表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
九龍懐古  作者: カロン
過日残夜
288/492

魔術師と老豆・中

過日残夜3






スマホのライトで控え目に棚を照らす。ファイルは相当数、分厚さもなかなか。適当に選びだしパラパラめくっていく。仕入れ内容のファイル、施工予定表のファイル、金の動きがどうこうのファイル────収支がチョロっと記載されていた。プラマイがおかしい。度を越えた中抜き及び天引き、労働者達への支払いが悪過ぎる。薄給もいいところ。

5冊、10冊とめくるうち、雑に(まと)められた従業員名簿を発見。顔写真は無し。名前順…じゃない、就業した日付け順。劉帆(リュウホ)が仕事を始めた頃のデータを探す。


「あっ!(アズマ)くん、あったよ!」

「お?どれどれ」


小声で叫ぶ(チャン)の手中へ(アズマ)も視線を落とす。確かにあった、劉帆(リュウホ)の履歴書──などと呼べるものでは到底なかったけれどとにかく──だが、下半分がすっぽ抜けていた。というか破り取られていた。そんなふうになっている従業員が何人か。2人は首を傾げた。


「何でこうなってんのかしら」

「さぁ…?ど、どうしよう(アズマ)くん…?」


(アズマ)は下顎を(こす)り、勘案。嫌な感じ…こんな千切られ方をした資料を見てなんともないと思う方がどうかしてる。千切った理由があるに決まっているのだ。恐らく、あまり芳しくない理由が。


「もうちょっと、この会社に関しての情報が欲しいね」


名簿の写真を撮りつつ(アズマ)が言えば、(チャン)は首をブンブン縦に振り探し物へ戻って行く。

流石に【天堂會】ん時みたくUSBは無いか。ありゃラッキーだった。PC起動(おこ)してもいいけど、どうだろセキュリティ…鳴ったりするかな…下唇に親指を当てる(アズマ)の耳に届いたドサドサッと紙束の落ちる音。首を向けると、高い位置にあった資料を取ろうとしたらしき(チャン)が頭からバインダーを何冊もかぶっていた。


「なぁにしてんのよ老豆(パパ)

「うぅ…ごめん…」


涙目でデコを押さえる(チャン)、ファイルの角っこが当たったようだ。(アズマ)(チャン)の肩を叩き、周りに散らばる紙を掻き集める。するといくつかの押印に目が留まった。9割9分9厘は同じ会社名、新宝公司。しかしほんの数枚だけ────違う表記がしてあった。


「亞牛…建設?」


かなり小さなスタンプ。1枚手に取って読みあげる(アズマ)、顔を寄せた(チャン)がものすごく目を細めて頭を前後に動かしている。老眼。

(アズマ)は書類をガサガサ漁り、そのスタンプが押してある用紙を探して抜き取った。畳んでポケットへ。‘手掛かりになるか’と問う(チャン)に‘悪くはなさそう’と答える。


室内をいくらか整え、もうひとつ奥のドアを観察。カードキー仕様の電子ロックタイプ。だがこの部屋、さっき裏から見たとき、窓は普通だったはずだ。(アズマ)(チャン)(うなが)し建物の外に回る。

やっぱりなんの変哲もない窓。鍵はカチャッとかけるだけの簡素なクレセント、耳みたいな形。こっちもしっかりしとかなきゃあ駄目でしょ…そりゃ、コソ泥を想定してるんじゃないからだろうけど…(アズマ)は片方のガラス枠の右側と左側へ(てのひら)を添えて、一定のリズムで小刻みに揺らした。錠がコンコン跳ねだす。揺らす度に跳ね上がる幅が段々大きくなり、数回目、タイミングを見て一際(ひときわ)強めに振動させるとコンッ!と小気味良い音と共にタブが回転しロックが開いた。


「わー!!」


(チャン)が歓声と共にかすかに拍手、反応のイイ観客。ガラスをスライドさせてブラインドを上げる。目に入ったのは椅子と机、本棚にはまたファイル。窓枠を乗り越え部屋の中へ。

隅の方、丸めて立てかけられていた紙が注意をひいた。(チャン)が広げてみるも大きさに手間取っている。受けとった(アズマ)が両腕を思い切り伸ばしてやっと(あいだ)に収まるくらいのサイズ、だいぶ大判。そこに(しる)されていたのは。


「見取り図だな」


紙を見ながら呟く(アズマ)。と、(チャン)も両腕の(あいだ)へとニュッと入り込み一緒に図面を覗いてきた。顎先にくっつく脳天。

いや(おまえ)、なぜそこからくる…?横からでいいでしょうよ…?急発生した不可思議なバックハグに、(アズマ)半目(はんめ)(チャン)の頭頂部を見下ろした。薄い。


地図は建設場の全体図。だが────何かが変だった。


「デカ過ぎない?これ」

「私もそう思う」


(アズマ)(げん)(チャン)も同意。デカいのは紙のサイズだけではない、記された面積(ヘクタール)もだ。今侵入している工事現場だけでは到底足りそうになかった。


どうやら、こことは別の土地がある。劉帆(リュウホ)はそちらに居るのだろうか?所在地の記載は無いが探せば割れるはず…写真やメモをとり、再度クルクル丸めて壁際へ。その(ほか)目星(めぼし)い物は無さそうだったのでさしあたっての調査は終了。‘一度(いちど)城砦に戻って調べてみよう’と提案する(アズマ)の跡を(チャン)も追う。

再び窓枠を乗り越え外に出た時、慌てたせいか(チャン)が足を引っ掛けドチャッとコケてピャァと鳴いた。先を歩いていた(アズマ)が振り返る。


同時に、細いライトの光が地面に突っ伏す(チャン)を照らした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ