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九龍懐古  作者: カロン
紫電一閃
260/492

B級グルメとボッコボコ・後

紫電一閃6






(スイ)が素早く腕を振ると連結した棒は軌道を変え、今度は下顎へとヒット。大の字になる男を踏みつけてまた腕を振り、勢いをのせて隣の輩の肩口に1発。続けて鳩尾(みぞおち)と金的に1発ずつ、なめらかな動作。こいつも呻いてしゃがみ込んだ。

後ろで大柄な男がパンチを振りかぶるのが見えて、(スイ)は軽快なステップでそれを(かわ)す。力自慢か?ありきたりなストレート…動きがバレバレ、こんな攻撃当たる筈ない…2歩ほど踏み込んで背面をとった。風切り音と共に数回三節棍を回して、振り向いた相手の横っツラを(はた)き、足を払って地面に倒す。片頬を吊り上げた(スイ)はハッと小馬鹿にしたように(わら)った。


「ダっサ!図体と態度がデカいだけじゃん」


(ネイ)は目をパチクリさせて広場を見回す。あっという間の出来事…これならあれだけ強気な態度なのも納得だ。

と、ドタドタと足音がして、通路から新たに数人の男がやって来る。仲間だろうか?首を向けた(スイ)は‘うへぇ’とへの字口。


「やっぱし居るのね、変なゴロツキも。前言撤回しよっかな」


九龍城砦(このまち)って思ってたのと違う’のくだり…やはり姐姐(ジェジェ)の知り合いにイイヤツが多かっただけか。魔窟は魔窟以上でも以下でもない…思いながら三節棍を回転させる(スイ)の目線の高さを、ヒュンッと小柄な影が通り過ぎた。


影は先頭の男の顎に飛び膝蹴りを入れると、崩折れていくその身体を足で押して横の輩にぶつけた。重なり合って倒れる連中。残ったもう1人が繰り出した(こぶし)も着地しがてら軽くいなし、側頭部へカウンターのハイキック。巻き込まれて倒れた男が起き上がる前に脳天に踵を落として沈め、(スイ)へと顔を向ける。


大丈夫(はいひょーふ)?」




口いっぱいに鶏蛋仔(エッグワッフル)をくわえた(イツキ)だ。




(スイ)の足元に転がるヤツらにもスパンスパンと追撃の蹴りを決めていく。鮮やかな手際とモキュモキュ頬張っているスイーツの対比がどうにもシュール…というか、ここまで散々食べ歩きをしてきたじゃないか、この男まだ腹ペコなのか…(スイ)は呆れ顔を作る。


「アンタどんだけおやつ買ってんのよ。それに鶏蛋仔(エッグワッフル)、レフェリーおじさんの店が1番美味しいんじゃなかったの」

「ひになっひゃっへ」

「なんて?」


肩を(すく)める(イツキ)。遅れてのんびり歩いてきた(タクミ)が‘何これどうしたの’と首を(かし)げた、両手にタピオカミルクティー。(よっ)つ。(スイ)は三節棍をホルダーへ戻すと‘ありがと’と礼を述べ、とりあえずひとつ受け取った。




地に伏すチンピラを横目に一行(いっこう)は急ぎ足で広場を後に。

喧嘩の原因を尋ねる(タクミ)へ、‘座ってただけなのにイチャモンつけてきた’と不機嫌な(スイ)。仕事がどうだとか言ってましたと(ネイ)が補足、ドラッグとか受け渡す待ち合わせ場所にでもしてたのかなと(タクミ)は呟く。


そこはかとなく瞳を輝かせ(スイ)を見つめる(ネイ)


(スイ)ちゃん…強いんだね…」


その賛辞に(スイ)は得意満面、言ったでしょ!爸爸(パパ)がすっごかったって!と鼻高々。そしてチロリと(イツキ)に視線を投げる。


「てかさ?(イツキ)はちょっと、爸爸(パパ)っぽいね?」


鶏蛋仔(エッグワッフル)(かじ)っていた(イツキ)はフリーズ。爸爸(パパ)、っぽい…?老けているつもりはなかったが、俺も(ひと)のこと言えないんだろうか…?

ショモショモする背中を(タクミ)(さす)り‘オヤジが若かったんじゃねぇの’とフォロー。


「違う違う、見た目じゃなくて動き方!」


慌てて手をパタパタ振る(スイ)


あっ…そっちの話…。確かに体捌きのベースは幼い頃に習っていた格闘術だ、(スイ)の父親が武道家だというなら似通っている部分は垣間見えるのかも知れない。良かった老けてる訳じゃなくて───ホッと胸を撫で下ろす(イツキ)


それにしても、あの辺りはああいうチンピラは見掛けないゾーンのはずだったけど。最近新たに出てきたグループが縄張りを主張しているとか?とにかくトラブルは避けるが吉、今日は早目に引き上げて大地(ダイチ)には(レン)の新作デザートを奢るとしよう。B級グルメ探索は日を改めて…なにせ時間はいくらでもある。4人は満場一致で食肆(レストラン)へと足を向けた。




食肆(みせ)に帰り着くと、不思議そうな表情の藍漣(アイラン)に出迎えられる。予想外の帰宅時刻。


「あれ、早かったな。どうだった?」

「バッチリ!ボッコボコにしてやった!」

「…B級グルメを?」


(スイ)の返答にユルユルと煙草の煙を吐きつつ疑問符を浮かべる藍漣(アイラン)(ネイ)がたどたどしく──だが、どこかワクワクした様子で──経緯(いきさつ)を説明。藍漣(アイラン)は苦笑いで溜め息。


(おまえ)はまたそうやって暴れて…」

「だって、ムカついたんだもん!(ネイ)のことも脅かすしさ!」

「はいはい。強い子だな」


藍漣(アイラン)が頬を膨らます(スイ)の髪を撫でる。‘強い子’と褒められご満悦の(スイ)は、お茶を持ってきた(アズマ)の顔を見上げた。


(アズマ)姐姐(ジェジェ)と何してたのよ」

「お喋りだけですぅ」

「ほんと、姐姐(ジェジェ)?」


その質問に藍漣(アイラン)が意味深な笑顔で黙り込むと、ヤダぁ!!と声を上げた(スイ)(アズマ)の脇腹をガスガス殴った。両手で顔を覆い爆笑する藍漣(アイラン)、痛い痛いと(わめ)(アズマ)


「ほんとになにもしてないってば!!誤解よ誤解!!」

「うるさいモサメガネ!!ってゆーかねぇ、いっとくけど、(アズマ)より(スイ)のほうが姐姐(ジェジェ)のこと好きだからね!!」



ライバル宣言。



とんだ強敵の出現である。待てよ、俺の方が新参なのか…?ポッと出なのは俺…?(アズマ)は唇をすぼめていじけた表情をしてみせた。


「俺も負けませんけど」

「モサメガネが(スイ)に勝てる訳ないでしょ」

「勝てなくても負けないもんね」

「はぁ!?意味わかんない!!」


やり取りを見ていた藍漣(アイラン)は口元を(ほころ)ばせ、ギャアギャアやっている2人の頬をつつく。


「仲良くしろよ、お前ら」

「しない!!」

「してよ!?」


勢いよく否定する(スイ)(アズマ)が嘆く。藍漣(アイラン)はいっそう楽しそうに笑い、もう1度、2人の頬をつついた。

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