品カテゴリは日替わり週替り。今回は植物(・・)関連。生花、ドライフラワー、煙草に茶葉、果てはマリファナまでとラインナップの幅は広い。


言うまでもなくマリフ…漢方を入手しに出た(アズマ)と花茶を物色するつもりの(イツキ)、パイプの葉を仕入れようかと足を向けた(マオ)、適当に煙草を見に来た燈瑩(トウエイ)の4人は、ダラダラとルーフトップを渡り歩いていた。


茶葉をあれこれ手に取りつつ(イツキ)は思案。(イン)にいつも食べ歩きを付き合ってもらっているし、お礼として工芸茶でも買っていこうか?宝珠(ホウジュ)もこういうのは好きなのだろうか。聞いたことはない、でも、(スイ)にも好評なのだからきっと女子は好きなはず。多分。そのはず。うん。…念の為、(マオ)燈瑩(トウエイ)にも意見を求めよう…。悩む(にぶ)チン、見当のつかない女心。


とある露店の前で腰を落とし、植木鉢を凝視する(アズマ)(イツキ)も膝に手を付いて(かが)み緑色の葉を観察。大麻か。並んだ鉢はどれも同じにみえるけれど。何か差があるのか問う(イツキ)に、(アズマ)は低い位置でヒソッと指をさす。


「あっちが洋麻(ケナフ)で、そっちが大麻(アサ)

「え?そうなんだ。似てるね、混ざっちゃわないのかな」

「ワザとよワザと」


小首をかしげる(イツキ)へ‘素人に買わせたり当局の目を誤魔化したりするの’とニヤつく(アズマ)(イツキ)は鉢植えを見比べた。洋麻(ケナフ)より大麻(アサ)の方が葉がギザギザしていて、小葉(しょうよう)裏の支脈も明瞭らしい。ピロッと葉っぱを裏返す。なるほど、こうしてみれば違いがわかる。


「この手前のが1番葉っぱが大きい」

「うん、でもこっちのほうが綺麗に開いてるから迷っちゃうわね」

「色とかそーゆーのは?」

「鮮やかなのがそりゃいいけど、まぁ大麻は葉っぱじゃなくてバッズ吸うもんだから」

「バッズってなに」

「花の部分みたいな。んで、雌株じゃないと駄目っグエッ」


説明中に突如としてパーカーのフードを後ろから引っ張る(イツキ)。首元が締まった(アズマ)が、変テコに鳴いて尻餅をつきゴロンと転がる。




途端─────銃声と共に、目の前の植木鉢が弾け飛んだ。




(イツキ)(アズマ)の首根っこを掴まえたまま、その体をズリズリと手近な物陰まで引き摺る。続けざまに数発鉛弾が飛来、小さくコンクリートをえぐった。


シンと静まり返る屋上。一拍(いっぱく)置いて、人々は蜘蛛の子を散らすように()けていく。ボケッとしていた(アズマ)が我に返り叫んだ。


「え!?襲撃!?」

「そうみたい、(アズマ)なんかした?」

「なんもしてない!!てか(イツキ)よく気付いたねありがとう!!」

「たまたま。どういたしまして」


(イツキ)の質問を真っ向否定しつつ感謝を告げる(アズマ)。なんもしてないとは裏社会の住人として言い切ることは難しいが、さしあたり思い当たる(ふし)が無い。

喫煙具の店先、しゃがみ込んでパイプの葉を揉んでいた(マオ)が怪訝な表情で振り向く。すると、今度はその足元で弾が跳ねた。(マオ)はメリ込んだ銃弾の角度を投げやりに見て、弾道を目線で辿る。新たにもう1発着弾。


「んだよ、(アズマ)(まと)っつう訳じゃねぇのか」

(マオ)にゃん危ないから避けなさい!?」

「当たんねーよ、腕もねぇのに変な距離から撃ってきやがって」

「俺ギリギリだったけど!!」

「運が悪かっただけだろ。おいヤクザ」


(わめ)(アズマ)は放っておいて、(マオ)燈瑩(ヤクザ)を呼んだ。日陰で一服(いっぷく)つけていた燈瑩(トウエイ)(くわ)え煙草でトコトコ歩いてくる。またしても被弾し割れる植木鉢。


「何これ?ターゲット誰でもいい感じ?」

「さぁ。倒しちまえ、ダリィから」


特定の人物狙いではないのかと首を捻る燈瑩(トウエイ)(マオ)(しか)めっ(つら)をし、顎で方角を示した。何かしらの理由があって向こうも撃ってきているはずだが…まぁいいか。思いつつ燈瑩(トウエイ)(マオ)の視線の先を見やり、(ふところ)から拳銃を抜き両手で構える。違法建築群を数秒眺め(わず)かに目を細めた。トリガーを引く。1発、軽い音があたりに響いた。



パタリと()む銃声。



GOOD SHOT(グッショ)

「どうも」

「当たったの?」


(マオ)の雑な(ねぎら)いに雑に答える燈瑩(トウエイ)、野次馬的に頭を出した(アズマ)へ城主は(わら)う。


「バカ(おまえ)、脳天ブチ抜かせたら燈瑩(こいつ)の右に出る奴ぁいねーっつの」

「それもそれでなんかやだね」

「褒めてんだろが」


肩を竦めて()燈瑩(トウエイ)(すね)(はた)(マオ)。瞬間、別の場所より複数の発砲音。新手か仲間か?かなり近い。燈瑩(トウエイ)は手招きする(イツキ)へと歩み寄り、一旦(いったん)物陰に身を潜めた。気怠そうについてきた(マオ)がボヤく。


「これ俺らの()かよ?」

「どうかな。けどとりあえずここからは離れたほうがいいかも、人が多いし」


周囲を見渡し呟く燈瑩(トウエイ)科白(せりふ)は、一見(いっけん)巻き添えになる者を(おもんぱか)っているかのように映るも…騒動を起こした人間として顔を覚えられてしまうのが面倒だから、というだけに過ぎない。真意を察した(マオ)が‘そういうとこだぞお前’と再び(わら)った。


「俺が話聞いて(・・・・)こよっか?向こうも銃だし。みんな適当に下がっといて」

「おう、行け行け!(ツラ)だけの男じゃねぇって証明してこい!」

(マオ)燈瑩(トウエイ)はご飯も奢ってくれる」


提案する燈瑩(トウエイ)に軽口を叩く(マオ)へ、(イツキ)がキリッとした表情で‘(ツラ)だけじゃない’(むね)を主張。主張のし(どころ)がどうにもちょっと違うなと(アズマ)は思ったが、懸命にフォローしていることは明白なので、黙っておいた。

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