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九龍懐古  作者: カロン
倶会一処
227/492

合言葉と焦燥

倶会一処18






啟德(カイタック)外れ、倉庫街、一帯を囲うフェンスの切れ目。同じくフェンスで作られた開閉式の門を、通りの奥から眺める3人。


「入り口ここしかねぇの?」

「メインはそうね…どの建物かわかんないし手前から見てけばいいかなって」


ヒソヒソ問い掛ける(タクミ)燈瑩(トウエイ)が指を回しながら答えた。新旧倉庫が乱立した街区、取り引きが行われる棟までは絞りきれず…なのでさしあたり手前から順に当たってみよう、というプラン。

扉のそばには門番風の男達が陣取っている、どこかのグループのメンバーか。(イツキ)が首を(かたむ)けた。


門番(あいつら)どうする?」

「こっから行くのが良さそうなんだろ、なぁ燈瑩(トウエイ)?」

「地図的にはね」

「じゃ聞いてみようぜ」


言うなりスタスタ入り口へ歩を進める(タクミ)


(わり)(わり)ぃ!遅れた!」


片手を上げて挨拶。ラフ。(イツキ)燈瑩(トウエイ)も後ろをついていく。どこのグループの人間なのかを訊ねてきた男達に、(タクミ)はケロッとした顔で【東風】と即答。(イツキ)燈瑩(トウエイ)(うつむ)いて笑いを噛み殺しているのを視界の隅に認めた。倉庫を(あご)で示す(タクミ)


(シュウ)って名前の龍頭(ヘッド)が中に居るだろ?俺ら、九龍で世話になって(・・・・・・)さぁ」


好意的とも敵対しているともとれる言い方。これならこいつらの腹も探れる、(シュウ)のチームに肩入れしているならプラスの反応、そうでなければマイナスの反応が返ってくるはず。


「あぁ、お前らも片付けに来たのか」


思い付いたように発する男───マイナスの反応。(イツキ)が眉根を寄せた。


「片付けに?」

「始末する手筈だろ」


男は‘お前らみたく被害こうむったチンピラが集まっているんだ’と(わら)う。とはいえ(カムラ)の情報によればそれなりの数のグループ、(シュウ)達のためだけに集結する人数ではない。各々、秘匿した思惑があるのだろう…これは様々なマフィア同士で派手な()り合いになるかも。


「で、どの建物?」

「その前に」


質問を投げる(タクミ)へ男が銃を突き付ける。


「言えよ。合言葉」


え?そんなのあんの…なんかダサいな…そう考えたのが(タクミ)の雰囲気に表れて、また燈瑩(トウエイ)(うつむ)き笑いを噛み殺した。2回目。特に気が付いた様子もなく返答を()かす男達へ、(タクミ)はゆっくり唇を開く。


「合言葉ね。合言葉は────‘我唔知道(しらねぇよ)’」


言い終わる前に燈瑩(トウエイ)の照準が男の(ひたい)(とら)えた。間髪入れず発砲、即座に(イツキ)も片割れを蹴倒す。燈瑩(トウエイ)(イツキ)足下(あしもと)に転がる男の顔面へ銃口を押し当て、抑揚無く借問(しゃもん)


「どこにいる?」


西源四期倉庫…返答するやいなやパンッと軽い銃声がし男の頭は破裂、飛び散る赤や黄や透明な液体。男が死ぬ間際、えっ?口を割ったのに?という表情をした気がして、(イツキ)はこの感じ前にも見たことあるなと思った。


「うわ、容赦()っ」

「吐けば助けるって言ってないし」


呟く(タクミ)()燈瑩(トウエイ)。非常に秀麗───頬にかかっている返り血にさえ目を(つぶ)れば。

と、複数人の叫び声。遠くのほうから向かってくる影、騒音のせいで仲間がやってきたのだろう。燈瑩(トウエイ)はピストルを振って(イツキ)に目的地へ向かうよう(うなが)す。(イツキ)はこの場を燈瑩(トウエイ)に任せ(タクミ)と共に西源四期へと駆け出した。



建物の名前を確認しつつ夜道を走り抜ける。東正三期、東安一期、もっと先か。(しばら)く進むとようやく壁に西源の文字。二期三期、あと少し…差し掛かった広場から聞こえる話し声。物陰から覗くとたむろしているチンピラ達が見えた。


「倒さねーと通れねーかなぁ。突っ切りてぇもんな、ここ」

「ん…ごめん(タクミ)…」

「何が?来るって決めたの俺だし。それに、お前らほど強くないけど(よえ)ぇっつーこともないと思うよ。(アズマ)よりは───」


な!と言い放つと同時に(タクミ)は正面に積み上がるドラム缶に手をついて飛び越し、向こう側にいた男の後頭部へと蹴りを喰らわせた。隣に立っていたチンピラが慌てて振り返るも鼻っ柱に(イツキ)の靴の裏がめり込む。そのまま踏み潰して着地、(イツキ)はパッと周囲を見渡す。あと6人で3人は銃…武器持ちの奴らから沈めるか?結論づけるより先に数発の発砲音。今しがた()した男からピストルを拝借した(タクミ)が、拳銃を構えかけた連中を素早く2人ほど撃っていた。

倒れ込む男達を横目に(イツキ)はコンテナを駆け上がり、(タクミ)へ狙いを定めようとしていた最後の1人の肩へ両足を乗せると頭を掴み180度回す。ゴキッと鈍い音。崩れ落ちる男の手から銃を奪い(タクミ)へと投げた、これで残りの輩は丸腰。受け取った(タクミ)が‘行け’と合図、(イツキ)(うなず)き、すぐさま再び駆け出した。



埠頭の端、離れてポツンと建つ倉庫。表記は西源四期。ここだ。次いで(イツキ)の耳にパララッと連続した銃声が入った。怒号と喧囂(けんごう)───もう始まって(・・・・)いる。


地を踏む足に力を込めた。勝手にこもった、のほうが正しいかも知れない…自分の焦燥に気が付く。


焦るなんて。あまり無い感情だった。


ピッチを上げて入り口へ走り、扉へ手をかけ思い切り引っ張る。(ひら)かない。施錠?バリケード?とにかく他の経路は────キョロキョロと首を動かし上を見ると、いくつかの窓があった。適当な出っ張りを取っかかりに外壁を登って内側を覗き込む。

争っているのは、ザッと20人…既に倒れている者も含めれば30人以上…混戦。そしてその片隅に(シュウ)の姿を発見した(イツキ)は、ガラスを破り抗争に乱入した。

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