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九龍懐古  作者: カロン
倶会一処
230/492

挽歌と一処



倉庫街での抗争は特に勝者も出ないまま幕を閉じた。


集まったマフィア達は潰し合い、それぞれのチームの結末は芳しくなく…全滅や敗走と様々。最後まで残ったグループが勝者といえば勝者ではあるが、それでも各々相当に人数を減らしている。再建にはそれなりの時間を費やさざるを得ないだろう。

今回の一件(いっけん)で生じたいくらかのゴタゴタは燈瑩(トウエイ)が収めてくれるらしい。謝る(イツキ)に‘結果が結果なので手もかからない、気にしなくていい’と返答していたが、そういう燈瑩(トウエイ)のほうがどうも負い目を感じている様に見え、(イツキ)は‘燈瑩(トウエイ)のせいじゃない’と改めて伝えた。あまり伝わっている気がしなかったが。


(シュウ)のことは一旦(いったん)城砦まで連れて帰ったあと───たくさんの献花と共に見送った(・・・・)

大地(ダイチ)が九龍中から掻き集めてきてくれた紫荊花(バウヒニア)(ロク)の1件に折り合いをつけた(ネイ)(レン)も花を供えてくれ、皆、申し訳無さそうに瞼を伏せる(イツキ)の手を握った。


そして、数日経った晴れた午後。











倶会一処21












残った遺灰の包みを抱えた(イツキ)(ロク)の頼みを最後まで聞くと言う(タクミ)、気を揉んで付いてきた(カムラ)──帰りは運転を代わってくれるらしい──を乗せ、(アズマ)桑塔納(サンタナ)を滑らせる。

街を抜け山を越えて小1時間ばかり転がしたのち辿り着いた海岸。赤柱(スタンレー)


(アズマ)に車を任せ、(イツキ)は袋を片手に浜辺の砂を踏む。横を歩く(タクミ)が煙草に火を点け(カムラ)もそれを受け取った。

あの日──(シュウ)と2人で出掛けた日──と同じく海は青く冴え、空には白い雲が浮かぶ。目を細めキラキラ光る眩しい水面を眺めた。


(イツキ)はゆっくり包みを(ほど)き、中身を少し手に取った。胸の辺りに掲げる。灰はサラサラと風に舞いすぐに(てのひら)から消えていった。もう少し手に取った。また風に舞っていく。何回か繰り返して、そのうち、ついに灰は全て(てのひら)を離れ空気に溶けていった。



‘海に撒いてもらうのもいいかもね’

‘俺もそうしよっかな’

‘そうしよ!約束!’



約束を交わした小指に鈍い痛みが走る。(こぶし)を握り、開いた。また握って、開く。両手を(まなじり)にあてた。(しばら)くそうしていた。

数秒か数分かわからなかったが、腕を下ろし、隣に座る(タクミ)へ目を向けると───その足元に積もる煙草の吸い殻。どうやら数十分経っていたらしい。ごめんと(イツキ)が詫びれば(タクミ)は微笑み、後ろに立つ(カムラ)も軽く頷いた。


(イツキ)は海に視線を戻す。暮れはじめた夕陽が反射し、赤く染まる景色。


「また」


会えたら、と言いかけて、やめた。馬鹿な事を考えている…出来る訳ないのに。けれど。


(タクミ)が小さく呟いた。


「会えるよ。また」


新しい煙草に火を点け煙を流す。続けた。


「したら、また仲間になったらいいじゃん」


自分自身に言い聞かせている様にも感じられたが───(イツキ)も、そして(カムラ)も、夕焼けを映す波間を見詰めた。





また会った時は。






車に戻ると(アズマ)がコンビニで買った雪糕(アイス)を皆に手渡してきた。やや溶けかけたそれは口に含むとシャリッと涼し気な音を立て、すぐに舌の上から喉へと落ちていく。雪糕(アイス)をシャクシャク(かじ)り、(イツキ)は後部座席のシートに身体を預けた。


助手席の(タクミ)がミックステープをかける。曲のアレンジに使われているのは、軽快で柔らかでどこか懐かしいカントリーミュージック。(ロク)のギターの()

それに合わせて、(カムラ)が運転しつつ歌を口ずさんでいる。全く音程が合っていない…本当にひとつも。下手なのだ。本人もそれを知っている、けれど唄ってくれている。

カーブを曲がる際、(アズマ)が食べ終わったアイスの袋と棒を窓から投げた。(イツキ)のぶんと2つ。両方とも綺麗に道路沿いのゴミ箱に吸い込まれ、(タクミ)がヒュウと口笛を鳴らす。ガタゴトと揺れて九龍城(ホーム)を目指す桑塔納(サンタナ)


優しいギターの響きと不格好な歌声をBGMに瞳を閉じる(イツキ)の頬を、再びそっとぬるいそよ風が撫でる。






────お兄ちゃん。






遠くで。そう、声が聴こえた気がした。

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