表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
九龍懐古  作者: カロン
紫電一閃
273/492

昔日とナンバーナイン・中

紫電一閃17






波とは別の衝撃で船体が揺れた。チンピラ達は戸惑いののち、慌てて方々(ほうぼう)へ原因を探りに行く。燈瑩(トウエイ)も驚きの表情を作り──眉毛を上げただけなんだけどそれくらいでもいいかなって──数名に声を掛け操舵室の機器のチェックを頼んだ。操縦パネルの下部などを点検してくれる、親切なマフィア。多謝(ありがとう)


「どこか異常ありそう?」


質問しつつ、燈瑩(トウエイ)は上着の内側をまさぐる。


「いや…ここは特に…」

「でもこのあたりからな気はしたな。まさか機関室か?」


返事をする男2人の後頭部を、ポケットから出した両手の拳銃で同時に撃った。パシュンと静かに消音器(サプレッサー)が鳴く。入り口付近に居た男が振り返ったが、なにかを言う前に眉間に穴があいた。燈瑩(トウエイ)は死体を操舵室へと引き摺り込み、何事もなかったかのように扉を閉じる。階段を降りて貨物庫へ。エンジンルームに繋がる通路に何人かが向かっていったな…考えながらそちらの方面のドアを閉め錠前をかけた。おまけでワイヤーロックも。反対側の貨物室へ進むとまた数人のチンピラが姿を現したので、出会い頭に鉛玉を見舞う。

この部屋はここが突き当り───他に行くには1回甲板(うえ)に戻って(くだ)る感じか。(きびす)を返すと今鍵をかけたエンジンルーム方面の扉がうっすら開いており、ワイヤーに(はば)まれた隙間から男共が必死でギャアギャア叫んでいる。


あれ?あのドア、向こう側からは動かないと思ったんだけど…ワイヤーロック(おまけ)つけといて良かった…燈瑩(トウエイ)はトコトコ近付き質問。


「エンジン燃えてた?」


酷く呑気な声音の燈瑩(トウエイ)に、外へ出ようとモゾモゾ身体を動かす半グレが怒号を浴びせる。開けろ、燃えてる、消火、助けろ…などなど単語が聞こえ、C4(シーフォー)がキチンと仕事をこなしてくれたと納得した燈瑩(トウエイ)は、‘今助ける’と言い手前の1人の下顎に銃口を当て引き金を引いた。脳天から血を噴きズリッと滑り落ちる身体。

奥に居た輩が状況を理解出来ず呆然と燈瑩(トウエイ)を見ると、笑顔で向けられるピストル。男が掠れた声を出す。


「えっ…助…」

「けるってば」


返答と共に1発。脳ミソが飛んだ。


火達磨よりはいいだろ、との配慮による助け(・・)だったが、伝わったかどうかはわからない。奥にもまだ誰か居るのかな?しっかり鍵かけ直しとこ…挟まっている死体を中に押し込み再度施錠。

しかしこうなるとあの時の火達磨、ちょっと悪いことしたかも…后座の裏通りで起こした火災を今さら若干反省する。脳内でリピートされる(マオ)の‘そういうとこだぞお前’という声を聞きつつ、ゆっくりと、デッキへの階段を上がった。








「あ、爆発した」


言うなり腰をあげた(イツキ)は、コンテナの扉をそっと押して外の様子を確認。この爆破は合図(・・)───状況開始ということ。


ソロソロと足を踏み出す。小雨(こさめ)。続いて出てきた(スイ)の手を取り、積み上がったコンテナをいくつか乗り越え甲板の前方へ。

と、ちょうど貨物庫の階段から燈瑩(トウエイ)が上がってくるのが見え、その正面の操舵室で死体を発見し騒いでいる男達も見えた。

(イツキ)に気付いた燈瑩(トウエイ)が手を振り、男達も(イツキ)へと視線を───向けた時には既に一足(いっそく)飛びで距離を詰めた(イツキ)が、1番手近な輩の顔面へ膝をめり込ませていた。倒れていく男の頭を掴み、着地と同時に半回転させる。ゴキンと鈍い音。低い体勢のまま横の1人に足払いをかけ転がし、隣で銃を構えかけた男の手首を蹴り上げピストルを弾き飛ばす。間髪入れずパスパスッと控え目な銃声が(ふた)つして、男達の額に風穴があいた。燈瑩(トウエイ)の手元でフワリと硝煙が舞う。


「これで何人?」

「ん?10…人、とかかな…?」


死体に目を据え発する(イツキ)へ、数などは全く数えていなかった燈瑩(トウエイ)が自信なさ気に回答。ここの亡骸は3体、操舵室にもいくつか…10人ってことは…‘燈瑩(トウエイ)もうけっこう()ったね’と言いながら帽子をかぶり直す(イツキ)。‘焦げてるだけでまだ生きてる人が機関室に居るかも’と燈瑩(トウエイ)。焦げてるだけとは?追い付いた(スイ)(いぶか)しげな顔をする。


「そしたらあと半分くらい───…」


言いかけて、船首の方から銃を手に向かってくる男を見付けた(イツキ)は少し背中を反らせた。燈瑩(トウエイ)(スイ)の肩を下に押して伏せさせる。男が発射した数発の弾丸は(イツキ)の鼻先を抜け、(スイ)の頭上を通り過ぎた。

着弾時には(イツキ)の脚は()うに床を蹴っており、その姿は一瞬で男の眼前へ。敵の照準が定まるより早く回し蹴り。顎に食らった男が崩折れ、またも倒れていく途中に頭を掴んだ(イツキ)は即座に半回転させた。再びゴキンと鈍い音。


同じ方向から立て続けに幾人かの足音。それを視認しつつ、ぼんやりと、遠い日の記憶を掘り起こす(イツキ)


どんな感じだったっけ、あの人────(スイ)のお父さん。こう…(かわ)してからのカウンターがすごく滑らかだったような?あと、蹴撃か。手は三節棍持ってるんだもんな…思い返して動きを摸倣(もほう)する。摸倣(もほう)、というか、自分の中に残っているものでもあるのだが。


その様子を(スイ)は食い入るように見ていた。


そうだ。爸爸(パパ)もこんなふうに…柔らかくて、だけど(つよ)くて…自慢の爸爸(パパ)で…懐かしいな。懐かしい、ほんとに────しゃがみ込んだままジッと(イツキ)を見詰める(スイ)

横で燈瑩(トウエイ)が銃を下げた。(イツキ)に手を貸そうかと悩んだけれど、なぜかなんとなくそれは、今この場では…野暮(・・)な気がしたので。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ