表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
九龍懐古  作者: カロン
愛及屋烏
244/492

怯懦と愛烏・中

愛及屋烏9






「で、(タクミ)さんがミックステープとか作ってくれて。(レン)さんもギターに挑戦したり…私も歌、やってはみてるんですけど…あと(マオ)さんが馬頭琴(ばとうきん)と、燈瑩(トウエイ)さんが二胡(にこ)と、えっと」

「みんな色々出来るのね」


音楽の話題になり、普段よりも饒舌な(ネイ)へ相槌を打つ美麗(メイリイ)。雨雲にやられいつにも増してジメジメと薄暗い城塞、そんな中でも花咲くガールズトーク。


「あ、でも大地(ダイチ)はトライアングルです」

「ふふっ!」


スンッ、と真顔になる(ネイ)美麗(メイリイ)が吹き出す。同じ‘叩く系’ならドラムやせめて鉄琴をやって欲しいと漏らす(ネイ)へ、美麗(メイリイ)は内緒話をするように言った。


(ネイ)ちゃんは大地(ダイチ)君が好きなんでしょう」

「えっ!?」


唐突な指摘に驚き(ネイ)は大声をあげた。誰にも教えてないのにどうして?顔に出てたかな?話し方?声の高さ?もしかして本人にもバレてる?赤くなった頬をアワアワと両手で押さえる(ネイ)婀娜(あだ)やかに()美麗(メイリイ)


「想える相手が居るのは素晴らしいことよ」


(ネイ)は頭から湯気を出しながら、上目遣いで美麗(メイリイ)を見た。


美麗(メイリイ)さんは好きな人居ますか?」

「うーん…私は事情があったから…」


躾や交友関係の制限、両親の事業の手伝い、政略により度々組まれた縁談、借金のカタの奉公、返済する為の仕事(・・)。恋をする機会に恵まれなかったなと眉尻を下げる美麗(メイリイ)へ、(ネイ)は申し訳なさそうな声音。


美麗(メイリイ)さん…強いんですね」


少しの()(のち)美麗(メイリイ)は静かに語る。


「違うわ。弱いの。だから考えることも逆らうこともしないで、黙って目の前に積まれた課題を片付けるしか無かった。他にはなにも出来なくて」


視線を地面に落とす。


「友達の家族を手助けしたいなんて考えてるのも…自分の為なのかも。私だって、自分で道を選べる!って証明して、自己満足したいだけなのかも。…最低ね」


そう言って儚げに笑った。頭を横にフルフルさせて否定する(ネイ)美麗(メイリイ)は表情を明るくし場の空気を(つくろ)う。


「でもね、(ネイ)ちゃん達を見てると元気が出るの。私もそんな風に歩けたらいいなって」


(ネイ)はまた頭を横にフルフルさせ、たどたどしく紡いだ。


「えっと…美麗(メイリイ)さんは、優しくて、綺麗で…あの、私のほうです。そうなれたらいいな、って思ってるのは」


その言葉に美麗(メイリイ)が応えかけた時───耳に入った砂を踏む音。路地から男達が向かって来る。美麗(メイリイ)の前で立ち止まると1人が顎をシャクった。


美麗(メイリイ)だろ?老虎(ラオフー)から‘連れて帰って来い’っつう依頼でな」


(いぶか)しげな顔をする美麗(メイリイ)、不穏な気配を感じた(ネイ)が彼女の前に立ちバッと腕を広げる。男は(ネイ)一瞥(いちべつ)しピストルを構えた。


「駄目、(ネイ)ちゃん!!」


叫んだ美麗(メイリイ)(ネイ)の身体を抱き締める。響く銃声───男の顳顬(こめかみ)に穴があいた。続け(ざま)にもう1度パンッと音がし、後ろにいた輩の額からも血が噴き出す。


倒れ込む襲撃者を押し退()けて駆け寄った(レン)美麗(メイリイ)(ネイ)の腕を掴む。物陰へ誘導し‘ここに隠れていて下さい’と声を潜めた。背後でにこやかに手──に持った銃──を振る燈瑩(トウエイ)、状況を把握した美麗(メイリイ)は小さく頷く。(レン)は死体に目をやった。単なる物取りや誘拐か?浮かんだ疑問符を察した美麗(メイリイ)が口を開いた。


「私を連れに来たみたいで…でも、老虎(ラオフー)?がどうとか…」


老虎(ラオフー)。その単語に燈瑩(トウエイ)は瞳を細め、しかし同時に通路の奥に数人の新手を認めてそちらへ足を向ける。一斉に拳銃を構え撃ち込んでくるも、燈瑩(トウエイ)は相手の弾道を微塵も気にせず撃ち返しながらスタスタ前に進んだ。

こんなもん、躍起(やっき)になって()けても当たる時は当たるし(ツラ)(さら)していても当たらない時は当たらないのだ。ていうか───どっちでもいいし。

頭、胸腹、腹腹と弾をプレゼントして全員沈める。死体を(また)ぎ突き当りまで行って、左右の路地に敵の影が無いことを確認すると(きびす)を返し来た道を戻った。物陰にうずくまる美麗(メイリイ)(ネイ)に近付く。気がついた(ネイ)が顔を覗かせた、その時、燈瑩(トウエイ)の視界の端で再び何かが動いた。


銃を持ち上げつつ目線を投げた先の小道で(ネイ)に照準を定めている男、燈瑩(トウエイ)は射線を(さえぎ)るように身体を入れる。数回の発砲音、交差する弾丸、男の頭蓋が弾けて飛び出た眼球が壁にペチャッと張り付いた。短い静寂。


「怪我は?」


振り返って訊ねる燈瑩(トウエイ)(ネイ)(かぶり)を振る。食肆(レストラン)の方角を偵察した(レン)が他の追手はいなさそうだと合図、さしあたり、今のが最後の1人か。


(レン)君、(ネイ)ちゃんと美麗(メイリイ)さんを食肆(レストラン)に避難させてあげて。そしたら戻ってきてもらってもいいかな」


微笑む燈瑩(トウエイ)(レン)は力強く了解。ここからなら店までは急げば数分もかからない、2人の手を引いてすぐさま走り出す。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ