表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
九龍懐古  作者: カロン
青松落色
30/492

疑念とお裾分け

青松落色5






「貧民街でも失踪ね…」


(マオ)はパイプの煙を天井に吹いて、眉間にシワを寄せ考えた。


やり過ぎだな、というのが(マオ)の率直な感想。スラムの子供の大量失踪ですら、既にマフィアはいい顔をしていなかった。

犯罪だからいけませんなんて綺麗事を吐くつもりはさらさら無い。何度も言うが、裏社会の、ひいては九龍(このまち)のバランスを崩すような真似はやめろということだ。


「花街ではなんも聞いとらん?」

「今んとこは。誘拐犯(そいつら)(やら)れんのが先か、花街(ここ)まで誘拐(やり)にくんのが先かって感じじゃねーの」


(カムラ)の質問に首を横に振りつつ(マオ)は自論を述べる。

こうなったら黙っていないマフィアグループは沢山あるはずだ。

しかしどのグループの仕業かわからない以上、互いに牽制(けんせい)し合い、探り合い、衝突が起こるだろう。


いや、もしくはそれが狙いなのか。他のグループがぶつかりあっているうちに、どさくさに紛れて自分達はトンズラ。

九龍から離れちまえば正直もう関係ない。



そうなると。



「まぁ九龍の人間じゃねーな、(くだん)のグループは」


(マオ)が言うと、(カムラ)はパチパチとまばたきをした。


「え?なんでそう思うん?」

「こんだけやって、バレなきゃあいいけどよ。バレんだろ。そしたらもう九龍(ここ)には居らんねぇだろうがそれでもいい奴らってこった」


裏社会の人間からしたら、法の及ばない九龍は最高の住処(すみか)だ。なるべくなら手放したくない、この街に組織的なものを根付かせている者なら尚更。

だからおそらく、古くからあるグループや、大きなグループの仕業ではない。


だとしたら名を上げたい新興勢力か?それも違う、どの道あとで居場所を失う。

金が欲しい小グループか?確かに一度に稼げるだろうが、それからが続かなくなる。


摩擦を気にせず、儲けるだけ儲けたら、もう九龍(ここ)は用済みのグループ。ということは。



九龍外(そと)から来よった人間…か…」


(マオ)の推測を聞いて、(カムラ)はうーんと(うな)った。

ほぼ確定で合っている気がする。けれど現時点では証拠もないし、犯人が誰々だ、というわけにはいかないが。


「あのお前の友達(ダチ)、何か知ってんじゃねーの?」

「…んなことあらへんやろ」


(マオ)に言われ、(カムラ)は一瞬ドキッとした。


確かに、(カズラ)は最近九龍に来たと言っていた。香港側で仕事が無くなってこっちへ流れてきたと。

だが(カズラ)がどこかのマフィアグループに属しているとは聞いていない。


聞いていない、だけかも知れない。



「まぁどっちにしろ、ここまで派手にやってんだ。多分最後にもっと派手にやるぜ」

「何でわかるん」

「俺ならそうするからな」


(マオ)が当たり前だろ、という顔をした。

ずらかる前に()れるだけ()る。今までターゲットにしていた‘スラム街’だの‘10歳以下’だのなんて目安は関係なくなり、目ぼしい物は総ざらい。

どうせおさらばするんだ、貰えるモノは全部貰う。


「かといって、今日明日の話じゃねぇと思うけど。近いうちにそうなるかもなって事」


全部ただの個人的な憶測だぜ、と付けくわえ、(マオ)はパイプの灰を落とす。



(カムラ)は考えを巡らせた。


筋は通る。それなら、九龍の住人に聞いてもあまり情報が入らないことにも納得がいく。

(カズラ)に訊いてみるか?けれど(カズラ)がもしもその一員だとしたら、俺はそれを嗅ぎ回る邪魔者だ。


…違うな、そもそも邪魔者だったはずだ。なら(カズラ)はどうして俺に近付いた?

俺が情報屋だと知らなかったからか?知ってからも離れていかない理由は何だ?いや…むしろ、情報屋だからこそ一緒に居る?九龍の裏社会が今どこまで状況を把握しているか、街がどう動いているのか、常に確認しておく為?



深刻そうな様子の(カムラ)(マオ)が声を掛けた。


「別に気に病む必要ねぇだろ。俺達が直接被害こうむってる訳じゃねーし、お前が解決しなきゃなんねー訳でもねぇ。ただのマフィア同士の揉め事だ」


(マオ)の言うことはもっともだ。だが、(カズラ)が内通者だとしたら少なからず(カムラ)から九龍内での話が漏れていたのは否定のしようがない。


というより、(カズラ)は───‘友達’なのだ。(カムラ)の中では。



「とりあえず、もう【宵城】開ける時間だし。大地(ダイチ)が待ってんだろ?今日は帰れよ」


言って、(マオ)は先程の買い物袋から高級そうな菓子を出し(カムラ)に渡した。

店を開けるから帰れ、なんて、気を回してくれての発言なのがありありとわかる。菓子だって、安めの物もたくさん袋に入っているのにわざわざ良い物をくれて。

(マオ)はいつもぶっきらぼうに優しい。


「…ありがとな」

「優しいからね、(マオ)様は」


自分で言うんかい。そう思い(カムラ)は少し笑って、シッシッと追い払うような仕草を見せる(マオ)に手を振り【宵城】をあとにした。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ