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九龍懐古  作者: カロン
好迪士尼
251/492

米奇老鼠と遊園地・中

好迪士尼2






パークでの1日はまさに矢の如し、食べたり飲んだり騒いだりしているうちに進む時間。世界各地にある系列の中でも香港(ここ)のものはかなり小規模…それでもやはり見処(みどころ)は多く、あっという間に時計の針は正午を飛び越しておやつどき。


大地(ダイチ)に幾度もジェットコースターに乗せられグロッキーな(プー)は、覚束(おぼつか)ない足取りで(ヨウ)、及び子供達をアフタヌーンティーへご招待。折角のデート──そうデート──だ。弱っている場合ではない。三半規管に喝を入れ、予約しておいた人気の限定カフェへ3名様をエスコート。運ばれてくるデザートの数々に瞳を輝かせる面々を見てホッと一息(ひといき)


「このキャラプリントのマカロン、全部柄が違うんだ!(カムラ)君のやつはどんなの?」

「え?っと…なんや…なんか…犬やな」


小首をかしげる(ヨウ)へ、マカロンを(つま)(カムラ)頓珍漢(とんちんかん)な回答。犬なのは一目瞭然だ…訊ねているのは詳細である。キャラものに(うと)く、さっぱりわからずにオロオロする(カムラ)大地(ダイチ)が助け舟。スラスラと全キャラクターの名前を列挙し、ついでに各々のバックグラウンドや豆知識も披露。こういったジャンルに非常に強いティーンエイジャー、(ネイ)も興味津々(しんしん)大地(ダイチ)の説明を聞いている。


だ、大地(ダイチ)…話は面白(おもろ)いわ(ネイ)にちゃんと料理も取り分けとるわで…もはや俺よか遥かに出来る男(・・・・)やんか…?感心と淋しさと悲しさを同居させながら、弟をボケッと眺める兄。そんな兄の頬をつつく人気女優。


「私はプーさんが1番好きだよ?」


クスッと()んでウインク、その仕草になぜか(プー)と一緒に赤くなる(ネイ)。デキる弟はスイーツを撮る振りでシャッターチャンスをこっそり携帯におさめた、ナイスショット。和やかに過ぎるティータイム。




一方(いっぽう)




「あ、居た」

「んでわかったんだよここ居んの…」

「お酒があるのここだけだから」


サンドイッチにクッキー、点心やハンバーガーと一通(ひととお)りのフードを恐ろしいスピードで食べ尽くした(イツキ)は呑んだくれの城主をお迎えに。コーナーカフェで酒を(あお)(マオ)、帰ってしまうという選択肢も取れるだろうに…結局こうして滞在してくれているあたり、とても律儀。


「アトラクションなら乗んねぇぞ」

「じゃあミニゲームしに行こう」


飲み屋から連れ出され眉間に(シワ)を寄せる(マオ)へ、(イツキ)はカラフルなスラッシュをゴクゴク喉に流しつつ提案。とは言ってもゴリ押せば乗り物にも乗ってくれるのだろうが。あれやこれやと文句をつけても最終的に(イツキ)大地(ダイチ)の要望は断らない…面倒見の良い城主。なので────(イツキ)(マオ)にチロッと視線を寄越して、発した。


「耳買おうよ。みんなで」



このワガママも多分、通る。



路肩に止まるワゴンの販売車から、動物の耳を模したカチューシャを2つ手に取り即座に購入。1つを(マオ)に渡す、三毛のネコミミ。

(マオ)はカチューシャを半目(はんめ)で見詰めた。無言で差し出され続けるカチューシャ、恐らく受け取るまで腕が引っ込むことはない。とりあえず貰い受けた。突き刺さる(イツキ)からの期待の眼差し、恐らく着けるまで視線が逸らされることはない。再度(マオ)はカチューシャを半目(はんめ)で見詰めた。(しばら)くの()(のち)、しぶしぶ装着。満足げな(イツキ)(タクミ)へと振り返る。


(タクミ)もこれどう?」

「えぇ?いや…俺は…」


困り顔の(タクミ)。断るのか?断るなら俺も便乗して(これ)を外せるか?成り行きが気になる(マオ)が横から覗き込む。(タクミ)はワゴンの端の一角(いっかく)を指差した。


「そっちの帽子がいいな」


そこはかとなく嬉しそうに、派手めな耳付き帽子をご所望。いや欲しいのかよ…ウキウキかこいつら…思いながらゲンナリと眉尻を下げる(マオ)。三毛猫の嘆きを意にも介さず、(イツキ)は続けて(アズマ)に被り物──恐竜のフォルム──をチョイス、次いで燈瑩(トウエイ)の分を選んでいると三毛(マオ)がフザケたデザインのサングラスを指に引っ掛け燈瑩(トウエイ)に投げる。ネズミ型のレンズ。


「オメェはこれでもかけてろ」

「なんで俺だけサングラスなの」

「マフィアっぽいじゃねーか」

「この形で?」


どうみてもキュートな鼠。そもそもマフィアはサングラスというイメージもどうだろう…燈瑩(トウエイ)は疑問を(てい)すも、ネズミグラスをお買い上げして着用。が、割と普通に似合ったので(マオ)にどつかれた。要求に応えたにも関わらずこれである。理不尽。



ファンサービスに精を出すキャラクター達の着ぐるみを横目にミニゲームのコーナーへ。所狭しと並ぶ多彩なゲームの数々、成功すればピンバッチ等のプライズが貰える仕様だ。ダーツと射的でバカスカ景品を獲りはじめる(メガネ)燈瑩(グラサン)にワクワクの(イツキ)、ピンバッチ全種類揃うかも。10種類?12種類?何種類でもいけそうだ。

見ていた(マオ)燈瑩(トウエイ)の手から銃を奪い、的に向けて撃った。明後日の方向に飛ぶ弾丸。


「全っ然当たんねぇな」

「猫は鉄砲あんまり上手くないもんね」


笑う燈瑩(トウエイ)(マオ)は銃口を向け、返事の代わりにコルク弾をブチ込む。サッと(アズマ)を盾にして避ける燈瑩(トウエイ)、放たれた銃弾は(アズマ)の顔面に2発ほどヒット。


「痛っっっったぁ!!!!」

「んだよ何してんだ眼鏡、どけ。邪魔くせぇ野郎だな」

「俺のせいなの!?」


なんでこんな時ばかり命中率が上がるんだと喚く(アズマ)の鼻っ柱へ向けてもう1発、こちらもしっかり鼻骨(びこつ)にヒット。‘鉄砲あんまり上手くない’の汚名返上。

声を殺して爆笑している燈瑩(トウエイ)を庇うように、いささかプンスカした(イツキ)が前に立った。先日鉛玉で開いた風穴を気にしている様子。


(マオ)燈瑩(トウエイ)撃たないで」

「あ?(アズマ)しか当たってねんだからいいだろ」

「それならいいけど」

「よくないよ!?」


ピィピィ鳴く(アズマ)。被り物のREXが主人の味方をしユラユラ揺れる。と、その後ろ───ゲームコーナー入り口で手を振る大地(ダイチ)が見えた。アフタヌーンティーを食べ終え、これから始まるパレード鑑賞の為の場所取りをしてきたらしい。(イツキ)は集めたピンバッチをジャラジャラ大地(ダイチ)にプレゼント、喜ぶ大地(ダイチ)(イツキ)の袖を無邪気に引っ張る。


(イツキ)はパレード見ない?」

「んー…俺はお土産買いに行く」

(マオ)は?」

「やだよ、人混みなんざ。代わりに燈瑩(コイツ)で我慢しろ。ほら行けマフィア」

「呼び方」

「じゃ(マオ)もお土産探し行こ。()いてる(うち)に」


言うが早いか(イツキ)(マオ)の腕を掴みズリズリと土産物屋へ引きずっていった。(タクミ)(アズマ)も買い物に付き合ってやるようだ。派遣された燈瑩(マフィア)を引き連れ、来た道をテクテク戻る大地(ダイチ)。バッチを(ネイ)にもわけてあげるんだとご満悦、まだ何もグッズを買っていない模様。


大地(ダイチ)達は欲しい物なかったの?」

「んーん、いっぱいあって迷っちゃってさ!どれがいいか決められなかったんだよね…(ネイ)も何か欲しそうだったけど…」


下唇に親指を当てて(うな)大地(ダイチ)の視界に、ふと映ったショーウィンドウのティアラ。大地(ダイチ)は足を止めガラス越しにそれを眺める。


「あーゆーの喜ぶかな」

「素敵だね。いいんじゃない?」


大地(ダイチ)の問いに微笑む燈瑩(トウエイ)。今は理由(わけ)もあってボーイッシュな格好をしている(ネイ)だが、もともとは可愛いもの()きだ。ティアラなんて普段使う機会はないにせよ、今日の思い出の品にはいいかも知れない…大地(ダイチ)は店に入り、透明なビジューの散りばめられた小振りなひとつを選んで包んでもらった。

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