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九龍懐古  作者: カロン
両鳳連飛
297/492

タイプと円陣

両鳳連飛2






「わぁ…こんなにたくさん…」


カウンターに並べられた何十種類もの小袋を見て、感嘆の声を漏らす少女。


「どれが宝珠(ホウジュ)ちゃんに合ってるかわかんないからさ、色々試してみてよ。コレとコレが良かった!とか教えてくれれば、それを参考に新しいの調合(つく)るし」


言いながら袋をつつく(アズマ)へ、宝珠(ホウジュ)と呼ばれた少女は瞳を輝かせて首を縦に振る。中身は(おもて)のお客様用に作ったオリジナルブレンドの漢方薬、もちろん合法。後ろに立っていた(イン)宝珠(ホウジュ)の髪を撫で(アズマ)に軽く頭を下げた。


「かたじけないな。妹に良くしてくれて助かるよ、代金は如何(いか)ほどだ?」

「今回は全部サービス、お気に召しましたら今後どうぞご贔屓にしてください♪」


唇の端を上げ親指と人差し指を擦り合わせる(アズマ)(イン)も頬を(ほころ)ばせ、横から月餅を出してきた(イツキ)にも笑って礼を述べた。



(マオ)との邂逅を()て、馴染みの人間とも挨拶を交わした(イン)は、以降度々(たびたび)食肆(レストラン)へと妹───宝珠(ホウジュ)を連れてくるように。

宝珠(ホウジュ)は小柄で可愛らしい少女だ。(イン)とは歳の離れた兄妹(きょうだい)(よわい)大地(ダイチ)と同じくらい、そのせいで(カムラ)がなんとなしに(イン)に親近感を覚えた模様。宝珠(ホウジュ)宝珠(ホウジュ)大地(ダイチ)(スイ)といった同年代とすぐに打ち解けた。

兄ほどではないにせよ彼女もやはりいくらか(かしこ)まった口調、(イン)(いわ)く、‘武道を修めていた両親の影響かな’とのこと…‘でも師範はめちゃくちゃ口が悪いでしゅよね’と余計なツッこみを入れた(レン)(マオ)が飛ばしてきた紙扇子をデコに喰らった。

面倒見がよく穏やかな宝珠(ホウジュ)へ人見知りな(ネイ)も早い段階から懐いており、顔を合わせる度に音楽や漫画、キャラクターグッズの話で盛り上がる賑々(にぎにぎ)しいティーンエイジャー達。


(アズマ)が薬師──合法違法はさておき──だという話題が出た(おり)、妹に合いそうな漢方を案内してくれないかと(イン)が頼み込んできた。当然(アズマ)は断るはずもなく、本日の集合場所はみんなの(・・・・)【東風】に。それを聞きつけやって来た(スイ)(ネイ)、相も変わらず店内(たまりば)に集まるいつもの顔触れ。



宝珠(ホウジュ)は小袋に記載された成分をひとつひとつ熱心に確認し、おずおずと口を開く。


「本当によろしいんですか…?こちらの薬草なんて、お値段がするお品なのに。そちらも希少な植物ですし…」

「あら。宝珠(ホウジュ)ちゃん詳しいね」

(つたな)いものですが、いくらか勉強していて。さすがにここまで種類を揃えたり調合したりは出来ませんけど」


(アズマ)さん、すごいですね。その宝珠(ホウジュ)の呟きを耳聡く拾った(アズマ)がキリッとした顔を(イツキ)に向ける。やるときゃやるんですアピールに(イツキ)は親指を立てたが、隣で見ていた(スイ)は心底鬱陶しそうな表情。


「ドヤんないでよモサモサメガネ。宝珠(アンタ)も、くれるって言うんだからとっとと貰っちゃいなさい」

「え…だって、申し訳ないし…」

「いーいの!なんなら薬棚(くすりだな)ごと持ってったっていい!」

「棚ごとはちょっと待ってぇ?」


遠慮がちな態度をとる宝珠(ホウジュ)へ、漢方の束をズイッと押し付ける(スイ)。あとに続いた発言を(アズマ)は弱々しく制した。


「そうか、(アズマ)(スイ)の姉と恋仲なのだな。2人は好敵手(ライバル)というわけだ」


(スイ)がやたらと(アズマ)を敵視する理由を訊いた(イン)は得心したように腕組みをする。ライバルが強敵過ぎて参っちゃうと嘆く(アズマ)に、‘(アズマ)さんは知識も豊富だし優しいし素敵だと思いますよ’と宝珠(ホウジュ)(スイ)がグニャリと眉を曲げた。


「えぇ?嘘でしょ、まさか宝珠(アンタ)(アズマ)が気になるとか言うの?」

「あ、それは全然ないかな」

「だよね!」


1秒の()も置かずバッサリ否定した宝珠(ホウジュ)(スイ)は思い切り同意。(アズマ)宝珠(ホウジュ)(スイ)を交互に見やる。

やだぁ、すんごくハッキリ言うじゃない宝珠(ホウジュ)ちゃんったら…いいけどね?俺強い子だからグサッときたりしてないからね…?パチパチとまばたきをしながら、左の耳朶(みみたぶ)にしがみついている龍をモニュモニュ揉む(アズマ)小龍(こいつ)は多分俺の味方のはず。と信じたい。


その会話が聞こえたらしく、テーブルからソワソワ眺めている(ネイ)を視界にとらえた(スイ)はニヤリと笑い、貰った漢方の袋をまとめる宝珠(ホウジュ)(ネイ)の傍まで引っ張り声を潜める。


「ねぇ。そしたらさ、宝珠(アンタ)東風()】の中で誰がタイプなの」


唐突な(スイ)の問いに宝珠(ホウジュ)は目を丸くし、顎へ指を当てて考える仕草。


「格好いいな、とかって意味?」

「そそ。気になる的な」

「今ここにいる人?」

「今だけじゃなくて。てゆーか今は(アズマ)(イツキ)とアンタのお兄ちゃんしか男居ないじゃん」


宝珠(ホウジュ)(スイ)のラリーに、(ネイ)が息を呑んで視線を泳がせる。だ、誰って言うんだろう、誰って言うんだろう?だ、だっ…大地(ダイチ)って言ったらどうしよう…!?ソワソワは最高潮。


うーん、と唸る宝珠(ホウジュ)の返答は。


(マオ)さんか(タクミ)さん」

「…金髪が好きってこと?」

「…あれっ、ほんとだ」


(スイ)の指摘で両方とも金髪なことに気が付いたらしく、‘そういうわけじゃないけど’と宝珠(ホウジュ)はクスクス笑う。横でコッソリ安堵している(ネイ)の頬をつつく(スイ)


「良かったわね大地(ダイチ)じゃなくて」

「え!?や、わ、私は」

(ネイ)ちゃんは大地(ダイチ)君が好きなんだ?」

「わぁぁぁ!!」


宝珠(ホウジュ)に訊かれ焦った(ネイ)(スイ)をポカポカ叩いた。急に響いた大声に振り返った面々へ、(ネイ)は‘何でもない’と慌てて頭を振る。


そんな子供達の様子を優しげに見守る(イン)(アズマ)が疑問を投げた。


宝珠(ホウジュ)ちゃん、病気なの?具合が悪そうには見えないけど」

(やまい)をわずらっている…ということではなくてな。生まれつき身体が弱いもので、頻繁に体調を崩して(とこ)()してしまったりよからぬ疾患に罹ってしまったりするんだよ」


カウンターに寄り掛かり‘元気な時は元気なんだ’と微笑む(イン)の言葉を聞きつつ、ぼんやり考える(アズマ)

であれば、代謝を良くしたり滋養強壮に効く系統の漢方がいいのかしら…薬膳とかも試して…(レン)に言って食肆(レストラン)のメニューにしてもらうか。(チャン)の冷えも改善させねぇとだし───と、耳に届いた(イン)の声で意識を引き戻す。


「貴様にはどのように礼をしたらいいかな」

「へ?なにが?」

(アズマ)にも(イツキ)にも貰ってばかりだから」

「礼はいらないって。(マオ)見てよ?あの閻魔が悪怯(わるび)れもせずにどれだけ【東風(ウチ)】から酒をかっぱらうか」


まぁそれは【宵城】での飲み代をツケるからであって半分は俺の自業自得だけど…にしても容赦がない…遠い目をする(アズマ)諸々(もろもろ)察した(イン)は頷き、しかれども、やはりなにかしないことには気が済まないと食い下がる。律儀な元首領。


「あ、んじゃさ」


閃いた!といった顔で(アズマ)は引き出しを漁りカラフルな紙を何枚か取りだすと、疑問符を浮かべる(イン)の手に握らせた。


(タクミ)がクラブのイベントチケットくれたんだけど、俺の代わりに宝珠(ホウジュ)ちゃんに行ってもらえない?(イツキ)(ネイ)大地(ダイチ)…あと(スイ)かな、が行くみたい。宝珠(ホウジュ)ちゃん年代合うでしょ」


だよね?とメンバーを(イツキ)に確認し、俺は財布だけ参加するからと真顔で放つ(アズマ)(イン)が吹き出す。


「しかし、こうなるとまた貰ってばっかりになってしまうではないか」

「なら(イン)宝珠(ホウジュ)ちゃんにそれなりのお小遣い持たせて送り出して。で【東風(みせ)】を助けて」


今まで数回(タクミ)に誘われイベントへ遊びに行ったが、その(たび)に同時開催される(イツキ)の‘フードコーナー食べ尽くしツアー’。ひたすら圧迫されてしまう家計、だからといって唯一の趣味である大食いを(イツキ)から取り上げるわけには──ん?こないだも思ったなこれ?(ちまき)の時──いくまい。皆でワイワイと購入し食事をすれば、独り黙々と頬張るよりは若干出費も抑えられるのでは…いや全く関係ないかも知れないが…。とにかくお願い!と依頼する(アズマ)に眉尻を下げる(イン)


「そんなことでいいのか」

「ウチにとっちゃ最重要事項デス」

「だったら薬代も払うのに」

「そいつはまた別!お代は今日あげたやつが気に入ったらね!」


別ではない。同じ話である。ということは、つまるところこの頼み事は───礼をさせてくれという(イン)の要望へ、(アズマ)がとったポーズ(・・・)。こういう人間なのだ、この男は。


「貴様は(ふところ)が深いな。ありがとう、(アズマ)

「買い被り過ぎよ?こちらこそどうも♪」


理解し了承した(イン)が差し出す右手を(アズマ)も握り返そうとした矢先、いまいち話を掴めていない(イツキ)も上から(てのひら)を重ねてきた。握手の流れに乗ろうと試みたせいだと推測されるが、完全にズレこんでいるタイミング。

いきなり謎の円陣の様相を(てい)してしまった何だかよくわからない3本の腕を、円陣であるならば…とさしあたり小さく‘おー’と言いながらそのまま下へ押した(イツキ)に、(イン)は再び吹き出した。

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