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九龍懐古  作者: カロン
好迪士尼
250/492

米奇老鼠と遊園地・前

好迪士尼1






「テーマパーク?」

「【宵城(みせ)】のキャストからチケット貰ってよ。大地(ダイチ)でも呼べや喜ぶんじゃねぇの」


【東風】のカウンター、片眉を上げる(アズマ)(マオ)がヒラヒラと紙の束を投げる。結構な枚数。(イツキ)も横から覗き込んで1枚を手に取った、西洋風の城のイラストと共に印刷された動物が可愛らしい。紙片を弾き数をかぞえる(アズマ)


「沢山あんね、(マオ)にゃん行かないわけ?」

「行っかねーよ…(ねみ)ぃし(あち)ぃし…」

「ネコなのにネズミ好きじゃなギャァ!!」


言い終わらないうちに飛んできた鉄扇が額に突き刺さり、(アズマ)はスツールから転げ落ちた。チケットを見詰める(イツキ)へ声を掛ける(マオ)


(イツキ)好きだろ、そういうの。行ってこいよ」

(マオ)ほんとに行かないの」

「行かねーって。オメェが楽しんでこい」


(イツキ)の誘いにも(マオ)はパタパタと手を振った。というかこのテーマパークの話を持ってきてくれた理由は、(シュウ)(ロク)の件でまだ落ち込んでいる様子の(イツキ)(マオ)なりに気をつかってくれた結果なんだろう。何だかんだで優しい城主。なので─────(イツキ)(マオ)にチロッと視線を寄越して、発した。


(マオ)が行くなら行く」



このワガママは多分、通る。



城主は口に煙草を(くわ)えたまま固まった。頭上に〈承諾〉と〈拒否〉の2択が現れ、‘ワガママきいてやれ’の(マオ)と‘絶対行きたくねぇ’の(マオ)がシャーシャーと敵対している。(イツキ)は闘いを見守りつつ〈承諾〉の(マオ)を応援する為ダメ押しでもう1度発言。


(マオ)が行くなら行くよ」


‘きいてやれ’の(マオ)のネコパンチが、‘行きたくねぇ’(マオ)に炸裂。ニャアと鳴き声が聞こえた気がした。軍配は〈承諾〉にあがり、城主はノロノロと煙草に火を点けると‘他の奴らもちゃんと呼べよ’と弱々しく呟く。せめて、パーク内で一緒に走り回らせられるのだけは避けたいのであろう。(イツキ)は頷き、携帯をいじっていつものメンツに連絡を入れる。


明日…じゃ流石に急過ぎるかな。でも週末は混んじゃうし。みんな仕事とか予定とかあるだろうか?いや、別に無いはずだ…うっすら失礼な事を思いつつ送信。さして()もおかずに届くレスポンス達。


好呀(ええで)

〈ok(だよ)

得la(りょ)

正呀(わぁい)!〉




ビバ、九龍城砦ライフ。






◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆






「大人数過ぎやしねぇか…」


当日、現地、迪士尼(ティクスィーネイ)駅。天を仰いでポポッと丸い煙を吐く(マオ)。普段の顔触れ大集合、九龍城(ここ)にゃ暇人しか居ねぇのか…そうでもないか。(カムラ)の横に立つバケーションハットを深めにかぶった女性に目を留める。


「アンタよく来てくれたな。つうかよく誘えたな饅頭よぉ?」

「たまたまオフだったからね♪」

「おっ、俺やってな!!誘うくらい出来るっちゅーねん!!」


(マオ)(げん)にバケーションハットの女性───(ヨウ)が笑い、饅頭はワタワタして大声をあげた。正確に言えば誘った訳ではなく、微信(チャット)の雑談で話が出た際に(ヨウ)から乗ってきてくれたのだが。それでも最終的に‘来るか’と聞いたのは(カムラ)なので、まぁ誘った事にしてやるとしよう。


仲良く園内マップを読んでいる(ネイ)大地(ダイチ)(イツキ)はフードを片っ端からたらふく食べる気でスタンバイ。本日は支払い係が2人居るので問題は無さそう。準備運動をする(イツキ)の横で財布1(アズマ)財布2(トウエイ)は並んで煙草をふかし、(タクミ)は楽しげにキョロキョロと周りを眺めていた。足りないのは吉娃娃(チワワ)だが…どうも美麗(メイリイ)から宅配便が届くとのことで、終日食肆(レストラン)の前で張っているらしい。ワンコ。


「何から食べる?」

「えっ、乗り物からじゃないの」

「じゃ何食べながら乗る?」

「食べながら乗れんの」


(イツキ)(タクミ)の会話を小耳に挟みつつ、(マオ)は巻き込まれる前にコソコソ逃亡。(イツキ)が気付いた時には既に忽然(こつぜん)と姿を消していたが、(アズマ)が‘どうせ酒がある所に居るだろうから後で捕まえに行こう’と耳打ち。その意見に賛成した(イツキ)は、食べ歩きを開始するため颯爽と1軒目のフードワゴンへ向かう。お目当てはネズミに似せた生クリーム&チョコトッピングを乗せた鶏蛋仔(エッグワッフル)、他にもホットドックにナチョス、ソフトクリームにフィッシュアンドチップス…加えて路面店だって数多(あまた)ある、急がなければ食べ切れない。走り出す(イツキ)の後ろで財布1(アズマ)は少しだけ今月の【東風(みせ)】の売上のことを想った。


「私達は何かアトラクションに乗ろうか?」


他方(たほう)、年少組の大地(ダイチ)(ネイ)へ、にこやかに問いかける(ヨウ)大地(ダイチ)は満面の笑みで地図の1点を示す。灰熊山谷(ジェットコースター)。絶叫系がてんで不得意な(カムラ)は息を呑んだが、(ヨウ)に急かされ何も言えないまま茹でダコのような顔色をしてついて行った。

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