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九龍懐古  作者: カロン
紫電一閃
256/492

百日紅と喋々喃々・前

紫電一閃3






とある午下、(レン)食肆(レストラン)




「すっごい綺麗に咲くわね!」


お湯が注がれたガラスのティーポット、中でフワフワと揺れる工芸茶。咲き誇る千日紅をマジマジ眺める(スイ)


「こちらはですね、美麗(メイリイ)しゃんが送ってきてくれた茶葉っヴェァ」

「泣くな鬱陶しい」


顔をクシャクシャにして泣き出す(レン)のデコを(マオ)が紙扇子で(はた)く。(レン)は運んできたデザートを(スイ)大地(ダイチ)の前に置き、ヒンッと鼻をすすりながら‘ごぢぁ、じんざぐのばぁんぢぅごぅでしゅ’と告げた。全然わからない。大地(ダイチ)が‘おいしそうだね’と早速パクッといった。(スイ)もフォークを手に‘ばぁんぢぅごぅ’をプニプニつつき、横から覗き込む(マオ)は【宵城(みせ)】で出すスイーツにするか検討している模様。


(アズマ)が作った粥は(スイ)に好評で、ならば(レン)食肆(レストラン)も気に入るはずだから行ってみようとなり来店したところ───提供される料理の数々は(スイ)の胃袋をガッチリ掴んだ。厨房担当の(アズマ)の評価は龍鬚糖(ロンソートン)くらい薄っすら上昇、食肆(レストラン)で食事をとるのは(スイ)の日課に。


大地(ダイチ)、今日は学校どうだった?」

「算数?数学?やったんだけど…あんまり。俺、計算苦手なんだよねぇ…宗教学とかの方が面白いかな」


(スイ)の言葉に(うな)大地(ダイチ)(スイ)はどうやら九龍の学校事情が気になるらしい。


城塞の寺子屋は教会を併設しており、週末は礼拝堂へと様変わりする。方々(ほうぼう)の慈善団体の助力で成り立っているボランティア校。九龍城は香港政庁の管轄外なので、寺子屋を卒業したとて認定試験は受けられなかったり政府管轄の学校へは進学出来なかったりするが…それでも‘なにかを学んでみたい’‘友人と共に過ごしたい’と足を運ぶ子供は多い。


「あんた宗教信仰してんの」

「んーん?授業の一環なだけ。あっ、けど【天堂會】には行ったことある!マスコットキャラが可愛くて!ほら」


大地(ダイチ)はポケットからキーホルダーを取り出した。天仔(てんちゃん)&ぽっちゃり天仔(てんちゃん)、ぽっちゃりのほうはもどき(・・・)だが。(スイ)(こと)(ほか)良い反応を見せる。


「ヤバ!可愛い!」

(ウチ)にぬいぐるみもあるよ、おっきいやつ。(イツキ)がくれたから。1個しか無くてめっちゃレアでさぁ」

「何でそんなレアなの持ってんの?(イツキ)、教祖なわけ?」


教祖じゃないけどと大地(ダイチ)が笑い、キーホルダーまだ余ってるから欲しかったらあげると提案。キャラ物()きな(スイ)はコクコクと首を縦に振る。その時、入り口のドアの開く音。


「お疲れ様です。藍漣(アイラン)さん居ま…すか…」


扉を引いたのは(ネイ)だ。反応した(スイ)にジイッと見詰められ、硬直。人見知り。

(スイ)は席を立って、入り口から動かない(ネイ)へと近付き顔を寄せた。(ネイ)はオドオドと自分の服の裾を握る、(スイ)の堂々とした態度に気圧されているのか。


「あなたも食肆(ここ)の仲間?」

「え、あ…そう、だけど…えっと…」

(ネイ)だよ!いつも系列のバーの手伝いとかしてくれてるんだよ」

(ネイ)?ふぅん、(スイ)と似てるね」


口を挟む大地(ダイチ)に振り返る(スイ)。また(ネイ)に視線を戻すと、(ネイ)は依然として服の裾を握り締めていたが…俯いて少し赤くなっていた。(スイ)は唇を尖らせ、‘(ネイ)もデザート食べよう’と手を引いて卓に誘う。オロオロする(ネイ)に、藍漣(アイラン)(スイ)の関係を説明する大地(ダイチ)。‘藍漣(アイラン)あとで(アズマ)と来ると思うよ’と付け足した。


(ネイ)姐姐(ジェジェ)に会いに来たの?」

「あ、うん…帰ってきた、って、聞いて…」


藍漣(アイラン)と過ごした想い出をたどたどしく語る(ネイ)(スイ)は楽しそうに、そしてどこか得意気に耳を傾ける。強くてカッコいい藍漣(アイラン)は、(スイ)にとっていつだって自慢の‘姉’なのだ。


他愛もない会話が続き、デザートをいくつも平らげ、打ち解けていく子供達。

トイレに立つ大地(ダイチ)(スイ)が‘ついでに(レン)にお茶のおかわり貰ってきてよ’と頼み、OKOKと軽い返事の大地(ダイチ)はバックヤードへ。


ふと、脚を組み替える(スイ)の太腿に目を留める(ネイ)。ベルトで巻き付けられたホルスターに収まっている、3本の細身で短い棒。武器…なのか?見慣れない形状。眼差しに気付いた(スイ)は‘イケてるでしょ’と誇らしい雰囲気。


爸爸(パパ)からのプレゼントなの。(スイ)爸爸(パパ)、武道家で超強かったんだから」


かった(・・・)。その過去形に(ネイ)が逡巡する間に、(スイ)は、‘もう死んじゃったけどね。媽媽(ママ)も’と続けた。

返答に迷い眉尻を下げる(ネイ)、しかし、(スイ)は特段気にした様子もなく唐突な話題を持ってきた。


「ってゆーかさぁ。(ネイ)大地(ダイチ)が好きなんだ?いいんじゃない?」

「え!?」


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