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九龍懐古  作者: カロン
両鳳連飛
300/492

新チームと初仕事

両鳳連飛4






眼下に広がる不格好なマンション群、(とも)り始めた綺羅びやかな花街のネオン。(スイ)の自宅バルコニーから景色を眺める宝珠(ホウジュ)はポツリとこぼす。


「やっぱり、街の中心は華やかだなぁ…」

「壁際も壁際で小ざっぱりしてて良くない?閑静な住宅街ってヤツでしょ。可樂(コーラ)いる?」

「あっ(スイ)、俺百事(ペプシ)がいい!」

「無いわよ百事(ペプシ)は」


冷蔵庫を開く(スイ)大地(ダイチ)のリクエストを秒速却下。‘(スイ)は瓶の可樂(コーラ)が好きなんだもん’と付け足すと、なるほどと頷いた大地(ダイチ)が人差し指を立てる。


「じゃあ、今度(スイ)にお土産で瓶の百事(ペプシ)買ってくるね」

「いや瓶ならいいってわけじゃ…てかアンタ百事(ペプシ)推しなの?」


言いながら、冷えた可樂(コーラ)の瓶底を大地(ダイチ)の頬に押し当てた。冷たい!とハシャぐ大地(ダイチ)(スイ)は続けて宝珠(ホウジュ)(ネイ)の分もカチャカチャ取り出し栓を抜く。ポンと爽快な音が響いた。

大地(ダイチ)可樂(コーラ)をグビグビ(あお)りつつパチンコをいじる。窓枠によりかかって、壁に貼られたポスターをさし示す(スイ)


「あれ、(まと)にしてみてよ。おデコに当てたら100点ね」


例の黄色いツナギを身につけた香港スター…を模した、ぽっちゃり熊猫(パンダ)のイラスト。(まと)にされても李小龍(ブルース)さながらの凛々しい表情は崩さない。燃えよ熊猫(パンダ)

大地(ダイチ)(スイ)がいくつか寄越してきたピンポン玉を受け取り、熊猫(パンダ)へショット。ポヨンと腹へ当たって跳ね返る。もう1度ショット、肩にヒット。数回試すがなかなか狙いが定まらず頬を膨らませる。


「この前、(アズマ)(ゴー)が的当てメッチャうまくてさぁ!ナイフと銃だったけど」


テーマパークで景品を取ってもらった際の話だ。俺もバシッと決めたいのに!と再びゴムを伸ばす大地(ダイチ)


「目線の高さまで腕をあげてみたらどうかな。それで、真っすぐ垂直に引っ張るの」


室内へと戻ってきた宝珠(ホウジュ)がにこやかにアドバイス。こんな感じ?とポーズをとり弾を撃つ大地(ダイチ)…すると若干、熊猫(パンダ)の顔の中心へと狙いが寄った。


「わ、良くなった!宝珠(ホウジュ)もしかしてこーゆーの上手?」


やってみせてよと大地(ダイチ)は道具を宝珠(ホウジュ)に渡す。宝珠(ホウジュ)は軽く身体を傾けて斜めに構え、立て続けに3連続で玉をショット。全て熊猫(パンダ)(ひたい)へコココンッと軽快に当たった。300点。


「え!?うっま!!」

「私、よく兄様(あにさま)と狩りに出掛けていて」


長く続けていた田舎暮らしで、食料や毛皮を得るため短弓で野山の動物を獲っていたらしい。驚く大地(ダイチ)に、‘弓は兄様(あにさま)より私のほうが得意なの’と少し胸を張る。(スイ)が小首をかしげた。


宝珠(ホウジュ)達って中国寄りの村の方に居たんだっけ?これからは九龍に住むわけ?」

「どうかなぁ。とりあえずお家は借りたけど、まだ本当にとりあえずだし」


兄様(あにさま)がどうするかによる、と答え、(ネイ)の隣に腰掛ける宝珠(ホウジュ)大地(ダイチ)は返却されたパチンコのゴムに指を引っ掛けクルクル回し、勘案。


(イン)がわざわざ(マオ)とか探して来てくれたなら、(イン)九龍城(ここ)に居るつもりなんじゃん?」

「でも宝珠(ホウジュ)は病気がちじゃない。九龍城(ここ)は空気も衛生状態も悪いし、だったら近隣の山あたり行ったほうが環境いいと思うけど」

「動物狩って自給自足ってこと?」

「それだけじゃなくて。これまでだって(イン)も普通に仕事してたでしょ、田舎でもさぁ」


だよね?と宝珠(ホウジュ)に確認する(スイ)宝珠(ホウジュ)一瞬(いっしゅん)だけ表情を(かげ)らせたように見えて、(ネイ)はまばたきをした。


「そうだね。兄様(あにさま)仕事(・・)は、どこに居たって出来るものだから」


普段と変わらない調子で微笑む宝珠(ホウジュ)の服の裾を、テーブルの陰でつまむ(ネイ)。‘(ネイ)宝珠(ホウジュ)に居てほしいよね’との大地(ダイチ)(げん)にコクコク頭を縦に振る。


「とにかく…兄様(あにさま)が決めたことに私は従うの。お父様とお母様を早くに亡くしてから、兄様(あにさま)がずっと独りで私を育ててくれて…たくさん迷惑かけてきちゃって。これ以上は足手纏になりたくないの」


兄に恩を返して手助けをしたい。力は尽くすつもりだが、けれどもしも、もしもこの先───自分が邪魔になるようなことがあるのならば、万が一(・・・)の事態も覚悟をしていると。


「もともと身体も弱いし」


眉尻を下げる宝珠(ホウジュ)に反して、(スイ)はピクッと眉を吊った。


宝珠(アンタ)ね、そういう覚悟()はもっと役に立つ方向で使いなさいよ。(イン)がせっかくアンタを守ろうとして頑張ってんのに、当のアンタが投げやりでどうすんの。それだけ想ってるんなら何でも出来るでしょ」


命賭ける!っていう意気込みはイイけどさぁ、とコキコキ首を鳴らす。宝珠(ホウジュ)は背中を丸めて申し訳無さそうに()んだ。


(スイ)ちゃんはしっかりしててカッコいいね。私と歳、変わらないのに…すごいな…」

「今さらぁ?そうよ、(スイ)はすご───…」


顎をあげた(スイ)が途中まで言いかけ、やめて、ペロッと舌を出した。


「くないよ、別に。(スイ)も前にそーゆー感じのことあって。そん時、猫目(ネコめ)垂目(タレめ)が言ってただけ」


猫目(マオ)垂目(ゴー)かな?思いつつ、大地(ダイチ)は窓際の椅子の上で片膝を抱える。

(スイ)が両親の(かたき)を討った時の件については耳にしていた。そして皆が(わず)かずつ、力を貸したということも。‘覚悟を決めている’と発した(スイ)(マオ)(たしな)め、(ゴー)が上手い具合に責任を持っていったとか。一部始終(いちぶしじゅう)を掻い摘んで語る(スイ)は態度こそプンスカしていたが、瞳には怒りとは全く違う色が見えていた。


宝珠(ホウジュ)も話してみたら?アイツら伊達(だて)に年食ってないわよ。ほら、300点の景品あげる」


土産の月餅──(グルメ)御用達!品質保証!──を宝珠(ホウジュ)へ手渡す(スイ)(ほが)らかに頷く宝珠(ホウジュ)(ネイ)と半分こし始める横で、大地(ダイチ)はヒソヒソと(スイ)の脇腹をつついた。


(スイ)がゆった、って事にしといてもよかったのに」

「馬鹿ね。誰かから教えてもらっといて自分の手柄みたいにしちゃダサいでしょ」


またペロッと舌を出す(スイ)に、大地(ダイチ)はシシッと笑って指先でハートを作る。


「カッコいいじゃん♪」

「そぉ?」


(スイ)はそれをチラリと見やり素っ気なく答えてから、‘でも’と悪戯な顔。


「もっと褒めてもいいよ」


その台詞にケラケラ笑う大地(ダイチ)。しかしふと、(ネイ)が身体を縮こませているのに気が付いた。


「どしたの(ネイ)

「あ、ううん…えっと…みんなは、いろんなことが出来て羨ましいなぁ…って」


モゴモゴと呟いて、(うつむ)く。俺は何かが出来てる訳じゃないと大地(ダイチ)が場を(つくろ)い、てゆーか何か出来なきゃいけないってこともないわよと(スイ)が述べるも、(ネイ)は依然どこか落ち込んだ様子。


と。(スイ)が出し抜けな提案を次いだ。


「そしたらさぁ。(ネイ)も仲介屋、手伝ったら?(スイ)が用心棒してあげる」


ここん()事務所に使っていーよ、普段けっこう姐姐(ジェジェ)居ないし。と続ける(スイ)に、大地(ダイチ)の心臓が高鳴った。輝く双眸(そうぼう)


「ほんと!?いいの!?」

「面白そうだしね♪アンタもメンバーよ?宝珠(ホウジュ)


(スイ)宝珠(ホウジュ)を指でバンッと撃つ真似をした。同時に玄関から聞こえたノック、(ネイ)が駆け寄り扉を開くやいなや満面の笑みで飛び出す吉娃娃(チワワ)


「お待たせしましたぁ!!」


お宅訪問で集合していると聞きつけデザートを運んできたのだ。(スイ)は照準を宝珠(ホウジュ)から(レン)へとズラし、‘ついでにアンタもね’と微笑(びしょう)。‘何がでしゅか’と吉娃娃(チワワ)はキョトン。


これは───楽しいことになってきた。もはや仲介屋に留まらず、万屋(よろずや)ができるのでは?そりゃ(イツキ)みたいにとまではいかないけど…大地(ダイチ)はニンマリすると、口元に(こぶし)を当てて咳払い。注目を集めると仰々(ぎょうぎょう)しく言った。


「諸君、諸君。それではさっそく、ひとつ…依頼解決といこうか?」

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